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強欲のイグナート  作者: 霧島樹


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第百三十六話「隙」

 結論から言うと、先ほどの北門前の広場で起こった事件は大事にはなっていなかった。


 どうやら前世での警察に該当する王国警邏隊(おうこくけいらたい)は、日本と違って『貴族が剣を振り回した』程度のことじゃ事件として扱わないらしい。


 だがしかし、この剣を振り回した人物が平民で、なおかつ貴族の命が(おびや)かされたとなれば話は別で、形だけでも捜査に入るとのこと。


 ただ基本的には誰かがケガしたとか、殺されたとか、直接的な被害がなければ王国警邏隊(おうこくけいらたい)は動かないという。


 だから例のメイドを追いかけて行った俺のことをモニカが王国警邏隊(おうこくけいらたい)に言っても、『自分で追いかけたなら我々の関与するところではない』と突っぱねられたそうだ。


 ……まあ、当然といえば当然だな。


 直接的な被害がなければ動かない王国警邏隊が、貴族とはいえ自分の意思でいなくなった娘を探すはずもない。


 俺を探しに行ってくれないことに関してモニカは王国警邏隊に随分と突っかかったらしいが、こちらとしては大いに助かった。




 ◯




 次の日。


 大学が終わり校舎から出ると、例のメイドが待ち構えていた。


 黄緑髪のショートボブに、それと同じ色の瞳が特徴的な無表情メイドだ。


「レオ様がお呼びです」


「お断りします」


 簡単な挨拶を終えたあと、早速本題を切り出してきたメイドに対し即答する。


「必ずお連れするように、と仰せつかっております」


「なぜですか? もう私が関わる理由はないと思いますが」


「お礼がしたい、とのことです」


「お礼、ですか……」


 あの少年がねぇ。


 まあ十中八九、本来の意味で『お礼』してくれるわけじゃないんだろうな。


 でもこれって放置しても自然解決どころか、もっと面倒なことになるパターンだよなぁ、きっと。


 ……しょうがない。行くか。


 元はといえば俺が余計なことをしたから起こったことだ。


 さっさと行ってさっさと片付けよう。


 自ら蒔いた種は自ら刈り取らねばなるまい。




 メイドの申し出を受けて彼女のあとをついて行くと、王都の東門を出てすぐの荒野まで連れていかれた。


 昔、グバルビルを迎え撃つために幾度となく王国軍、傭兵ギルド、冒険者ギルド、魔術師ギルドからなる連合軍で陣を敷いた場所だ。


「遅かったな」


 少年は広い荒野のど真ん中で、イスに座りながら腕を組んでいた。


 っていうかイス持参かよ。


 甘やかされてんなぁ……若いんだからこういう時ぐらい立ってろよ。


 荒野だぞ荒野。


 イスに座って待つ場所じゃねぇだろ。


「今日はお前に昨日のお礼をしようと思ってな」


「昨日のお礼、というと?」


「決まってるだろ。オレの手首を折ってくれたことに対するお礼だよ」


「ああ、そっちですか」


 やっぱりな。


 だと思ったよ。


「そっちって……他に何があるってんだよ」


「そうですね、大勢の人々がいる場所で剣を振り回すという暴挙に出たあなたを止めたお礼、もしくは手首の骨折を治してあげたお礼、ですかね」


「……てめぇ、それ本気で言ってんのか?」


「もちろん本気です。あのまま放置していたら間違いなく、事態は取り返しのつかないことになっていたでしょう。そうなればあなたの人生は終わりです。私はそれを止めたのですから、普通に感謝されてもいいと思いますが」


「う、うるせぇ! 余計なお世話だ! オレの人生なんてもうどうだっていいんだよ!」


「私だってあなたの人生なんてどうだっていいですよ。自暴自棄になるのもどうぞご勝手に。ただ人に迷惑は掛けないでください。公共の場で暴れるなんてもってのほかです」


「なっ……」


 少年は顔を真赤にして叫んだ。


「てめぇ! オレを誰だと思ってやがる! オレはレオ・カルノー・ラディウス・ディアドル! 王族だぞ!!」


「だからなんですか? 王族だから人に迷惑を掛けても許されるのですか? 初耳ですね」


「て、てめぇ……ぶっ殺す! リュイ!」


「はい」


「奴に致命傷を負わせろ! だが殺すなよ! オレが直々にぶっ殺してやる!」


「御意」


「報復もメイド任せですか。情けない……」


「うるせぇ! オレはバカじゃねぇんだ! バケモノを相手にまともに戦うわけないだろ!」


「私に報復などしようとしている時点であなたは十分バカだと思いますよ」


「はぁ? なに言ってんだ……っていうかリュイ! 早くコイツを黙らせろ! なにボーっと突っ立ってんだ!」


「……御意」


「この人はただボーっと突っ立ってるわけじゃありませんよ。さっきから私の隙を探しているんです」


「隙だぁ? そんなのいくらでも……」


「鍛錬を積んでいないあなたにはわからないでしょうが、ありませんよ。今の私に隙なんて」


 メイドの後ろを歩いている最中からすでに、俺は『限界突破オーバードライブ』を発動している。


 そして、『限界突破オーバードライブ』を発動している俺のスピードにはリュイと呼ばれたメイドでも反応できない。


 それは王宮庭園で証明済みだ。


「私を相手にして勝ち目などないと、そちらのメイドから聞きませんでしたか?」


「バカ言うな! そんなこと聞いてるわけないだろ! それにリュイが負けるはずない! なぁリュイ! そうだろ!」


「…………」


「お、おい……リュイ……?」


「無駄ですよ。そちらのメイドが何をしようと――」


 俺は『縮地』でメイドとの距離を詰めた。


 その直後にメイドの両足を払い、空中で浮かせた胴体に(かかと)落としを放って地面へと叩きつける。


「――この通りです」


「……っ」


 俺の足に腹を踏みつけられながら、無表情な顔を苦悶に歪めるメイド。


 そのメイドの体を土魔法を使って、首以外を地面へと埋めていく。


「勝ち目がない、という意味がわかりましたか?」


「……は? リュ、リュイ……?」


 少年は一瞬の間で起こった目の前の出来事に、『信じられない』という顔で立ち尽くしていた。


「ちょ、ちょっと待てよリュイ……なに無抵抗で負けてるんだよ……!」


「ムチャを言いますねあなた。計ってないからわかりませんが多分、今の私は人間の限界を超えてました。普通はなんの反応もできませんよ」


 勇者フィルでもギリギリついてこれるかどうかという俺のスピードに、いくら達人とはいえまともな人間が太刀打ちできるとは思えない。


「リュ、リュイ! おいリュイ! ノンキに埋まってる場合じゃねぇぞ! オレを助けろ!」


「私がアニマを込めて固めた土です。まず動けませんよ。そんなことより」


 俺は指をパキパキと鳴らしながら、少年へと向かって歩いていく。


「先ほど、あなたは私を『ぶっ殺す』と言いましたね。ということはつまり、自分が『ぶっ殺される』覚悟もあるのですよね?」


「ひ、ひぃぃ!?」


 俺は腰を抜かして地面に尻もちをついた少年の襟を掴んで、無理やり立たせた。


 さて……この少年、どうするべきか。










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