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黒の魔法使い  作者: ハルシオン
第十章
33/40

32.性白説と性黒説

32.



 第三章での一件をざっとおさらいしておこう。

学園の秘宝が何者かに奪われ、それを取り戻す為にシロ達は西の森へと遠征した。

その際に同行した三年生の生徒が行方知れずとなり、任務を終えた現在も見つかっていなかったのだが…



 その行方不明の三年生が何事も無かったかのような顔をして目の前につっ立っている。

ツタのように身体に巻きついている長い髪も健在だ。

さすがのシロも目を丸くして、「ぢょっ」とせずにはいられなかった。


「秘宝奪還の任務以来ね。シロ君」

「レイさん!? 一体今までどこに」

 色々と聞きたいことはあるが、まずはとりあえず一番気掛かりだったことからシロは知りたかった。


「どこにって。みんなと一緒に帰ってきた後ずっと学園にいたわよ」

 本日何回目かも分からないイミフ発言。

もういいかげんリアクションに疲れてきたシロだがぐっとこらえて、これまでの経緯を自然に交えた返答をする。

「違うでしょ。森ではぐれたままずっと行方不明になってたじゃないですか」


 さっきからありえない事象ばかり起きている。

いや。

これまでも刀から火が出たり、水や土や植物を自在に操ったりなどの、常人にとっては十分に超常と呼べる現象は起こっている。

だが魔法使いであろうとなんでもできるわけではないのだ。

空は飛べるけど、中庭から一瞬で教室に移動する方法など教科書には載っていない。


 そんなあり得ない現象をついさっき体験したばかりのシロ。

まさかこれも魔法?

もしかしてロロロの魔法の効果がまだ続いていて、自分に幻を見せているのではないか?

そんな都合の良い解釈をして納得しておいたほうが賢いのではないだろうか?

チクリと痛む頭をさすりながらあれこれ考えを巡らせてみる。


 その傍らでロロロとレイは目をぱちくりさせている。

そんな二人を再度見つめながら、それでもこの疑問をどうしても解消したくてシロはもう一度彼女を問い詰める。

「一体いつ帰って…。夏休みの間ですか? 二学期が始まってから?」

「だから六月にシロ君と一緒に帰ってきたってば」

背の低い少年と、背の高い少女のにらみ合いが続く。


「まーまー。細かいことはいいじゃない」

 ちょうど中間の背丈のロロロが、二人の間に割って入った。

その際彼女の細い薬指がほっぺに当たり、微かに甘い香りが鼻に入る。

「全然細かくないですよ。細かくないけど、無事に帰ってきてくれてたんならそれでいいですけど」

無事に帰ってこれたのならひとまず安心してよいのではないだろうか。

解せない事だらけだが、ここはひとまず気にせずに身を引いた方が賢明だと判断した。

なんというか。

ロロロの笑顔を見ていると何でも許せてしまう気がする。

これは魔法の力ではなく、きっと彼女自身の魅力なんだろうなとシロは思った。



「ちょうどよかった。はいこれ」


 落ち着いたところで、レイは一通の手紙をよこしてきた。

教師に頼まれたというその手紙の差出人を見てシロは歓喜の声をあげる。


「アップルちゃんからだ!」

「夏休みに一緒にいた女の子だね」

ロロロが尋ねると、シロはさらに声を大にして喜びを表現してみせた。

「はいっ!」


 この辺りで第七章での一件もざっとおさらいしてみよう。

夏休みに、三日間限定で小さな女の子がシロとフレッドのバディに加わっていた時期があった。

家族を失ったその子の幸せを願い、少年は悲しみをこらえて魔法と関わりのない土地へ旅立たせたのであった。


 そのアップルが現在、新しい家族の下で何不自由ない生活を送っている様子が手紙から伝わってくる。

ちょっぴり寂しい気持ちもあった。

無理にでも引き止めていれば、少女の成長していく姿を一番近くで見守ることができたかもしれないのだから。


 だけどそれ以上に彼の心は喜びと安心感に満ちていた。

小さな彼女には底知れない魔力が秘められている。

魔法学園にいる時間が長くなるほどアップルは不幸になる、そう思ったからあの日迎えに来たおばあさんに未来を託したのだ。

不幸な過去を持つあの子が健やかに育ってくれることがシロの一番の幸福。

しいてわがままを一つ言うにしても、手紙の末尾に書いてある一文でその願いは容易く叶ってしまった。

「約束どおり、学園祭を見に来るって書いてあります」

「よかったねシロ君」

ロロロのなぐさめの言葉に、シロはまた声を大にした。

「はいっ!」


「あそーだ、ロロロ。出し物の打ち合わせがあるから戻ってきてってさ」

 仕事が出来る優等生レイ。

シロへの用事を済ませたらすぐさま次の用事に取り掛かる。

声のトーンからどうやら急ぎの件であるらしい事を察した二人は、簡単な言葉だけ交わしてひとまずお別れだ。


「さっきはごめんねシロ君」


 ロロロからの謝罪。

中庭での告白。そして彼女が見せた弱さ。

「白」の魔法使い。

理解され難い星の下に生まれた魔法使いの少女が、色は違えども同じ宿命を背負う少年と出会えた奇跡。


「同じ境遇の子がいなくて寂しかったんだと思う。変だよね、私っぽくない」

「ちっとも変じゃないですよ。一人ぼっちは寂しいです」

 その奇跡は、シロにとっても同じことであった。


「僕、ロロロさんとバディが組みたかったです」

 この言葉に驚いた表情を見せつつも、彼女はにっこりと笑みを浮かべた。

教室の入り口で待つ友人に目配せをしロロロは再度笑顔を作る。

「ねえ」


「明日も会えないかな?」

「はい。僕なんかでよかったらいくらでも」

「フレッドには言わないでね。あの子に口止めされてるんだ」

「実は僕もです」

「おそろいだ。なんかいいね」


 すっかりいつもの雰囲気に戻っていた。

机の上に置かれていた解凍済みのパンはいつの間にか消えていた。



「どうしてフレッド先輩はロロロさんのことを…」


 声と呼ぶにはあまりにもか細いその問い掛けが、ロロロの去っていった教室のドアにぶつかって消えた。

そしてシロは自分がいるべき場所へと戻っていく。

彼を心から慕うアップルも見に来る学園祭を中途半端なものにはしたくないから。




「あれ? あいつどこ行った?」

 一仕事を終えて固まっていた背筋を伸ばしながら、周りを見渡して彼は言った。

「あいつって誰?」

傍にいた女子が聞き返すと、少し思案した後にこう答えた。

「俺のバディだよ。一体どこをほっつき歩いてんだ?」


 準備に没頭していたフレッドは気がついていない。

黒いペンキのついたハケを、白く塗られたベニヤ板の上に置いて教室を出る。

廊下の窓から大きな雲が、祭りを目前に控えた魔法学園に近づいて来ているのが見えた。


「雨は苦手なんだけどな」

 愚痴っぽく独り言を漏らしながら、彼は刀を手放さずに用を足しに走った。



 続く。

予告。

次は主要キャラが全員出てくる章になると思います。

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