第78話:太陽のように輝く存在に!
真夏の日差しは半端ない。
現在の時刻は朝の6時半であり、まだマシではあるが。
それなりに気温は高く、練習メニューを熟すだけでもジャージが汗に塗れて行く。
「368! 369! 370――」
近くの川原へとやって来た。
青いジャージ姿であり、今は黙々とフーロンさんから言われた修行メニューを熟していた。
内容はかなりハードであるが、基礎体力トレーニングの類だ。
主に筋トレであり、腕立てや腹筋にスクワット。
それぞれ500回であり、両手に棒をぶら下げた状態でバケツに入れた水を担いでスクワットをやっていた。
《必ず一日に一度行え。お前の身体能力に見合った運動量だ。もし、不調があれば此処へ行き王飛を指名しろ。私の名を出せば問題ない》
メッセージにて示された場所。
検索してみれば、都内でも超一流とされる鍼灸院だった。
針治療のスペシャリストが多数在籍しており。
中でも、王飛さんという人はゴッドハンドと呼ばれていて。
予約も十年先まで埋まっているらしい……すげぇ。
「――!」
きついはきつい。
が、元々“簡単な運動”はしていたので根を上げるほどじゃない。
逆に、最近はもう少し運動の強度を上げようかと思っていたので丁度いい。
「497! 498! 499! 500……ふぅ! 疲れたぁ!」
棒を地面におろし、大きく息を吐く。
そうして、近くに置いていたペットボトルを取って水を飲んだ。
キンキンに冷やして持ってきた水も、今では少し冷えたくらいだ。
とてもじゃないが日が完全に昇った状態では運動なんて出来ない。
「短期バイトも、こういう時はきついんだよねぇ……はぁ」
肉体労働は苦じゃない。
苦であると感じるとすれば、色々とやらされる事か。
体力があり待っているからと余分に仕事を押し付けられて。
断るに断れずに、夜遅くまで仕事をして帰る。
頼られるのは良い事だが、自分としてはさっさと帰ってゲームがしたいのだ。
……そう考えると、本当にバズって良かったなぁ。
もしも、今も底辺のままであれば。
今年も元気にバイトに行って、ゲーム代を稼いでいた事だろう。
何をするにもお金であり、絶対にトップになって……トップになって……うーん。
「……トップになる、か……具体的な夢っての、なかったよな」
お金が欲しい、両親に胸を張れるような男になる。
ゲームがもっとしたいとか……それって結局、他でも良い事だしな。
親友との約束を果たすのであれば、別に配信者としてでなくてもいい。
配信者でなければいけない理由を考えようとすれば……思いつかないな。
「うーん。何だろうなぁ」
俺は首に巻いたタオルで汗を拭う。
そうして、芝生の上にごろりと転がる。
空を見上げれば、雲が自由に空を泳いでいた。
高校を卒業し、大学に進学するでもなく。
家でゲームばかりしていて、碌な夢も持っていなかった。
何とかなる、何れは立派な夢が出来るだろう。
そう思っていれば、あっと言う間に28歳だ。
別に、自分自身に嫌気がさしているとかではない。
昔であれば、もっとちゃんとしないとは思っていたが。
今は配信者として食えるだけの生活が送れている。
先輩も立派だと言ってくれたしな……でも、そうじゃない。
俺がVになった原点。
俺がトップを目指したいと思ったきっかけ。
過去の事を思い出していった。
俺が何故、Vtuberになったのか……それは単純に“楽しそう”だと思ったからだ。
どんなVを見ていたとかは覚えてはいないが。
初めて見たVtuberは確か男の人だったと思う。
何と無しにニューチューブを見ていた時に流れて来た配信で。
お世辞にも、ゲームをする腕前は無かったように思える。
プレイミスだらけで、登録者も100人ほどで。
コメントにいるリスナーの数も10人ほどだった。
『――! ――!? ――っ!!』
『……何だ、これ?』
涙目だった。
何度も何度も死んではやり直し。
見ていても爽快感の欠片も無い。
イライラしていたリスナーさんも確かにいた。
初見の人の中には、悪態をついて去っていく人たちもいた。
彼は謝ってはいたが、それでもゲームを止める事はなかった。
配信を見ていたリスナーさんも熱くなって彼に指示をしたり応援したり。
気づけば何時間も配信は続いていて、やっとの事でボスを倒していた。
その時の配信者の方はアバター越しでも分かるほどに喜んでいた。
応援していたリスナーさんたちも一緒になって喜んでいた。
やった、やったぞ。
遂に倒した、やったやったぁ……だったかな?
そんなに難しい相手じゃない。
腕前があれば初見でもクリアが出来る。
それほどに喜ぶほどのものか……でも、あの時の俺はそんな事思っていなかった。
《おめでとうございます!!》
『あ、ありがとう!』
気づけば、俺もコメントを書いていた。
嬉しくて、嬉しくて。
初見とも言っていないのに、俺はおめでとうなんて書いてしまっていた。
が、彼は嫌な顔一つせず泣きながら俺に感謝を言ってくれた。
見ていた俺自身も、彼と一緒になって達成感を抱いていたんだ。
思えば、あの時の俺は彼のファンになっていたのかもしれない。
が、ファンになる前に彼はやりたい事が出来たと言って配信者を引退してしまっていた。
彼のプレイは上手なものじゃなかった。
トークだって人を引き付けるような巧みな話術ではない。
リアクションが派手で、何度も同じミスをしていた。
でも、あの時、俺と一緒に彼を見ていた十人はきっと彼の事が好きだったんだ。
下手でもいい、口下手でも構わない。
彼が一生懸命にゲームをする姿を見て、一緒に冒険がしたくて……あぁ、そうだ。
「……一人じゃない。皆がいて、一緒にやってるように感じて……だから、楽しいんだな」
キャラクターを操作する人間は一人。
リスナーさんたちは画面を見てコメントを打つだけだ。
しかし、配信者もリスナーさんも同じ景色を見ている。
共に主人公となって、共に敵と戦っているんだ。
一喜一憂し、時には衝突し。
それでも、一緒になって世界を歩いていく。
姿は見えずとも、そこには確かに仲間たちがいる。
だからこそ、怒り哀しみ、応援し手伝って――“楽しいが生まれるんだ”。
「一人でするよりも、皆でした方がゲームは楽しい……だったら、配信だって皆がいた方が楽しい……あぁ、そうか」
俺はVである事の理由を――見つけた。
俺は立ち上がる。
そうして、真っ赤な太陽を見つめながら笑みを深めた。
「太陽のように眩しくて! 誰よりも大きな星のように! そこに集まるリスナーさんたちと! 俺は最高の――ゲームがしたいんだ!!」
俺は一人じゃない。
根黒万太郎は、多くのリスナーさんたちと共に今を生きている。
彼らからの声援が、彼らからの願いが。
バズりを生み出し、多くの仲間やライバルたちとの縁を繋いでくれた。
俺は一人じゃない。
本当の名も素顔も知らない彼らがいたからこそ――今の俺がある。
あの時、あの瞬間。
俺が負けて、再戦を宣言したあの時も、彼らは確かに同じ景色を見ていた。
誰もが見たい、誰もが挑みたい……なら、一緒だ。
アイツと戦うのは俺だ。
でも、アイツとの約束の場所に立つのは俺と竜二だけじゃない。
共に戦ってきた戦友たちや全力で戦ったライバルたちに――リスナーさんたちもだ。
思いを背負っている。
彼らの願いが俺に力を与えてくれる。
トップになって、俺がすべき事……見えたぜ。
俺は太陽に手を伸ばす。
そうして、ギュッと握りしめて――笑った。
「俺は太陽に……トップになる。そして、アイツとの決戦の場所に――皆を連れて行く!」
それが、俺の――根黒万太郎と加賀芳次の夢だ!
トップVtuberになって最初にやる事こそが俺にとっての夢。
その夢を全てのリスナーさんたちに見せる。
他でもないこの俺が、俺の事を信じてくれる全ての人たちの為に……あぁ、燃えるぜ!!
「たまらねぇな。たまらねぇよ……こうしちゃいられねぇ!! もっと強くなるぞ!!」
俺は両頬を叩く。
今日から予選が開始されるが。
始まるまではまだまだ時間がある。
それまでは修行であり、次はランニングの時間だ。
家に帰るまでの全力ダッシュ。
バケツに水を入れての猛ダッシュだ。
勿論、人に迷惑をかけないように人が通らない道を選ぶ。
悪路であり、疲れは半端じゃないだろうが――それがいい!
俺は夢を追う。
親友との約束。そして、Vとしての俺の夢。
その二つを叶えればきっと俺は――




