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揺らぐ太陽の韻律  作者: みえさん。
第七章 精霊は玉響に
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 集まった要人達の前に武装したサイディスが入ると会場はざわついた。

 サイディス国王の死とユリウスの即位を聞いて集まっていた人々は、死んだと言われていた男の登場とその後に従うように入ったユリウスの姿を見て明らかに戸惑った様子を見せた。中には顔面蒼白で今にも倒れそうな程になっている者さえいた。

 堂々とした体躯に輝く金の髪は誰がどう見てもサイディス国王でしかなかった。

 死んだのではないか、ユリウスの即位式では無かったと周囲が騒ぐ中、ざわめく人々の間を通り玉座にどかりと座った男の瞳は強く鋭いものを交えていた。

 それは誰の質問も受け付けないという高圧的な瞳であり、その瞳を見た者達は何も言えず次第に騒ぎも小さくなっていった。

 周囲を見渡しゆっくりと睥睨したあと口を開いた。

「まずは一時不在であったことを詫びる。貴君らは無用な混乱と動揺を味わう事になっただろうが、此度の一件我が伯父であるヒューム公爵の命を賭した英断により無事収束したことを伝える」

 ざわり、と人々の間で不安な声が漏れる。

 国王がまさか自分の血縁であるヒューム公爵に裏切られ、策略にはまったとはいえない。言及を避けるために英断と言ったが、彼の言葉はヒューム公爵が死亡したことを如実に語っていた。

「これに伴い官の大幅な移動、綱紀粛正を行うが、その心にやましいことの無い者達は惑うことはない」

 きっぱりとした口調に、心にやましいことがあるとおぼしき数人が視線を逸らした。

 故意にそれを無視し、国王は続ける。

「王が真実王に足らない血筋である、王が死んだなどと言う噂を聞いた者もいるだろう。生憎、俺はどちらにも心当たりがない。一時ジュール卿が拘束されたようだが、俺はそれを許可した覚えもない。この一件に関してはデュマ・ディロード、お前の独断だという話だが相違ないか」

 問われたデュマは玉座の前に出て跪く。

 頭を垂れたその表情には全く後悔している様子も狼狽している様子もなかった。

「間違いありません、全て私の独断で行いました」

「お前には玉座簒奪を企てたという嫌疑もあるが?」

 彼は真っ直ぐ王を見据える。

「それだけは誓ってありません。私は先代の頃より王をお守りするためだけに仕えております。騎士としての誇りと陛下の御劔に誓って、そのような事実はございません」

 デュマを良く思わない人々から、その言葉に対して抗議の声があがる。

 口では何とでも言える、そう責め立てる言葉を浴びせられてもデュマは身じろぎ一つしなかった。ただ真っ直ぐ王を見ている。

 王は静かに言った。

「俺の身を守るために敢えて愚行に及んだと?」

「はい。陛下の安全の為には一時お隠れになった方がと」

 身を狙う輩がいる。恐らく、デュマはそれを知っていたのだろう。それ故敢えてサイディスを死んだことにして敵の目を攪乱させた。恐らく本当ならばあの欄干で捕縛し、もっとも安全な場所で保護するつもりだったのだろう。欄干に落ちた後追っ手が掛からなかったことで、サイディスは見当がついていた。

 だが、だからといって国王に刃を向けた相手をお咎め無しとは言えない。

「王に刃を向ける行為は大罪であると知っているだろう」

「承知の上です。私の首一つで貴方をお助けできるのでしたら安いものです」

「………」

 サイディスは思案するように目を閉じた。

 所々から処罰を求める声と、減刑を求める声とが挙がる。

 暫くした後、サイディスは静かな声で言った。

「俺は近くノウラと正式に婚約をする。故に、デュマは俺の舅殿となる。俺としては俺の命を救おうと尽力してくれた舅殿を処罰するのは心苦しい」

「お待ち下さい陛下!」

 軍部の者から抗議の声が挙がった。

「確かにディロード殿は潔白なお方ですが、だからといってお咎め無しというのはいかがなものかと」

「そうです、仮にも陛下に刃を向けたのですぞ! 許してしまえば王の尊厳が失われます」

 ざわざわとざわめく人々を見据えて、サイディスは静まるようにと膝を叩いた。

 とたん静まりかえった人々の視線がサイディスの方へと向く。

「誰が咎めぬと言った?」

「陛下?」

「ディロードの行いは俺の為であったとはいえ、許し難い行為だ。故に許すわけにはいかない」

 サイディスは鋭い目つきのまま背筋を伸ばして命じる。

「本日をもってデュマ・ディロードには軍事総統の地位を退いてもらう」

「兄上!」

 悲鳴にも似た声を上げたのはユリウスだった。

 彼は無論デュマが処分されないと思っていたのだろう。突然の自体に蒼白になった王弟は狼狽した様子で兄に詰め寄ろうとする。

 兄は静かにそれを片手だけで制した。

「空いた軍事総統の地位には、ロウ・ロデンフォーク」

「はっ」

 呼ばれた男がデュマの後ろに出て叩頭する。

「そなたを任命する」

「謹んでお受け致します」

「ディロードは彼を支え、ユリウスの監視下の元、国政を補佐せよ」

 ざわりと今までとは違ったざわめきが起こる。

 降格処分に聞こえる言葉だったが、今までと立場が変わるだけで携わることには変わらない。むしろ今までディロードには正式に言えば国政に携われるような権限は無かったのだから、「国政を補佐」をはっきり明言したことである意味での昇格ともとれる。

 処分とは言えない王の言葉に異様な雰囲気が流れた。

 手ぬるい、という声にサイディスは笑う。

「……手ぬるいだと?」

 笑いを含んでこそいたが、その声音は非常に厳しい色が混じっていた。

「それは何もしないでいたお前達の言える言葉ではない。俺が父王を継いで即位して以降、お前達は何を見てきた? 父王の時代よりこの男がどれだけの功績を見せたか、それすらも分からない者が、俺の決めた事に口を挟むな」

 声を荒げるわけでは無かったが、彼の声音は非常に鋭い。

 今まで多くの人間達がオルジオ先王陛下に比べサイディスは愚かで出来の悪い王であると思っていただろう。そのくせ、与しやすいと思い迂闊に近づけばデュマやコルダによって潰されるのだと勘違いし、王に取り入ろうとしなかった者は多いはずだ。

 暗愚と思っていた王が見せた鋭さは、先王に勝るとも劣らない。

 王が真実「王」であったことを知り、それ以上口を開ける者はいなかった。

 ただ、一人。ゆっくりと歩み出て王の前で叩頭した男を除いて。


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