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黒の魔法使い  作者: ハルシオン
第二章
4/40

4.フレッシュウォーター

4.



 ひし形を成すミシディア大陸は四つの勢力に分かれている。

長らく小競り合いを起こしている東のイリスア帝国と、西のウルスラ民国。

南の海沿いに細長く展開するエン共和国。

静観を決め込むのは北の極寒の地に構えるアレクサンドリア王国。



 そして中立地帯、森や湖に囲まれた穏やかな土地オークロッテ領に魔法学園が存在する。





 本日の午後の授業はバディ同士での魔法の練習。

組んだばかりの二人が手を取り合って行う実習。

「赤」の上級生フレッドは、パートナーのシロを演習場へと案内する。

その手には杖らしき長い棒状の物が、布に巻かれて握られている。



「フレッド先輩、昨日はすみませんでした。

僕もっと魔法上手くなりますから」

 シロは、まるで恋人にすがるかのような態度で懇願する。

彼は極度の女性恐怖症のため、数少ない男子生徒のフレッドに見放されると困るのだ。

昨日の黄色の魔法使いとの対決では訳が分からないまま気絶してしまい、良いところがなかった。

そう思い込んでいるシロに対してフレッドは思いも寄らない優しい言葉を投げかける。



「安心しろ」

 フレッドに一瞬の間。

そして。

まるで何かを決意したかのように息を呑み、再度伝える。

「今しばらくはお前のバディでいてやるよ」



 それを聞いた途端、シロの笑顔が晴れ渡った。

「ありがとうございます。

ところで昨日はあの後どうなっちゃったんですか?

僕すっかり気絶しちゃっててなにがなにやら」

鼻をつまらせながらフレッドの元に駆け寄る姿はさながら子犬のようだ。



「なんでもないよ。

お前めがけて失踪していた電撃が、なぜか途中で疾走したってだけの話だ」

「だからその『なぜか』の部分が気になってるんじゃないですか。

それに疾走と失踪の漢字が逆になってますよ」



 シロの思いも寄らない発言に、フレッドの頭に疑問マークが浮かぶ。

その表情を見てシロの頭にも同様にクエスチョンマークが。

「? なんで俺がしゃべった漢字が間違ってるとかわかるんだよ?

ていうか漢字とか言うなよ。

一応俺たちは英語とかで会話してるって設定だからそこ間違えんなよな」



 フレッドはそう言い残してスタスタと先に歩いていってしまった。

シロの頭にはフレッド以上の数の?マークが浮かび上がっていた。





 賢明な読者の皆さんはもちろんわかりますよね?

それでは物語の続きにまいりましょうか。






 演習場、上空。

多数の水球が浮かんでいるその光景に後ずさりするフレッド。

サイズは大小様々だが大きい水球はバスケットボール並の大きさがある。

それらが一斉に空から降り注ぐ。



 そして後ろからは?マークを2個残したままシロが追いついて来ていて――





「セーフだった」

「アウトです」

 フレッドはとっさの機転で近くにあったもので水球を防ぐことができたが、シロは間に合わず濡れネズミに。

ローブの上から靴下までくまなく水が滴っている。



「ごめんなさい! 大丈夫ですか」



 慌てた様子の女の子が駆け寄ってきた。

水色の髪にみずみずしい肌。

瞳も濃い水色で、一見でも「青」の魔法使いであることがわかる。

魔法使いが持つ四つの色は外見に反映されることも多いのだ。

「黄」色の魔法使いエルザが金髪であったように。



「全然大丈夫だよ。

実はちょうどシャワーでも浴びたいと話してたところでね、こいつが」

フレッドは笑顔でシロを指差す。

フレッドのとっさの機転で『近くにあったもの』扱いされて水球の盾となったシロは、杖も教科書も手放して立ち尽くす。



「大丈夫じゃないですよ、もう。

パンツまで水浸しです」

 親指と人差し指でシャツを掴みパタパタさせるが、自然乾燥させるのは無理そうだ。



「お前トランクスいっぱい持ってるからいいじゃん」

「今は一枚も持ってませんよ! 全部寮です」



 涙目で訴えるシロ。

だが彼の目にはもう女の子しか映っていない。

フレッドはバディのことなどほったらかしで水色の髪の少女に話しかける。



「俺、2年のフレッド。

水を固めてコントロールするのって難しいんだよな。

俺が集中してリラックスできる呼吸法を教えてあげるよ」

布を巻いた杖をリズムよく動かしながら明るく振舞う。





 その時!

遠くから何かが近づいてくる音!

擬音で表すと「ズドドドド!」がまさに適当。

巨大な物体が全速力で向かってくるような轟音。



 あれは人だ!

青に近い髪の色の生徒が、髪をポニーテールのようにはためかせて走ってくる!

走りながらその人物は手に持った杖を振り上げ野球ボールほどの水球を高速で飛ばしてくる。

フレッドはひょいと身を翻し、再び彼の後輩が水害の犠牲となる!



 青色の人物はひざに手をついて乱れた息を整える。

呆気にとられる少女に再び話題を振るフレッド。

泣き出すシロ。





「フレッドこの野郎! 俺の妹には絶対に手出しはさせねぇ!」

 青い髪の生徒が叫ぶ! 叫ぶッ!

彼はフレッドのよく知るクラスメートにして、この学園の数少ない男子生徒。

後ろで縛るほど髪は長いがれっきとした男である。



「なんだ、うざイダーか」

フレッドはやれやれといった感じでテキトーに応対する。

またかといった感じでも通用する。

フレッドの反応と、うざイダーのセリフのテンションの高さからこの二人の日常のやり取りが垣間見えるというものだ。



「うざイダーじゃねぇ、サイダーだ! いい加減名前覚えやがれ!」

「覚えてるし。わざと間違えて呼んでるだけだし」



 シロ、とフレッドが指名するとぐずりながら寄ってくる。

ずぶ濡れのシロから少し距離をとり、フレッドは彼の紹介を始める。

「こいつは同じクラスのサイダー。

まぁ見ての通り青の魔法使いなんだが。

『青』のくせにやたらテンション高くてうざい。その上見た目どおりのバカで加えてこのキモさだ」



 紹介の内容は散々なものだ。

シロはピッチリ張り付いてくる服が気持ち悪くてそれどころではなかったのだが。

とりあえず数少ない男子生徒で、フレッドと仲が悪い関係であることは把握できた。

しかしサイダーは黙っていなかった。



「あることないこと言うな!

うざいとキモイは撤回しろ!」



 バカは撤回しなくていいの?

…と、シロが喋る前にフレッドが口を挟む。



「キモイだろうが。

バディの子を妹とか呼びやがって。

これでその子に『お兄ちゃん』とか呼ばせてたら真性認定すっからな」

 フレッド、責める。

サイダー、必死に反論!

「そういうプレイじゃねぇから!

サラサは血のつながった妹だよ!」





 少しの間。

そして男子三人の視線が一箇所に集中する。

先ほどの水色の髪の少女はその視線にドギマギし、顔を赤らめながら返事する。



「はい。お恥ずかしながらサイダーの妹のサラサです」

 恥ずかしがるなよ! とはサイダー談。



 お母さんに似たのかな、とシロは心の中でつぶやいた。

サイダー&サラサの両親には会ったこともないのだがなんとなくそんなことを考えていた。

故郷で暮らしている家族のことを思い出しながら。

もし自分にサラサのような妹がいたら、サイダーのような開放的な性格になれていたのだろうか…





「ぷっしゅーん!」



 シロの回想を打ち消す、なにかが吹き出す音がした。

それは、シャカシャカと振った炭酸ジュースが勢いよく吹き出す時の音によく似ていた。



 続く。

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