第37話:血の嵐と騙されたメスガキ(☆)
敵味方入り乱れる戦場で――私は焦る。
「くっ! このぉ!!」
迫りくる無数の敵。
それに対して、私は自慢の雷撃型ランスで攻撃する。
連続の刺突攻撃により、敵たちは機体に風穴を開けて爆発四散する。
“セイバーランス社”で作られた特注の近接戦闘特化機体である“ミネルヴァ”。
白を基調とし、赤いマント型の“対エネルギー防布”を羽織い。
騎士としての洗練された細身のフォルムは正に軽量級の中でも納得の美。
速度と耐久性の二つを両立し、近接戦闘における運動性能は抜群だ。
そして、リアルで鍛えた私の槍の腕と合わされば正に敵なし。
例え大規模な戦闘になったとしても問題ない――と、思っていた。
「……!」
死角から迫る敵をバックカメラで確認。
身を翻し、敵の斬撃を回避。
そのまま、チャージしたエネルギーを敵へと放つ。
瞬間、相手の機体はバチバチとスパークし、更に黒くなって羽をもがれた虫のように落ちて行った。
敵を撃破し安堵する。が、すぐにレーダーが別の敵の接近を感知――なんて数なの!?
あり得ない。
今までの戦闘の比じゃないほどに――危険を感じる。
【大丈夫ですか!?】
【久遠ちゃん頑張ってぇ!】
【くぅ! 拙者がいればこんな敵!】
「……っ! あ、アンタたち! この私の心配なんて生意気よ! おじさんたちがいたって、別になぁんにもかわら――キャ!?」
配信で読み上げられたコメントに反応してしまった。
瞬間、どこからともなく弾が放たれて、装甲を掠めて行く。
思わず情けない声で出てしまい、顔がカッと赤くなる。
何時もの事だ。
配信をしながら、戦闘をするだけだ。
ただいつもより数が多いだけで、私なら問題ないと思った。
でも、実際はコメントに反応するだけで隙をつかれる始末。
それも、あの人が――根黒万太郎の影響があったからだ。
『へ、へへへ』
「……っ! 私、だって!」
家族のシロに似ている私の友達。
頼りなく笑い、困った顔がとても可愛いおじさんだ。
個人勢として活動し、ようやく活躍の機会が得られたおじさんは。
まだ、配信者としての歴は浅い。
アンチもいて、それなりに苦労だってしているけど。
これからもっともっとグリードで名を上げるなら、いろんな悪意に晒されてしまう。
根黒おじさんは優しい人だ。
私とフレンドになってくれて、私の我が儘にも付き合ってくれる。
こんな私のお節介を笑って許してくれるんだ。
嬉しかったよ。
誰しもが、私の事を利用価値のある台にしか思ってくれない中で。
あの人だけは純粋な友達として接してくれた。
利用してくれたって構わない。
ただ、不幸になって欲しくなかった。
私のように、一緒にトップを目指そうって約束した友達たちを――失うような目に遭って欲しくない。
これはただの自己満足だ。
私のように失う経験を他の人にして欲しくないからこそ。
私が勝手にやっている活動だ。
文句を言われても、恨まれても仕方ない。
それで、その人の気持ちが安らぐのならそれでいい。
でも、この時、この瞬間だけは――先輩として偉大な背中を見せるんだ!
カッと目を見開く。
瞬間、敵の大群が私の周囲を埋め尽くす。
私はフルでエネルギーをチャージしたランスを回転させて――周囲に電撃を放った。
「……! この私の道を塞ぐなんて――万死に値するわよ!!」
【おぉぉ!! 流石は“雷撃の姫騎士”!! その名は伊達じゃない!!】
【俺も久遠ちゃんの電撃を浴びたいぃぃ!!】
コメントの反応は上々。
私は楽しんでくれている事に気分を上げて――眼前が真っ赤に染まる。
「――ぇ」
《――――》
視界を埋め尽くす赤い光。
それは敵の掌であり、そこにはエネルギーが集中していた。
距離はほぼ無く、気づいた時にはそこにいた。
回避不能、防御不可、攻撃――間に合わない。
私の頭は理解した。
が、体の反応はにぶい。
敵は更に光を強めて、そのまま私を撃ち抜こうとしていた。
スローモーションに感じる世界。
私は小さく笑う。
あぁ、ダメだった。
かっこいい所を見せたかった。
先輩として、頼もしい背中を見せたかった。
Vtuberとして夢を見せる事こそが私の役目。
アイドルであり、多くの人を魅了してこそだ。
でも、私は気持ちばかりを先走らせて――此処で終わる。
早々にリタイアで、情けなくて……あぁ、ごめんね。
「私って、本当に――――ぇ?」
馬鹿だと呟こうとする前に――敵の機体がバラバラになる。
一瞬だ。
甲高い音が聞こえたかと思えば、眼前の敵は縦に真っ二つにされた。
敵のオイルが私の機体を穢し。
私は目を瞬かせながらも、ハッとして一気に距離を取る。
すぐに敵を警戒し……あ、れ?
敵が来ない。
いや、それどころか――敵が減っている?
何が起きているのか。
何かあったのか。
状況が理解できないままに、周囲を見て――音だ。
小さく甲高い音が周囲で響いている。
何の音かは分からない。
でも、一瞬だけ敵が見えたかと思えば、次の瞬間にはバラバラになって爆散していた。
何が――いや、これは――おじさんは!
「お、おじさん! 大丈夫!? まだ生きて」
《ん? あぁ大丈夫ですよ! 今、適当に――飛んでるんで!》
「え、飛んで……ど、何処?」
私はおじさんの機体を探す。
が、何処にも見えない。
どういう事かと思えば、リスナーさんの一人が教えてくれた。
【よく見て! 敵の動きだよ! 彼に集中してる!】
「え、敵の動き……! まさか!?」
私はリスナーさんの言葉でレーダーを確認した。
すると、明らかに敵の数が多いエリアを特定できた。
すぐにそちらへと向かう。
すると、甲高い音が鮮明に聞こえて来た。
そして、敵の大群が――蹂躙されているのが見えた。
凄まじい速度で飛行する大型の戦闘機のようなメック。
それらは敵を引き付けていて、眼前を防がれもしていた。
が、その機体は速度を落とす事無く突っ込んで――敵はバラバラになる。
まだだ、まだ見える。
無数の青白い光だ。
それらが空に軌跡を作り、縦横無尽に飛び回っている。
そうして、逃げまどう敵の懐へと精確に入り込み、敵の機体をバラバラにしていた。
速い。速過ぎる――そして、異常だ。
グリードでの傭兵生活が浅い私でも分かる。
あれらは遠隔操作型の兵装であるビット兵器だ。
そして、眼で確認するだけでもその数は30……いえ、40は絶対に超えている。
ビット兵器は、使いこなす事が出来れば強力な兵装だ。
死角からの攻撃に、意表をついた戦法など。
玄人に愛されるようなマニアックな兵装だと聞く。
しかし、間違っても経験の浅い人間では扱いきれない。
ビットは数が増せば増すほどに、その操作は複雑になっていく。
単純に10個までなら、オートの操縦でどうとでもなる。
が、10を超えればオートによる操作では明確な誤差が発生する。
同じ兵装として戦闘システムも共通であり、独立したものを積み込めばそれはもうただの完全自立兵器だ。
ビットは数が増えて行けば増えて行くほどに、操縦者の技量を要求される。
10人の話を同時に聞いて、的確な答えを即答するのと。
30人の話を同時に聞いて、的確な答えを即答するのであれば、どう考えても後者が難しい。
数が増えるという事は、操作中のノイズも増えるし、思考に乱れが生まれれば一気に操作が困難になる。
【20を超えればプロ、30で人間を辞めてる……あの人は――70ですよ?】
「ななっ!? 嘘でしょ……そんなの、絶対に、無理に……っ」
70なんて絶対に嘘だ。
そんなものを動かしながらも、あの人は音速で飛行し。
敵の攻撃に対処しながら、私とも普通に会話をしていた。
私はただただ理不尽な暴力を振りまくそれを――茫然と見つめた。
棒立ちであり、隙だらけで――敵が迫って来る。
「ぅ、ぁ!」
【久遠ちゃん!?】
私は焦る。
焦って、レバーから手が滑る。
その瞬間に私の死は確定――しなかった。
ビットが凄まじい速度で敵を切り刻む。
一瞬であり、残骸が私の横を通り抜けて行く。
背後で爆発音が響き、私がちらりと見れば……ビット?
滞空している。
私の周りで飛んでいて……あぁ、そっか。
おじさんは、私にビットを回していた。
だからこそ、私は今も――生きている。
私があの人を助けるんじゃない。
私はあの人に――助けられた。
自信満々で、大見得切って。
小馬鹿にして、お節介を焼いて――無礼だったんだ。
あの人は強い。
どう考えても、トップの実力者だ。
そんな人に対して、私は――あぁ!
「う、うぅ、うぅうぅぅうぅぅ!!」
《ん? 先輩? どうかしました? 顔が真っ赤に》
「うるさい!!! うるさいうるさいうるさい!!! 騙したな!! 騙したな騙したな騙したな!! おじさんなんか、おじさんなんか……ごめん、なさい」
私は顔を真っ赤にする。
そうして、小さく謝罪を口にした。
すると、おじさんがヘルメットの下でにへらと笑ったのが分かった。
《騙して悪かったけどね――これも仕事だから》
「……! わ、私を配信のネタに……うぅぅ!! 最低!! 馬鹿!! アホ!!」
《ふふふ、悪かったって。後で、好きなものを奢るからさ――さ、先輩も! もっと楽しみましょう!》
「……! 分かってるわよ! 私だって、私だって――闘えるんだから!」
後輩の生意気な言葉。
それで闘争心に火がつく。
瞬間、別方向から敵の増援が来た事を基地の人間が知らせて来た。
私たち以外の傭兵はすぐに動いて向かっていた。
私もスラスターを噴かせて、すぐに対応に当たる。
生意気なおじさんを見れば――私の隣に並び立つ。
「……! 嘘!?」
《嘘じゃないですよ? デザートは――これからですからね!》
後輩は笑う。
そうして、機体を回転させて更に加速した。
《先輩! 早く来ないと――全部、食べちゃいますからね?》
「……っ! 生意気な奴!!」
【久遠ちゃんの赤面――ありがとう。根黒さん】
【君は英雄だぁ!】
コメント欄で私が赤面しているとリスナーさんたちが喚く。
私は必死になって誤魔化すが。
それがかえって火に油を注ぐ。
私は目に涙を浮かべながら、おじさんにしてやられっぱなしな現状に歯がゆさを感じる。
悔しい。悔しい……何時もだったら、私が後輩たちをリードするのに……何なのよ!
私は優雅に戦場で踊るおじさんに激しい悔しさを感じた。
すると、リスナーさんの何名かがホワイトレコードというワードを呟いていた……?
「……っ! そんな事よりも――ま、待ちなさいよ!! おじさんの癖に!!」
《はは! 待たないよー》
「く、うぅ!!」
生意気だ。
生意気生意気生意気――絶対にぎゃふんと言わせる!
おじさんに先輩の凄さを分からせる。
それだけを今回の任務の目標に定めて――私は敵の群れへとブーストして突撃した。
バチバチと雷撃により敵を弾き飛ばし。
槍で敵の装甲を貫き破壊。
そのまま敵の攻撃を回避し、流れるように雷撃で敵の動きを封じ――あれ?
そういえば、何だか……体が軽い。
先ほどまでのぎこちなさが嘘のように消えている。
あんなにミスが目立ったのに、今はちゃんとリスナーさんの言葉にも反応できていた。
何が違うのか。何が……もしかして?
「……おじさんが、私を……?」
《んー? 何か言ったぁ?》
「……! 何でもない!」
【……おや?】
私はおじさんに戦闘に集中するように叫んだ。
すると、おじさんは何時でもコールして良いと言っていたという。
私はまた顔に熱が浮かぶのを感じながら、必死になっておじさんを罵倒する。
おじさんはニコニコと笑っていて……むかつく!
むかつくむかつくむかつく――むかつく!!
絶対に、絶対に絶対に絶対に――分からせてやるぅ!
「どんどん――来なさいッ!!」
私はエネルギーをチャージし。
そのまま雷撃を周囲に放つ。
的確に敵を潰していく。
少しでも多くの敵を屠る私を、少しでも私の華麗な戦闘を――魅せつけてやる!!
私は必死に動く。
汗を垂らしながら、ガチャガチャとレバーを動かして――口角を上げた。




