第23話:自由の翼(☆)
なすがままに、丸い卵型のシミュレーターに押し込まれた。
何が何だか分からなかったが。
新型のシミュレートを頼まれた事だけは分かった。
そうして、輸送機から発進し、仮想敵を屠ればいいとアナウンスが入り――空間が形成された。
「――ぁ」
コックピッドに乗り込でんいた。
座り心地の良いシートだ。
窮屈さは微塵も感じず、広さすら感じる。
安心感を感じれば、その瞬間に座席が自動で動き――空間が最適化された。
レバーの位置、ペダルの重み。
ボタンの設定に至るまで全てが――“同じ”だ。
「これ、は――はは」
網膜に投影されたデータ。
機体の立体映像が出ており、簡易的なスペックが流れて行く。
それらを全て見て、感じたものが確信へと変わる。
かつての俺の愛機。
白を基調としたカラーリングに、翼のような形状の“多重推進ユニット”。
羽となるものは全てが思考によって制御が可能。
細かな機動の変化も、変則機動にも対応し。
操縦者の意識が保つ限り、何処までも加速していく悪魔のユニット。
機体に人間がついていけないほどの無限加速を可能とさせるのはこいつだけだ。
装甲は限界まで削りながらも、弱さは微塵も感じられない。
横一線のライン状の青く発光するセンサーに、流線型の頭部。
少し突き出した胸部装甲に、手足は細長く。
サブアームのような隠し腕が四つ収納されている。
荒れ果てた大地の上、無限に続く大空を翔けていた。
如何なる強敵をも屠った。あの――“Freiheit”だ。
「……はは」
俺は懐かしさを覚える。
そうして、レバーを握れば思考がリンクし――
《戦闘システム起動》
「――やってみるか」
俺は笑みを深める。
すると、輸送機の警報が鳴り響き。
輸送機内の赤色灯が回転し、下のハッチが展開されて行った。
そうして、ゆっくりと機体は下へと下げられていく。
凄まじい暴風であり、雨粒が弾丸のように当たっていった。
嵐の中であり、視界は最悪で――だから、良い。
レバーを握り、俺は小さく笑い――アームの固定が外れた。
翼を展開。そして、ペダルを軽く踏み――凄まじいGが掛る。
「ぐ、ううぅ!!」
一気にトップスピードに等しい速度だ。
レバーがびりびりと振動し、音が全て消えて行く。
それほどの加速であり、機体を操作する。
下へと降下すれば、なめらかな動きで機体は下がり――近くで何かが爆ぜた。
「対空砲! てことは!」
何度も何度も爆発音が聞こえる。
そうして、視界が少し晴れて――見えた。
何処かの戦場。
荒れ果てた大地には、無数のメックが闊歩していた。
前線であり、至るところで火の手が上がっている。
無数のメックが地上と空で戦っていた。
俺はそれを認識し――武装を展開。
小さく格納されていた銃が変形し。
マッドブラックの表面に青い光が走っていく。
長大なライフルであり、銃口は二つに割れてエネルギーを貯めて行く。
「この感じだ――良い!!」
俺は笑みを深めて――加速。
体が悲鳴を上げる。
ただの加速で息苦しい。
息が出来ない程の圧迫感。
俺はそれに気持ちよさを感じながら――弾丸を放つ。
バチバチと激しい音が鳴り響き。
発射された弾丸は稲妻の如き速さで同時に三体の敵を貫く。
その瞬間に、全ての敵が俺をターゲットに定めて――俺は突っ込む。
敵は銃口を向けるが、その瞬間に俺は奴らの横を通過。
激しい暴風によって背後の敵は姿勢を大きく乱す。
俺は機体を加速させながらも、思考によって翼を操作し一気に左へと旋回。
骨が軋み、口の中で血の味が広がる。
それを感じながらも、俺は加速を止めない。
限界を超えて更なる速度を獲得し――弾丸を乱射。
一瞬の交差で弾丸を放ち続けて。
数十発で何十体もの敵を一瞬で屠る。
次々とレーダーが敵を知らせるが。
その全てが俺の位置を捉えきれずに――爆散。
発見し、殺す。
銃口を向ければ、先に殺す。
逃げようとしても、殺してやる。
全ての敵を――俺が殺す。
「ははは、ははは――ハハハハハハハ!!!」
これだ、これだこれだこれだ――自由だ!!
何者にも縛られず、何処までも自由に戦える。
思い描いた動きを、想像した未来を――実現できる。
俺の理想であり、俺の到達点で。
正に自由の名にふさわしい最高の機体だ。
俺は笑う。
更に加速すれば、体から嫌な音が鳴る。
ずきずきと痛みを感じるが無視。
そのまま俺は戦場を翔けて――蹂躙する。
眼球がかつてないほどに動き。
全ての敵をロックオンする前に殺していく。
流れるようにではない。
止まった的を撃ち抜いていくように、ただ淡々と屠り――もっとだッ!!
更に加速。
そうして、限界を超えた変則的な動き。
軌跡が何度も折れ曲がり、その軌跡の跡には無数の爆発。
それを感じながらも、俺は銃弾を放ち続ける。
弾が空になれば、隠し腕でマガジンを交換し。
敵がいなくなれば、味方だと勝手に思っている存在たちを敵とし。
視界に映る全てを殺していく。
殺意が、闘争心が、かつてないほどに燃え上がる。
失った黄金、もう会う事は無いと思っていた愛機。
それとの再会が、俺をかつての無法者に変えて行く。
が、俺はそれを微塵も危険だと思わず。
ただ流されて行くままに、俺はこの感覚を嬉しく思っていた。
楽しい、楽しい。これこそが俺の――黄金!
眼前に広がる無数の敵。
その数は千を優に超えている。
が、微塵も恐怖は感じない。
あるのはただ、この数の敵をどうすれば楽しく殺せるかだ。
遊びだ。ただのゲーム。
だからこそ、心行くまで楽しむ。
その為に、俺はこの機体を作らせて、この機体に自由の名を与えた。
俺は更にペダルを強く踏み――加速。
意識が薄れそうになる。
が、手足は勝手に動いていく。
心も体も、今という瞬間を全力で楽しんでいた……あぁ、そうか。
「俺はもう一度――お前と、戦いたかったのか」
小さく呟き。
俺は敵の軍勢へと突っ込んで――――
○
「……凄い。まさか、此処まで……最大G……じゅ、15?」
「……彼は何時も、私たちの想像を超えて行くんですよ」
私と開発主任は画面に映る光景を見つめる。
ホワイトレコード様のデータを取っている人間たちは放心状態で。
誰もそれを咎める事は出来ない。
彼を見た者は誰であろうとも――心を奪われてしまう。
たかがゲーム、本当の世界の事ではない――違う。
ゲームであろうとも、本物のように作られた世界。
命の危機が発生すれば、誰であろうとも強制的に現実へと戻らせる。
タイタンシリーズはそれが最も顕著で……でも、彼だけは違う。
人間に不可能な機動。
絶対に真似できない操作。
無茶で出鱈目な動きをしながらも――彼はそこにいる。
ログアウトもしなければ、シャットダウンも無い。
それは即ち、彼の命が危機を感じていないから。
それが普通であり日常であるからこそ、彼だけはあんな事ができてしまう。
我々プレイヤーにとって永遠の憧れであり、絶対的な自由の象徴。
理不尽で、闘争に明け暮れる全ての傭兵の――星だ。
そんな彼だからこそ、あの機体が相応しい。
あの方に乗っていただく為だけに開発を急がせている新型。
いえ、新型とも呼べない紛い物。
伝説に似せて作っただけのそれ……しかし、彼は喜んでいた。
かつての伝説の再演。
不可能を可能としたあの機動をまたしてくれていた。
永遠に見ていられる美しい戦場の光景。
私はただただそれにうっとりとし……。
「だからこそ、アレを倒すべきは貴方しかいないんですよ……貴方の現身。グリード内でその存在を知らぬ者はいない。全ての傭兵にとって恐怖と力の象徴でもある――ブラックレコードに」
全てを黒く染め上げる。
戦場も、敵も、最後は黒く染められて。
誰しもがアレに対して恐怖を覚えてしまう。
そんな絶対的な力の権化は、貴方に似た名を与えられた。
なればこそ、最初の“記憶”である貴方が、アレを倒す事こそが最も――新たな“伝説”となりましょう。
「楽しみです。ホワイトレコード様が……私の機体で……あ、あぁ!」
「……お、お嬢様。は、鼻血が?」
「――違います。これは彼への忠誠心です」
「は、はぁ?」
私は身も心もホワイトレコード様に捧げる。
貴方の伝説が私を作ってくれた。
貴方こそが私の人生の柱であり、貴方無くして私は私ではない。
「共に、偽りの伝説を打ち破り――真の伝説を創造しましょう」
私は忠誠心を出しながら、開発主任に命を出し。
新型の調整を何としても終えるように伝える。
彼らは敬礼し、速やかに行動を開始する。
私はその間、戦場にて全ての敵を屠り。
雨に撃たれながらも、青く輝くその機体を見つめて――
「自由の翼――“染められぬ伝説”」
その翼で、貴方様は何処までも――




