第39話:夜道には気を付けようぜ!
メカメカしい内装の喫茶店内。
NPCであるロボット娘が給仕をし。
イベント中であるからから疎らな店内で、俺は指を操りウィンドゥを広げていた。
そこに映る輝かしい情報、それを見て――にやつく。
「ふ、ふふ、ふふふ」
大型イベント開始から――2日目。
俺はグリード内の喫茶店にてにやにやと笑っていた。
その理由は、俺の目の前に表示されている――ランキングだ。
リビングデッドの討伐ポイントに関するランキングで。
個人のランキングにて俺の順位は――23位だ。
100位以内だとは思ったが。
まさかの23位という好位置で、俺はずっと笑っていた。
まぁたった一日で5000ポイントを超えているからな。
それなりに上位だと思っていたが、まさか23位とは思わなかった。
ヌイッターにてそれを報告すれば、何故か、リスナーさんたちは驚いていた。
【あれだけ倒して23位って……他の奴らはどうやってポイントを稼いでんだ?】
【噂じゃ、レアエネミーの出現を予測している奴もいるらしいけど……まさかね?】
【まぁレアエネミーだったら、一体で1000ポイントもあり得るし……いや、無理だよなぁ】
10位以内の傭兵たちは、ポイントの獲得数も7000を超えていた。
まぁぶっちゃければ、効率を極めた鬼で寝る魔も惜しんでやっているのなら。
適度に睡眠も食事もとっている俺では、到底敵わないだろう。
あの後も続けていれば良かったかもしれないが、流石にリスナーさんたちの約束もあったから続行は諦めた。
10位圏内は化け物揃いだが。
トップともなれば桁違いで――1万ポイントを超えている。
二位である“サンドブルーム”さんとの差は歴然であり、圧倒的な強さだ。
一位の傭兵については俺もよく知っている。
現傭兵たちの中で最強と名高い――“ブラックレコード”だ。
ブラックレコードのランクはSランクであり。
その上である“ナンバーズ”と呼ばれる10人のトッププレイヤーの頂点に君臨している。
圧倒的な強さに加えて、他者を寄せ付けない迫力。
全てが王者のそれであり、今の俺では会う事も難しいだろう。
他のナンバーズはブラックレコードに対して強い感情を持っている。
崇拝であったり、殺意であったり。
誰しもがアレを倒そうとしている点では同じだろうか。
特に2位のサンドブルームさんとやらは、たったの三か月ほどでナンバーズの末席に入れたほどの腕らしく。
ブラックレコードには並々ならぬ想いがあるというのが界隈の噂だ。
ナンバーズは全員が100位以内に入っている。
が、何故かは知らないがサンドブルームさんとブラックレコード以外は10位圏内ではない。
噂では、彼らは純粋な戦いにしか興味がなく。
こういったイベントには消極的だとか……勿体ないなぁ。
そんな事を考えて俺は喫茶店で待っていた。
まだまだ時間はあるからこれからもっと稼ぎたいなぁ。
「……そろそろかな?」
時計を確認する。
すると、約束の時刻の10分前で――カラカラとベルが鳴る。
視線を向ければ小さな女の子が入って来て――久遠先輩だ。
先輩は雪のように白いコートに黒い帽子をかぶり。
サングラスとマスクをしていた。
変装しているつもりだろうが、特徴的な銀髪にグリードでは珍しい幼女系のアバターで。
嫌でも目を引くからこそ、俺にはバレバレだった。
「せんぱーい!」
「……! ちょ、ちょっと! おじさん!」
彼女に手を振れば、彼女はびくりとして此方を見る。
そうして、店員さんに頭を下げてから小走りでやってきた。
彼女は口元に指を添えて、俺に静かにするように言ってくる。
俺は謝りつつも、席に座ってもらえないかと伝えた。
先輩はため息を零しながらも、言われるがままに前に座る。
待ち人が来た。
その瞬間に待ってましたと言わんばかりにNPCの店員さんが歩いて来る。
水の入ったコップを先輩の前に置き、にこりと微笑む店員さん。
「ご注文、お決まりですか?」
「……ホットコーヒーを1つ」
「あ、俺もそれで!」
「ホットコーヒー2つですね。畏まりました!」
店員さんは一礼し去っていく。
俺は改めて先輩に視線を向ける。
すると、先輩は机の下で手をもじもじとさせているのか。
何だかよく分からないが、そわそわとしている様子だった……ん?
俺は待つ。
先輩が呼んだからこそ、俺から無理に聞く事は出来ない。
先輩からの言葉を待ち、待ち、待ち…………。
五分が経過――無言。
気まずい空気が流れれる。
そんな中で、メカ娘の店員さんがホットコーヒーを運んできてくれた。
「ホットコーヒーになります。お砂糖とミルクはお好きなだけ入れてください。それでは、ごゆっくり!」
「……っ」
「……ふぅ」
先輩はいそいそと砂糖とミルクをどっさり入れる。
俺の方にも入れるかどうか視線で聞いて来るが。
俺は今日は必要ないと断っておいた。
そのまま、俺たちは黙ってコーヒーを一口飲む……良い苦さだなぁ。
ゲームの時のお供と言えば、カフェインと決まっているが。
流石に、メックの操作中にドリンクを飲む余裕なんて無い。
コントローラーで遊ぶレトロゲームであれば、飲みながらやるけどねぇ。
まぁ集中したい時は、仮想世界に飛ぶ前にがぶのみしてから来たりはする。
そういう時はうんと濃いカフェインを摂取したくなる。
コーヒーは大好きだ。
飲み過ぎは良くないけど、ついつい飲んでしまう。
落ち着く飲み物であり、集中力も高まる。
もしも、案件でコーヒーメーカーから仕事が――
「あ、あの!」
「ん?」
「ぅ、そ、その……ごめん、なさい」
「……えっと、何の事ですか?」
先輩は絞り出すようなか細い声で謝罪を口にした。
俺は何の事かと思いながら、先輩に問いかける。
すると、先輩はあの後にホワイトレコードという存在に調べたと明かした……あぁ。
「……リスナーさんたちも教えてくれたの。おじさん……いや、根黒さんが、本当は伝説みたいな存在だって……本当はその事について、色々と聞こうと思ってたけど、我慢できなくて、勝手に調べて……私、知らなかったとはいえ、そんな人に対してアドバイスとか守るとか……うぅ」
久遠先輩は両手で顔を覆う。
マスクやサングラスで顔は隠れているが。
耳が真っ赤なのはハッキリと見えていた。
俺はどうしたものかと考えて――笑った。
「……? 何で、笑って……」
「え、あぁ、すみません……まぁ、何でしょうか。俺は実際、気にしてないって事ですよ……それに、本当の事言うと、俺自身、ホワイトレコードって名前について心当たり無かったんですよ?」
「…………え? それってどういう……」
俺は先輩に語った。
これまでのグリードでの俺の出来事を。
昔、ヘブンフォールをやり込んでいたからこそ、続編が出ていたからグリードをプレイし。
想像以上に技術があったからこそ、人気に火がついて。
そこで昔のデカールなどを見せた事で、俺がホワイトレコードだと知られた。
が、それでも俺自身がそれではないと思っていた。
多くの出来事があり、仲間たちが増えて。
ようやく、自分自身がホワイトレコードであると認める事が出来た。
だからこそ、先輩が知らなかったとしても俺は怒ったりはしない。
「だってそうでしょう? 本人である俺が認識できなかったんですから……笑えますよね? ふふ」
「ふふ、確かに……でも、根黒さんは」
「あ、おじさんでいいですよ! そっちの方が先輩らしいですから」
「……じゃ、おじさん……おじさんは凄いよね。ヘブンフォールってグリードよりも操作とか難しかったんでしょう? 難易度も、世界の難関ゲームランキングで5本の指に入るくらいらしいし……完全クリアしてて尚且つ、誰にも破られない記録を持っているんだもん。凄すぎるよ。私なんか、まるで、道端の石みたいに」
「――それは違いますよ?」
「……え?」
先輩は自分自身を過小評価している。
俺はそこだけは黙っていられず訂正する。
先輩の操作技術は大したもので、格闘戦に関してはかなりの技量だ。
槍の扱いはプロ並みであり、状況の判断能力も高い。
あんな無数の敵がいる中で、一度の撃墜も無かったのなら大したものだ。
現に、後で調べてみれば撃墜されていた傭兵もいたらしいしな。
そんな中で生き残り、バッチリと戦果を残した先輩は凄い人だ。
それに、先輩はあの状況で他の人間の気に掛けていたし。
俺や他の傭兵がいなければ、恐らくはもっと活躍を――
「ま、待って! 待ってよ! ちょ、本当に!?」
「え? どうかしました?」
「ど、どうかしましたって、おじさん……い、いい加減にしてよ。そんなお世辞なんて、私には」
「お世辞? 何言ってるんですか? 全部――本当の事じゃないですか」
「ふぇ!?」
「先輩は凄い人です! 間違いなくプロ並みです! 俺が保証します! 先輩は――かっこよかったですよ!」
「……っ!!?」
先輩がわなわなと手を振っていた。
俺は先輩に自信を持ってほしくてぱっと手を掴んでギュッと握る。
瞬間、先輩のサングラスはズレてうるうるとしているのが分かった。
顔は赤面して耳まで真っ赤で、まだ何か恥ずかしいと思っているのかと俺は考えて――肩を叩かれる。
視線を向ける。
すると、かっちりとした制服を着る――ポリスメンが立っていた。
「すみません。市民から成人男性が女児を誘惑しているとの通報がありまして……少し、お話をいいですか?」
「え、え、え? ぇ、あ、その」
「――お話、いいですか?」
「あ、はい」
「ち、ちが!? この人は私の――お、お兄ちゃんです!」
先輩は机を叩いて立ち上がる。
顔を真っ赤にして言った言葉はお兄ちゃんで……ちょっといいかも。
ポリスメンのお兄さんは目を細める。
完全に疑っている人間の目で、俺はだらだらと汗を流す。
「……お兄さん、ですか……本当に?」
「ほほほほ本当です! ね、ねぇ? お、おに、おにい……ちゃん」
「あ、うんうん! 妹なんですよ! 可愛いですよね? 世界で一番です!」
「ふぇ!? あ、あう、ぅぅ」
俺はぺらぺらと妹と偽った久遠先輩の魅力を語る。
世界で一番、天女の生まれ変わり、絶世の美少女で――
「……チッ」
「え? した……え?」
今、舌打ちしなかったか。
俺はそれを指摘しようとしたが。
警官のお兄さんはそれならば問題ないと笑みを浮かべる。
俺はホッと胸を撫でおろし――耳元で警官のお兄さんが囁く。
「先生――目立ち過ぎですよぉ♡」
「…………み、みっちゃ!?」
「それでは、良い休日を! 夜道には――気をつけて」
警官の格好に姿を変えた推定みっちゃんはびしりと敬礼する。
そして、最後のセリフの時だけ底冷えするような声を出していた。
だらだらと汗を掻きながら、悪寒がして店の外を見れば――い、今のは!?
何か見えた気がした。
黒尽くめでサングラスを掛けた女性たちで。
明らかにマフィアのような恰好をしていた気がする。
手には明らかにトンプソン機関銃のようなものを持っていた。
が、すぐに黒塗りの車に乗り込んで去って行ってしまった。
夜道には気をつけろ、か……あ、汗が止まらねぇぇ!
俺はガチガチと歯を鳴らす。
そうして、席に座り直し震えながらコーヒーを飲んだ。
味なんてもはや分からない。
が、今はとにかく落ち着こう。
そう思っていれば、先輩がふふふと笑った声が聞こえた。
「世界で一番……ふふ、へへ」
「……! こ、今度は?」
先輩の純粋な笑顔に癒されていれば。
今度は端末がぷるぷると震えた。
急いで取り出せばメッセージが入っている。
それは現実でのメッセージで……あぁ。
《今夜9時に会いましょう。店は此処、服装は気にしないでいい》
「……ふ、ふへ」
竜一の妹さん神崎ソフィアさんである。
急な呼び出しであり、此方の意見など聞いていない。
俺は寒気を感じながらも、急いで返信する。
先ほどの意味深な言葉もあり、断ればどんな不幸が起きるかも分からない。
行くとだけ伝えれば、返事は返ってこず……はぁぁ。
「……あ、あの」
「え? ど、どうかしました?」
「えっと、その……やっぱり、おじさんじゃなくて……お兄ちゃんって呼んじゃ……ダメ?」
「――喜んで」
「……っ! じゃ、これからもよろしくね。お、お兄ちゃん!」
拝啓、父さん母さん――可愛い妹が出来ました。




