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揺らぐ太陽の韻律  作者: みえさん。
第二章 月迦鳥奇譚
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 コウアトルが出没するという場所は、一歩間違えれば城下にまで侵入し甚大な被害が出そうなほど近い場所だった。いつ頃から住み着いていたのかは知らないが、よくこれを放っておいたものだなと思う。城から討伐隊が出ないと言うことは、城下の人間が被害に遭っていないと言うことだろうと推測出来るが、対応が遅いと思う。

 ライラは一帯の最後尾を歩きながら森の様子を観察する。出没する場所まではもう少し時間が掛かりそうだ。

 城下に近いとはいえ、魔法を使って被害を及ぼすような範囲ではないだろう。

(万が一にもコウアトルが暴走し城下の方へ逃げたならば魔法で吹き飛ばす。気を引いて狩るよりもその方がきっといいわよね。報奨金は少なくなるだろうけれど)

 森の半分を犠牲にしてしまうかもしれないが、それでも被害がそれだけならマシな方だ。

(……?)

 ふとライラは違和感を覚え地面を見つめる。

 蹲り触って見てその違和感を確かめる。

「どうしたんです?」

 同じく最後尾をやる気無く歩いていたキカは突然座り込んだライラに問う。

 キカは自分を魔術師協会所属の魔槍使いなのだと言った。魔槍使いはその名前の通り、魔術で作った槍を使う。魔力の差で変わってくるものの、飛距離が通常の槍の倍以上で命中率も高いために戦争などがあった場合前線や籠城した際の守護を任される。だがこういった少人数の部隊ともなると後方支援が向いている。

 帯刀している所を見ると剣も使えるのだろうが、この戦いでは使うつもりが無さそうだった。

 そもそも戦うつもりがあまり無さそうにも見える。

(何かあったらすぐに前線に突っ込んで行きそうに見えるのに……不思議な人)

「お嬢?」

「ああ、ごめんなさい、少し乾きすぎていると思って」

 土が乾いていた。

 触ると砂のようにサラサラと落ちる。

 キカも土に触れ首を傾げた。

「妙ですね、前の雨からさして時間は経っていないはずですが」

「コウアトルが旱魃を起こすなんて聞いたことがないわよね」

 炎の属性を持った魔物が周囲の水を嫌って消してしまうことや、水を好む魔物が自分の周囲にだけ水を集め、他を涸らしてしまう事は時々ある。だが、コウアトルはそのどちらにも入らない。

 それに、とライラは周囲を見回した。

「木が枯れていないわ」

「……それが?」

 キカは試すような目でライラを見る。

 事実試しているのだろう。キカはおそらく可能性に気が付いている。それをライラも気付くか否かを試している。どんな意図で自分を試しているのかは分からなかったが、それに気が付かないフリをして答える。

「地上に雨が落ちる前に水を集めたんだわ。大地の力を消費せずに天の力だけを集めた。それも必要最小限にしているように思える。理性を失った魔物が人を襲っているのかとも思ったけど、どうも違うようね」

「というと?」

「コウアトルに襲われたという話を真実とするなら、魔術関連の実験を行っている人間がいるか……」

 ライラは今度は逆にキカを見る。

 男は肩を竦める。

 顔の半分が爛れ皮膚が引きつっているために僅か笑んでいるようにも見えたが、その瞳は全く笑っていなかった。

「幼霊期の精霊か、聖獣の類がいると?」

「そんなところでしょう」

「さすがに知識が高い。……では、ここにいるのは、何だと思います?」

 ライラは息を吐いた。

 試されていると思ったが、どうやらそれどころか協力する気すら無いことに気が付く。自分自身思惑あってこの一団に参加しているのだから棚に上げて文句を言えないが、参加した以上は魔物退治に協力するつもりだっただけに、彼の態度は少し腹が立った。

「あなた、ここに何がいるのか、知っているのね?」

 薄く笑う。

 否定とも肯定ともとれる。

 答える気など、ないという態度だ。

「じゃあ質問を変えるわ。イディーは知っているの?」

「知らないでしょうね」

「あなた達、仲間じゃないの?」

「何度か一緒に仕事をしただけですよ。質問ばかりですね」

「じゃあ一応、最後の質問にしておくわ」

「うん?」

「あなた‘塔’には登ったの?」

 尋ねると男は少し目を鋭くさせる。

 魔法使い達が集まる場所、それを‘塔’と呼ぶ。極限られた者だけが招かれ、中に入ることを許される場所。魔法を使わない人からみても塔という場所は異質であり、特殊な場所だ。少なくとも塔に入ったことがあると言うだけで、その実力が並よりも上であることが知れる。

 だから、勝手に塔出身を名乗る者は多い。

 だが、真実塔を知る者であれば、相手が本物か否か、すぐに分かる。

「……そっちは、どうなんです?」

「答えないの? まぁ、いいけどね。私は‘登って’はいないわ。招かれたけれど」

「なるほど、いいでしょう、同じ招かれた者同士だ。少し協力しましょう」

 本物か、とライラは少し視線を鋭くさせた。

 キカは肩を竦めて言う。

「正直、この先に何がいようと俺は狩る自信がある。でなければ来ない」

「同感ね。……今ので大体見当ついたわ。やる気のないあなたが何でわざわざ参加したのかも」

「へぇ、なら、どうします? 前衛部隊に伝えます?」

 キカはバカにしたように笑う。

 その意味が分かってしまっただけに、文句を言う気にもなれない。

 多分、自分がキカの立場なら同じ判断をして全員には伝えなかった。

 だけど、

「リーダーには伝えておくべきだと思うわ」

「あんたは、あれを信じるんですね。あんたは信用されていないというのに」

「あなたは私より信頼されているのに、信じないのね」

 彼は表情を変えなかった。

 だが、多分少し怒った。

 ライラは気付いたけれど、気が付かないフリをしているという態度でわざと笑ってみせる。

「ともかく、夜を待ちたいわ」

「なるほど、そっちの判断をしますか。ではあなたが?」

「必要なら。……あなたは反対するの?」

「べつにどっちでもありませんね」

「なら、問題はないでしょう? 結果的にあまり変わらないなら、利の大きい方にするわ」

「時間が無駄になりますがね」

「無駄か否かは、結果を見てみないと分からないわ。そうでしょう?」

 ライラの問いに、彼は少し口元を引きつらせた。

 笑ったのか、表情を歪めたのか。

 火傷の跡のせいでそのどちらかが判断出来なかった。


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