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黒の魔法使い  作者: ハルシオン
第十一章
34/40

33.ホワイトフレア

33.



 アレクサンドリア王国にかつてない危機が迫っていた。

雪に閉ざされた山奥に封印されし古代獣と、禁断の暗黒魔法を手に入れた大臣は国家転覆に乗り出す。

反乱軍に捕らわれた姫。謀殺された王。

戸惑う国民達が安寧の日々を過ごしていた城下街にも戦火が拡大していく。

残された希望は姫の教育係であり優秀な氷風の魔法使いフロゥ。

そして特殊な力を使ってこの国にやってきた流浪の勇者リュウ。


「滅せよ! ドラゴニックダークネスストーム!」


 暴れ狂う黒龍がすべてを吹き飛ばす。

轟々と燃えるリュウの炎はかき消され、大臣の醜悪な笑い声がこだまする。

「あの軟弱な王の統治ではいずれこの国は滅ぶ! 圧倒的な力を持って、私がこの国を武装国家に作り変えてやるのだぁ!」

絶望的なまでの力の差。

だけど彼はあきらめない。

「誰も争いなんて求めてないんだ。この国はきっと良くなる。お前の邪悪な企みなんて、俺が全部焼き尽くしてやる!」


 そしてリュウの炎が変化する。

目がくらむほどのまばゆい光を放つ白い炎が辺りを温かく包んでいく。

「まさか! その力はぁーっ!?」



 この先の展開は、この大陸で暮らす人々にとっては説明の必要がないほどに有名な話である。

白い浄化の炎を発現させたリュウが全ての罪と悪を燃やし尽くしたのだ。

古代獣と禁断魔法が無くなって、死んだ者は全員蘇ってハッピーエンド。

これまでに何度もリメイクされて世に広められてきたがこの流れは昔から変わらない。


 五百年以上も昔の出来事。

交流が途絶える前に、北方の王国で実際にあったといわれている物語の一端である。



 そして流れるスタッフロール。

「雨宿り竜の魔法炎」。

『創世の物語』ともいわれている昔話を現代風にアレンジした劇場版アニメーション。

本日三回目の上映にも関わらず客席は満員。来場者達の評価も軒並み高い。

以下はスクリーンを後にする人々の声である。

「リュウかっこいい!」

「声優さんの演技が凄かったです」

「めっちゃ作画が凝ってて見応えがあった!」

「『アメリュー』やっぱおもしれーわ☆BD買うわ」


「ずいぶんと平和ボケした話だよな」

 この映画のパンフレットまで買って出てきたシロを出迎えたのは、彼の先輩が言い放ったなんとも辛辣な「雨宿り竜の魔法炎」の感想だった。

「雨宿り竜の魔法炎」は実話に基づいた創作、ノンフィクションではあるもののその結びは諸説ある。

専門家に言わせれば、「魔法使いでもない人間が死者を甦らせるなんてそれこそおとぎ話の中だけの話だ」と言う。

そもそもリュウという勇者が実在したのかも、炎を操ることができたかどうかも定かではない。


 そんな勇者と同じように炎を操る「赤」色の先輩フレッドが話しかけてきた。

学園祭の出し物のことで揉めたあの日から、顔を見ることはあっても面と向かって話すのは初めてかもしれない。

「お前最近どこ行ってたんだよ?」

「他の色の手伝いをしてました」

「何色だ?」

 この問いにシロは答えない。

「まさかお前、あいつと会ったりしてないだろうな?」


 フレッドが言うあいつとは誰か?

聞くまでもなく分かる。

ロロロ=アヴェンジャー。

フレッドの一年前のバディであり、世にも珍しい「白」の魔法使い。


 いよいよシロは聞いてみることにした。

「どうしてロロロさんを遠ざけようとするんですか?」

後輩からの質問に、フレッドは体を横に向けて語りだす。

「俺はある程度の近い未来を予言することができる」

 彼は真顔でそう答えた。

「へー」とシロが素っ気なく返すとフレッドは再び彼の方を向き直す。

「魔法じゃないぞ。俺の国では祭りとかと一緒に占いも盛んでな、この前の花火覚えてるだろ?」


 この前の花火とは夏休み中のこと。

アップルとの別れ際に三人で花火を催した。

フレッドはその花火の力強さや点火時間、火の消え方などから簡単にではあるが未来を占うことができるという。

「その俺の占いが、あいつはヤバイって言ってんだよ」


「へー」

 と、シロは繰り返さずにはいられなかった。

あれだけ口酸っぱく注意を促してきた、その根拠がまさかの占いだったとは。

呆れるというよりは諦めに近い感情がシロの周囲を覆う。


「ロロロに関わるなよ。あいつはお前が思ってるようなやつじゃないんだ」とフレッドが念を押す。

「『白』の魔法使いだからですか?」

シロの前で彼女の色を話したことは一度も無い。

言わないよう細心の注意を払っていたから。

「知ってたのなら話が早い。

いいか。

『白』の魔法使いってのはな。

光とか清廉潔白とか良いイメージが強いけど。

実際はそんな単純な話じゃないんだ。ただでさえあいつは魔法使いだ。魔女なんだ」


 まるで母親の小言のように息子役に当たるシロに言い聞かせる。

「お前の持つ色と対照だからなおさらそう見えるのかもしれない。

自分に無い色を持つあいつが気になるのも分かる。だが今は大人しく俺の言うことを…おいこら聞いてるのか!?」

そんなフレッドの言葉など聞く耳持たぬといった様子で彼はその場を立ち去ろうとする。

「解明されていないから。得体がしれないから近づくなってことですか?」

「君子危なきに近寄らずだ。可愛い女の子なら他にいくらでもいるだろ。なんでよりによってあいつにこだわる?」

この問いにシロは目を合わすことなく言い放った。

「ロロロさんが僕を必要だと言ってくれたからです。

『黒』ってだけで避けていく他の皆と違って、同じ境遇のロロロさんだけが僕のことを理解してくれたからです。

それにことわざ間違ってます」


 そう言ってシロは上映会場を後にする。フレッドの下から離れていく。

そして向かう。自分の居場所へ。自分を求めてくれる新しい人の所へ。

「雨宿り竜の魔法炎」を観てくるよう勧めてくれた、彼女の下へ。



 立ち尽くすフレッドと立ち去るシロ。

その現場を遠くから見ている者がいた。

薄暗く閉め切られた部屋の一角で、掌に収まる水晶で様子を確認。


「対象が離れました」

 濁った瞳を持つ男子生徒の報告の後に、パッと部屋に照明が点いた。

青よりも濃い藍色の髪の男子生徒の後ろには、二人の対立の原因であるロロロが立っていた。

その男に感謝の言葉を告げながら水晶の方へ歩み寄る。

スタスタと歩くシロの姿を捉え続ける水晶を見つめながら彼女は静かに言った。



『ついにこの日が来たか』



 続く。

ラストの台詞はこの小説の初っ端にも出てきています。

フレッドとロロロ、両者の台詞を意識して書きました。

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