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揺らぐ太陽の韻律  作者: みえさん。
第一章 南国の奇剣は夜に煌めき
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「ほへれ、ほんはひふほ?」

「……ユーカ、聞きたいことは大体分かるけど、お願いだから口の中のモノ全部無くしてから話をしてくれる?」

 言われて少女は食べかけのスパゲッティーを一気に全部口の中にかき込んだ。不自然な位に膨らんだ頬をもぐもぐと動かしながら手近にあったミカンジュースで一気に流し込む。

 はー、と深く息を吐いて少女は目の前に座る親友にフォークを向けた。

「それで、今夜行くの?」

「……まさかお皿の中全部無くして喋るとは」

「結構美味しいよ? 追加注文する?」

「要らないわよ。私はもう十分食べたもの」

 ライラはげんなりした様子で答えた。

 食欲旺盛な人と食事をすればそれなりに食欲は増すものだが、モノには限度というものがある。彼女の食欲はその限度というものを軽く上回り、ライラ自身も小食ではなかったが、全く食べていないように見えるから不思議である。女性にしては随分と長身であるものの、細身の彼女の何処にこれだけの食べ物が入っていくのかとつくづく不思議に思う。

 この大食らいでちょっとタレ目な少女は名をユーカ・アル・ワイトという。風の国独特な服装と左右非対称の不可思議な髪型をした彼女は風の国で聖主と呼ばれる巫女をしている。

 ライラが彼女と一緒に行動をはじめてそれほど経っていない。ある事情で彼女の故郷である風の国を訪れた際、成り行きで助ける形になったライラに「恩を返す為」と一緒に行動するようになったのである。実際の所、彼女には彼女なりの理由と考えがあるのだろうが、直接問いただしたことはない。

 無意味なことはしない主義なのだ。

「今夜出てみるわ。色々と確かめたいことがあるから」

「私はどーする?」

「一緒に来て。あなたにもやって貰いたいことがあるの」

「ん、りょーかい」

 答えて彼女は鳥の唐揚げにフォークを突き刺す。

 それを一口で口の中に放り込み、周囲を軽く見渡すように背もたれに寄りかかった。

「それにしても、この国は陽気な国だよねー」

「国土自体が光の神佑地だからよ。住む人も自ずとその属性に引っ張られる」

「うちの国民みんな風の属性ってのと一緒ねー」

 そうね、とライラは頷く。

 もっとも風の国の場合、閉鎖的で他の国の人の血が混じらなかった為に強い風の加護を得ることになったと言っても過言ではない。実際、ユーカも含めて風の国の血を濃く受け継ぐ人は風の魔法を息をするように自然に使いこなす。それは他の国にはあまり見られない現象だ。

「でもさー、この国すこーし……」

「ねぇねぇ、君たちどこから来たの?」

 突然声をかけられ二人は同時に顔を上げた。

 驚いたように目を見開いたのは声を掛けてきた男の方だった。

 大柄な人間の多いエテルナードでも珍しい程の大柄な男だった。それでも無駄にゴツゴツしているという印象は無く均整のとれた体格という印象を受ける。濃い金色の髪を後ろで束ね、どこか軽薄そうな顔立ちをしていた。

 その男の瞳はライラを捕らえて一瞬硬直する。

「何?」

 言葉を掛けられ男の硬直が解ける。

「……驚いたなぁ、君すっごく綺麗だね。へぇ……絶世の美女って実在したんだ?」

 ライラは盛大に顔をしかめた。

 宿屋兼酒場になっているこういう場所では時々こういう輩が出る。一人旅では無かったが数年間旅をしてきたライラには何度も経験があることだった。

「何か用があるのなら完結にお願い出来る?」

「ああっ、怒らないで。せっかくの綺麗な顔が台無し……ってこともないか。綺麗だからどんな表情でも魅惑的に見えるね、君のもっと色んな表情を見てみたい気分になる」

「ちょっとー、私のライラに気安く声を掛けないでくれる?」

 ユーカの抗議にもめげず男はライラの横の席に勝手に座り込む。

「へぇ、ライラちゃんっていうの? 名前も可愛いね。どう? 上の部屋で俺とゆっくり話でも……」

 ライラはにこりと笑う。

 形のいい完璧な微笑み。

 そう、造り笑顔だ。

「悪いけど、貴方には興味はないわ」

「うっわー、ときめく笑顔できっぱり言われたよ。それじゃあ君はどう?」

 男はユーカの方に笑顔を向ける。

「手取り足取り色々教えて……」

「‘じゃあ’ってなんじゃーーーー!!」

 ユーカが立ち上がり男の胸ぐらをつかむ。

 瞬間、ごがん、と激しい音を立てて男の身体が床に転がった。

「ご……っ!」

 一瞬、ライラは何が起こったのかを理解出来なかった。

 店内が静まりかえり、三人の所に視線が集中している。

 数秒経ってようやくユーカが男に頭突きを喰らわしたことに気が付き目を瞬かせる。本人も相当痛かったのではないだろうか。

 ライラが正気を取り戻すと同じくして、店内も元の騒がしさに戻る。こう言う喧嘩は日常茶飯事なのだろう。

「言うに事欠いて‘じゃあ’って何よっ!」

「痛ってー! お前石頭!」

「悪かったわね、石頭で。っていうか、これで殴られなかっただけマシに思いなさい!」

 言って彼女は鉄の笛を引き抜く。

 ライラは呆れて息を吐き出した。

「ユーカ、それ打楽器じゃないわよ」

「知ってるわよっ! でも叩くといい音するわよぅ。ごがんって頭が陥没するような音。ほらー、竜とか叩いても壊れなーいだから」

「硬っ! つーかそれって音とかあんまり関係ないだろっ! こえーよ! ……調子乗ってスミマセン。本当の所、別にナンパが目的じゃねーんだ。応じてくれるならそれに越したことはないと思ってたけど」

「何か最後の余計だけど、どーゆーイミ?」

 ユーカはクビを傾げる。

 ライラは男と一緒に床に倒れた椅子を起こす。

「仕事ね?」

 男が頷きながら起こされた椅子に座った。

「そーゆーこと。君ら見たところ魔法使いだろう? ちょっと人手不足で人員探していたんだ。ねー、話だけ聞いてみない?」

「断る。あんたみたいな脳みそ沸騰しているような男に雇われたくないわ」

 きっぱりユーカが言い放つ。

 対照的にライラが考えるような素振りを見せた。

「そうね、話だけなら聞いてみてもいいわ」

「えー? ライラ本気でこんなのの話聞くの?」

「こんなのって、酷いなぁ」

 男はにこにこしながら抗議する。

「君、可愛いのにさらりと酷いこと言うね。ま、それも君の魅力かもしれないけど」

 先刻彼女に頭突きを喰らったのを忘れてしまったかのような発言にさすがのユーカもこれ以上言い争うのを止めたらしい。

 毒気を抜かれたかのように、息を吐いて肩を竦めた。

「んー、ライラが聞くってなら、別に聞いてあげないこともないけどー。これから用事あんのよねぇー」

 男の表情がぴくりと動く。

「用事?」

 ライラが代わって答える。

「知人に会いに行くのよ。それが終わったら……そうね、話くらいなら聞いても構わないわよ」


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