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黒の魔法使い  作者: ハルシオン
第二章
6/40

6.「赤」vs「青」

6.



 フレッドが剣を抜く。

杖を振りかざして魔法を行使する生徒が集まるこの魔法学園において、彼は杖を持たない。

火を吐く特殊な刀を武器にする剣士タイプの魔法使い。



「魔法剣士、初めて見た」

「マジックフェンサー、初めて見た。でも」

一年生コンビ、シロとサラサが同時に驚きの声を上げる。



 魔法はただ放出するだけのものではない。

魔力が少ないフレッドは自身が持つ剣に魔法の火を纏い、戦う。

切っ先に灯った炎はたいまつのようにメラメラと力強く燃え盛る。





 だが…



「ウォーターボール!」

サイダーの放った水の球がフレッドめがけて高速で飛んでくる。

延長線上にシロが入るよう計算された一発。避ける事はできない。

炎の剣で打ち落とすとジュッという音と共に水球が弾け飛び、刀に留まりし炎もまた消えた。

その事態に、シロが気づいた時にはもう遅い。

「あっ! 刀が」



 火は水で消える。

「赤」と「青」が戦う場合、実力が拮抗していれば必ず赤が負ける。

必ずだ。

魔法使いの色の相性はそれほどまでに大きい。



「俺の炎は消えねえよ」

 シロの心配を他所にフレッドは涼しい顔。

よく見ると水を斬った彼の刀は水浸しになってしまったかと思いきや、再び赤い炎が灯り始めている。

その手にあるのは妖刀、閻魔一振えんまのひとふり

ただの刀ではない様子。



 続けざまにウォーターボール(水の球)が飛んでくる。

今度は二発!

しかし次は斬るまでもない。

フレッドがフンと気合を込めると火が大きく燃え盛り、炎の壁を作る。

飛び込んできた二つの水の塊はその高温の壁を越えることなく蒸発した。



「赤は青に必ず負ける?

俺はそんな幻想信じてねえ。

青だろうが白だろうが、俺はむかつく相手には絶対に負けたくねえんだよ」

「赤」のフレッドは力強く言い放ち、再び刀に火をともす。



 これに立ち向かうは「青」のサイダー。

お次は数十にもなるウォーターボールを作り出しながら吼える。

「負けたくないのはこっちも同じだ!

気に入らない奴には負けたくねえ! 妹を泣かす奴は絶対に許さねえ!」





 まさに一触即発。

「赤」のフレッドが守りたいのは夢とプライド。

「青」のサイダーが守りたいのは妹と、誇り。

水と油のようで似た者同士。

そんな二人の戦いの結末を、それぞれのバディとなったシロとサラサは離れて見守るだけ。





 赤が刀を振りかぶり、同時に青が杖を振り下ろす。

大波のごとき炎の波がサイダーを包み込むが彼も負けじとウォーターボールを炎の壁めがけて投げつける。

一発命中するたびに火力が弱まっていくのが遠目からでもわかる。



 火と水の攻防の果てにビー玉程度の小さな水球がフレッドに命中した。

ダメージはほとんどない。

そして燃え残った火種が一つ、風に流されサイダーの妹のスカートに包み込まれた。

わっと小さな声を上げて思わず飛びのくサラサ。

妹のささいなピンチを兄は見逃さなかった。



「てめえ! サラサに当たったらどうすんだ!」

 またしても怒号を飛ばすサイダー。

風で翻ったスカートを目で追いながら返したフレッドの言い分はこうだ。



「俺は女に危害は加えない。

だが、

俺の出した炎が原因で起きたアクシデントにまでは責任が持てん。

具体例を挙げるとだな。

火の粉をひっかぶって服が全焼してしまったらそれはもう事故、自然の猛威ってことで納得してもらうしかないってことだ」



 激しい魔法の応酬のあとでもフレッドはブレない。

乱れた息をさらに荒げながらその目はサラサだけを見つめていた。

「ちなみにヤケドの心配はないぞ。

温度は低くコントロールすることも可能だからなb」





 シロくんは、言葉が出なかった。

涙さえも出なかった。

ただただそこにあったのは、後悔と自責の念。

この先輩のことをつい今しがたまで思い慕っていたことへの後悔と、

本当にこの先輩の下についてよかったのだろうかという自責の念。

その二つの文字だけが確かにそこにあった。



 この場の紅一点サラサさんは、固まっていた。

悲鳴さえも出なかった。

ただただそこにあったのは、恐怖と自分への憤り。

この人のことを本当に恐ろしくそれはもう怖ろしく思う恐怖と、

この人のことをつい今しがたまでかっこいいと思ってしまっていた自分への憤り。

その二つの文字だけが確かにそこにあった。





 サイダーさんは、キレました。

残りの五行文は省略します。



「ふざけんなあ! もはや確信犯じゃねーか!」

 親指を天に突き立てるフレッドに本日の最大声量をお見舞いする。

そのあまりの音量にシロ、サラサの両名は意識を取り戻す。



 嗚呼、神よ。

この場に彼に反論できる人間がいることを幸運と呼ばずしてなんと呼ぶ。

この者がいなければ彼は欲望のままにいたいけな女子生徒に襲い掛かっていたに違いない。

暴走モードに突入寸前のフレッドを止められるのはもうこの人物しかいない。

男サイダー、

最愛の妹を悪魔の毒手から救うための戦いの第二ラウンド開幕だ。



「改めて理解した!

お前のような変態を野放しにしていたらこの学園の秩序に関わるってことを!

安心しろよサラサ!

お前の服が燃え出したときはお兄ちゃんがすぐに水をぶっかけて鎮火してやるからな!

それで服が透けたり!

張り付いて体のラインがくっきり出ちゃうようなことになっても!

それは事故! 人命救助ってことで納得してくれよなっ!」



「どっちも変態だー!」

 第四話での一件からこっち、服がびしょぬれたままのシロが盛大に大声を出す。



 しかしもっと大変な事態になっているのが彼女だった。

純白の杖を構えて無我夢中で呪文を唱えている。

いろんな感情が交じり合ってぐちゃぐちゃになって、もうなにもかもが限界であふれ出そうな状況だ。

妹のただならぬ様子にいち早く気づいた兄のサイダーは後に語る。

「あの時は体中の血が引いていく音が聞こえました」と。



 その時、サラサの足元から膨大な量の水が噴き出す。

先ほどの「うぉーたーれいん」の比ではない。車が何十台浸かれば埋まるのだろうかという圧倒的水量。

それが二人の立つ窪地に向けて上空からなだれ込む様は圧巻!

まさに自然の猛威である。



 彼女の後ろで立ち尽くしていたシロは、奔流に飲み込まれるバディの最後の声を聞いた。

「あ、これマジィ…」





 その日の未明。

魔法学園の数少ない男子生徒二名が、演習場に突如出来た湖の底から発見されたという。



 続く。

 第二章、完。

補完としてサイダーはマク●スの早乙○アル○の髪短いver.

サラサはま●かの○樹○やかあたりの外見でイメージしてください。



 次回予告。

中ボス戦がはじまります!

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