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揺らぐ太陽の韻律  作者: みえさん。
第二章 月迦鳥奇譚
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 もしも腕に自信のない者たちの集まりならば、ここで男の警告に従い、成り行きを見守るか逃げ帰る道も合っただろう。

 幸か不幸か、男の放った言葉は彼らの闘志に火を付けた。

 引きつった笑いを浮かべたキカは立ち上がりながら身の丈ほどの魔槍を造り出す。

「舐めないで下さい、その程度の脅しでびびるようならこんな仕事はしてない」

「同感だ。何の目的か知らないが、俺の前で好き勝手はさせん」

 ぱちん、と鞘を外し、イディーは背負っていた大きな剣を抜き放つ。

 体格の良い彼でさえも背負わなければならないほどの巨大な剣。それは鞘から離れると不思議な程強力な光の力を露わにした。

 赤毛の男が少し顔をしかめる。

「それで戦うつもりか」

「悪いが、自分に刃を向けた者を許すほど寛大ではない」

 イディーは静かに言う。

 戦闘準備が整ったと言わんばかりの二人の後ろで、ライラは溜息をついた。

 赤毛の男の一方的な言い方には頭にきたが、先に二人が怒り出したせいでタイミングを逃した。

 それよりも何か。

 赤毛の男の言動に何か引っかかりを覚える。

 ライラは一歩下がり視界を巡らせる。

 倒れ込んでいる人。一瞬死んでいるのかとも思ったが、冷静になってみれば微かに呼吸があるのが分かる。血の赤が見えるが、それも大した量ではない。その周りの木はやはり切り倒され、見通しが良くなっている。

(見通しを良くするために切り倒したのね)

 邪魔だから排除した。

 木も人間も。

 殺しても別に構わないつもりで遠慮無く攻撃したのだ。

 それでも積極的に殺すつもりはない。だから、戦意喪失をした連中を叩きつぶすような事をしていないのだ。

 魔法使いは、少なくともライラやキカくらいのレベルの魔法使いは、森一つくらい吹き飛ばすだけの魔力を持っている。もちろんそれだけの力を使えば自身もただでは済まないし、正当と認められなければ罪に問われ追われることもある。

 本気で排除するつもりなら最初の一撃で全員を吹き飛ばせば良かったのだ。

 無論、ライラやキカのような魔法使いが抵抗する可能性も十分あるが、それでもライラたちが出遅れた間に先発隊の何人かを殺すことも可能だったはずだ。

 しなかったのは彼が優しかったからではない。

 無駄で、なおかつこちらを本気にさせてしまうリスクを考えるとやらない方が良いと判断しただけなのだ。

(あの人、考え方が似ていて嫌だわ)

 ライラは顔をしかめる。

 男が真実何を考えているか分からない。ただ、男の行動に理由をつけて並べればそうなるのだ。

 ともすれば、これは時間稼ぎと言うことだろうか。

 卵が安全に孵るための。

「私たちは」

 ライラは男に声が正確に届くように高々に言う。

 振り向いた二人の男に、動くなと言う風に手で示す。

 ここで戦闘はまずい。

 一見敵に思える、敵味方とも付かない赤毛の男と手を組むというのはどうかと思うが、男と戦っていざ魔物の大群が押し寄せた時に戦えないとなれば意味がない。

「卵を破壊するつもりはないわ」

「……」

 赤毛の男は少し興味深そうにライラを見た。

 男がこちらを攻撃してきた理由。

 それはおそらく男が卵を一人で孵し、見届けるつもりだったのだ。そこに、武装した一団が入ってきたのを感知し、破壊を目的に来た集団だと思いこんだ。

 本当はそれだけでは彼の行動の全てを説明仕切れないのだけれど、一番納得出来る理由だ。

 夜の力を使ったのも、邪魔が入ることを覚悟し万が一の時のためにあと少しの力が加われば卵が孵るように準備をしたのだ。

 やはり自分と考え方が似ていて嫌だ。

「あなたが‘後に遺されたもの’を独り占めしたいならそうすればいいわ。それを止めたい人と戦闘になっても別に私は構わない。けれど、今ここでの戦闘は得策ではないわ」

 言外に今は協力をし合おうと言う。

 察したイディーが何かを言いかけるが、ライラは首を振って止めさせる。

 多分、相手は話の分からない男じゃない。

 やや沈黙があって硬い表情のまま傷の男が口を開く。

「女」

「なに? 男」

「……」

「………」

 言い返すと言いようもない沈黙が流れる。

 キカでさえも覚えず唖然と二人のやりとりを見守る結果になった。

 やがて男の方が根負けをしたように息を吐く。

「……リオリードだ」

「そう、私はライラよ」

「ならばライラ。戦闘中お前は極力俺に近付くな。ついでにそっちの男もだ」

「え?」

「俺も?」

 不意に示されたイディーが目を瞬かせた。

 理由が分からず困惑する二人の横で、またしても無視をされる形になったキカは気に入らなそうに鋭い舌打ちをした。

「それと雛は俺が預かる」

「殺さないことを約束してくれる?」

「元よりそのつもりだ。条件はそれだけだ。残ったものをどうするかそれはお前たちが決めればいい」

 魔槍を構えたまま、キカが嫌味っぽく言う。

「てっきりそれが目的かと思いましたが?」

「興味はない」

 彼は短く言い放つ。

 まるで、お前とは話す気がないとでも言うように。

 キカの魔槍の魔力が上がった。

 殺気に似た気配にリオリードは剣に手を掛ける。

 お互い間合いを詰めようとした瞬間、冷ややかな女の声で二人の行動が止まる。

「ケンカなら後にして」

 ライラは腕を組んで二人を交互に睨む。

 その視線で気温が下がりそうな勢いで冷たい。

 見合って斬り合おうとしていた二人が、ライラを見返した。

「さっきも言ったけど、ここでの戦闘は得策じゃないわ。……キカ、一々言葉に腹を立てるのは子供のすることよ。自粛して」

「……す、すみません」

「リオリードさんも、何が気に入らないかは知らないけれど協力するつもりがあるのならあまり挑発しないで頂戴。大人なんだから」

 言われて今まで表情を硬くしていたリオリードが初めて驚いたような戸惑ったような人間らしい表情を浮かべる。

「あ……ああ」

「やりたいのなら、後で存分にどうぞ。………それで後ろで笑っているあなたは何が可笑しいの?」

 氷点下の瞳が男を睨む。

 笑っていた大男はますます笑いを深くする。

「いや、何か、別に大したこと言っているわけでもないのに随分強制力ある声だなぁって思って」

「大したこと無い事で悪かったわね。けれど、本来あなたがすべきことよ、リーダー?」

「面目ない」

 男はなおも笑いながら言う。

 本当にそう思っているのだろうか。

 ライラは静かに嘆息を漏らした。


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