表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
揺らぐ太陽の韻律  作者: みえさん。
第六章 闇の魔槍は暁を貫く
76/109

「ジンくーん、こっちー」

 ユーカが楽しそうに手を振る。

「ユーカ!」

 走りながら男が叫ぶ。

 彼の右手がノウラを掴み、左手には奇妙な形をした剣が握られている。呼吸は荒かったが息が上がっているという程でもない。

 対するノウラは必死な様子で彼に付いてきている。

 その後ろには数人の男達が付いてきていた。傭兵という様子の男達だ。彼らはどう見ても彼らに好意的なようには見えなかった。

 ユーカが指を差しながら言う。

「後は任せて。……そっちに例のお店あるよ」

「任せた」

 信頼している、という風に彼は頷きそのまま走っていく。

 一瞬レントとノウラの視線が交わる。

 助けを求めている訳ではない。何かを訴えかけるような視線だった。レントはそれを託されたと捉えた。

 レントは剣を構える。

「はいはいストーップ!」

 彼女は通せんぼをするように両手を広げて見せる。

 傭兵達は立ち止まった。

 殺気立っているという風な彼らの目は血走っている。

「何だお前らは! 邪魔をするなっ!」

「一応聞いておくけど、あんた達彼女捕まえてどうするつもり?」

 はん、と一人が笑う。

「あの女には賞金が出ているんだ。生きたまま捕らえればとんでもない金額がでるんだ。賞金稼ぎが賞金を狙って何が悪い」

「因みに依頼主は?」

 問いかけにチェレスタの方が答える。

「あー、多分、それジュール派です」

「ん? あ、そうか、ジュール卿が疑いかけられて捕まったんだっけ?」

「………よく知っていますね」

「この子達が教えてくれるから」

 ふわりと彼女の周りを風が薙ぐ。

 風の国の衣服を着た少女。

 本当に風の国の風使いなのかもしれない。

「そっか、リーダー失う訳にいかないから、彼女と人質交換するつもりな訳だ。でも残念、ノウラちゃんは渡さないよん」

「あー、そうですね、ジュール派の俺としても、あんまりそう言うことして欲しくないです。全力で阻止すべきだと思いますね、な、レント」

「………」

 無言で頷くと、ユーカが意外そうな顔でレントを見る。

 彼女が長身の為、見下ろされる形になった。

「レントって、へぇ……コルダさんの息子」

 むっとしてレントは言い返す。

 どいつもこいつも自分をコルダ・ジュールの息子としてしか見ない。

「七光りみたいに言うなよ」

「光るだけいーじゃん」

「は?」

「私には光る親いないし……とと、コラコラ勝手に離脱禁止!!」

 言った瞬間彼女の指先から風が生まれる。

 ノウラ達を捕らえるために走り始めた傭兵達を彼女の風が捕らえる。正確に彼らの前に現れた風は、彼らを押し戻すように旋風を巻き起こす。

 ひゅう、とチェレスタが口笛を吹いた。

「格好良いー。俺らも負けてらんないなー」

 チェレスタは剣を構えるとそのまま傭兵達に突っ込んだ。レントもまたそれに倣う。

 さすがに傭兵達も抵抗はしたものの、決着はあっさりとついた。

 少年兵とはいえ、城に召し抱えられるような兵士だ。弱いわけがない。父親には未熟と言われるレントだったが、ここで遅れをとるほど弱くもない。加えて、今は風が味方に付いていた。

 勝てないのを自覚した一人が駆けだしたのがきっかけだった。

 次々に彼らが悪態をつきながら別の方向へと走り出した。

 ひゅう、と今度は少女の方が口笛を吹いた。

「へぇ、結構強いんだ~」

「ユーカさんも凄い風使いなんですねぇ」

「何しろ400年に一人の逸材だからねー」

 冗談か本気か、彼女は堂々として言ってのけた。

 その言葉が本当かどうかは分からなかったが、彼女の風を使う才能は優れている。風魔法を得意とする魔法使いに会ったことはあるが、彼女のように自在に操るようなものは今までいなかった。

 少なくとも、本当に優秀な風使いではある。

 王が亡くなった事に関わっているのではという疑念が再びよぎる。だが、だとしたら何故ノウラを守る行動をとったのだろうか。デュマ・ディロードに雇われているのだろうか。

 そう、だとしたら説明が付く。

 デュマが自分に誰にも言うなと口止めした事、真っ先に自分に知らせろと言った理由。

 彼が雇った、あるいは繋がりのある人たち。それを他に知られたくは無かったのだ。だから自分に口止めをした。父親に反発している自分なのだから、ああいう言い方をすれば本当に誰にも言わないことをデュマは見抜いていたのではないだろうか。

 父が疑いをかけられたのも、王が殺されたのも、全て彼らとデュマが共謀して行った事。

 そこまで考えてレントは恐ろしくなる。

 今それを口に出したら消されはしないだろうか。殺されないにしても、捕まえられる可能性も十分あり得る。彼女一人では無理かも知れない。だが、先刻の男が戻ってきたら?

(違う)

 混乱をかき消すようにレントは首を振る。

 ノウラの視線を思い出す。彼女は何を自分に言いたかったのだろう。

 強い眼差し。

 あれは何を訴える瞳だっただろうか。

(……信頼?)

 違う、信じて欲しいという眼差しだ。

 ノウラ姫は少なくとも自分の立場を理解している。レントが彼女の父親に対して疑いをかけるだろうと言うことも理解しているのではないだろうか。その上で彼女は自分に対して信じているという視線を送った。それは、自分の事を信じて欲しいという意味にもとれる。

 彼女は一体何を知っているのだろうか。

 突然、彼の思考を邪魔するように突風が巻き起こる。

「わわっ……ちょっと待って、分かったから!」

 ユーカが慌てたように言う。

 彼女の身体が風に包まれ、宙に浮いている。

 チェレスタも慌てた声を出す。

「ど、どうしたんですか、大丈夫です?」

「偵察に行かせていた風が……うん、分かっているから、もっと大人しくして!」

 彼女の足が地面につくと、今度は髪の毛が盛大に揺れる。

「……え、それ、本当?」

「何、なに? どうしたんですか?」

 ユーカは半ば呆然としたように目を瞬かせる。

「即位式だって」

「は?」

「ユリウス殿下が即位式をすることを決めたって……」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ