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その展開はご容赦ください  作者:
2章『青春にはご注意ください』
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4話

空白の一週間は苦痛の連続だった。


サラー(インド系イギリス人)に参加を断られた蔵田は、素人三人を引き連れプロフェッショナルが集まる音楽スタジオでリハーサルを行った。


厚顔無恥というのは彼らのためにある言葉なんじゃないか、と思うほど自信満々な四人。


その自信はあっさり打ち砕かれる。


本番一週間前にして初めて彼らの演奏を聴いたプロのスタッフたちからは、


【まじかよ】


【やばすぎ】


【歌えてないじゃん】


【めっちゃ下手】


と様々なセクションから小声で酷評されていた。


何度もいうが、イベント本番まで一週間しかないのだ。


頭を抱えるスタッフたち。


【客前に出る準備が出来ていない】


【お遊戯】


【なにがしたいんですか?】


【やりたいなら止めませんけど、僕なら見ませんねこんな演奏じゃ】


【今からでもカラオケに変えては?】


ステージ音響を担当するスタッフたちから洪水のような批判を喰らうバニシングポイントメンバー。


正常な感覚の成人なら死にたくなるような状況で、蔵田は毅然と言ってのける。


【私がなんとかするので!】


なんともなってないからみんな困ってるんだけどね、とは誰も突っ込まない。


この状況は簡単に予測できた。


練習は一年間で三回スタジオに入っただけ。


スタジオでは和気あいあいと喋りながらのダラダラ練習。


蔵田は多忙を理由にステージパフォーマンス内容や進行内容をなかなか決めず、他メンバーは素人のためどうしていいかわからずに困惑するだけ。


【まあ、頑張ってくださいよ】


と鼻で笑われるメンバーたち。


イベント音響を担当するスタッフたちは、有名バンドの音響やステージを担当しているチームで、ただバニシングポイントメンバーを馬鹿にしたいわけではない。


【仕事なんで、まあ僕らもちゃんとやりますけどね……】


と音響チームリーダーは呆れながら言う。


イベント五日前。


ステージ演出を担当するチームリーダーが、蔵田のマネージャーに怒りをぶつけていた。


【蔵田さんの本業に口を挟むつもりはないですが、何かがっかりした、という気分です。

もう少しプランを練られてからステージに立つものだと】


本番一カ月前に急な依頼を受けた演出チーム。


数日で構成台本を書き終え、舞台上の演出プランをまるまる構成した。


本番五日前まで、蔵田からは何の提案もなかった。


【そちらの事務所さんにはお世話になってるのであまりこういうことは言いたくないですが……蔵田さんあまりにセンスがない。

なんですか、ライブステージでポエム朗読って】


蔵田が唯一持ってきたプランは自分のポエム歌詞を朗読すること。


【遊びじゃないんです。どこかのライブハウスで仲間を集めてワイワイ、というなら私たちも何も言いません。

ですが、今回はお客様がいる。

様々な地域からお金をかけて来てくださるお客様のことを蔵田さんは蔑ろにしている】


これっきりにしてくださいね、と捨て台詞を吐き、演出チームリーダーはマネージャーの下を去る。


項垂れるマネージャーのスマートフォンが震えた。


受信したメッセージには、自信を失った素人三人からの後ろ向きなメッセージがしたためられていた。


【嫁が家から出してくれなくて……本番まで生きていられるかわかりません。無念青春】


と絶望的なメッセージは窪倉。


【やっぱりこのクオリティでステージをやるのは難しいかと。参加を断念します】


もっともらしい理由で恥を回避しようとする宗谷。


【嫁が、「いいかげんお遊びやめてよ」とすごい剣幕でつめてくるので参加できないかもしれないです……僕自身は参加したいんですよ……】


とあやふやなメッセージは井上。


皆、「その日予定入っちゃって!ごめんね!」と飲み会の誘いを断るテンションで言っている。


ため息を吐くマネージャーを更に追い詰めるように、スマートフォンが小刻みに震えた。


事務所社長からの電話だった。


【客席埋まりそうだ。四百人超も関係者あつめるの苦労したぞ】


蔵田麻里奈ファンイベントのチケットはかなりの数売れ残り、事務所サイドは席を埋めるのに苦心していた。


マネージャーは謝罪を重ねる。


社長は深いため息を吐く。


【これだから、実力もないのに中途半端に売れたタレントは困る。

今から辞めるって言うなら辞めてもいいぞ、と蔵田に伝えろ。

まあ、そうなったら事務所そのものを辞めてもらうが】


ブツリ、と強引に切れる電話。


マネージャーが頭を掻きむしる。


イベント二日前。


蔵田麻里奈はマネージャーを恫喝していた。


思い通りにいかない、いや、いくわけのない状況に苛立った、八つ当たり。


【わたしはね、これまでの経験があるの。

大丈夫だから。

宗谷くんはプロドラマーだし、窪倉くんだってバンド活動してる……らしいし。

井上くんは超頑張って練習してるし、わたしもボーカルに手ごたえ感じてる。

何が不安なの?】


マネージャーはうんざりといった感じで、


【不安とかではなく、もうイベント内容変えるしかないと言ってるんです】


【変える? なんでよ】


【宗谷さん、窪倉さん、井上さんから出演辞退の連絡をいただきました】


蔵田には寝耳に水だったようで、


【うそ!!みんなはそんなこと言わない!】


とスマートフォンのメッセージアプリを開く。


そこで、メンバー達からブロックされていることに気づいてしまう蔵田。


【なんでよ……】


【蔵田さん、バンド演奏はもう無理です。ここは無難なトークイベントに変えましょう……】


空白の一週間は、どのルートを辿っても蔵田を追い詰めるものばかりだった。


「もう助けなくてよくないっすか?よくわかんないペナルティよりこの映像のが苦痛っすよ」


クラタがだるぅ、とあくびをする。


反論する気も起きないのは、すでにこの展開を四度経験しているから。


そう。

俺たちはまた四回もリテイクに失敗したのだ。

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