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揺らぐ太陽の韻律  作者: みえさん。
終章 奇跡を呼ぶ翡翠
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 夜の森に奇妙な光を帯びる場所があった。

 それはあの夜、月迦鳥の死骸が埋まられた場所。

 そこに今は一人の少女が立っていた。

「……ケイス、見える?」

 指を差し問いかけるとケイスナーヴは怪訝そうにライラを見た。

「何をですか?」

「………」

 見える人間と見えない人間がいる。

 それがもしも魔力の差では無いとしたら、条件は何なのだろうか。

 少女はゆっくりと顔を上げる。

 赤銅の髪に、頬には複雑な紋様が刻まれている。

 それを見た瞬間、先に進んでいたユーカは青ざめて戻ってくる。

「ちょっ……! ライラ! オバケよ、あの子オバケ!!」

 ユーカは慌ててライラの後ろに隠れる。

「オバケ?」

「前に会ったのよ。風の国の聖主がどうのとか、見捨てていなかったとか、燃やしてとか!! そんなワケワカメなこと言った後、いきなり消えちゃったのよ!! お、オバケよ! 絶対!!」

 怯えているのかそれとも楽しんでいるのか分からない口調でユーカがまくし立てる。

 呆れたようにジンは息を吐いた。

「魔法による幻惑じゃないのか?」

「だって、気配が……みょうちくりんじゃないの!! やだ、ヤダ! 怖い怖い怖い怖い怖い!! いいからもう、ジン、さくって言っちゃって!!」

「幽霊って斬れるものなのか?」

 もっともな質問をするジンを押しのけて、イディーが嬉しそうな声を上げる。

「ユーカちゃーん、怖いなら俺が守ってやるからね。俺可愛い女の子の味方だから」

「あの子も可愛いじゃない! どっち優先!?」

 さりげなく自分も可愛いと言い切ったユーカに嬉々としたようすで彼が答える。

「俺は生きてる女の子優先~」

「兄上!」

 ノウラを慮ってか、ユリウスが慌てて諫める。

 婚約者の前でする態度ではないだろう。

 だが、とうの婚約者の方はその少女を見つめたまま硬直をしている。まるで、意識を吸い取られているかのようだった。

「ノウラさん?」

 呼びかける声を彼女は聞いていないようだった。

 ノウラは少女を見つめたまま歩み出す。

 じゃれ合っている兄弟も彼女の様子のおかしさに止まる。

「……貴女だったんですね」

 少女は少し笑う。

 どこか悲しそうな笑みだった。

「ずっと……誰かに呼ばれている気がしていました」

 危険だ、と呼び止めた婚約者の言葉すら、彼女には聞こえていないようだった。

 躊躇いもせず手を伸ばしたノウラの手に、少女もまた同じように手を伸ばした。

 その指先が触れる。

 触れた瞬間光が増した。

 一瞬、ノウラの髪が赤く染まったかのように見えた。

 だがその赤はすぐに彼女の中に収まる。赤い髪の少女の姿もそこにはなく、代わりにぼんやりとノウラが光を帯びた。

 少し、ぎくりとした。

 ノウラの頬には先刻少女の頬にあったものと同じ紋様が刻まれている。

「……っ」

 ライラは口元を押さえた。

「これは……」

 ジンも息を飲む。

 そっくりだった。

 イクトーラで『神の翼岩』を封印した時のイクトーラ王女の姿と、今のノウラの姿は非常によく似ている。もちろん姿形のことではない。イクトーラ王女は灰色の髪と瞳を持っていた。ノウラの髪は金色で青い瞳をしている。だから消して見かけが似ているわけではなかった。

 だが、その身に纏う雰囲気が酷く似ている。

 あの場に居合わせたジンも同じように思った様子だった。彼はどうするべきかと問うようにライラに向かって叫んだ。

「……ライラっ!」

「分かってる! でも……」

 どうしていいのか分からない。

 イクトーラでは王女の命を犠牲にして翼岩の暴走を食い止めたのだ。彼女が封印の要になることで、全てを終わらせたのだ。

 岩を封印したのはライラだ。

 あの時はそれ以外に方法がなかった。彼女の選択を………死を無駄にしないためにはそれしか方法はなかったのだ。

 あの時と似ている。

 同じ事が、再現されてしまう気がした。

「ノウラさん!」

「……私は」

 ノウラが口を開く。

 どこか無機質な色を帯びた声。

「私はユクです」

「……ノウラ?」

 怪訝そうに近づくイディーは彼女に触れかけてその手を止める。その瞳が普段の彼女からかけ離れていたからだ。

「写本を燃やして下さったことを感謝します。私ではどうしようもなかった。あのままでは私は正気を失い、この国ごと滅ぼしてしまう所でした」

「な、何? 何!? ノウラっちどうしたの!?」

「ですが、あまり猶予はありません。私はやがて枯れるでしょう。その前に要を打ち込めば暫く猶予が出来ることでしょう」

 淡々と述べる少女にライラは険しい表情を返した。

「そのために、ノウラさんを犠牲にするというの?」

「そうです。彼女はこのことに同意しました。新たな要に成ることで彼女はユクと融合し、ユクを守る女神となります。かつて幾人もの娘がそうしてきたように」

「どういう……意味だ」

 ノウラの身体を持つ少女は問いかける国王を見据える。

「若き王、ユクの全てを今ここに集めました。その剣で私と樹を貫きなさい」

「何だと?」

 国王の顔つきが険しくなった。

「それが要になるということ。そして、王の務め。……風の国の聖主」

「え? 私!?」

「彼女がユクとなれば嵐が起こる。風を御し国を守って下さい。貴女でなければ出来ないはずです」

「あ……だから、見捨てていなかったって……」

 心当たりがあったのだろう。

 ユーカは複雑な表情を浮かべてみせた。

 彼女の言葉の意味を理解したようだった。

「他に……方法ないの?」

「……」

 少女は口を噤んだ。

 やがて、絞り出すように言う。

「私は、間に合わなかったんです………世界を造り替える女神の誕生に」



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