第十三話「ギルド」
この世界においてギルドといえば、各種職業別の互助組合を意味する。
魔王の脅威に対抗するためそれらの組織は国をまたいで存在し、ギルド同士の協力体制を強化するため通常ひとつの拠点に複数のギルドが入っていることが多い。
職業別ギルドは『商人ギルド』『職人ギルド』『傭兵ギルド』『魔術師ギルド』『冒険者ギルド』の五種が存在し、それぞれが互いに依頼を請け負うなどして共存している。
「だからさ、ギルドに行って『傭兵』登録してから防衛戦に参加するんだよ」
そうすれば国に英雄として召し抱えられて、自由を奪われるようなことはないだろう、とリーダーは言った。
軍とは違って傭兵というのは基本的にフリーランスなものであり、ギルドに所属していればどこの国で仕事をしようが本人の自由だからだ。
「なるほど……うーん、でも……」
リーダーの言うことは確かに一理ある。
だが俺の不安は消えなかった。
なぜだろう……たとえフリーランスの傭兵になろうとも、今のままではなんだかんだで周りに利用されまくり、人類奉仕ルートに突入する未来しか想像出来ない。
「あー……そうだねぇ、うん。イグナートの言ってること、なんとなくわかるよ僕も」
イグナートは押しに弱いからねぇ、と呟くリーダー。
……これでも前世よりかなり断れるようになったんだけどなぁ。
「うーん、そうなると……どうしたものかな。利用されないように、か……」
リーダーはその場で腕を組みしばらく考えたあと、ふと何か思いついたように顔を上げ俺の目を見て言った。
「イグナート、君には今の自分を変えようとする……もしくは、変わりたいと思う気持ちはあるかな?」
「え? ……そりゃぁ、もちろん……」
前世では自分の欲を殺して生きてきたのだ。
出来ることなら他人のことなどまったく気にしない豪胆な性格になって、好き勝手に生きてみたいぐらいには思っている。
……どう考えても無理だけど。
「それなら、僕に良い考えがあるよ」
リーダーはそう言ってニヤリと笑った。
◯
一週間後。
俺はリーダーを連れてセーラの屋敷へと戻っていた。
「……戻って来て、くれたんですね」
なぜか俺を見た瞬間泣きそうな顔をするセーラ。
……あれ、なんだか自分の都合で逃げだそうとしたのが無性に申し訳なくなってきた。
(って、この思考パターン前世と同じだよ……)
そして行きつく先は人助けスパイラル。
うーん、俺の人生、なんてわかりやすいんだ……。
(だけど、これから実行する『作戦』を滞りなく進めることが出来れば、俺の人生は変わる)
まぁ、問題はその『作戦』……いや、『シナリオ』というべきか。それを俺がきちんとこなせるかどうか、ということなのだが。
「大丈夫だよ」
後ろからリーダーが俺の背中をポンポンと叩いた。
……エスパーかこの人。
◯
午後になり、一週間前の約束どおり将軍がやって来た。
「……ウィンターか」
将軍は俺の隣にリーダーが居るのを見て、苦虫を噛み潰したような顔をした。
「父さん、お久し振りです……あれ、滅多に会わない息子との再会なのに、あんまり嬉しそうじゃありませんね」
「ウィンター、まさか、今度も私の邪魔をするつもりじゃないだろうな?」
「一年前のことですか? あの時はただイグナートの意思を僕が代弁しただけです。父さん……いえ、将軍にとっては邪魔だったかもしれませんが」
「わかっているなら……」
「でも今回は邪魔にはならないと思いますよ。むしろ朗報です」
リーダーは将軍に対して、俺の『周囲に利用されたくない』という事情とそれを防ぐための『作戦』を説明した。
「うむ……それぐらいのことだったら、こちらも協力することは出来るが……本当にそれでいいのか?」
「ええ、イグナートもそれを望んでいます」
「そうか。ならば早速、そのように情報を流布し、真実を知る者には口外無用と言い含めよう」
「お願いします。大丈夫だとは思うんですけどね」
「そうだな。実年齢が五歳というより、むしろそちらの方が真実味がある。問題ないだろう」
「では、その方向で細かい内容を詰めていきましょう」
リーダーのおかげで話はとんとん拍子に進んでいった。
将軍との打ち合わせが終わった後、俺はリーダーと一緒にギルドへ行き、傭兵登録をした。
それからは武器屋に行き院長に返したハルバードの代わりとなる物を注文したり、セーラから次の防衛戦で使う『虫寄せの薬』を貰ったりと、来るべきその時に備えて日々準備を進めていった。
そして約三週間後。
虫型魔物が森に集結し始めている、と軍から通達がきた。