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黒の魔法使い  作者: ハルシオン
第四章
12/40

12.髪の長い女

またイラスト描いてみました♪

挿絵(By みてみん)


12.



 嵐の過ぎた昼下がり。

だが本日は晴天なり。

この場合の嵐とは天候のことではなく、休み時間になる度に保健室を訪れる怒涛の見舞い客のことを示している。



 秘宝奪回任務の最中、重傷を負って保健室に担ぎこまれた「赤」の二年生フレッド。

丸一日寝込み、その後の二日間を退屈なベッドの上で過ごした。

美人の保健医と一緒にいて口説くチャンスだったのだが、ダメージが深刻でそんな気分にもならなかった。



 あれから体の調子も良くなった。

今朝はご飯も食べられたし、散歩にも行けるくらいに回復している。

ハンガーに掛けられた上着を丸めて腕に抱え込み、保健室を後にしようとする。



「本当に大丈夫なの? もっと休んでいけばいいのに」


 学園の保健医のグリーン先生が彼を呼び止める。

振り向いて真剣な表情を浮かべて彼は言う。


「これ以上授業をサボるわけにはいかないんです」



 この発言にグリーン先生はあっと驚く。

そりゃそうだ。

学園の為に働いて受けた怪我が原因なのだ。

それはサボるとは言わない。

完治するまで授業を休んでも誰も文句は言わない。

この発言は十六歳の生徒らしからぬ、とても熱意に満ち溢れた好青年のものであった。



「あらまぁ、真面目なのね」


 グリーン先生はちょっぴり瞳を潤ませ、うっとりとした甘い声を出した。



「だってもったいないじゃないか。

授業を休むってことは、それだけ制服美少女達と一緒にいられる時間が削られてしまうってことだからな。

それに俺の野望の最終地点は教師になってMyハーレムを作ることなんだ。

テストで良い点をとるためにも授業は休めない――



 …なんて発言は、保健医の手前危ないので控えることにした。

好印象を持ってくれている美女の評価を下げないためにあえて喋らない。

三日間の保健室での生活の中で、フレッドは「空気を読む」というスキルを身に付け始めていた。



 それに。


「早く元気にならないと。一人、うるさい奴がいるんです」


 じっと先生の目を見つめて、照れくさそうな顔を作ってみせた。





 噂をすればなんとやら。

コンコンと二回ドアをノックする音。

引き戸をガラッと開けて入ってきたのは彼のバディだった。



「フレッド先輩、今朝は挨拶にこれなくてすみませんでした」


 その後輩はフレッドの顔を見るや一番に謝罪をしてきた。

散歩で留守にしている間にすれ違いになってしまっていたのだ。

そのことをグリーン先生から聞かされていたフレッドは難しい顔をしてその後輩に強く当たる。


「お前な。恋人じゃないんだから一日に何回も病室にくんな」

「恋人ではないけどパートナーです。心配なんです」


 後輩も強く出た。



 気が付くとグリーン先生が彼のためにパイプ椅子を用意してきた。

先生なりの自分を引き止めるためのメッセージと判断し、フレッドは上着を抱えたままベッドに腰掛ける。

そして彼も差し出された椅子にちょこんと座った。



「さっきサラサちゃんとその兄貴が来てたぞ」


 本日の休み時間の出来事を後輩に聞かせてみせる。

一緒に任務に同行した「青」のバディ達は、フレッド達を守るために魔力を使い果たすまで頑張ってくれた。

ケガは無く、魔力も回復し、兄も妹もピンピンした状態で見舞いに来てくれた。


「元気そうだったぞ」

「それはよかったです」



「その前にはエルザちゃんも来てたっけな」


 別の休み時間の出来事も付け加える。

その名前に後輩の体がビクリと反応する。

入学初っ端から雷の魔法を放って痛めつけてきた「黄」色の魔法使い。

その後も彼女とフレッドは交流があり、お互いの相棒よりも良好な関係を築いている。


「お前に会えなくて寂しがってたぞ」

「僕はあまり会いたくないです」



「先輩の前のバディに会いました」


 今度は後輩のシロが、フレッドに今日の出来事を話し始めた。

嬉々とした表情のシロとは対照的に、それまで笑っていたフレッドの表情がみるみる内に曇っていく。

抱えていた上着を急いで羽織りながら静かな声でシロに言い聞かせる。


「あいつにはあんまり関わるな」


 小声で聞こえなかったのか。

シロはさらに明るい笑顔で話を続ける。


「美人ですよねロロロさん。それに優しくて気さくで。初対面なのに僕、全然緊張せずに話せたんですよ」



「あいつの話もすんな」


 一段階、声のボリュームを上げたフレッド。

そのただならない様子に気づいてシロが押し黙る。

怪訝そうな顔で、だけど嬉しさから来る笑顔を隠しきれずにフレッドに尋ねてみる。


「どうしてですか?」





「シロ君が魔法学園に来たのは、どうして?」


 少し時間はさかのぼり、今朝の中庭に舞台は巻き戻る。

フレッドを探していたシロの前に現れたのは、フレッドの元バディを名乗る美少女ロロロ。

彼女の素朴な質問にシロは正直に全てを打ち明けた。



「僕の家は、イリスア帝国との国境にある貿易商です」


 イリスア帝国とは、魔法学園のあるオークロッテ領と隣接する大国である。

マジックスポットが無いその国では魔法に替わる武力として、刀剣などの近代武器を扱った武術が広く推奨されている。

そのため魔力を持たない大陸中の男子は皆イリスアに憧れ、その国で職に就き、家庭を持つ。

イリスア帝国は今や、ミシディア大陸一の国土と圧倒的兵力を保有する強大な国へと膨れ上がった。



 要約すると。

シロの実家は魔法を扱う土地と剣を扱う国の間にあり、シロは魔法側の生徒という図式だ。

その前置きを踏まえてシロの話は続く。


「中学までの友達はみんなイリスアの騎士に志願したり、こっちで傭兵の仕事をしたりしてます。

でも僕は運動が苦手だったから魔法使いを目指すことにしたんです。

女の姉妹が多いから、微力だけど生まれつき魔力が備わってたから」


 喋り続けるシロの声が徐々に小さくなっていく。

女性と話すのが苦手だからというより、むしろ話すこと自体がつらいといった感じの顔だ。

まるでその先を話したくない。

結論を誰かに知られたくない。そんな感じの顔だ。



「つまり仕方がなかったってことだね」


 ロロロはあっさりと結論を言い当てる。

言葉に出して言われたことでげんなりと凹むシロ。



「いいじゃんそれで」


 彼女のあっけらかんとした態度に思わず二度見する。

ロロロは立ち上がり、シロの正面でくるんと回ってみせた。

そしてシロの方に向き直ると、太陽のような眩しい笑顔で言い放つ。


「シロ君まだ十五歳だよ。

周りの子達だってそんなに深く将来を決めてたりしないよ。

現在は自分に出来る最良のことをやってればそれでいいんじゃないかな?」



 ふたたび両手を開いてくるくると回る彼女。

ゆるくウェーブのかかった髪も一緒に揺れる。

春の終わりを告げる風を振りまいて、彼女は回る。



「特例もいるけどね。

フレッドはちゃんと? 将来を見据えて入学してきてるけど、いつ目標が別のことに変わるか分からないよ。

だってシロ君達はまだまだ若くて、これからいろんなことを知っていくんだから。

四つの色なんかで決められちゃうほど、魔法使いの人生は退屈なものじゃないんだよ」



 全てを包み込むような優しい笑顔をまとう彼女は、まるで全てを見透かすかのような言葉を紡いでいく。

そんな不思議な魅力を持つロロロという少女に、シロは出会った。





 その夜。

部屋の窓を開け放ち、ひょっこり顔を覗かせると隣の部屋の窓に明かりが付いている。

三日間無人だった隣部屋にようやく主が帰ってきたのだ。


 結局フレッドは理由を話さなかった。

彼女に関わるなと警告したその理由を。

フレッドとロロロはかつてのバディ。

しかしフレッドは彼女のことを嫌っている、というより避けている。



 一つだけシロの中ではっきりしている事がある。

ロロロの言葉によってずいぶん気持ちが楽になった。

心に溜まっていた黒いもやもやが、彼女のともし火によってずいぶん取り払われたということだ。

フレッドが納得のいく理由を話してくれない限り、シロは彼女のことを嫌いになる自信がなかった。



「あれ?」


 ベッドに入る間際のことだった。

大の女性恐怖症だったシロが、自分の中にある異変に気が付いたのは。


「そういえば僕、ロロロさんと話せてた」



 続く。

 第四章、完です。

前の章が長かったので今回は短く2部構成です。



 予告。

第1部で名前を呼ばれてたバディが登場します♪

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