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揺らぐ太陽の韻律  作者: みえさん。
終章 奇跡を呼ぶ翡翠
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「と言うわけでー、ユーちゃんに、ジンフィっちゃん優勝おめでとー!」

 クウルの言葉で一同の杯が同時に上げられた。

 武道大会でジンが優勝、大食い大会でユーカが優勝した事を祝いたいとクウルが言いだし、消し炭の街の水の都で簡易的な祝賀会が開催された。

 城内があわただしい為に、サイディス達からは「行けたら行く」という言葉をもらってきたらしいクウルはマヤとシグマと肩を組むような格好で店まで戻ってきた。その顔はいつにも増して嬉しそうだった。

 意外な事に、クウルに引っ張ってこられたらしいリオリードもまたこの簡易祝賀会に参加していた。参加とは言っても乾杯が終わるとすぐに酒瓶を持って外に行ったままになってしまったのだが。

 大食い大会は見ていないが、会場で大量に食べているはずのユーカはなおもまだ食べ続けている。

 口をもごもごと動かしながら、彼女は横に座るもう一人の主役に対して楽しそうに言う。

「でー、ジン君はライラの応援に後押しされて優勝しちゃった訳なんだねー」

「大会にはディロード閣下もクウルも出ていなかったんだ。他の選手を侮る訳ではないが、勝てる試合だったから結果としては当然だろうと思う」

「へぇ、自信家ー。でもさ、実力で勝ったっつーなら、ライラの応援は嬉しく無かったってわけ?」

「いや、そう言うわけでは……」

 嬉しくなかった訳ではない、そう言ったジンの言葉はマヤによって別の意味に捕らえられる。

 ジンの後ろから飛びついておぶさる形になったマヤは嬉々として言った。

「じゃあやっぱ後押しされたんだ! あはは、ライラもてるよなー」

「何でそうなるっ!」

 噛みつくように言う彼にユーカはけたけたと笑う。

「でも、ジン君ってライラの事好きなんでしょ? それとも嫌い?」

「いや好きか嫌いか聞かれれば……好き……だが」

 おー、と一部から歓声が上がり、カウンターの向こう側からばき、と何かが折れるような音が聞こえる。

「俺は強い相手が好きなんだ。魔法か剣かの違いはあるが、ライラは強いだろう」

 ふぅん、とユーカが不服そうな瞳でジンを見る。

「そう言うこと言うわけ。へぇ?」

「……何だ」

「べっつにー。ただケイス君は良かったねーって思って」

 話を振られて振り返ったケイスナーヴはにこやかに笑う。

 今は青年姿だった。

「そうですね、良かったです」

「ライラにしてみれば……れれ、どこ行くの?」

 立ち上がったライラに、ユーカは不可解そうに見上げる。

 その手には料理の皿と葡萄酒の入った瓶とグラスが二客あった。

「外にね。リオリードさん行ったきり戻らないから」

「あらら、ジン君に強敵現る?」

「そんなんじゃないわ」

 くすりと笑ってライラは外へ出て行く。

 本当の事を言えば少し逃げたい気分だったのだ。話が自分が不得手な方に回ったせいもあるし、その話題を避けたかったというのもある。リオリードが外にいてくれたおかげでそのきっかけを簡単に作れた。感謝したい気分だった。

 リオリードはライラが出て行くと軽く頭をこちらに向けた。壁に寄りかかりしゃがみ込んだ彼は面倒そうにしている。クウルに連れてこられただけのようだったから、そのまま帰っている可能性も考えていたが、彼は律儀にもその場に留まっていた。

 顔は不機嫌そうだったが近寄りがたい雰囲気でもない。

 目で近くに寄っても良いのかと問うと彼は無言でライラが並べるスペースをあけた。

「差し入れ。お酒だけというのは身体に悪いわよ」

「ああ……」

 余計なお世話だと突っぱねられることも覚悟だったが、彼は意外にも素直にライラの差し出した皿を受け取った。

 顔色が少し悪い気がするのは暗がりなせいなのだろうか。

 彼は気にする様子もなく続ける。

「お前はああして騒ぐのは苦手なのか?」

 ライラは苦笑いを浮かべる。

「嫌いじゃないのだけど、少し苦手な話題に入ったから抜けて来たの」

「そうか」

 くすりと彼は笑う。

「リオリードさんは?」

「ああ……俺は護衛の仕事が長いから、こういう方がいい。それよりも、その髪はどうした?」

 ライラは髪をつまむ。

 フードから覗く髪は朝と同じように色素が落ちた色をしている。彼に会っている時は通常通りの色だったから疑問に思うのは無理はない。

「魔力の使いすぎ、ね。二、三日したら戻ると思うわ」

「前にもあったのか?」

「ええ、そう珍しくもないのよ。疲れたと言うよりも強い魔力に反応するようだから」

 体質なのだろう。

 目立つために厄介だが、ケイスナーヴのように外見そのものが変化してしまう人間もいるためにそれほど珍しい現象ではないと思っている。

 だが、彼は何か妙に神妙な顔でライラの髪を見つめている。

「リオリードさん?」

 訝って問うと彼は微笑む。

「父親に似ていると思っていたが……」

「え?」

「あ、いや……何でもない」

 リオリードははっとしたように口元を押さえる。

 まるで、ライラの親を知っているというような口ぶりだ。

 ライラは言葉を探す。

 聞きたいことがあった。

 でも、どう聞けばいいのだろうか。第一、明らかに失言をしてしまったというような表情の彼が、答えてくれるかどうかは甚だ疑問だった。

 恐らく問いかけたところで答えてはくれないだろう。

 それでも。

「リオリードさん、私の父を知っているの?」

「……」

「それとも母親を?」

 あるいは両方か。

 彼は金色の瞳でライラを見据える。同じ金色の瞳でも叔父クウルの瞳とは違い暖かさを余り感じない瞳。それが彼女を見返して冷たさを帯びる。

 怯みそうになるが、なおも押し返すように見つめた。

 彼は小さくため息をつく。

「……お前の叔父というあの男に色々聞いたんだ」

「本当に?」

「白状すればティナ王と面識がある。だから、父親よりも母親に似ているのだろうと思っただけだ。……悪い、竜族の話は、お前自身気にしている事だろう」

「あ……」

 失言をしてしまったという彼の表情の意味を悟ってライラは口元を押さえる。

「……叔父様の言うこと、信じたの?」

「竜族云々の話か。人と交われるかは否かとして、あり得ない話ではない。少なくとも、アレが普通の人間でないことは俺も重々理解している。俺は他の竜族というものに会ったことがあるんだ」

 なるほど、と納得する。

 表情を変えずに淡々と話すリオリードの話をライラは信じた。しかし、そこに本当は彼女の知りたかったことが全て隠れていることに彼女は気付かなかった。

 真実が近くにあることを知らず彼女はグラスに葡萄酒を注ぐ。

「叔父様が変な話してごめんなさい」

「いや、構わない」

 お詫びに、とライラはリオリードの方にグラスを差し出す。

 受け取った彼は小さく微笑んでグラスを軽く上げた。


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