第76話:ド変態による華麗なる逆転劇(☆)
最終レースが間もなく始まる。
選手たちがメックに乗り込み入場し。
俺もぐるりと初期ステージを飛んでから自らの立ち位置に立つ。
手を振る選手やパフォーマンスをする選手。
流石はプロであり、俺はメックの中でため息を零す。
「……はぁ」
今日は単なる羽休めだった。
ビーチで先輩と一緒に楽しむ予定で。
それが何故か、サーキット場で勝負をさせられる羽目になった。
不運であり、全ては俺のこの手が招いた結果で――通信が繋がされた。
《貴様が、師にみだらな真似を働いた狼藉者か……ふん、そのような粗末なメックで俺に挑まされるとはな》
「……貴方が、えっと……ハイ、ハイ……ハイチンさんですか?」
《ハイリンだ。次間違えれば――殺すぞ》
「あ、はい。すみません……はぁ」
急に通信を繋いできた選手。
ちらりと見れば、緑を基調とした機体に稲妻のようなものが走ったカラーリングで。
全体的な印象から見れば、どことなく龍を思わせるシルエットだった。
特徴的な羽のようになったスラスターは通常時は畳まれているのか。
展開すればノズルが露になるのかもしれない。
頭部は龍そのものであり、手足の爪は鋭利に尖っていた。
武器らしきものは見えないが……内部に仕込むタイプかな?
クールそうな印象の落ち着いた男の声。
名前を間違えて殺すぞと言われたが、語気は静かなものだった。
静かにキレるタイプであり、会ったら一番怖いタイプだろう。
そんな人が観客に手を振りながら、俺へと殺気を飛ばしている。
何が気に入らないのか……胸を揉んだ事か?
「……もしかして……好きなのかな?」
《――殺す》
「あ、聞こえて……へ、へへ」
通信は切られた。
これで間違いなく目をつけられてしまったが……それにしても。
師にみだらな真似をと言っていたという事は。
あのフーロンさんが彼の師匠で。
フーロンさんがナンバーズの四番手という事になってしまう。
彼女は俺の事に気づいているのか。
キリヤさんは知っていたけど……まぁいいか。
知っていようと知らなくても。
どうせ、此処で一位にならなければ俺の未来は潰える。
親友との約束を果たせず、配信者としても死ぬだろう。
だからこそ、俺は意地でも――1位になる。
覚悟を決める。
そうして、会場の人間たちが歓声を上げたのを聞いて――ステージが決まったようだ。
《ステージナンバー13――マグマ地帯》
「あれ? そういえば、テンクウさんがマグマ地帯は危ないって……やばいかな?」
ステージの選択が決まった瞬間。
俺たちの機体は転移を開始した。
なすがままに転移を受け入れて――蒸し暑いステージに送られた。
「あっちぃぃ。やべぇぇ」
《さぁ今宵のラストレース! ステージは恐怖のマグマ地帯! 果たして、誰が一位の座を得るのでしょうか! 会場の皆さまは是非、お手元のスイッチを押して一位の選手の予想を!》
正にマグマ地帯であり、ドロドロのマグマがごぼごぼと音を立てて噴き出していた。
どこもかしこも真っ赤に光っている。
機体外では生身であれば即死んでいただろう。
メックの中でも、サウナのような熱さを感じるほどだ。
立っている場所はスタート地点と掛かれた岩山の上だ。
皆はそれぞれの番号の上に立っていて、俺はハイリンさんの隣だ。
目の前にはホログラムの旗を持った鋼鉄の体の機械人の女性が立っている。
頭上ではスタートの合図となる三つのシグナルが全て赤く点灯していた。
俺たちは姿勢を低くし、コアを稼働させてスラスターにチャージを開始。
ランプは一つずつ消えていき、青く点灯すれば――
《初めに言っておこう――お前は俺に勝てない》
「はえ?」
彼がまた勝手に通信を繋いできて――シグナルが青に点灯した。
瞬間、俺を含めた全員がスラスターを一気に噴かせて――俺のスラスターから妙な音が響いた。
「は?」
《おぉっと! 何という事でしょう! チュウズー選手! スラスターの不調により出遅れてしまいましたぁ!》
俺は驚く。
今のは車でいうエンストであり――排気系統に詰まりか?
メカニックのミスか。
それとも意図的か。
メカニックによる緊急整備――いや、遅いな。
俺は瞬時にコアをフルで稼働させる。
そうして、全力でスラスターを噴かせた。
瞬間、何かで詰まっていた排気管の遺物が今ので焼かれた音がした。
これで応急処置は出来た。
俺は瞬時にスラスターを再び噴かせて――飛び立つ。
既に俺以外の12機の機体は遥か前方だ。
ドンケツからのスタートであり、俺はたらりと汗を流し――闘志を燃やす。
「良いねぇ。こういう展開――燃えるねぇ!」
《チュウズー選手! 熟練のパイロットの如き機転を見せて見事にリカバリー! しかぁし! 既に他の選手から離されてしまっている!! ここからの逆転はあるのでしょうかぁ!?》
ドンケツから一着まで昇る快感。
レースゲーの醍醐味であり、その達成感による脳汁は半端じゃない。
俺はそれを成す為に笑みを深めて――速度を上げる。
マグマ地帯であり、あの岩山以外で着地できる場所は少ない。
下からはぐつぐつと煮えたぎるマグマが噴き出していて――柱となる。
勢いよく噴き出すそれが障害物となる。
が、俺は減速する事無く紙一重で回避する。
全てのマグマの動きを勘だけで判断する。
噴き出してから動いては遅い。
噴き出す前に動かなければ減速してしまう。
俺はスピードを保ちながらステージを翔ける。
すると、コースの方向を示す矢印が表示されて。
俺はせり出した岩山の表面を滑るようにコーナリングを決める。
当たりはしない。ギリギリであり、そのまま減速する事無く――逆にブーストを決めた。
《……ッ!? 何と何とぉ!! 公式でのサーキットの飛行記録がないにも関わらず! マグマを全て回避、剰え完璧なコーナリングを決めたぁぁ!! あのハイリン選手でも躊躇うほどの命破りな飛行! 目が離せません!!》
視界の人の声と共に僅かに歓声が聞こえて来た。
俺はそれに気分を良くしながら更にスピードを上げて行く。
すると、選手たちの機体がようやく視界に入った。
俺はターゲットに狙いをつける。
ロックオンであり、前方の選手は此方のロックに気づいて機体を揺らしてきた。
此方の狙いを逸らさせる目的。
が、俺の狙いはあの選手を撃墜する事ではない。
ロックオンにより意識を此方に向けさせるだけ。
嫌でも意識をせざるを得ない状況で。
機体の操作にも乱れが生じて――下からマグマが噴き出していた。
前方の選手は慌てて右へと旋回。
が、それは明らかなミス。
俺はそのまま直進であり、そのタイミングでマグマは消える。
俺はレバーを操作し、前方の下から噴き出すマグマを察知し――横へとブースト。
瞬間、マグマが俺が飛んでいたであろう場所へと噴き出す。
ロックオンした選手を見れば、大きくマグマを避けていて――その横を通過していく。
「――お先に」
《――!?》
彼が此方をロックオンしてくる。
が、俺はそれを無視。
遅れて攻撃音が聞こえてきたが、明後日の方向にいった。
攻撃と同様で抜かれた選手は機体の操作を乱していた。
そんな選手を置き去りにし、俺はそのまま別の選手もブーストで抜き去り――
〇
「……ふっ」
俺は笑う。
現在、一位を独走状態で後方を飛んでいた蠅も殺してやった。
この俺の飛燕を捉えられる存在は既におらず。
こうなるのであれば、態々、メカニックを買収しなくても良かったと思った……まぁいい。
このレースでの勝利を持って、俺は免許皆伝に一歩近づく。
20戦無敗であり、課題を出した師もお喜びになる筈だ。
戦闘においてもこの俺の実力は本物だ。
世界大会への出場も考えていた。
が、師からはサーキットにて実力を示せと命じられた……師に認められるのであれば、構わないさ。
政財界にも顔が効く“六大天”。
中華で知らぬ者はいない大財閥であり、若くして38代目当主であらせられる師。
その才はあらゆる分野において群を抜いていて。
中でも、Eスポーツにおける技量と他者へと教える能力はずば抜けていた。
中華全土でも、Eスポーツへの注目度と期待値は高い。
経済効果もさることながら、Eスポーツの腕前だけで貧民から富豪へと成りあがる事も可能。
そんな夢のような仕事であるからこそ、競争率は高い。
誰しもが優秀な師を求めて、最終的には六大天へとたどり着く。
頭目であらせられるのフーロン様に認めてもらえさえすれば。
この俺もEスポーツ選手としての地位を超えた権力を手に入れる事が出来る。
たかがゲームだ。
お遊びであり、本気で上を目指そうだなんて思っちゃいない。
だは、俺には才能があった。
故に、あの方の弟子となり、あの方に認めてもらう為だけに他を出し抜いてきた。
誰であろうと俺の前を走る事は許さない。
俺だけがあの方の寵愛を受ける。
兄弟子たちも、可能ならば排除してやりたいほどだ。
「そうさ。実力の世界だ。力なき者は死ぬ。俺は強い。故に――俺は権力者になれる」
くつくつと笑いながら、俺はこのまま独走状態のまま一位になる為に……ん?
右上のレーダーに敵の表示が出た。
それは俺へと迫っている人間がいるという証明で。
三位だった奴がここまで上がって来たのかと考えた。
まぁいい。
どんな奴であろうともやる事は同じだ。
隙を誘って一気に仕留めるだけだ。
「くくく、さぁ来い。さっさと来て、俺の経験値に――は?」
俺は態とスピードを緩める。
そうして、見えて来た機体のシルエットを肉眼で確認し――驚愕した。
全体的に丸みを帯びたシルエット。
間抜けな青い単眼に、貧弱な武装。
旧式一歩手前の産廃機体で――チュウズー!?
「馬鹿な!? ドンケツからここまで――ふざけるな!!」
俺は機体を加速させる。
あり得ない。あり得る筈がない。
どうやってここまで来れたのか。
後続の奴らは何をしていたのか。
激しく戸惑いながらも、俺は機体を更に加速させる。
そうして、エネルギーの補給ポイントを確認。
俺はにやりと笑い、手の平を補給ポイントの横にあるせり立った岩山へと向ける。
溜めたエネルギー弾を放てば、岩山へと命中。
亀裂が走り、岩山の先端が落下し始めた。
俺は悠々と残骸が落下する前にエネルギーを補給する。
が、奴の機体は瓦礫に邪魔されるからこそすぐに補給は出来ない。
「補給はしないか? そんな事をすれば、お前の勝機は消えるぞ。くくく」
俺はほくそ笑む。
そうして、バックカメラで奴がどういう手を打つのかを眺めて――“ブーストした”。
「な!?」
奴は止まらない。
それどころか加速した。
そして、リボルバーを瓦礫へと向けて――放つ。
一発の弾丸が瓦礫を砕いた。
が、それでも残骸の量が増えただけだ。
瓦礫は既にエネルギー補給ポイントを覆っていた。
確実に当たる、確実に死ぬ。
奴の姿が瓦礫の山で消えて――飛び出してきた。
「……!?」
何を、どうやって――馬鹿なッ!?
あの瓦礫の山の中を抜けて来たのか。
当たれば奴の装甲では防ぐ事ができない物量。
少しの接触でも死が確定する状況で突っ込んだ。
何者だ。
奴は一体――関係ない!!
俺はブーストする。
エネルギー残量は十分だ。
この先で武装を更新し、それで奴を屠る。
出来なくても前にさえいかさなければ勝ちだ。
俺はそう判断する。
奴は真っすぐに俺を追いかけて来る。
俺のスピードについてきていて、噴き出すマグマも完璧に予測して避けていた。
「……認めよう。お前の腕は本物だ――しかし!」
俺はブーストする。
そうして、奴の機体を突き放していく。
どんなに卓越した腕であろうとも、機体の性能では俺の飛燕が上だ。
ブーストの性能で奴が追いつくのは不可能。
そして、目の前に設置された――武装換装アイテム!
四角いキューブ上のそれを通過。
瞬間、強力な武装が生成される。
片腕が変形し――高性能追尾ミサイルか!
俺は背面飛行をし、奴の機体をロックオンする。
そうして、にやりと笑い――発射する。
瞬間、ミサイルは放たれて真っすぐに奴へと向かう。
奴は腕の貧弱な武装を構える。
が、あのミサイルの効果範囲は広い。
その爆発力は並大抵のミサイルを凌駕する。
爆風を喰らうだけでも奴の機体は制御を失い。
そのまま荒れ狂うマグマに晒されて終いだ。
「さぁ撃て、撃って死んでしまえ!」
俺は叫ぶ。
すると、奴は――腕を下げた。
撃つ気がない。
いや、何かを察したのか。
だが、破壊しなければあのミサイルは永遠に奴を追い続ける。
奴はひらりとミサイルを回避。
が、ミサイルの各部の噴射口からエアが噴き出し。
一瞬にて軌道を変えて奴へと襲い掛かる。
どれだけ逃げようともアレは止まらない。
破壊するまで追い続ける。
俺が一着を取るまで、精々それと戯れているがいい。
俺は奴から視線を逸らす。
最早、奴など眼中にない。
アレで終いで、俺はレースに集中し――怖気が走る。
「プレッシャーッ! 何が――まさか!?」
俺はすぐにバックカメラを起動。
確認すれば、奴がまたしてもひらりとミサイルを回避。
変わらない、何も変わっていない。
おかしなところは何も――いや、今の手の動きは?
クローの手が妙な動きをしていた。
が、一瞬だけで――ミサイルが再び奴の背後を取る。
迫りくるミサイル。
奴は回避――しない。
「なッ!?」
引き付けている。
触れた瞬間に爆散する。
奴は何を考えている。
俺は奴の命知らずの行動に戦慄し――奴の機体が動く。
ミサイルを見る事無く。
機体をふわりと浮かせるように舞う。
まるで、風に舞う木の葉のように軽やかで。
そのまま奴の機体がミサイルの表面を撫でるように滑り――奴のクローがミサイルに触れた。
「はぁ!?」
奴は触れた。
が、ミサイルは起爆しない。
接触したと感知できないほどのソフトタッチで……馬鹿な!?
「あり得ない、あり得ない!! どうやって、そんな――まずい!!」
奴はミサイルに乗る。
敵を見失ったミサイルはそのまま直進して進む。
凄まじい速さであり、奴との差がぐんぐんと縮まっていく。
このままでは危険――が、問題はない。
「最終エリアは蛇のように細く入り組んだ洞穴だ。それ以外のコースであれば、遠回りになる。直線しか進めないお前では攻略は不可能! そして、ダメ押しだ!!」
俺は再び背面飛行をする。
そうして、掌にエネルギーを集中させて――連続で放つ。
ミサイル諸共奴を破壊する。
その為の乱射で――奴の機体が動く。
機体を揺らし、スラスターを噴かせる。
それにより、強引にミサイルの機動を逸らしていた。
曲芸の域であり、奴は俺の攻撃を全て回避する。
が、あんな強引な動きは連続して出来ない。
エネルギーの消耗が激しいからであり、これにより奴が俺に勝つ確率は――ゼロだ!
「見えた!! 此処で勝負を――決める!!」
俺はスラスターに全エネルギーを回す。
何百回も飛行したエリアだ。
暗闇であろうとも、眼を瞑って飛行が出来る。
此処でスラスターの出力を最大まで引き挙げて――一気に突き放す!!
ぐんと機体が加速し。
そのままトップスピードで洞窟内に侵入。
頭部から照らされたライトによって限定された場所のみ姿を現す。
が、プロであろうともトップスピードで攻略できる人間は限られている。
俺だからこそできる技であり、俺は自らの勝ちを確信しほくそ笑む。
「勝った。これで俺の未来は――! 何だ!?」
後方から何かが爆ぜる音が僅かに聞こえた。
洞窟内が激しく揺れている。
もしや、奴がミサイルを洞窟へと突っ込ませたのか。
狙いは洞窟の崩落だろうが……馬鹿め!
「この洞窟は完全破壊が不可能のエリア。精々が天井の一部が崩れるのみ。くくく、経験の浅さがたたったな!」
完全なる勝利。
俺はそれを確信し――レーダーが警告を発する。
「な――熱源反応ッ!? 馬鹿な後方から――はぁ!?」
バックカメラを確認する。
すると、小さな炎が見えた。
それはどんどん大きくなっていき――奴だ。
奴が岩石を足場にし、炎の波に乗っている。
爆炎はミサイルのものであり、あの岩石は――あのリボルバーで洞窟の一部を砕いたか!
「狂っている。狂っている!! お前は――何なんだ!!」
俺は恐怖する。
猛烈な勢いで迫って来る化け物に対して。
奴は不安定な足場を姿勢制御用の噴射のみで調整している。
サーフィンでもするように優雅で――美しい。
俺は限界までスピードを上げる。
最早、なりふり構ってはいられない。
ここまであんな変態に負ける訳にはいかない。
俺はレバーを強く握り、ペダルを強く踏みつける。
迫りくる障害物を避けて、瓦礫も完璧に避ける。
が、奴の気配はどんどん強くなっていき――見えた!!
洞窟の出口だ。
此処さえ抜ければ、最早、奴には俺に対抗する手段はない。
残りのエネルギー残量であれば、ゴールまではトップスピードでも保つ。
「勝てる! 勝てるぞ!! 俺が、俺こそが!!」
俺は笑う。
そうして、光へと突っ込んで――洞窟から飛び出した。
少し遅れて、爆炎と共に奴も飛び出す。
その差は僅かであるが、ここから奴が逆転する手立ては――瞬間、爆音が響く。
「――は、ぁ?」
《――お先に》
奴の声が聞こえた。
瞬間、後ろにいた奴の機体は――遥か前方を飛んでいた。
「――ゴースト、ジャンプだと!? まさか、計算して!?」
奴がブーストを多用せず。
あの岩石乗りの時にスラスターを使わなかった理由。
それはゴーストジャンプの為のエネルギーを溜める為。
最後の此処で俺を抜き去る為の――策だった。
「――まだだァ!!!!」
俺は叫ぶ。
そうして、エネルギーを片手に集める。
ゴールよりも、奴を排除する事が優先で――奴の遥か先のマグマの中へとエネルギー弾を放つ。
エネルギー弾はマグマに飲み込まれた。
そして、マグマがごぽごぽ音を立て始め――勢いよく噴き出す。
奴の前方を覆うほどのマグマの量だ。
突破不可能の壁であり、これで奴は減速を――が、しない。
「馬鹿な!? 死ぬ気か!!?」
奴はそのままトップスピードを維持する。
そうして、機体を激しく回転させてエネルギーの粒子を飛び散らせた。
まるで、ドレスでも纏うように粒子が舞って――奴の機体がマグマに突っ込む。
俺は激しく困惑する。
そして、マグマが収まるタイミングを計る為に減速。
奴は死んだ。
生きている筈がない。
マグマだぞ?
どんなに機体の耐熱性が高かろうとも、あの量では絶対に。
そもそも、装甲の薄い奴の機体では絶対に――俺は自分の目を疑った。
「は、あ、はぁぁぁぁぁ!!?」
生きている。真っすぐに飛行していて――死にかけだ。
全体的な装甲がずくずくに溶けていた。
武装は剥がれ落ちて、片腕も無い。
足も千切れかけている。
が、生きている。生きていて――ゴールまであと少しだった。
「馬鹿な。馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な――チートだァ!!!!」
《いや、技ですね。はい》
「……!?」
技、技と言った――エアゾーンか!?
いや、エアゾーンはエネルギーに干渉する技だ。
マグマに使うなんて聞いたことがない。
そんな話は聞いたことも――いや、待て。
古い記憶だ。
十年も前の話だ。
ヘブンフォールの時代に、馬鹿な検証や無茶な修行を行っていた変態たちがいたと。
その変態たちの中でも極めつけのド変態たちがいた。
そのド変態たちが数々の“イカれた技”を生み出した伝説で……ま、さか。
「アイツが、アイツが――ホワイト、レコード?」
《あ、どうも》
奴は間の抜けた声と共に――ゴールに飛び込む。
岩山を滑るように着地。
が、片足は途中で千切れて転がった。
火花を散らせながら、奴の機体は停止する。
そうして、その機体は炎に包まれて――転送された。
「は、はは、は、はは、これは、夢だ。悪い、夢だ。は、はは、ふへ……俺が、俺、こそが、ふひ」
俺は笑う。
そうして、ひらひらと落下するようにゴールに入る。
すぐに転送が始まり――サーキットへ戻る。
センサーで確認すれば、炎に包まれていた奴の機体は消火されていた。
そして、多くの歓声を浴びながら、奴はぺこぺこと頭を下げて降りて来る。
勝者と思えないほどの間抜けな動きで……へ、へは。
「何で、俺が……俺の大事な場所に、奴なんかが……挑むんじゃなかった。あんな、ド変態に」
《……ド変態?》
俺は涙を流す。
不運な自分の運命に。
そして、これから始まる――師からの折檻に。




