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第百四十四話「名案」

「へぇ、そんなことがあったの。相変わらず面倒事に巻き込まれてるのね、アナタ」


「好きで巻き込まれてるわけじゃないんですけどね」


「でも大体はアナタ自身が首をつっこんでる結果よね? 自業自得よ」


「……否定はしません」


 確かに今まで様々な面倒事に巻き込まれてきたが、半分以上は自分自身の行動や性格に起因するものだ。


 たまに『国が滅びる』とか『人類が滅びる』とか規模のデカい不可避イベントがやってくるが、それ以外はほとんど回避しようと思えば回避できるからな。


 運命のせいばかりにもしていられない。


 ……とはいえ、やはり普通の人間と比べたら尋常じゃないトラブル巻き込まれ率だとは思うが。


「それにしても相変わらずアナタの仮面(ペルソナ)は分厚いわね。自分を何度も殺そうとしてくるような相手なんて、事情とか関係なしに問答無用で消しちゃえばいいのに」


「それができたら楽なんですけどね……」


「できないのよね。まあ、いいんじゃない? 前にも言ったけどアナタのそういうところ、私嫌いじゃないわよ」


「それはどうも。……それで、何かいいアイディアはないですかね?」


「アイディアって……そのレオって少年をこらしめつつ、生きる希望を持たせる方法に関して?」


「そうです」


「そんなのないんじゃないかしら」


「うっ……ないですか……?」


「ないわよ。だって本人にもう生きる気力がないんでしょう? 無理よ無理」


「アッサリ言いますね……」


「事実だもの。それこそ、自分に自信が持てるよう無理やり鍛錬させるしかないわよ。あと少しで冬休みだから、アナタが付き合ってあげればいいじゃない。付きっ切りで」


「自分に自信が持てるように鍛錬って……冬休みだけじゃ無理ですよ。絶対に時間が足りません」


 うちの大学は冬休みが一ヶ月と長めだが、それでも自分に自信がつくほどの鍛錬は難しいだろう。


 剣術も体力も、たった一ヶ月じゃ劇的に変わるほどの成長はしない。


「じゃあやっぱり無理ね。あきらめたら?」


「そう……ですか。残念です……」


「残念?」


「ええ。私のような凡人とは違ってアイリスなら、もしかしたらその天才的な頭脳で、最適かつ素晴らしい名案を考えついてくれると思っていたのですが……」


「…………」


「いや、本当に残念です……そうですよね、さすがのアイリスでも無理ですよね、私がムチャ振りでした。ごめんなさい」


「……フッ、言ってくれるじゃない」


 俺の左隣で添い寝しているアイリスが不敵な笑みを浮かべた。


「そうね……素直に、『お願いしますアイリス様。凡人たる私にアナタ様の叡智を授けてください』って言えば、考えなくもないわよ?」


「お願いしますアイリスさまー。凡人たる私にあなたさまの叡智を授けてください」


「棒読みも(はなは)だしいけど、まあいいわ。他ならぬミコトの頼みだものね。でもこれは貸しよ?」


「わかりました。貸しですね。……ちなみに、どういったことで返せばいいですか?」


 内容によっては今からでもキャンセルしたい。


「そうね……じゃあ、今度の学園祭で私をエスコートしてちょうだい」


「へ? ……そんなことでいいんですか?」


「そんなことって何よ。責任重大よ? 私の人生で初めての『デート』なんだから」


「デート、ですか」


「そうよ。私は今までそういった行事の(たぐい)に参加したことはないから、そういった意味でも初体験なの。だからアナタのエスコートが重要になってくるのよ」


「なるほど……わかりました」


 それぐらいだったらお安い御用だ。


 今の俺は外見が女だから『デート』というより、普通に女友達として学園祭を回るイメージしか沸かないが、そこら辺にはあえて触れない。


「学園祭、エスコートさせていただきます」


「うん、よろしくねミコト。それじゃあ、私の叡智を授けましょう――」


 そう言ってから思考の海に没入したアイリスは数分後に見事、『レオ少年をこらしめつつ、生きる希望を持たせる方法』をその頭脳によって閃き、俺にレクチャーしたのであった。







 ◯







 一週間後、冬休み。


 俺は早朝にレオ少年の屋敷を訪問して、リュイの手引きによりこっそりと彼の部屋へと訪れていた。


「……なんだよ偽善者。こんな朝っぱらから」


「おはようございます。あなたをこれから一ヶ月、拉致させていただきます」


「はぁ? お前なに言ってんだ?」


「お願いします、リュイ」


「かしこまりました」


 ベッドのそばで控えていたリュイがおもむろに少年の首へと細い銀色の針を突き立てる。


 すると少年は一瞬で白目を剥き意識を失った。


「……これ、本当に大丈夫なのですか? 白目剥いてますが」


「はい。命に別状はありません。一時間もあれば目を覚ますでしょう」


「…………」


 安全に気絶させる方法がある、とのことでリュイに任せたのだが、その内容については聞いていなかったので実際に見てビックリした。


 首に細い針を突き立てるとか。


 薬なのかそれともツボ的な何かなのかはわからないが、パッと見かなりショッキングな方法である。


「それでは、あとのことは頼みますね」


「御意」


 俺は少年をお姫様抱っこで持ち上げると、そのままこっそり屋敷の裏口から外に出た。


 そして神経を研ぎ澄ませて周囲に人がいないことを確認したのち、風魔法を使って超高速で上空へと飛び立っていった。




 ◯




 数十分後。


 俺は東の森を越えた先にいくつかある山のひとつ、その中腹ちゅうふくに降り立っていた。


「さて、と」


 あらかじめ作っておいた高さ、縦横二メートルほどの正方形をしたおりの中に少年を入れて、入り口を土魔法で塞ぐ。


 土魔法の強化土で作った檻だがリュイいわく、俺がアニマを存分に込めた結果として『鋼よりも硬くなっている』とのことだからまず魔物に壊されることはないだろう。


 少年の逃走自体は最初から心配していない。


 まだ骨折も治してないから、どちらにせよこの場所からは動けないだろうからな。


「よし」


 準備も整ったところで、安全確認しますか。


 俺は風魔法を使って空中を飛行し、檻と同じく前もって作っておいた『壁』の内側に魔物が入っていないかどうか探索を始めた。










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