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その展開はご容赦ください  作者:
2章『青春にはご注意ください』
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2話

仕事を理由に誘いを断った真柴以外の四人は、蔵田が用意した飲食店で酒を酌み交わしている。


東京の中でも金持ち連中が利用するエリアで同窓会もとい、イベント決起集会が始まる。


蔵田はグラス片手に陽気な様子。


【みんなと仕事したいな、ってずっと思ってたんだ】


自分以外は芸能のど素人という状況で蔵田は続ける。


【ずっと仕事続けてきて、私がまだやってなかったことなにかなー? って考えたらバンド!音楽! 歌! と思って! そしたらみんなのことが浮かんだというか】


ずっと何を言ってるんだ蔵田。


ちなみに蔵田はバンドをやったことがない。


生まれてこのかた、やったことがないのだ。


歌もカラオケでしか歌ったことがない。


アイドル時代も、歌わせてもらえなかったのだ。


「いや、まず子どものこと考えろって感じっすね」


とクラタの正論刃が空を切る。


【わたしのファンイベントでバンドやれば音楽できるじゃん! って思ったの。みんなはやってみたくない? 青春やろうよ!】 


モニターを眺めながらクスノキは、


「この人、自分のファンの前で友達披露しようとしてない? ファンが見たいのって蔵田さんだけでしょ? 素人のおじさんじゃなくて」


とこちらも辛辣な感想を述べる。


蔵田が高級料理店に仲間を集めて高揚している姿は滑稽に見えた。


蔵田はさしたる考えもなく「やりたいから」という浅はかな動機でイベント私物化しようとしている。


芸歴の長さからか、自分を過信している様子で、それに巻き込まれる旧友たちからすればたまったものではないのでは。


という俺の見解は見事に外れる。


音楽スクール講師、宗谷が蔵田に便乗して、


【いいね! 青春やろう! 俺の嫁も麻里奈さんの大ファンだし、音楽面は俺に任せて】


と自信満々に叫ぶ。

ノリで参加表明するあたり、現実が見えていない感がある。


宗谷のモノローグが差し込まれる。


【麻里奈さんとバンドやったら嫁にも認めてもらえる】


有名人の威を借り、家庭仲を回復しようとする浅はかな宗谷。


【俺もう十年楽器やってないからなぁ……まあ、青春やるっていうならベース買ってみようかな】


と意味不明な決意をする井上。

青春ってなに。


井上のモノローグも差し込まれる。


【まりなちゃん、まりなちゃん。ずっとまりなちゃんに認めてもらいたかったんだよぉ。家族とかいまはどうでもいい。まりなちゃんのために……】


井上はかなり重めの愛情を蔵田に注いでいるようだった。


【嫁が……来る……逃げなきゃ……】


グラスを持つ窪倉の手は小刻みに震えている。

きっとアル中なのだろう。

呂律も回っていない窪倉。大丈夫か?


窪倉のモノローグは表で発している言葉と同じなので割愛。


窪倉の嫁は、蔵田に強烈な嫉妬心を抱えている。


何を隠そう、窪倉と蔵田は高校時代付き合っていたのだ。


その事実を嫁に話してしまった浅はかな窪倉。


この決起会の日も、窪倉は死に物狂いで嫁から逃げてきた。


帰宅後、窪倉は酷い目にあうことが決まっている。シンプルに頭が悪い。


「青春って万能の願望機かなんかすか?青春! って叫んだらパワーアップするとか思ってます? しねぇから! ノリで生きるな素人が! 現実見ろや!」


「落ち着けクラタ。現実にいない俺たちが何を言っても意味がない」


音楽をやるのはいい。


バンド活動だって好きにすればいい。


問題は、蔵田が仕事の一環で安直なバンド活動をしようとしていることだ。


ファンあっての職業につく蔵田が、ファンの前に素人芸を晒し、浮かれ上がる姿を想像し戦慄を覚える。


いやはや、人間はどうしてこうも視野が狭く、欲深いのか。


あらゆるものを手に入れても決して満足しない。


過去は素晴らしかった。未来は美しい。


美辞麗句の数々を、現実逃避の手段にしている人間を何度も覗き見てきた。


高校時代の思い出を美化し、旧友たちを自分の都合で振り回したい蔵田。


平凡な暮らしに飽き、蔵田への信仰がアツい井上。


妻に自分のかっこよさを魅せたい宗谷。


腹に一物を抱え、しかし友人のためと時間を捻出しようとする真柴。


一糸纏わぬ一物を晒していた窪倉。


蔵田の場合、だいぶタチが悪い。


蔵田は職業として役者をやっていて、金をもらっている。

いわゆるエンターテイメントを与える側の人間だ。


ここにいる素人三人は音楽を職業としているわけではない。

別の生業を持っている。


宗谷は指導者として音楽に携わっているが、正確にはエンターテイメントを与える側ではないだろう。


はばからず言えば、そんな素人を集めプロの現場へ導く蔵田の行為は狂気に見える。


蔵田の事務所スタッフが右往左往する場面がモニターに映し出された。


蔵田を支える事務所スタッフが、彼女の願望を叶えようと各所で働いている。


会場費用、物販の手配、ステージスタッフの招集など。


蔵田の一言で動くスタッフはそれぞれに職を全うしている。


画面がダイジェストのようになっていく。


「倍速にしますね」


マミヤさん? もう飽きたの?


「彼らはバンド名を決めるまで約一年、楽曲制作に五ヶ月を費やして結局オリジナル楽曲制作を断念します。

練習は一ヶ月から二ヶ月に一回のスタジオ練習。

イベント台本を依頼していた真柴さんが何度も催促してもなかなか動きませんでした。それに……」


口籠るマミヤ。


「皆さんもご確認いただいたかと思いますが、イベント直前のデータが閲覧できません。

介入は可能なのでしょうが、はて、なぜ見れないのか……」


マミヤさんがわからないならお手上げだな、という空気が場を包む。


飲み会決起会から一年後に蔵田麻里奈のファンイベントは開催される。


閲覧できないポイントはイベント前日から一週間前にかけて。


ここで、大きな破綻があったのか、とも思ったが、そもそもこいつらはずっと破綻しているようなものだ。


倍速で進む画面の中、真柴の疲労が色濃くなっていく。


イベント内容さえ決まらない中、真柴は慣れない台本を書き上げたが、結局それもボツになる。


最終的に真柴は静かに青春活動から離脱し、イベント運営スタッフが舞台台本を仕上げ、一年間練習を重ねたわけでもない素人バンドがステージに上がる日がやってくる。


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