38.「C」
大好きなアニメのリスペクト回です。
サブタイはControlとかColorsとかClearとかClairvoyance(フランス語らしいけど)とか色々掛かってます。
38.
学園正門における三人の「青」の魔法使い達の戦い。
そして学園屋上へ伸びる階段における二人の「黄」色の魔法使い達の戦い。
一進一退を繰り返す彼女たちの魔法合戦の行方は、残された一向に委ねられたと言っても過言ではない。
学園屋上にて彼等の到着を待つロロロ。
彼女の瞳が、いの一番に階段を上りきった少年の姿をとらえた正にその時だった。
まばたきさえも忘れるほどに一瞬の出来事だった。
胸に突き立てられた刀、閻魔一振。
いつから入れ替わっていたのか。
シロ達を先導していたのはフレッドが作り出した幻影。
当の本人はその集団の先を走り、さらに陽炎の応用、光の屈折角を調整し姿を消して行動していた。
そうして見事に虚を突き、敵の大将を刀で一突き。
石畳が彼女の血で染まることによってこの争いは終結に向かうはずだった。
ところが。
「上手になったねフレッド」
刺されたはずの彼女の体もまた、フレッドの陽炎のように揺らめき消えていく。
そして全く別の方角から彼女の元気な声が聞こえてくる。
「白」の魔法使いロロロは光が持つ熱の力をも行使することが出来る。
「赤」の魔法は炎を生む技術に長けた属性。
そして炎が生み出す熱の力を魔法に応用するタイプも存在する。
かつてフレッドは似た魔法を使うロロロから、熱による蜃気楼の作り方を手解きされたことがある。
「緑」は風と植物。
「黄」色は土と雷。
これと同じく「赤」を炎と熱の二系統に区分しようとする動きがあるのだが、いかんせん熱系統の絶対数が少ないため保留扱いにされている。
「相変わらず手が早いね」
いつもの和やかな表情。
かつてのバディである後輩に胸を貫かれてもなお崩れることのない笑顔をたたえてロロロは立ちはだかった。
「でもハーレムを作るのなら女の子にはもっと優しく触れなきゃダメよ。いきなり刺すなんて問題外」
眉をしかめやれやれといった表情で首を横に振る。
これに対してフレッド。
フニャッと表情を崩して一言。
「前戯は大事ってことだな」
「小さなレディの前で言うべきことじゃないわね」
ロロロの傍らに立つ、一人の少女。
シロの視線はそのもうひとつの人影に釘付けになっていた。
視線を外すことが出来ないまま、先程のロロロの台詞が頭の中を駆け巡っていた。
「『赤』の担当はシロ君もよく知っている子だよ」
てっきりフレッドのことだと思っていた。
しかし道すがら聞かされた回想話でその可能性が消えた時、もうひとつの最悪な可能性が頭に浮かんでいたのだ。
「赤」の知り合いなんて限られている。
小さなベレー帽が乗っかった、見覚えのある髪型。
お風呂上がりに自ら櫛でとかしてあげた、赤い髪。
「アップルちゃん!」
思わぬ状況での再会に、シロはその子の名前を叫んでいた。
おしゃまな少女の目に生気は宿っていない。
呼びかけにも応じず、両腕をだらんと下ろしてつっ立っている。
フレッドが言葉を発するや、決まって返してきたお決まりのあの台詞も返ってこない。
すっかり変わり果ててしまったアップルを目の当たりにしたその時、遅れてようやく石階段を上りきったメローネが合流する。
これでも相当急いで追いかけてきた様子でゼェゼェと息を切らしている。
しかしそんな彼女のことを気にかける様子もなく、シロは一歩一歩踏み出しアップル達との距離を詰めていく。
「ロロロさん。あなたは一体何を始めるつもりなんですか?」
シロは静かに問いかける。
ロロロの口から簡潔な答えが返ってくる。
「オークロッテを守る」
「こんな小さな女の子を利用してまで、あなたは何と戦っているんですか」
声が一段高くなる。
先頭に立つフレッドに並んだところでシロは足を止めた。
同じバディを組んだ者同士のように、互いに寄り添い相対する四人の魔法使い。
しばしの静寂。
唯一離れた場所にいるメローネが、長い階段を上り続けたことで乱れてしまった呼吸を整えるのにちょうどいい時間。
やがてロロロが、羽織ったコートの中からサッカーボールくらいの大きさの物体を取り出す。
それを認めるなりフレッドが口を開く。
「コスモプラネット…」
かつて第三章で学園から持ち出された秘宝。
フレッド達が森へ出向いた時に回収されて、その後は厳重に管理されているはずの代物が何故ロロロの手中にあるのか。
「これはただの模造品だよ。蓄えられた魔力は実物の十分の一にも満たない。でもおかげで作戦進行時間が大幅に短縮できたわ」
地宮儀の別名を持つコスモプラネットのレプリカは、一目では見分けがつかないレベルで精巧に造られていた。
魔法使い達が暮らすミシディア大陸を象ったその模造品を右手に収めるロロロ。
「だいぶ話が見えてきたな。秘宝を盗んだのも。そのついでにレイさんが姿をくらましたのも。でもってアップルが学園に来てすぐに出て行ったのも。全部の黒幕がお前だったわけだ」
フレッドの頭の中でバラバラに散っていた問題点が線で繋がっていく。
現実に起こったこれらの出来事はいずれも並の魔法使いでは実行不可能なことばかり。
ロロロが手を下すことで完遂をみることばかりなのだ。
さらに彼は付け足す。
「アップルを迎えに来たあのおばあさんも仲間か。道理で見覚えがあると思ったんだよ」
ルービックス=ロレイラル。
第七章で登場した資産家の老婆についてもフレッドは目を光らせていた。
持ち直した拍子に彼が握りしめている刀も光った。
「そうだよ。魔法で顔を変えてたから気付かなかったでしょ。一年前に会ったティンカ先生だよ」
その名前には聞き覚えがあった。
忘れることなど出来るはずもない。
一年前にロロロとフレッドのバディを襲った悲劇的事件の、首謀者とも呼べる魔法使いの名前を彼は一日たりと忘れはしなかった。
「やってやる」
フレッドの持つ妖刀がチリチリと音を立てる。
場の空気が一気に熱を帯びてくる。
「シロとメーちゃんはサポートだけ頼む。あいつはレイさん以上の魔法使いだからな」
「それじゃあロロロさんも二個持ちなんですね」
隣のシロが杖を握りしめながら、確認の意味で言う。
「私も、どこまで手伝えるか分からないけど」
そして後ろに控えるメローネが本を抱きかかえながらそれに続く。
「二人には黙ってたほうがいいな。動揺させちまうだけだ」
珍しく意気込みを見せるレアな二人の先頭で、フレッドは一人考えを巡らせていた。
二個持ちの魔法使いは、シングルの魔法使い十人分の戦力に匹敵する。
目の前に立ちはだかるロロロ。
左手首のメビウスリングと、右手に携えしコスモプラネットレプリカ。
彼女が二個持ちの魔法使いであると思い込んでいてくれるならむしろ都合が良い。
「まずは弱い魔法からいくよ」
右手を下げながら宣言するロロロ。
右手首に巻かれた黒い真珠のブレスレットと、羽織っている空色のコート。
この二つもれっきとしたマジックアイテムであることに二人は気づいていない。
学園の教師達でさえ、二個以上持つことは容易ではない。
それを四つ装備して平然としているこの状況がすでに有り得ないということ。
不意を突く一撃もかわされて状況は絶望的。
この戦いに勝機があるとすれば、魔法を唱えた直後のわずかな隙を狙うしかない。
そのためには彼女たちから決して目を離してはいけないのだ。
まばたきの直後、傍らにいたアップルの姿が消えていた。
「後ろだ!」
背後から迫りくる熱風。
全てを飲み込まんと押し寄せる炎の津波。
顔面にまで迫っていたそれを、火を纏った妖刀がはじく。
彼女が放つ炎はフレッドのそれより格段に大きく強い。
しかし熱さは負けていない。
フレッドの炎に気圧されたアップルの炎はわずかに軌道が反れて、誰にも命中することなく脇を通過。
炎の大砲は岸壁をえぐり、学園上空を飛び越えて山の彼方へ飛んでいった。
ロロロの白魔法で飛ばしたのだ。
アップル本人を光の速さで、フレッド達の背後へと。
かつて中庭から教室へ一瞬でジャンプしたように、少女をターゲットの死角に一瞬でジャンプさせて攻撃を仕向けた。
一年生二人は声が聞こえるまで動くことさえできなかった。
唯一動けたフレッドも、今の一撃で痛感した。
秘宝の力で強化されたアップルの炎は、自身の炎の何倍も強いという現実を。
打ちのめされそうになるフレッドに向けてロロロが尋ねる。
「ねぇフレッド。あと何回炎が出せる?」
「何度でも出せるさ」
力強く刀を握り締めるフレッドに向けて、ロロロはバッサリと言ってのける。
「嘘をつく人はモテないよ。それに女の子はね。男の子の見栄とか強がりとか、結構見抜いてるものなんだよ」
図星を言い当てられ、顔に出さずとも心臓の鼓動が速まるのを感じた。
フレッドの魔力は決して強くはない。
これまでの活躍は妖刀の力を借りているからこそに過ぎず、使える炎の容量には限りがある。
だからこそこれまでは足りない魔力を剣の腕前と、ずる賢い策略で切り抜けてきた。
しかしそれももはや適わないと知る。
今しがたの防衛でごっそり魔力を持って行かれてしまった。
「ミクロフレイム」
ロロロがつぶやくとアップルが反応を示す。
伸ばした右腕から発生したバスケットボール大の四つの炎弾がそれぞれ別方向から襲ってくる。
「逃げろ二人とも!」
後ろの二人を守りながら、フレッドは炎を斬って落としていく。
真っ向勝負は仕掛けない。
最小限の魔力で交わしつつ、隙を見計らって一撃で仕留める。
そこにしか勝機がないことを初めから分かっている。
「メゾフレイム」
最後の炎弾を打ち落とした直後に聞こえた、ロロロの次の一手。
その時すでに、彼女の懐にアップルの姿はなかった。
気付いたのは魔法が放たれた直後。
「白」魔法で学園上空に打ち上げられた少女の手のひらから発生した炎の渦が、全てを焼き尽くさんと降り注ぐ。
続く。