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黒の魔法使い  作者: ハルシオン
第七章
21/40

21.ダブルケミストリー

21.



 一日限りのバディ交換。

普段慣れ親しむ機会の無かった者同士が交流を深めるこの措置は予想以上に好感触だった。



 早々に海から上がったサラサは、パラソルの下でくつろいでいたモカの脇に座り込む。

純白でいて大胆なハイレッグを着こなすモカはまさに落ち着きのある女性という雰囲気を醸し出している。

それとは対照的に明るく行動的な原色系をまとうサラサの組み合わせはなかなか絵になっている。


 最初は先輩の経験談を聞いているだけだったがちょくちょく口を挟みつつ、次第に熱く語り合う。

仲睦まじく語らうその姿はまるで本当の姉妹のよう。

その会話の内容を聞き取る事はかなわなかったが、二人とも次第に顔が真っ赤になっていった。



 両腕に浮き袋。そして大きな浮き輪を装備したメローネを、サイダーが魔法を使って海水を操作する。

空や海面に様々なアートを描き、海水ごと彼女を持ち上げて楽しませる。

はじめは不安げな顔を浮かべていた彼女も次第に笑顔がこぼれるようになる。


 無邪気にはしゃぎ合うこの二人も、今回のシャッフルがなかったらきっと知り合う機会はなかったであろう。

普段のバディとはまるで正反対なこの取り合わせに、二人とも十分満足しているようだ。



 上述の二組とは違い、フレッドとエルザは日頃から交流が続いている。

お互いのバディよりもずっとバディらしく在ると言っていい。

今日に限りエルザが乗り気じゃない理由。

それは追々判明することなので、今は話を続けよう。


 フレッドの本来のバディ、シロ。

彼は普段からシロを突き放す言動や行動が目立つが本心から彼を邪魔者だと思っているわけではない。

そうすることが彼なりのコミュニケーションであり、いろんな意味で消極的なシロの性格を変えてやるのに最適な手段だからそうしているだけ。


 だがエルザのバディはそうではない。

アイリーフは相棒はおろか、自分自身にすら興味がない。だから身だしなみも構わずに占いにばかり傾倒している。

少なくともエルザはアイリーフをそういう目で見ておりもう諦めている。

しかし――


「あの子はとっても不器用なんじゃ」

 波に身を任せながらアイリーフがつぶやく。

仰向けに漂う彼女の髪も、身にまとうTシャツもすぐに水分を吸い取って肌に密着する。

隣りで耳を貸してくれている男の子の姿が眼下に見える。

シロの姿がある少年とタブって見えたその時、彼女は不意に昔のことを思い出していた。


 不器用なのは自分も同じだ。

アイリーフが占う未来はよく当たりもすればよく外れることもあるとても不確定なものだった。

なぜ自分の占いは当たりと外れがあるのかずっと謎のままだった。

その理由に気付いたのは、彼女が魔法学園に入学する二年余り前のことだ。



「日常生活において黄色の魔法使いは浴槽につかる習慣がない。体中を流れる電気が水を通して所構わず流れていってしまうからじゃ」


 その言葉を聞いてシロは、海に来てエルザが最初に話していたことを思い出していた。

普段当たり前のように利用している学園の大浴場。

ところがエルザを含む多くの黄色の魔法使いたちはその浴槽に入ることなくシャワーで済ませることが一般的という話。

自身は電気のコントロールができるし電気に対する抵抗も備わっているから、自分が起こした電気で感電したりしない。

しかし周りにいる他の者達までがそうではない。


 魔法学園が設立した当時は『風呂の中で交流を深め、生活の中で魔法を克服する』という願いを込めて共同浴場が作られた。

しかし時代の流れとともに物の考え方は変わり、大きな事故が起きる前に全寮室にシャワールームを設置すべきではないかという意見が出てきている。

学園のお風呂の形態が今後どう移り変わっていくにせよ、現在は黄色の魔法使いと好き好んで一緒に風呂に入る者はいない。



「黄色の魔法使いが孤立しやすい理由の一つじゃ。

雷系統は他者を傷つけやすく、土系統は自分の魔法だけで何でもやれてしまう応用力があるからの」


 エルザのほかにあと二人の「黄」色をシロは知っている。

モカとレイのことだ。

その二人も彼女が言うとおり、好む好まざるに関わらず一人でいることが多い者達。

今日一緒に海に来ているモカは自分に敵対心を持つ者を極端に跳ね除ける性格の持ち主。

そして森で行方が分からなくなっている三年生のレイも、学園内で並ぶ者のいない秀才。


 エルザもいずれそうなってしまう。

アイリーフは彼女の行く末を案じていた。


「エルザのこと、嫌いにならないでやっておくれ」


 切実な想いを込めたアイリーフの願いをシロは真剣な眼差しで聞いていた。

その瞳が再びあの日の少年の視線と重なった。

アイリーフが見つけた、自分の占いが当たったり外れたりする原因。

それは占いを行なう自分自身の心の弱さにあった。

強い心を持って占ってこそ真実が見えてくる。

弱い心のまま未来を占っていては本当の道は見えてはこない。


 そして彼女の心の弱さがあの日、あの少年を見殺しにする未来を招いた。



「キャーー!」


 潮騒を切り裂く女性の声。

切り立った崖を挟んだ向こう側から聞こえるその声を彼女は一発で聞き当てた。

「エルザの声じゃ」



 その頃、崖の反対側で今まさにエルザが窮地に立たされていた。

追いかけてくるフレッドを振り切ってやってきた人気の無い浜辺で突如現れた巨大生物。

そして彼女の足に絡みつく粘着力のある黒い触手。

魔法すら唱えられない極限状態の中に、彼女は一人追い込まれていた。



 続く。

この章は4部立てで、次のお話はちょっとながーいよ。

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