第49話:死ぬ時は今日じゃない(☆)
人知を超えた神の領域。
光の速度に匹敵する速度で、鋼鉄の巨人たちが空を支配する。
一方は軽やかな動きで流れるように。
もう一方は、荒々しく命を削るが如く全てを懸けて――魂を燃やすんだ。
『懸けろ――全てをッ!!!』
《来いッ!!!!》
互いに叫ぶ。
そうして、機体は光の線となる。
互いの機体がぶつかり、無数の斬撃の跡が空に残る。
剣戟の音が遅れて響き、火花がゆっくりと散って行って。
ひどくスローな世界に光の花が無数に咲き誇る。
俺たちだけが素早く動いているような空間。
全ての動きが止まったかのような世界で、俺たちは互いの殺意をぶつけ合う。
斬って、斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って――まだ、足りない。
もっと手数を、もっと素早さを。
俺の意思がイデアールに伝わり、コアの鼓動が更に強くなる。
全身に熱が駆け巡り、更に手足の動きが速くなる。
十を超え、三十を超え、五十、七十――もっとだァァ!!
更に速く、更に向こうへ。
俺は意識だけの状態で歯を食いしばり。
赤熱するムラマサを全力で振るう。
太刀筋は荒々しく、まるで嵐のようだ。
振り抜く刀の奇跡が影を生み、煌めく刃が光の線を生む。
無数の影と光が線を描いて、奴の機体へ殺到する。
奴も剣を光の線と化し全力で振るう。
全ての攻撃が見破られて、全てが払われて行く。
が、奴は受け流しが間に合わずにガードをしていた。
何度も何度も何度も何度も強く音が響き火花が散り――互いに更なる加速に臨む。
『アヴァロンッ!!!!』
《イデアァァルッ!!!!!》
亜光速の世界、光に届きうる速度。
肉体がある限り、届く事のない領域で。
俺たちは互いの機体の名を叫びながら、全力で殺し合う。
エリアという狭い鳥かごの中で、俺たちは軌跡を描いていった。
全てが止まっているように見える――が、実際には亜光速の機動によって周りの動きがゆっくりに見えるだけだ。
速い。途轍もなく――が、見える。
俺自身の能力じゃない。
精神のみを分離し機体と一体化する事によって。
俺は90秒の間だけイデアールとなり、人を超えた力を発揮できる。
センサーは全ての動きを捉えて、手足は羽のように軽く。
灼熱の如き熱は痛みだけではなく俺に力を呼び起こす。
体にあった不調も何もかもが消えて、俺は、俺たちは――自由を手にした。
俺は叫ぶ。
そうして、奴へと一瞬で迫り。
ムラマサを全力で振るう。
奴は受け流しが出来ずに真面に受けた。
が、今までのように弾く事が出来ない。
オーバースペック状態は、機体が死ぬ事を前提とした超強化。
例え、神の如き万能の存在であろうとも――軽くはねぇだろう!!
『オオオオォォォォォッ!!!!』
《……ッ!!》
俺はそのまま力任せに刀を振るう。
奴はそのまま俺の斬撃と共に遥か彼方へと飛ぶ。
そこには暴風の壁が存在していたが。
今ではスローであり、無数の水滴が浮いているのみだった。
奴はその中へと突っ込んで俺も奴を追う。
奴は俺の斬撃をかき消し。
そのまま水滴の中を進んでいく。
背面飛行であり、奴は聖剣を振るって一撃必殺の斬撃を飛ばす。
今までの動きではない。
斬撃そのもに意思があるように、此方に迫って来る――が、避ける。
全てを眼前まで引き付けて。
一瞬のブーストによって紙一重で避ける。
全てがギリギリであり、軽く装甲に熱が加わるが。
その程度の痛みであれば問題ない。
俺はノンストップで最短を進む。
奴は機体を回転させながら、空へと電撃を放つ。
瞬間、水滴を伝う様に無数の稲光が走って来て――ムラマサを解放。
『邪魔だァァァァ!!!!』
俺はそのまま全力で横へ向けてムラマサを振るう。
瞬間、ムラマサの内部のエネルギーが一気に周囲に放出された。
赤いエネルギーが白いエネルギーの流れをかき消し。
奴の機体に触れたそれが奴の動きを止めた。
俺はそのまま連続ブーストで奴へと迫り――刀を振るう。
『……!』
手応えは――無い。
残像――それに気づいた瞬間に、俺は二つの刀を横に構えてガードする。
瞬間、凄まじいエネルギーが刀に触れて刀から嫌な音が響いた。
俺は歯を食いしばりながら、機体を焼き尽くさんとする熱に耐える。
奴は遥か彼方で剣を振り、連続して斬撃を重ねて来た。
重みが倍になっていき、刀に罅が入って――
『ああああぁぁぁぁ!!!!!』
まだ、まだぁ――カウンタァァァヒットォォォッ!!!
俺はエネルギーを受ける刀の力を解放。
ムラマサのエネルギーと敵のエネルギー混ざり合い。
俺は一瞬の混ざり合いを利用して、その場で全力で機体を回転させる。
一回、二回、三回四回――もっとだァッ!!!
無茶な動きにより、腕の装甲にも罅が入り激痛が俺を襲う。
奴の気配がすぐそこに迫っていた。
俺はブレードに触れていたエネルギーが完全に混ざり合ったのを確認し――ムラマサを敵の気配のする方向に振るう。
『倍返しだァァァァ!!!!!』
《なぁ!?》
俺は奴の攻撃と俺の攻撃を合わせた斬撃を――奴に放つ。
斬撃は驚き固まる奴の“残像”ではなく――その遥か横にて迫ってきていた奴へと迫った。
《――ッ!?》
奴は咄嗟にガードをする。
が、今まで以上の攻撃に奴は王としてではない。
人としての苦悶の声を上げた。
効いている。確実にダメージが入った――が、まだだァ!!!
俺はバチバチとスパークする腕も気にする事無く。
全力でブースト。
遥か彼方へと斬撃によって飛ばされた奴を追う。
すると、奴は斬撃のエネルギーを――吸収する。
奴の機体は白く発光し、その中に赤い粒子も出ていた。
奴はカッとセンサーを開いて――目の前に躍り出た。
『――ッ!!』
《――滅べッ!!!》
奴の膨大なエネルギーが天を裂き。
周りの水滴を一気に蒸発させた。
膨大なエネルギーの斬撃が間髪入れず振り下ろされて、俺の機体は――残像が切り裂かれた。
《……ッ!?》
『残像はお前だけの専売特許じゃねぇぞッ!!!』
俺は笑う。
そうして、亜光速の状態で無茶なブーストを繰り広げる。
ブースト、ブーストブーストブーストブーストブーストブースト――まだまだァ!!!
全力での加速。
全てを置き去りにする速度。
機体が空中分解を引き起こすほどの殺人的な加速。
《DANGER!! DANGER!! DANGER!! DANGER!!》
『まだまだァァァァ!!!!』
システムが警告を発し、機体内部で血管が切れるように配線が焼き切れる。
強引に戦闘システムのみを活かし。
俺は無茶な加速を続けて行った。
装甲には亀裂が広がり、エネルギーが噴き出していた。
が、システムの想定を超えた飛行によって空には俺の残像が幾つも現れる。
まるで、グリードのシステムが俺の動きを予知してそこに出現させたかのようで。
今この瞬間だけは、俺がこの世界を――支配してやるッ!!
奴は迫りくる俺の残像を切り裂く。
全てが虚像であり、霧のように消えて行く。
俺はそんな残像に紛れて死角から迫り――奴の剣が迫る。
俺は機体の上半身をずらし。
紙一重で回避。
装甲が熱によって焼かれながらも、俺は片方の剣を奴へと突き刺し――奴の装甲に小さな罅が入る。
『ぐぅ!!?』
『あと少し――っ!』
《機体の完全破壊まで――残り30秒》
残り30秒で、俺もイデアールも――死ぬ。
たったの30秒――否、30秒もあるッ!!!
懸けるぜ、全てを――この瞬間に、俺の全力を運命を――全ベットだッ!!!!
『イデアァァルゥゥゥゥ――ッ!!!!』
『――まだ、速くッ!?』
俺は更に限界を超える。
精神状態の中で、想像を絶する熱と激痛が俺を襲う。
システムが強く警告を発する中で。
俺は全てを置き去りにしてしまうほどの速度を体現する。
残像が倍になって出現し。
エリアには無数のノイズが走る。
システムの処理が追い付かず、バグが発生していた。
アヴァロンはそれでも剣を振って、現れた全ての残像を蹴散らしていく。
50、100、200、500――まだまだァ!!!!
俺は更に速度を高める。
イデアールが悲鳴を上げて、装甲が砕けて内部のエネルギーを血のようにぶちまけていた。
俺自身も今にも死にそうなほどに地獄で――諦めねぇッ!!!
此処が漢の――見せどころだァ!!!
『根性見るぞォォォ!!! イデアァァルゥゥ!!!!!』
『――――ッ!!!!!』
《これは!! 機体が――やっぱりお前がッ!!》
イデアールはセンサーを強く発光させる。
そうして、俺たちは真の意味で一心同体となり。
無数の残像は意思を持ったかもように――奴へと殺到する。
《この殺気は――本物ッ!!!》
奴はエネルギーを貯め込み。
それを一気に周囲へと放出する。
凄まじい稲光であり、残像が瞬く間にかき消されて行く。
が、残像は次から次へと現れて、世界のノイズも増していく。
奴は笑い声を上げながら、心をハイにして――俺は刺突の姿勢で奴へと迫る。
『此処だァァァ!!!!』
《――見えたッ!!!!》
奴は背後に振り返る。
そこには、刺突の構えで迫る俺がいた。
奴は全力の一太刀で――俺の突きを弾いた。
《よし!!! これで――な、ぁ!?》
『実体を持った残像――やってやったぜッ!!!』
それは実体はあったが、残像だ。
一瞬だ。ほんの一瞬までは刺突の体勢で俺は奴へと突っ込んでいた。
が、俺は殺気のみをその場に留めて、亜光速でのゴーストジャンプを敢行し――残像を超えたものを出してやった。
机上の空論。
土壇場に考えた荒業。
代償は、機体の大ダメージであり――――が、繋がった。
俺の機体は激しくスパークする。
機体全体は亀裂塗れで。
エネルギーが噴き出していて、完全に死にかけで――“瞳が強く光る”。
『これが俺たちの――――全力だァァァァ!!!!!!』
《来いッ!!!!! ホワイトレコードォォォォォ!!!!!!》
俺は残像の中から飛び出し、背中を向ける奴へと――突きを放つ。
瞬間、俺の突きは――奴の聖剣に阻まれた。
速い。やはり、これにも対応して来た――想定内だァァ!!!!
『全力解放ッ!!!!』
《――まだ力がッ!?》
ムラマサを全力で解放する。
瞬間、全てのエネルギーが解き放たれた。
赤いエネルギーが俺の腕を飲み込み。
そのまま全力の力で奴の機体を押し込む。
奴の機体は後ろへと押されて行き、奴の頑丈な聖剣には罅が入る。
その罅は大きくなり、亀裂となっていき――バラバラに砕けた。
《取ったッ!!!!》
奴が叫ぶ。
破壊されたのは――“俺の腕とムラマサ”だ。
残骸が宙を舞い。
奴はすぐに攻撃を仕掛けようと――
『もう一本――残ってるぜッ!!!!!』
《――ッ!!!》
俺は最後の一振りを――全力解放。
エネルギーが腕を浸蝕し、龍の咆哮が響き。
俺の全力の突きが聖剣へと当たる。
もうほとんどエネルギーなんて残っていない。
残りカスであり――絞り出せッ!!!
ありったけを、血の一滴すらも残さず――此処で吐き出せッ!!!
俺はイデアールに想いを伝える。
すると、俺の想いを受けたイデアールが――応える。
機体に残ったエネルギーがムラマサへと渡り。
更に刀の威力が増していき、聖剣へとダメージを蓄積させていく。
大きな亀裂が走り、もう少しで聖剣が――バキリと音がした。
『――ッ!!』
《折れた――今度こそッ!!!》
刃が砕けて折れた。
ここで終い、此処が限界――――勝手に決めるなァァァァ!!!!!
《何!? 刃折れで、まだッ!!!?》
俺は更にエネルギーを込めて折れた刃を突き出す。
もう何も残っていない筈だ。
が、まだまだ俺の心は、イデアールの闘志は――死んじゃいねぇッ!!!!!
『傭兵はなぁぁ――諦めが悪いんでなァァァァ!!!!』
《ふ、はは――最高だァァ!!!! やっぱりお前なんだなァ!!!》
俺は笑う。
狂気の中で笑い声をあげる。
そうして、最後の力を振り絞り――“聖剣を破壊した”。
バラバラと聖剣の残骸が宙を舞う。
俺は笑みを深めて――叫ぶ。
『届けェェェェェェェ!!!!!!』
『――――――ッ!!!!!!』
《まだまだァァァァァ!!!!!!》
俺は刃折れの刀を奴の心臓へと突き立てた。
そうして、正真正銘の最後の残りカスを絞り出し。
止まった暴風の壁を突破し、奴を空島へと叩きつけるように加速し――爆発音が響く。
砂埃が宙を舞い。
機体の脚部が溝を作り出し、スラスターを噴かせて進み。
進んで、進んで、進んで、進んで――――機体は完全に停止した。
砂埃が静かに晴れて行く。
静まり返った世界に流れが戻っていき。
俺たちを包んでいた砂埃が消えていく。
俺の刀は奴のコアを突き――――“奴の装甲を貫けなかった”。
《やっぱり、お前は――――最高の勇者だよ》
『……は、はは……わり、ぃ……俺の、力は……とど、か……』
奴は俺を見つめる。
亀裂の走ったフェイスに、センサーはゆっくりと点滅する。
俺はそんな奴を、見なが、ら――――…………
○
目の前にて、完全停止する機体。
“僕たち”の理想の始まりであり、芳次の道となってくれたイデアール。
僕はアヴァロンの瞳を通して、ボロボロになった勇者たちを見つめる。
「……楽しかったよ。本当に……でも、幕を下ろすよ」
嘘じゃない。
本当に楽しかった。
こんなに熱くて手に汗握る勝負は今回だけだ。
名残惜しい、終わらせたくない……でも、夢は醒めるものだ。
僕は自壊を始めたイデアールの頭に手を置く。
残されたエネルギーを使って、この機体を完全に消し去る。
望んでいた終わりじゃなかった。
でも、何時の日かまた、彼らは僕たちの前に現れて――――イデアールが動く。
「――え?」
《――》
ボロボロの腕で、アヴァロンの腕を弾き飛ばした。
その瞬間に、イデアールの腕はバラバラに砕けた。
彼はそのまま体当たりをしてきて、戸惑う僕の機体を地面に倒す。
倒れた瞬間に、彼がまだ生きていると理解した。
僕はすぐに動いて、拳をかためて――――“イデアールが、涙を流した”。
「お前、泣いて…………今のは、アイツじゃない…………お前、なのか?」
《――》
イデアールは何も言わない。
僕の錯覚かもしれない。
無意識に彼が機体を動かしたのか。
涙と思ったものは、ただ漏れ出しただけのオイルか。
分からない、何も分からない……でも、一つだけ分かる。
「お前は、やっぱり……最後まで、諦めないんだな……本当に、馬鹿で、非効率的で――最高に熱い奴だよ」
イデアールの瞳から光が消える。
そうして、機体はバラバラに砕けて砂のように消えて行く。
トドメもささせてくれないほどに、アイツは最後まで僕の想いに応えようとしてくれた……まだ、だな。
死ぬ時は、今日じゃなかった――“今日死ぬのは勿体ない”。
僕は王として立ち上がる。
そうして、配信の音声が復活したのを確認し。
王として威厳あるように立ち上がり――勇者を讃える。
「勇者よ。我は望む。再び貴殿が、黄泉の国より戻り――我の前に立つその日を」
配信のコメントは見えないほどに加速する。
イベントの予告か、これから大きな事が起きるのか。
それを見ながら、僕は僕個人としての願いを――友人に伝える。
「頂点に至れ。真なる伝説となり――――“命と誇りを懸けて戦おう。友よ”」
コメントは沸き上がる。
彼を目の敵にしていた人間たちも、彼を熱心に信仰していた人間たちも。
この時、この瞬間に、その想いは一つとなった――“新たな伝説を、この目で見届けたい”、と。
信じているよ。お前は絶対に――また、来てくれるって。
他でもない親友の僕がそう思っているんだ。
これで来なかったら、一生呪ってやる。
僕はそう思いながら、アヴァロンの中で笑みを浮かべる。
最高の戦い、命を懸けた闘争。
終わりだと思っていたが、続きがある。
やっぱり、アイツらと一緒だと飽きる事が無い。
最高の友人たちで、最高に馬鹿な奴らで――――“あぁ、会いたいなぁ”。




