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黒の魔法使い  作者: ハルシオン
第五章
14/40

14.正論と感情論

14.



 張り詰めた空気。

それを作り出したのは彼女。


 彼女の特徴を一言で表すとすれば『清潔感』という言葉がもっともふさわしい。

優等生タイプといったところか。

金の髪を左右対称にくくっている点はバディのメローネと同じだがその結び方、形状に違いがある。

付け根でしばって垂らしてあるメローネとは違い、モカはそこからさらに一手間かけて縦に回転するロールを形成している。

毎朝セットするとなると大変な労力だ!



 とまぁ。

彼女ことモカのそんな説明はそこそこにして、シロが場の空気を読んで尋ねてみた。


「二人はお知り合いですか」


 二人の返答にいくばくかの間が空いた。

目を合わせるわけでもなく、先に回答する権利を無言のまま譲り合っている状態。

早急に見切りをつけたフレッドがその質問に答えると、モカはその後に続いた。


「特に仲が良いわけでも悪いわけでもない。言ってみれば他人だ」

「私達は『黄』色と『赤』色。それも仕方がないことかもしれませんね」



 第7部のおさらいも兼ねて説明しよう。

魔法使いの四色はそれぞれの色同士が密接に干渉しあってそこにある。

「黄」色の三年生レイとはじめて顔合わせをした時にも言われていたことだが、赤と黄色はその中にあって特に上下関係があるわけではない組み合わせ。

付き合いやすくもあり、最初のうちは中々とっつきにくいこともある関係だ。


 しかして人間関係というものはテンプレート通りにいくものでは決して無い。

それはフレッドとモカのやり取りを見ていれば誰もが思い知る真実である。


「あの。モカ御姉様」

「フレッド、私の大切なバディに気安く近寄らないでください。貴女も早くその男から離れなさい」



 こんな感じである。

バディにさえ有無を言わせない石頭ぶりにカチンとくるフレッド。

困り顔を浮かべて眺めるシロがポツリと思いを漏らした。


「仲が悪くないようには見えないんですけど」





「正直言って、二年生以上で彼の悪名を知らない生徒はいませんわ」


 モカというこの女子生徒は、二年生にしてこの学園の生徒会役員に選出されている。

立候補に加えて多数の生徒達からの推薦付き。

容姿端麗、成績優秀、次期生徒会長との呼び声も高い。



 かたや学園の問題児。

かたや向こうは学園の優等生。


 身だしなみを見比べてみれば一目瞭然だ。

しわの付いたシャツをだらしなく垂らしたフレッドと、ピシッとアイロンをかけたシャツをスカートに入れているモカ。

あまりにぴちっとしすぎているのも考え物か。

発育の良い二つの胸のふくらみが余計に主張気味になる仕様で、唯一そこだけが彼女のけしからん要素になってしまっている。

その双丘を横目に見ながらこの男がとっさに話題を切り替える。



「そういえばさっきの話の続きな。

最近頻発してる地震を起こしてるんじゃないかって噂の奴っていうのがな、何を隠そうこいつだ」


 スビシと指し示したるはモカ。

話しかけられたシロはいきなりの話題転換に戸惑うが、その話の内容にもっと戸惑う。

狭い規模ながらも魔法の力で地震を立て続けに発生させるのは相当のものだ。

こんなに小さな体に、

それだけの魔力を秘めているということか、とシロは驚く。



「驚くのそこじゃねーだろ」


 言葉には出さないがその反応を見てフレッドがツッこむ。

ボケたつもりではないシロに対して容赦なく。

ちなみにこの地震は人為的なものではなく、自然災害であるという見方が一般的だ。

本当に魔法の力で引き起こそうとなればとてつもない人員と魔力が必要となり、それを行う有意性が見つからないからである。


「えっ。じゃあ何でモカさんがウワサに?」

「体型見てみ」



 再び指差したるフレッド。

このモカという少女。

背格好はシロとあまり変わりない。

しかし低身長とはあまりに不釣合いな胸のボリュームに、清潔感を強調する白と黄色を基調とした服装。

その結果、太く見えるのだ。

女性に対して非常に言いづらいことではあるのだが、太って見えてしまう。

衣類を全て取り去った彼女をお見せできないのが非常に残念ではあるが、とりあえず彼女は着膨れしやすい性質なのだ。



 その体型が、イコール地震を起こすという発想に繋がった時。

シロはとっさにうつむいてしまった。

いきなり襲ってきた失礼な笑いの神様に耐えられず、しかし笑ってはいけない状況であるのを理解した上で堪えた結果だ。

そしてこれを言われた彼女はより一層不快感を露わにした表情を作って応戦。


「言い返せなくなったら今度は見た目ですか。

相手のコンプレックスを突つくのは人として最低の行為ですよ」

「コンプレックスって認めたな」


 フレッドの後ろから言葉に表せない変な声が漏れ出した。



「キーッ! もう許せませんわ~」


 端正な顔をくずした真っ赤っかな表情で半泣きのモカ。

先ほどまでの凛々しい彼女はもうどこにもいやしない。

そのギャップに少しドキリとしたシロ。

バディのあられもない姿におろおろするメローネ。

フレッド。

この男だけは常にブレない。

ここまで来ればしめたものだといった得意げな顔でこう切り出すのであった。


「許せないか。

じゃあどうする。魔法対決でもするか」



「お断りします。

私は魔法の力をそのような野蛮な行為に使うことがキライです」


 涙を引っ込めて切り返すモカ。

フレッドが得意げに構えてみせた刀も、この反応の前には一旦引っ込めざるを得ない。

だが彼の口撃の方は変わらずに全開だ。


「でも魔法の力は昔から軍事力として使われてきたんだぜ。

オークロッテが今は平和なのは、隣国が持つ強大な兵力に負けないだけの魔法兵力を有しているからだ」

「そんなこと学生の私達には関係の無いことですわ」



 正論で攻めるフレッドと、感情論で対抗するモカ。

男と女が口喧嘩をした時にしばしば見られるこの光景は魔法学園が舞台でも変わらない。

こうなるとフレッドの方から矛を収めざるをえない。

早々に言い負かすことを諦めてこちらも思ったことを声に出す。


「お前それ言ったら話終わっちゃうだろ」

「もう貴方と話すことなどありません。

歴史は否定しません、しかし魔法は戦うためだけの力ではないと信じています。

それを無闇に人を傷つけるために使うことなど言語道断」


 鼻息を荒げてまくし立てるモカ。

女性を形容する際に選ぶべき言葉ではないが事実でもある。



「じゃあもしもの話をしよう。

メローネちゃんが悪い魔法使いに操られてお前を攻撃してきても、お前はメローネちゃんを攻撃したりしないのか?」


 フレッドからの問い掛け。

人間や動物の思考を支配して意のままに操る魔法は存在する。

「青」の魔法使いが主流に扱っている理由は、生物の体の60~70%が水分であることに起因している。


 しかしモカは、この場合の悪い魔法使いをフレッドのこととして捉える。

悪魔のささやきによってたぶらかされていたとしても、決して後輩を傷つけたりはしない。

そんな強い自信を持って彼女は答える。


「もちろんですわ。

私はバディのこの子のことを大切に思っていますから」





「大切に思っていますから。キリッ!」


 モカの口調をわざとらしく真似て復唱するフレッド。

語尾に持ってきた擬音をいやらしく強調させて。


「そこまで言うんだったら良い方法を思いついたぜ。

魔法の実力とバディへの思いやり。両方を同時に計れる恰好の魔法対決をな」



 そう言って再び刀を構えるフレッド。

思わず身構えたモカの胸にのみ目をやった後、鞘の部分を地面に突き刺してずらす。

土を抉りながら進み、一本の短いラインを引き終えてから彼は声を大にして叫んだ。


「その名も、『第一回チキチキ。バディ吹っ飛ばし競争』対決だ!」





 シロ君は、嫌な予感しかしなかったと言います。



 続く。

 どっちがとはあえて書きませんが、なんとかマギカの某マミさんをイメージして書きました。外見も性格も。

折り合いのため性格の方がキツくなってしまいましたがあの感じをイメージしてくださいませ。

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