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揺らぐ太陽の韻律  作者: みえさん。
第六章 闇の魔槍は暁を貫く
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 緊張が走った。

 ジンがゆっくりと動くと、その空気に押されるように同じ速度でキカも動いた。

「何故、ここが分かった?」

「私もライラさんの知人なんですよ。以前にここのことを伺いました。ノウラ姫と彼女が接触していたのは知っていますから、万が一の事があって駆け込むとしたらここだろうと見当を付けていたんです」

 ジンはちらりと周囲を確認するように睥睨する。

 彼の剣は狭い場所で不利ではないものの有利とは言えない。相手がどんな攻撃の手段をとるのか分からないが、カウンターの向こうの老人がどれほど戦えるか分からない以上、ノウラを守って戦うのは危険かもしれない。

 男は小さく笑う。

「ライラさんには個人的に世話になっています。だから彼女の仲間に、あまり無体な事はしたくありません」

 とん、と彼は何かを払うように自分の肩を叩いた。

「とはいえ、少々私の方が不利ですね。魔槍というものは本来このような狭い空間で戦うように作られていない」

「……魔槍使いか」

「そうです。専門職を見るのは初めてですか?」

 挑発するような笑い。

 ジンは軽く片目を瞑ってみせる。

「戦争に出たくて仕方がないという風情だ。この国をかき回して戦争でも始めるつもりなのか?」

「貴方の方こそ血を渇望しているのでは無いですか?」

「残念だが、そんな悪趣味はないんだ」

「だが、戦うことは嫌いではないようですね!」

 キカが動いた。

 剣を抜き放ち、間合いを一気に詰めてくる。

 ジンも剣を抜いた。

 禍々しい金の触手がジンの心に反応するように激しく蠢く。剣に寄生された右手で、ジンはキカの剣を受け止めた。

「……っ!」

 火花が散りそうな激しい音と共に二人の剣が交わる。

「はん、細い割に力は強い!」

「太刀筋は悪くないっ!」

 お互いに挑発をしあうような言葉を放ち、突き放すようにして間合いを取った。

 瞬間、キカの手から何かが投げられる。

 それは老人に向かって真っ直ぐ飛び、彼が手に持っていた何かをはじき飛ばした。

 男はジンから視線を外さないようにしながら高く笑う。

「サシでの戦いに水を入れるのは感心しませんね」

「……」

「大人しくしていれば危害を加えたりしませんよ。貴方がいなくなれば、ライラさんは悲しむのではないですか?」

 火傷のせいで引きつった顔がさらに引きつる。

「私としては彼女を悲しませることはしたくないんですよ」

 たん、と音を立てて踏み込んだのはジンもキカも同時だった。

 二人の剣が再び交わり、そして離れる。

 まるで剣舞のように二人の剣は付いたり離れたりを繰り返す。

 やがてジンの剣が大きく薙いだ。

 跳ね上がるようにして飛んだキカの真下を細い剣が通過する。返すように振り戻された剣がキカの肩を捕らえる。

 同時にキカの剣がジンの顔をめがけて突き出された。

 紙一重だった。

 ジンの放った剣を避けるためにキカは身をよじり、彼の顔をめがけて放たれた剣は彼の頬を軽く掠る程度に留まった。逆にジンの放った剣は、男の肩を保護するように付けられた金属の肩当てを弾き飛ばしていた。

 さらなる攻撃を警戒し同時に後ろに飛んだ二人の間には元通りの間合いが保たれた。

「さすがにやりますね」

 キカが肩を抑え呟く。

 ぽたり、と床に血が落ちた。

 ジンは自分の頬に付いた血を拭い、顔を顰めた。

 く、とキカが笑いを漏らす。

「私は、勝てないと分かっている戦いをする方では無いんですよ」

 言い終わるが早いか、ジンの身体が大きく揺らいだ。

「ジンさん!」

 ノウラの悲鳴のような声が響く。

「……っ」

 ジンはその場に膝を付いて蹲った。

「その毒は即効性があります。運が良ければ命‘だけ’は助かりますよ」

 どん、とジンは前のめりになるようにして床に倒れた。

 彼女が近づいてきたのを感じたが、ジンは顔を上げなかった。

「ジンさんっ!」

「……その男はもう駄目ですよ。諦めなさい」

「貴方……っ!」

 ノウラの気配が鋭くなる。

「誰の命令か知りませんが、こんな事をして無事に済ませられると思っているのですか」

「思っていませんよ。戦争以外で人を殺せば罪に問われるのは必死。まして毒を使ったとなれば私は罪人です。それでも国王陛下から恩赦があるでしょうね。私は悪漢から貴方を守るために行動を起こしたのですから」

「そのような世迷い言を信じると思いますか?」

「判断されるのは陛下です。……さぁ、姫君、あちらの老人を彼と同じ目に遭わせるか否かは貴方次第ですよ」

 大人しく付いてこいと言っているのだ。

 ノウラは大きく息を飲んだ。

「……分かりました」

「いけません、ノウラ様!」

「いいえ、これ以上他人を巻き込む訳にはいきません。……大人しくついて行きます、これ以上の事はなさらないで下さい」

 凛とした声だ。

 対照的な声が笑う。

「いいでしょう。手荒な真似をしないと約束をします」

「お願いします。……あの、どうか、後の事をよろしくお願いします」

 最後の下りは老人に向けられた言葉だった。

 老人は仕方が無いという風に答える。

「……承知致しました」

「本当に、すみません」

 申し訳なさそうにはき出された声音はどこか泣きそうな色を含んでいた。


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