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黒の魔法使い  作者: ハルシオン
第一章
2/40

2.カレーライス

2.



 魔法使いは大きく四つのタイプに分けられる。

分類方法として最も一般的なのが四種類のカラーになぞらえた方式。

「赤」「青」「黄」「緑」の四色に分けられ、色によって覚える魔法が違ってくる。





 バディとなった二人は昼食も食堂で並んで食べる。

2年生で「赤」のフレッドと組むことになった新入生のシロ。

カレーライスと福神漬けを乗せたスプーンを口に運びながら機嫌よくしゃべる。



「この学園、女の人ばかりで少し不安だったんです。

女性が苦手で上手く付き合えなくって。

だからフレッド先輩とバディが組めて本当にうれしかったんです」

「フーン、ヨカッタネー」

 箸でうどんをかきまぜながらフレッドは生気なく返事する。

一晩たっても表情は晴れない。



 シロは悪気無く質問する。

「元気ないですね。寝不足ですか?」



 フレッド、若干不快指数を高めながら返す。

「昨日はどうせ寝不足になる予定ではあったんだよ。

ただ寝不足になる理由ってのがちょっと変更になっただけで」



 シロ、少し考えた後におずおずと聞き返す。

「もしかして、男の後輩と組むのはいやでしたか?」



 フレッドの箸が止まり、ようやくシロと顔をあわせた。

「ていうかなんだよあの大量のトランクス。20個くらいあっただろ。

そしてなんで一枚だけブーメラン?」

「あれは海パンです。僕泳ぐの得意なんです」



 フレッドの頭に浮かんでくるイメージ。

それはシロの顔をした女子生徒と一緒に海に行く物語。

二人きりで海辺で遊び、気がつくと足が届かないくらい深い場所まで来ていて。

その時シロの顔をした女子がフレッドに抱きついてくるのだ。

「私、およげないんです。先輩助けて~」

涙目になって懇願する後輩は溺れまいと必死にフレッドの腕にしがみつく。

胸の感触を楽しむことはできないが、肌と肌の密着によってお互いの心臓の鼓動まで聞こえてくる。

荒い息遣いが伝わる。

そして二人は…





 以上、すべてフレッドの妄想。

都合の良いイメージを押し付けてみても、目の前にいるのはもっこり海水パンツを愛用する男の後輩。

その事実は変わらなかった。



「こんなの絶対おかしいぜ…」



 フレッドは少しだけシロからイスを遠ざけてうどんをすする。

するとシロがいる逆方向からの熱い視線。

振り向くと、そこには金髪ストレートの美少女がフレッド達を見つめていた。

またも箸が止まる。



「どーも! 私14組のエルザ。黄色の魔法使いです」

 元気な声と笑顔でハキハキと自己紹介。

エンジェル(天使)かと思った! とはフレッドの後日談である。

釣られて二人も自己紹介。



「俺はフレッド。赤だ」

「えっと、シロです。色はまだ決まってないです…」



 まだ状況をよく飲み込めていない。

シロにいたってはカレーライスが口の中に残ったままだ。

そんな二人を舐めるように見比べる美少女エルザ。

腰にまで届くブロンドは触るまでもなくしっとりさらさらで、しかし毛先は羽織ったローブに刺さりそうなくらい細く鋭い。



 うどんをちゅるんとすすり、フレッドが優しい声で切り出した。

「バディの上級生はどうしたの?」

そういえば!

…とシロが声に出すよりも先にエルザは言う。

「邪魔だから置いてきました。

それより私、『緑』以外の二年生を探してたんですよー。

よかったら私のバディになってくれませんか?」

「よろこんで」



 フレッドの決断は矢のように早かった。

しかしシロが全力でそれを阻止し、まずは事の経緯を聞く。

エルザの言い分はあっちこっちに話が飛んで判りにくかったのだが要点だけかいつまむと、教師によって決められたバディに不満を持つ生徒はここにもいるという話であった。





「なんで緑がいやなんです?」

シロはなぜか直接エルザには聞かず、フレッドに尋ねた。



「黄色の魔法使いは緑の魔法使いに弱い相性だからな。

上級生にいばられるのが嫌だった、てところじゃないか?」

その回答にエルザはうんうんと頷いて答えた。

「それもあるしー。

その緑のバディも女子なんですよー。

やっぱり貴重な学園生活を送る上で、男子と素敵な恋愛とかしたいじゃないですか」

「うん、同感だ」

 またもフレッドの相槌は素早かった。



 こうして二人は見つめあう。

そして互いに惹かれあっていく。

この先どんな苦難の道が待ち受けていようとも二人ならきっと乗り越えられるだろう。

フレッドとエルザ。

愛し合う二人に祝福あれ。





 以上、またもフレッドの妄想。

自分勝手なそのイメージは、現バディのシロの横槍によってテーブルの下に押し退けられた。

「そんな勝手をされたら困ります。

フレッド先輩は僕のパートナーなんですから」



 冒頭に話していたとおり、シロは女性と話すのが苦手。

エルザが来る前も来てからも彼は基本的にフレッドとしか目を合わせていないし話もしていない。

フレッドはシロのことをそういう態度も含めて気に入らなかった。

「うるさいな。

こんな可愛らしい女の子とお前を並べたら、男はみんなエルザちゃんを選ぶね」

と思わず本音がこぼれる。

後ろでエルザがきゃーと小さく黄色い声を上げる。

ふくれるシロにフレッドは追い討ちをかける。



「お前にとっても女と組めるチャンスだろ。

一生女とまともにしゃべれないままでいる気か?」

そしてエルザからの提案。

「それじゃ魔法使いとして、公正に魔法勝負で決めようよ。

私が勝ったらバディ交換ってことでいいよね」

この案にフレッドも乗る。

ここまでくるとシロにはもう戦う以外道は残されていない。

冷めかけのカレーライスを片付け、移動する二人の後ろをついていくよりしょうがなかった。



「ふっ、このエルザって子も相当えげつねぇな。

シロの色がまだ決まってないって知った上でこの強引な提案。

ますます俺好みだ!」



 つやさらの細トゲしい髪をなびかせて先頭を行くエルザ。

フレッドはその傍らでニヤリとほくそ笑むのであった。



 続く。

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