第41話:痛みもストレスも楽しむ変態?
イベント開始から――3日目。
今朝の俺の順位は38位にまで落ちていた。
当然だが、俺が友人と会っている間も彼らは必死になって敵を狩っていた。
俺はサボっていたという事であり、怠慢が招いた結果だ――上等さ。
怠慢も、油断も、慢心も――最終的に結果が求めるものになったのなら問題ない。
現在、グリード内のワールドに存在するエリア上空を飛行中。
依頼を受けた状態であり、今回のクライアントは――“孤狼団”だ。
と言っても、正確には孤狼団に属するコミュニティーである“狭間旅団”なる組織からの依頼だ。
内容は中々に悲惨なものであり、彼らは自分たちが統治する領域をリビングデッドに奪われたらしい。
その結果、隣接する孤狼団傘下の統治領域も被害が出ている事から。
狭間旅団は莫大な依頼金を提示してでも、この問題を解決したいと願ってきた。
一応、領地を奪われた経緯も確認した。
すると、第三勢力の介入が確認されていて。
真偽は不明であるものの、恐らくは東亜による妨害工作だと彼らは睨んでいた。
依頼の説明時には、今回も妨害が予想されると教えてくれた。
頭に入れておくのは必須で……アップデートの確認がてら、彼らで試すのも一興だ。
俺はそんな事を思いながら、彼らが要してくれた輸送シップ内で機体を調整していく。
朝には間に合ったが、最終調整は戦いながらになるだろう。
その為に、態々、竜一も休みを取ってくれた。
《いいか? アップデートでは、主に、ビットの仕様が変更されてるからな! 前回までの、近接と遠距離の二つのフォームは無い! 近接戦特化で、さっきも言ったように重力場で相手を引き寄せて纏めて潰す戦闘スタイルだ!》
「“サンダースプリット”だったか? 特殊な重力場で半径100メートル以内の存在を引き寄せるっていう」
《そうだ! そして、一挙に集まった敵たちを――雷撃で纏めてぶち抜く!!》
竜一の説明に思わず笑ってしまった。
特殊な重力場によって周囲の敵を強制的ビットへと集めて。
敵の接触と同時に、内部で蓄えられた電撃によって周囲の敵を焼き切る。
電撃は装甲を破壊するというよりは内部へと浸透し、電子系統を焼き切る為のものらしい。
その為、どんなに強固な守りであろうともほぼゼロ距離の雷撃であれば内部へと電気が流れて――戦闘不能となる。
《ただな、気をつけろよ! 重力場の発生を誤ったら、味方を巻き込んじまう可能性がある! 流石に、アレには敵味方を識別するシステムは組み込んでねぇからな! それと、理論上では敵の数が多ければ多いほど、こいつはより真価を発揮する! 使うタイミングは見極めろ! もしも、アップデート前より戦果が乏しかったら――承知しねぇぞ!》
「はは、分かってるよ! それじゃ、そろそろ――行きますか!」
竜一は頑張れと言い通信を切る。
後はアイツが裏で、俺のシステムを最適化してくれる。
俺は戦いと――配信に集中すればいい。
俺はミュートを解除し、カメラを元に戻す。
そうして、そろそろ始まる事を伝えて――出撃のアラートが鳴る。
「……!」
【もう始まってらぁ!?】
砲撃の音。それと、同時にシップが大きく揺れる。
高度はかなり上の筈だが、ここまで攻撃が届いているようだ。
かなり危険な事になっているようで、自然と俺の顔にも笑みが浮かぶ。
俺はそのまま下部のハッチが開いていくのを確認。
すると、無数の光弾が此方へと向かって来ていた。
シップは避けているが、幾つかが羽を掠めたようで。
危険を知らせるアラートが鳴り響く中で、俺の機体を固定するアームは下へと行く。
そうして、そのまま完全に機体が下に出れば――パージされる。
空中を舞いながら、一気にフライトフォームへと変形。
翼を出しながら、輸送シップを見れば黒煙が上がっている。
恐らく、帰還する事は出来ないだろう……ありがとうございます。
「……じゃ、行きますよぉ!!」
【目指せナンバーワン!】
【応援してるよー!】
リスナーさんたちの声援に応えるように、俺はペダルを踏む。
瞬間、機体は一瞬でトップスピードに到達――はぇぇ!!
瞬間加速度が上昇している。
かなりの馬力であり、想像以上に骨に来る。
苦しさを感じる衝撃に歯を食いしばりながら、俺はそのまま雲の下へと突っ込む。
下からは無数の光弾が上がっており、俺はそれらを避けて行く。
そうして、地上へと下降していき――敵の軍団を視認した。
「……はは、全部、敵かぁ!」
【うげぇぇぇ!! 鳥肌ぁぁぁ!!】
制圧された拠点。
地上も空も埋め尽くすほどの敵。
拠点に配備された固定砲台や設備すらも乗っ取られていた。
敵の中には、鹵獲というよりは支配された状態の狭間旅団の機体もある。
前回以上の敵の数であり、それら全てに強化が入っている。
生半可な装備であれば、苦戦は必須だが――問題ない!
奴らは俺を発見した瞬間に、徒党を組んで襲ってきた。
固定砲台の照準も此方を向いていた。
クライアントからの要求はたった一つ――殲滅だ!!
制限時間は30分。
その間に倒せるだけの敵を倒す。
その後は、後から来る部隊へと引き継ぎ、俺は戦線を離脱……でもさぁ。
「――全部、倒したって問題ないよねぇ!!」
【やれぇぇぇぇ!!】
【殺せぇぇぇぇ!!】
俺は笑みを深める。
そうして、ビットを射出し――回転。
七十基のビットが高速で回転。
その動きは今までのビット以上に変態的だ。
球体状であるからこそ、風による抵抗は皆無。
回転の力によって、完全無欠の変態機動を手に入れている。
70のビットは俺の思考によって制御されて――起動!!
瞬間、全てのビットから不可視の重力場が発生。
俺に向かって来ていた敵たちはビットへと吸い寄せられて――雷撃が周囲に迸った。
凄まじい轟音。
それと同時に、稲妻が走ったかのような一瞬の光。
敵たちは真っ黒に焦げて、そのままセンサーから光を消して落下していった――はは!
「一回で――軽く300機以上も落としたぞ!! 見てるかぁ!」
【ええぇぇぇぇ!!!】
【なんちゅう破壊力!?】
ビットは再び回転し、そのまま周囲を進む。
俺は音速飛行状態のまま、敵の攻撃を全て回避。
そうして、敵を誘導し――サンダースプリットを起動!
雷鳴と共に、またしても数秒の内に300機以上を落とした。
俺は興奮する。
この途轍もない戦果が――アドレナリンを駆け巡らせる。
俺は笑った。
そうして、機体を加速させて――戦場を支配する。
全てのビットを操り、一つ一つを僅かにズレさせて起動。
雷鳴が轟き、レーダーにあった機影が次々と消失。
それを確認しながらも、次の獲物を求めて翔ける。
戦場では無数の機体が存在し、それらの強化されたAIが敵の機動を狂わせる。
今までの敵と思ってはいけない。
より狂い、より苛烈で――獰猛だ。
「――ッ!」
敵が連続でブーストし、横に躍り出る。
ブレードを振るい、俺は加速で回避。
瞬間、後方から嫌な気配を感じて旋回。
無数のレーザーが突き抜けて行く。
間髪入れず無数のミサイルが放たれて、俺は全てをローリングと減速加速で対処する。
敵の攻撃、それに対応しながら他の敵を殲滅していく。
より大きい戦果を、より大きい破壊を。
その為に、神経をすり減らし70のビットを完全に制御する。
頭の中では、無数の映像が流れていき。
その情報量の多さで、鼻から血が垂れる。
「ぐぅぅ!!」
痛い、痛い痛い痛い痛い――刺すような頭痛が俺を襲う。
激しい、激しい戦闘。
頭が沸騰し、高熱のように息苦しい。
かなりの負荷であり、脳が焼け焦げそうだ――が、関係ない。
俺は本気だ。
本気で1位を――ブラックレコードを超える。
その為に、俺は無茶なアップデートをし。
更なる力を得て戦場に立った。
だったら、多少の苦しみや痛み何て――許容の範囲内だ。
「ストレスがあってこそ――快楽はデカいのさぁ!!」
【ハイになりかけてるぅぅぅ!!】
俺は更に飛翔。
無数の敵の攻撃を回避。
回避、回避、回避回避回避回避回避回避回避回避――突破。
サンダースプリットを操り。
互いの力場を触れあう程度に展開。
瞬間、二つの領域の狭間に存在する敵は――引き千切られた。
雷鳴が轟く。
無駄なく殺す、無駄なく仕留める。
もっとだ。もっと戦果を挙げるんだ。
俺は残り時間を確認しながら、地上からの砲撃をブーストで回避。
そのまま弧を描くように旋回して――レーダーが新手を検知した。
「リビングデッド……違う! 妨害者か!」
《――対象を確認。排除する。各機散開》
《《《了解!》》》
雲を突き抜けた現れた敵機。
灰色のカラーリングの機体であり、合計で10機のメックだ。
手には遠距離用の狙撃砲を備えて、肩部にシールドの生成装置をつけている。
ビット兵器を操る俺を殺す為のアセンであり――楽しくなってきたなぁ!
「お客さんです!! 盛大に――歓迎しましょう!!」
【キリングタァイム!!】
【歓迎(皆殺し)】
敵機は散開。
此方へと狙撃砲の照準を定めている。
俺は研ぎ澄まされた殺気を感じながら、レバーを動かし機体を旋回。
リーダーらしき男へと突っ込んでいく。
奴はすぐにブーストで回避。
そうして、弾丸を放とうとし――シールドを――否、エネルギーフィールドを形成した。
背後から迫り起動したサンダースプリット。
その重力場を無効化し、奴は此方へと弾丸を放って来る。
俺はそれをローリングで回避しながら、感心した。
「……! へぇ! 反重力か!?」
《ご名答。貴様の情報は――既に手に入れている》
【えぇ!? だ、誰がそんな事を!?】
【俺じゃねぇよ!?】
【……配信見てたのかな?(名推理)】
配信を見ていたというリスナーさんの発言に納得する。
勝つ為に手段を選ばないその姿勢――嫌いじゃないよ!!
俺は笑う。
そうして、全てのビットを操り――攻撃パターンを切り替える。
「高速回転はただの空気抵抗を減らす為の回転じゃないんだよ!!」
《……! ジェイス! 警戒しろ!》
《え!?》
ジェイスと呼ばれた青年。
一機の機体の死角からビットが迫る。
機体は即座に反重力フィールドを形成し――ビットが勢いよく吸い込まれる。
瞬間、凄まじい回転と雷撃の為のエネルギーによってビットは真っ白に輝く。
凄まじい熱量で――即座に敵機体のコックピッドを貫通した。
《ジェイス!!》
「死んだ人より生きた人ですよぉ!!」
《アマンダ!》
隊長の男が叫ぶ。
が、アマンダらしき存在が乗った機体は即座に対応できない。
何とか避けたが、リビングデッドが襲い掛かる。
彼女は舌を鳴らしながら、反重力を力場の方向を切り替えて全てのリビングデッドの攻撃を跳ね返す。
「――それは悪手ですよ?」
《は?》
瞬間、背後を取った俺のビットが重力を発生。
彼女の機体は凄まじい勢いでビットへと吸い寄せられる。
彼女は咄嗟に切り替える。
が、既にそれは確認済みであり、俺のビットも重力を逆転し――回転による熱エネルギーで機体のコックピッドを貫通。
ビットは真っ白に輝きながら、射線にいるリビングデッドへと突っ込んでいく。
回避をしても、見た事も無い動きで軌道を変えて食らいつき。
触れただけで装甲を溶かして貫通。
《隊長!! こんなの聞いてああああぁぁ――――…………》
《どうして!? 重力を切り替えても追い――――…………》
《ネオ!? ネーナ!? クソッ!!!》
他の機体は距離を取る。
が、そんなに距離を離せば――今度は彼らの歓迎を受ける。
無数のリビングデッドがお客さんをもてなす。
彼らはまだまだ数がいて、彼らのアセンは単体への攻撃特化だ。
反重力の出力を弄れば、敵の攻撃や接近は無効化できる。
が、あまり敵に気を取られれば――はい、3機!
《《《あああぁぁぁ――――…………》》》
サンダースプリットの餌食となった敵機体。
その残骸がひらひらと舞って地上へと落下。
残骸は地上のリビングデッドたちに取り込まれて行っていた。
隊長らしき男は距離を取りながら、震えた声で俺を見つめていた。
《状況は同じ、こんな乱戦状態で、全ての戦況を……お前は、異常だ!》
「はは、異常だなんてそうな――同じ人間ですよ!」
【……】
【……どんな顔をすればいいかな?】
【笑えばいいと……笑えねぇよ(血涙)】
俺はリビングデッドの攻撃を回避。
そのまま、進路を防ぐ敵のライフルによる攻撃を受けながら。
ブーストによって加速し蹴散らしていく。
その間も、サンダースプリットによって敵を殲滅していき、ゲストの動きも観察していた。
ゲストの動きは洗練されている。
リビングデッドへの対処は完璧だ。
恐慌状態でありながらも、生きる為のベストを尽くしている。
だからこそ――支えを失うのは怖いだろうなぁ。
俺はそんな事を考えながら、一気に旋回。
敵の群れを引き連れながら、隊長と思わしき機体へと突っ込んでいく。
奴は此方に反応し攻撃を行ってきた。
が、放たれた弾丸を俺は紙一重で回避し、そのままトップスピードで突っ込む。
奴はギリギリで俺の体当たりを避けた。
そうして、がら空きの上装甲へと攻撃しようとし――サンダースプリットを起動。
《――な!?》
瞬間、俺の機体は無理矢理に真横へとズレる。
敵の放った弾丸は装甲を掠めて。
サンダースプリットを解除。
別のサンダースプリットを起動し、無理矢理に軌道を変えて行く。
それにより、出鱈目な動きで俺の機体は上を向き――ブースト。
難から逃れた筈の敵機体。
が、また俺が突っ込んできて――敵が回避。
「同じ手はさぁ!!」
《――あ!?》
奴が回避した先――サンダースプリットを起動。
瞬間、奴は反重力を起動。
奴は逃れようとし――別のビットが迫る。
すぐに奴は装置を反転。
難を逃れて、またしても別のビットが――
《あぁクソォォ!!!》
《隊長!! クソ、敵の数がぁ!?》
仲間は助けられない。
何故なら、彼らの周りにも俺のビットがある。
彼らは俺のビッドとリビングデッドへの対応を迫られている。
同じ状況、同じ立場――少し違うかもしれない。
それは、彼らが狩られる立場で、俺が狩る側である事だ。
無数のビッドを操作し、隊長の動きに合わせて此方も反転を繰り返す。
全てが精密な作業で、鼻血が止まらない。
頭痛がどんどん強くなっていって、頭が割れるように痛かった。
血が足りなくなれば、自動でスーツの機能が働いて輸血を開始。
輸血が止まれば、意識も無くなるだろう。
そのギリギリの狭間で――俺は興奮を高めていく。
「もう少し、もう少しで――絶頂さぁ!」
【……ね、根黒?】
【や、やべぇよ。ハイになり過ぎてやべぇよ!】
【チャンネル登録しました!】
隊長は抗う。
抗って、抗って、抗って――リビングデッドが背後を取った。
《ぅ!?》
振り下ろされたブレード。
咄嗟に、狙撃砲で受け止める。
そうして、反重力を切り替えて形成、敵は吹き飛ぶ。
その形成時間は僅か数秒であり――サンダースプリットを起動。
《このぉ!!》
彼は意地で反重力を形成し難を逃れて、解除のコンマ一秒の差で――俺の機体が迫る。
《――――ぁ》
「お疲れ様です!!」
俺は挨拶し――彼の機体を木っ端みじんにする。
ガラガラと残骸が周囲に飛び散り。
オイルが俺の機体を穢した。
俺は他のリビングデッドも巻き込みながら上昇する。
すると、残った敵たちが限界を超えて叫び始める……よし!
「後は勝手に自滅するので、敵の殲滅に集中しましょう!」
【げ、外道……素敵♡】
【外道? 戦場では勝者への賛辞だよ。がはは!】
【勝ったものが正義! 負けた者が悪なのさ!!】
俺は戦場を舞う。
撃墜数はポイントを見ただけでもかなりのものだ。
前の時以上の戦果であり、これこそがアップデートの力なんだろう。
だが、足りない。もっともっと――殺さないと!!
「ハハハハハ!!! 楽しいぃぃぃぃ!!!」
俺は笑う。
心の底からの笑いであり、この蹂躙が俺の頭に快楽を流していく。
興奮状態であり、これだけでいっちまいそうなほど――心が躍った。




