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揺らぐ太陽の韻律  作者: みえさん。
第七章 精霊は玉響に
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 迫ってくる一団を見て、ライラは身構えた。

 集団による攻撃が来ることを覚悟していたが、彼女の予測に反して髭の男が指揮する兵士達は二人の横をすり抜け、追って来ていた兵士と戦闘になった。

 ロデンフォークは二人に駆け寄り一瞬ライラのこの場にはそぐわない優美な姿を見て驚いたような表情を浮かべたが、さすがに兵を指揮するような男だ。すぐに立ち直り、サイディスに向かって小声で囁く。

「……礼は取りません。貴方はあくまで密命で動いている兵士です」

「手間をかけさせた。感謝する」

 ライラは視線で尋ねるとイディーは頷いて見せる。

 信頼に足る人物だ、そう言っているようだ。

「この一件の首謀者はヒューム公爵です」

「なるほど、それなら共謀者もいるな」

「はい。事後承諾になりそうですが、ホナー卿、エリオット卿両名の捕縛許可を」

「許す」

 ロデンフォークはライラの方に視線を向け、同列の騎士に対して敬意を表すかのように慇懃に言う。

「佳人、この方をよろしくお願い申し上げます」

「ええ、もちろん」

 そのつもりだったと言う意味を込めて頷くと、今度は戦っている兵士達に聞こえるように高らかと言い放った。

「行け! 殿はこの俺が守る!!」

 宣言すると同時に彼も一団に向かって走った。

 見るからに力の強そうな男は、その外見に劣り無く次々と襲いかかってくる兵士達を吹き飛ばしていった。

 先刻彼が言ったように、部下達には密命で動いている兵の護衛という形を取らせたのだろう。同輩か部下に言うようなぞんざいな言葉だったが、それは戦士として後押しをするような言葉だった。

 ライラは目礼して走り始める。

 声が大きすぎる気がしたが、ティナにいるなら間違いなく小兄ヴィーティスの一隊に入ることを薦めたいほど真っ直ぐで心地のいい男だと思った。少々うるさそうだが、嫌いではないタイプだ。

 それに引き替え、とライラは少し恨めしそうにイディーを睨む。

 同じく走っていた男が隣の少女に睨まれたじろぐ。

「な、何だ?」

「……ああいう味方がいるなら言ってちょうだい」

「いや、味方というわけでは……あれは、個人の裁量で国のために動いていただけのやつだ。示し合わせていた訳ではないのだが」

 言い訳めいたことを言い出した男にため息をつく。

「そういうの、味方っていうのよ。少なくとも貴方は彼の言葉をすぐに信用した」

「状況が状況だ、信じるより他にあるまい」

「身構えもしなかった癖によく言うわ」

「従兄殿だ、信頼したくもなる。……まして、ヒューム公爵の名を出されてはな」

「どういう関係?」

「俺たちの伯父上にあたる」

 呆れて目眩がした。

 ユリウスを擁立する派閥の一番上側には彼の伯父がいる。わざわざ擁立を考えるとなると、ヒューム公爵はサイディス達の母方の伯父と言うことになる。誰に何を囁かれたのかは解らないが、公爵の地位を持ちながら今更他に何を求めていると言うのだろうか。

 毒でノウラに害をなそうとした一派とは恐らく別だろう。ノウラに対する攻撃はあくまでディロード閣下に対する警告だ。毒物こそ違うが、ライラが初めにこの城に忍び込んだとき兵士を眠らせるために使った薬品は同じ学問から生まれているものだ。それを考えれば彼らの目的はあくまで自分たちは実行しようと思えばいくらでも動けると言う警告。それには国を揺るがすつもりなら容赦はしないと言う意思表示が含まれているような気がした。

 だが、有無を言わさず殺そうとしてくる強行派の考えには理解に苦しむ。確かに何かを成そうとしたときにそうしてしまうのが早いこともある。それでも、それを実行することで含んでくる意味を考えれば強硬手段はあくまで最終手段でしかない。公爵という立場の人間がそんなことも解らないのだろうか。

「……いけないわ、だんだんイライラしてきた」

「ん? 何だって?」

 ライラの呟きが聞こえなかったイディーは顔だけ少し振り返って問いかける。

 彼女は首を振る。

「何でもないわ」

 甥であるロデンフォークは恐らく公爵がこんな事を企てていると知れた時の影響を考えて告発を長い間思い留まっていたのだろう。

 実際、ライラは知らないことだったがロデンフォークは幾度となく伯父に探りを入れていた。それとなく世間話をするように公爵を牽制していたのだ。それが功を奏して今まで彼は強行に出なかった。それが誰かの囁きによって国王を暗殺しようと思い至った。ここまで来ればロデンフォークも動かざるを得なかった。何とかして王を守ろうと画策し、それと同時にしっぽを掴もうと敢えて王に対する不満を漏らすことで伯父を信用させ、証拠を引き出そうとしてきた。自分自身も処分を受けることを覚悟で伯父の命令に従い、ジュール卿の捕縛を行った。今回のことは、あくまで国王を騙る偽物の処分であったが、ロデンフォークは伯父に従うと見せかけサイディスを助け、真実を伝える為に出てきた。未だ証拠不十分であるため彼自身が処分されるのを覚悟の上で。

 それをライラが知れば彼に対する評価をますます上げ、あるいは本気で引き抜きに掛かったかも知れないが、ロデンフォークにエテルナードを離れる医師はなく、幸いもライラがそのことを知るのはずっと後になってからだった。

「このままヒューム卿を捕りに行く、西方、二宮方面だ」

「了解」

 答えると同時にライラは魔法を組み上げはじめる。

 視線の先には衣服をなびかせて走るイディーの姿。更にその先にはおおよそ味方には思えない一団が武器を手にこちらに突進をかけていた。

「怪我をしたくなければ道をあけろ!」

 国王が叫ぶ。

 察するに先刻名前の挙がったヒューム、ホナー、エリオットのうちの誰かが指揮する軍勢なのだろう。相手が誰かと言うよりも、主の命令で仕方なく動いている者達だった。本来ならば話せば解る者達だろう。だが、主の命令、そして集団という優位な意識があるためにこちらの話は全く聞く様子はない。

 加えて、彼の叫び声は挑発のようにさえ取れたのだろう。

 ますますいきり立った様子で男達が雄叫びを上げた。

 一団の先頭と国王の剣が交わった瞬間ライラの呪文が完成する。

「伏せて!」

 反射的に男が身をかがめた。

 彼らの頭上を撫でるように魔法の力が刃となって駆け抜ける。高く構えていた者達の武器が次々とたたき落とされる。

 慌てて拾い上げた彼らはその武器の様子に愕然とする。

 魔法の刃に当てられた武器は綺麗にへし折られていた。簡単に折れないように作られたはずのものが棒きれのように簡単におられていたのだ。

 ライラは低く構える。

 ちらりと国王は笑う。

「次は首が飛ぶぞ」

「……」

 否定も肯定もせず彼女はぞっとするほど艶やかな顔で微笑む。

 ごくり、と唾を飲む音が聞こえてきそうだった。

「通してもらおう」

 警戒しながらも彼が一歩踏み出した時だった。

 ライラは背後に気配を感じて反射的に左側に飛ぶ。

「覚悟!」

 叫び声と共に剣が繰り出される。

 魔法が間に合わないと判断するよりも早く、片手を犠牲にする覚悟の方が出来ていた。


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