3話
反社キッザニアな小学生時代を抜け、中学に進学した雨川と高橋。
神の悪戯か、再び同じクラスに属する二人。
そして饅頭と佐川。仲良しか。
【またか雨川!】
生活指導の先生にクソみそに怒られている雨川。
彼の隣には、頭を下げる高橋がいた。
【先生、僕の管理ミスです。すみません】
殊勝に謝罪する高橋を見て、生活指導は声音を弱める。
【高橋が悪いわけじゃない。雨川が提出物を失くしたのが問題なんだよ】
真面目にやれ、と雨川を怒鳴りつける生活指導。
【高橋を見習えよ雨川】
高橋は雨川と共に頭を下げているが、高橋の口元は緩んでいる。
小学生時代と違い、父の威光が使えない中学校に進学した高橋。
しかし、高橋は聡かった。
中学ではひたすらに品行方正な生徒を演じ、実際、文武両道の高橋は簡単にクラスの中心に躍り出る。
それに比べ、雨川は何をやらせても失敗続き。
勉強もスポーツもてんでダメ。
真面目さでもあれば救われただろうが、雨川はずっとやる気のない怠惰人間。
口癖は、【僕がやらなくても、誰かやる】だった。
クソ野郎。
そんな雨川を優しく助ける高橋。
クラスの日陰者に対しても分け隔てのない高橋くん、というイメージが完成していた。
中身は何も変わらず、外聞だけをすり替えた高橋。
いじめられ続ける雨川は、そんな高橋の企てには何も気づいていない。
中学生になっても用水路でのデスマッチは続いていた。
もだえ苦しむ雨川を、用水路に沈める高橋。その横に饅頭と佐川。
変わらぬ光景が恐ろしい。
「雨川さんはカッコつけ、なのです」
「突然なんです?」
「あのですねアカシさん。家や学校で邪険に扱われているにも関わらず、雨川さんは大言壮語を吐きつづける男でして」
【高橋と俺はマブダチだから】
雨川は日陰もの友達に嘘を吹聴している。
【高橋はさ、家柄もあってちょっと暴力的だけど、それを受け止めるのが俺の役目っていうか】
雨川はいじめられている事実から全力で目を逸らしていた。
高橋の暴力を受ける自分を慰めるためなのか、それともただの馬鹿なのか。
雨川は友人たちに見え見えの嘘をついては格好つけている。
【まあ、高橋には俺が必要なんだよ】
友人たちは雨川の大言壮語に飽き飽きし、雨川は静かに友人を失っていく。
ずぶ濡れ泥まみれで我が家に帰宅した雨川が玄関に立つ。
【あんた!またそんなに制服汚して!】
雨川母はすごい剣幕で怒鳴りつける。
心配の一言もなく、文句を連ねる雨川母。
【いやぁ、友達が用水路に落ちちゃって。助けてたらこうなってさ】
精一杯のカッコつけを披露する雨川。
用水路に落とされたのはもちろん雨川である。
【あんたみたいな子と友達になってくれる人、いないでしょ】
雨川母は息子の悲惨な姿を見て鼻で笑う。
心配する様子はなく、【あぁ、家が汚れちゃうわぁ……】と息子に侮蔑の目を向ける。
「やべえ母親っすね」
「雨川さんのお母様は、父親の連れ子である良哉さんに当たりがきついのです」
もう少しまともな登場人物が出てきてほしいと願う。
「ちなみに」
マミヤは言葉を継ぐ。
「雨川父は借金を残し失踪しました」
願い虚しく、まともな奴なんていなかった。
「お姉さんがいるんだね?」
クスノキがリビングでテレビを見ている少女に気づく。
「雨川里佳子さん。雨川良哉さんの一歳年上のお姉さんです。お母様の連れ子です」
「この人には当たりきつくないんすか?」
クラタが里佳子を指さして言う。
「はい。お母様は里佳子さんを溺愛しておられます」
里佳子が良哉に気づき、話し始めた。
【あーー良哉ーー!見てみてー】
里佳子は何かを手に良哉に近づく。
【粘土細工したのー】
里佳子は良哉の顔面を模した粘土細工を見せつける。
胴体がなく、顔面だけの粘土細工は精巧な作りで、まるでミニマムな良哉の首を里佳子が持っているような錯覚を覚える。
【授業でねー、粘土細工で作れって言われてねー、良哉の顔作ったーほら似てるでしょー】
あー、崩れたーと指を粘土にめり込ませる里佳子。良哉(粘土細工)の眼球がほじれた。
良哉は苦笑いを浮かべ、里佳子はぐちゃぐちゃになった粘土を握って【あははー崩れた崩れたーおもしろーい。りょうやぐちゃぐちゃー】と高笑い。
「サイコ姉っす」
「サイコキラーみたいな中学生に、サイコパス的中学生がいる世界」
「アカシさん、ひいてるっすね?」
「これでひかないやつは奴らと同類だわ」
「アカシさん鋭いですね」
なにが?
「私は考えたのです」
マミヤが語る。
「皆さまを導くのが私の役目」
「はい」
「的確な助言をすることが私の役目」
「そうですね」
それが主様のためにもなるわけです、と悦に入った表情で続けるマミヤ。
「高橋さんと里佳子さんが同類、とアカシさんはおっしゃいましたね?」
「ああ、言いましたけど」
「同類なら、ぶつければいいのではないでしょうか」
「はい?」
「サイコキラー的な男対サイコパス的女のデスマッチを開催すればいいのではないかと」
化け物には化け物をぶつける理論ですね、と自信満々で言うマミヤ。
主様、管理官早急に変えたほうがいい。
「もちろん、冗談半分ですよ」
やだなぁ、皆さん本気にして。とマミヤが笑う。顔は笑っていない。
「確かに、ぶつければいいのかも……」
「何言ってんだクスノキ」
「あのね、マミヤさんの言う通りかもって思うの」
クスノキがおかしくなっちゃった。
「デスマッチ?みたいな暴力はダメだけど、里佳子さんと高橋さんは似て非なる存在だと思うから」
「相性は悪そうだな」
粘土細工で笑いつかれた里佳子は、粘土を雑に鞄へ突っ込み、【おかーさーん。ごはんマダー?】と良哉を無視して駆け出す。
「里佳子は頭のネジが飛んでる女っす」
「そうなの。でも、計算で変なことしてるわけじゃないでしょ?」
クスノキが続ける。
「高橋さんは自分の見え方とか立場を計算で作ってる。誰を傷つけて、誰を褒めればいいかっていつも考えてる人」
高橋は狡賢い。
力のある者には歯向かわず、懐に入るような振る舞いをする。
一方、自分より劣ると見限った者には徹底した服従を求めるのだ。
「ナチュラルで場を破壊できる里佳子さんは、高橋さんの天敵だと思う」
「なるほどな……」
生物には得手不得手がある。勿論人間だってそうだ。
ヤクザ学を習得し、着実に修羅の道へ進む高橋。
それに巻き込まれ破滅の道を辿る雨川良哉。
高橋から雨川を引き離すために、里佳子の存在は必要なのかもしれない。
「私、介入するよ」
里佳子さんに、とクスノキが言う。
高橋が雨川良哉を支配し続ける人生に、一筋の希望が射し始めた、のかもしれない。




