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黒の魔法使い  作者: ハルシオン
第二章
5/40

5.赤い炎

5.



「ぷっしゅーん!」



 サイダーがハジけた。

「青」の魔法使いサイダーがフレッドにキレた。

バディにして愛する妹のサラサに手を出す馬の骨に怒り心頭の様子。

青い波動が彼の周囲に発生し、この場にどんどん魔力が集まってきているのが肌で感じ取れる。



 フレッドは指で後頭部をかきながら、真剣な眼差しでサイダーを見据えている。

「やっべー、つい禁句言っちまったよ」

「禁句ってなんです?」

 フレッドは質問に答えない。

シロを無視することは彼にとって日常茶飯事であるが今回のは少し性質が違うようだ。

いつもは女の子に夢中になってそれ以外見えなくなるフレッドが、今はサイダーに全神経を注いでいる。



「赤」のフレッドと「青」のサイダー。

まるで火と水のように相容れない最悪の相性。

それだけに片方が我を忘れて全力で向かって来たら、双方ただでは済まないことを意味する。



「キレたぜフレッド、振った炭酸ジュースのごとく俺の心は爆発寸前だよ」

 サイダーの台詞から初めて!マークが消えた。

表面上は穏やかな顔をしているが、その深遠は海の底のような無気味な静けさを湛えている。



「恥ずかしいセリフを堂々と言うな」

 フレッドがまた余計なことを口走った。

静かな湖畔に立つと石を投げ入れずにはいられない彼の性分。

きっとこういうやり取りも二人の日常なんだ。





「ウォーターレイン!」



 サイダーが叫んだのは呪文!

彼が習得している魔法のひとつで、彼の足元から大量の水が噴き出してくる。

その水はサイダーの頭上で円形を維持しつつ溜まり続け、みるみるうちに車一台浸かるほどの大きな水球に膨れ上がる。

その呪文を聞くやフレッドが飛び退く。

「まずい。逃げろシロ」

「逃がさん!」



 サイダーが集めた水球がグラリと傾く。

ある程度まで傾いた途端、堰を切ったように球の形を保てず割れて飛び散る。

その無数の飛沫の一つ一つがまるで雨のようにフレッド達のいる地上目掛けて落ちてくる。





 激しい攻防。

もたついているシロを蹴飛ばしたフレッドは、手にした杖で飛沫をさばく。

高速で降り注ぐ無数の水撃。

避けれるものはかわし、危ないものは叩き落とす。

魔法は使わない。いや、呪文を唱える暇さえない。


 どれだけの時間を水と格闘し続けたのだろうか。

雨が通り過ぎた頃にはフレッドもサイダーも息を切らして立っているのがやっとといった状態であった。



「どうだ! 恐れ入ったかフレッドォ!」

 力を振り絞って恫喝するサイダー。

全身傷だらけとなったフレッドは、それでも自分のテンションを崩さず力いっぱいサイダーを罵倒する。

「何が『うぉーたーれいん』だ。単語の意味が重複してるだろーが」

「言うな!」



 外野で眺めていたシロは遠くから口をはさむ。

「確かに。

レイン=雨。雨が水なのは当たり前のこと。

『うぉーたーれいん』という呪文はちょっと文法的におかしいですよ」

「お前も少し黙れ!」

 サイダー。シロに対しても顔を真っ赤にして激昂する。





 などと茶化してはみたものの。

サイダーが唱えたウォーターレイン(水の雨)はかなりの大技だ。

水の力だけで地面に多数のくぼみを作ってしまった。

一発でも命中していたら命の危機につながっていただろう。



 フレッドに蹴飛ばされて倒れこんでいたシロのすぐ足元にも水撃は届いていた。

蹴る力を抑えていたら当たっていた。

それを見たフレッドは、杖に巻かれているボロボロになった布をシュルシュルとほどいていく。

そして静かに言い放つ。



「見せてやるよシロ、俺の戦い方を」



 布を取り去る。

そこに握られていたフレッドの獲物を見て、シロとサラサは目を丸くした。

それは杖じゃなく、刀。

漆黒の鞘に収められた日本刀だった。



「そんな、なんで」

 あまりのことに動揺を隠せないシロ。

サラサも両手で口を押え、目を見開いている。

そして驚く様子は見せないサイダーを見据えながら、フレッドはシロに語りかける。



「杖じゃなくてびっくりしたか?」

 鞘を左手に持ち直す。

右手で柄を握り、臨戦態勢を維持しつつ彼は語り続ける。

「俺には生まれた時から魔力なんて備わってなかった。

だけどどうしても魔法学園に通いたかった俺は苦労してこの刀を手に入れた。

マジックアイテム、銘を閻魔一振えんまのひとふり

『赤』の魔法使いにおあつらえの炎を吐く剣だ」



 マジックアイテムとは、魔力が秘められた道具のことである。

これを持つ事により魔力を持たない人間でも魔法を扱うことができるようになる。

蓄えられた魔力の量は物によってピンキリで、高い効果を持つアイテムは相応の高価で取引されている。



 通常、高価なマジックアイテムを購入してまで魔法を習得しようとする男はごく少数。

しかしフレッドは大枚をはたいてでもそれを求めた。

それほどまでに欲しかったのだ。

自分だけの、魔法少女達のハーレムが欲しくて欲しくて堪らなかったのだ!



 そして自分の夢を笑う者をフレッドは許さない。

その夢の道を阻む者は全て敵。

水色の髪の美少女を手に入れるための障害は、たとえその子の兄であろうと斬り伏せるまで。





 いよいよフレッドが剣を抜く。

さ ぁ 、 盛 り 上 が っ て ま い り ま し た 。



 続く。

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