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その展開はご容赦ください  作者:
7章『その展開に祝福あれ』
24/28

1話

「変な奴、だったなお前」


「改めて言わないでよアカシくん!……恥ずかし」


顔を真っ赤にして俺の肩を叩くクスノキ。


マミヤとシンがそんなクスノキの慌てっぷりを見て微笑む。


クスノキは真っ黒になったモニターを見て呟いた。


「みんなとちゃんとお別れ出来なかったね」


「そうだな」


「いろいろ思い出せたのに」


「ああ」


「みんな今度は幸せになれるかな?」


「どうだろうな」


クスノキが力強く俺を叩く。


「そこは、大丈夫って言わなきゃ!」


「いや、まああやふやなことは言えないから……」


しんみりとした空気を裂くように、マミヤが大声で告げる。


「運命帳、ご開帳!」


次の瞬間、周囲の空間がまるで宇宙空間のように広々としたものに変貌する。


俺とクスノキ、マミヤとシン以外は物質のない空間。


厳密には俺たちも物質じゃないけど。


「マミヤさんがまた変なこと始めた……なんなんこれ?」


「何事もサプライズが重要かと。盛大に運命帳ご開帳いたしました」


だから、それがなんなんだって聞いてんの。


「サプライズもほどほどにしないと、見てくださいクスノキを」


クスノキは完全にフリーズし、突然現れた空間をポカンとした表情で眺めていた。


「ああ……クスノキさん戻ってきて」


「クスノキ!」


「はっ、あ、アカシくん。どこここ?」


「サプライズ空間だってさ」


「明るい星みたいなのが光ってるよ!イルミネーションみたい」


「誕生日会でも始まるんじゃないか?」


「ほんとに?私誕生日いつだっけ?」


そんなわけないけど、という俺の呟きを無視して、クスノキがワクワクしている。


霊魂に誕生日とかはない。


「ここは生きとし生けるものの集合地帯。運命帳本来の姿です」


「もしかして」


とクスノキが物知り顔で言う。


「アカシくんちのレコード!」


「アカシックレコードのことか?」


それ、とクスノキは少し恥ずかしそうにしている。

言わなきゃいいのに。


「人間はそう呼びますね。その理解で正しいかと」


万物の行き交う姿が周囲に映し出される。

比喩ではなく、全てがある空間。


「ある意味、誕生日会をやるみたいなものです。生まれ変わる誕生日」


誕生日会でした。やったね!


「いやいや、マミヤさん」


「冗談半分ですよ」


とマミヤ。あと半分はなんだ。


「アカシさんとクスノキさんのお顔を見ていると、ああ、決めたのだな、と思いまして」


俺はクスノキと顔を見合わせる。


クスノキの真剣な顔を見て吹き出してしまう。


「アカシくん、なんで笑うの!」


「悪い悪い」


お二方は、とマミヤが訊ねる。


「自分の前世に戻る覚悟が出来たようで」


「どのみち戻らないといけないんでしょ?クスノキはどうするか知らないですけど、俺は」


「私も戻るよ!」


でもお前、と止めてやりたくなる。


また、あの人生を味わうのは酷だ、と思う。


クスノキさん大きい声、と笑みを浮かべるマミヤ。


謎空間はどこまでも広がっている。


遠くの方では光が点滅し、上下左右あやふやな空間が続く。


「大丈夫です。あなた方はまだリテイク権利を利用していません」


たしかに、と呆気にとられる。


普通に前世を見ただけだった。


「でも、どこを直すかって言ってもなぁ……」


クスノキは明確にリテイクすべきポイントがある。


だが、俺は。


【アカシさんっていっつも決められないっすよね。安全地帯を行きたい系男子っす】


「クラタ?」


「お久しぶり?っすねアカシさん」


クスノキさんも!と元気な声が空間内に響き渡る。

音声だけしか聞こえず、クラタの姿は見えない。


「お前もう生まれ変わったんじゃ……」


「ああ、なんか引越し作業があるから待っててって言われたっす」


係の人に、と笑うクラタ。係の人って何?


「お前、アイドルになるんだってな」


「そうなんすよ。ビックリっすよね」


「変なイベントやったり、パワハラしたりすんなよ」


「やんないっすよ!あ、いや、たぶん……やんないっす」


語気が弱くなるクラタ。心配だ。


「……ばあちゃん、いなくて大丈夫か?」


クラタこと姫奈の祖父母は近いうちに亡くなってしまうだろう。


「もちろん辛いっすよ」


あっけらかんと言うクラタ。


「ばあちゃんだけが姫ちゃんすごいね、頑張ってね、って応援してくれたんで。じいちゃんはどうでもいいっすけど」


可哀想なじじい。


「でも、ばあちゃんもここに来るんなら、見てくれるはずっす」


「何を?」


「うちがトップスターになって大活躍する姿っすよ」


「大きくでたな」


「夢は大きくっすよ」


それに、とクラタは言葉を継ぐ。


「ばあちゃんにちゃんと伝えられなかったんで」


「何を?」


「愛してる、って」


とほくそ笑むクラタ。


こいつ……。


「俺らの前世見たなお前」


「この空間プライバシー筒抜けなんすよ」


ケラケラと笑うクラタ。クスノキは、


「クラタさん意地が悪い」


とむくれている。


「いやまあ」


とクラタは言い直す。


「冗談じゃなくて、そう言ってやりたいから、うち頑張るっす」


クラタが握り拳をする姿が目に浮かぶ。


「まあ、ほどほどにな」


「ほどほどにやってたらトップになれないっすよー。ほんとアカシさんは……あ」


そろそろ時間みたいっす、とクラタが言う。


「では、皆さんお元気で、っす!」


またどこかで!と告げるクラタの声が遠くなる。


「最後まで騒がしいやつ」


「いいじゃん、賑やかで」


寂しいのはもういいよ、とクスノキが微笑む。


【みんな〜みんな〜】


か細い声が空間に流れている。


「ユラちゃん?」


「いたのかお前」


【クラタっち声デカすぎ〜。わたし、ずっと喋ってたのに〜】


あーーん、とユラの泣き声がこだまする。


「クラタと挨拶できたか?ユラ」


クラタっち……と呟いてまた泣きだすユラ。


「なんかまた余計なこと言ったな、クラタ」


「ユラちゃん何言われたの!?」


【稀代の呪詛師、呪いの王って】


わあ、ひどい暴言。


「クラタさんさぁ……」


【クスノキっち……】


「どうしたのユラちゃん」


【じゅそし、って何ぃ〜わーん、きだいってなにーー?】


意味わかってなかった。


【クラタっちが、これからは守ってやれないけど、頑張れって。さよならいやぁ〜】


稀代の呪詛師と言われたからでなく、クラタと別れるのが辛くて泣いていたユラ。


シンが補足するように言う。


「ユラさんは前世で閉じ込められてたせいもあってか、地獄でも閉じこもりがちだったんだよ。なかなか友人が出来なかった」


君たちが来る前の話さ、とシンは続ける。


「クラタさんは君たちが来るまでユラさんを守っていたよ。地獄は血気盛んな輩も多いから」


クラタが地獄の霊魂に殴りかかる様が容易に想像できた。


「ユラさんを舎弟にし、地獄を闊歩していたクラタさんは立派だったよ。

クラタさんの言うこと何でも聞く立派なユラさん。

飼い主になつく犬みたいで健気だったなぁ、あの頃のユラさん」


なんかこう感動する話になるかと思ったのに残念だよ。


【クラタっち〜地獄怖い〜戻りたくない〜】


「大丈夫です!ユラ!」


ジャクソンが鬼のお面を被り仁王立ちしていた。


「何でコスプレしてんだ、くそ人形」


「アカシさん、これは地獄を戦い抜く覚悟を形にしたものです」


ユラ、と改めてジャクソンが語りかける。


「私がいますよユラ!地獄の輩など、私の呪いで一網打尽に……」


「ジャクソンくん」


シンがジャクソンの首根っこを捕まえて笑みをたたえる。


「あ、シンさん……」


「その呪いがユラさんを苦しめたこと、忘れないでね」


ね、と優しい声音で伝えるシン。ジャクソンはガタガタと震えていた。


「わかる!私にはわかりますよ、アカシさん」


「何がだよ?」


「この男、私より超強力な呪いを内側に抱えています……恐ろしや」


シンは相変わらず表情を変えない。


【ジャクソン……】


「なんです?ユラ」


首根っこを掴まれたままのジャクソンにユラが言う。


【お痛はもうダメ……】


「でもユラ……」


【私、みんなと仲良くしたかった。でもどうしたらいいかわかんなくて】


ユラはボソボソと続ける。


【どうやって伝えたらいいか、どうやって話したらいいか、わかんなかった……だからって、あんな八つ当たり。もう、あんな気持ちはいや】


壊してしまった自分の前世。


思うがまま行動してしまった自分を悔いるようにユラは、


【今度は、みんなと仲良くしたいよ〜。みんなに謝りたいよ〜】


とまた泣く。


伝え方がわからなくて、すべてを壊すことでしか存在を守れなかったユラ。


「ユラちゃん!」


【なに?クスノキっちぃ】


「地獄は反省する場所だって、お母さんが読んでくれた本に書いてあったんだ」


【……反省?】


「そう。やってきたことをダメだったなぁ、って、悪いことしちゃったなぁ、って。そうやって自問自答して、生まれ変わるんだって」


自問自答ってなに〜とユラがまた泣く。


「つまりね、ごめんなさい、ができるってこと」


とクスノキに言われ、スンスンと鼻をすするユラ。


【ごめんなさいはユラしてる。ずっとごめんなさい、思ってる】


「じゃあ、きっと大丈夫。ユラちゃん、優しいから。優しい人しか反省って出来ないもんね、ね、アカシくん」


「ま、そうだな」


「そうですよユラ殿。我らの命は短い。ね、ジャクソンくん」


誰か来た。


「う、うぬは……マイケル殿……?」


シンの肩の上で両腕を上げるマイケル。

カマキリのマイケルがそこにいた。


「美しき世。命の煌めき、儚さ」


なんか語り始めるマイケル。

情報が混線するからやめてほしい。


「私のように畜生道を繰り返したものでも世は美しい、と思うのです。日が差し、僅かな命を謳歌する日々が始まると……」


意気揚々とめっちゃ語るマイケルに、魔の手が迫る。


「うるさいよ、マイケルさん」


シンの手がマイケルを潰した。


「マイケル殿―――!」


キサマーーあぁーー!鬼、悪魔!と叫ぶジャクソン。


「あ、それどっちも僕の部下だね」


「うぅ……地獄の王め……人でなし」


マイケルの亡骸に縋る鬼の面をしたジャクソン。


「ちゃんと働いてもらうよジャクソンくん。ユラさんのためにも」


「ユラのため……なら私はボロ雑巾にされても」


頑張りますよ!と腕を振り上げるジャクソン。

静かに光となっていくマイケル。何しに来たんだろ。


決意を固める市松人形の様子を眺めつつ、シンが俺に耳打ちする。


「お堂の汚れがひどくてね」


「何の話だ?」


「地獄の僕の住まいなんだけど、雑巾を切らしてたから掃除できなくてさ」


ジャクソンを指差し、笑みを浮かべたシン。


ジャクソン、リアルボロ雑巾確定。


「シン」


「何?アカシくん」


「やっぱお前酷いやつだわ」


人の心とか、と言いかけて、あるわけないよな、と渇いた笑いが出る。


「ユラさんとジャクソンくん。そろそろ行こうか」


アカシくんクスノキさんも元気で、と言って、シンはジャクソンと共に消えた。


騒がしさがおさまり、マミヤは消える寸前のユラに語りかける。


「ユラさん」


【なんですかぁ?】


「いつでも輪転区でお待ちしております。

私は神の祝福の庭で、あなたのような霊魂を導くのが役目ですので」


【また生まれ変わっていいんですか?】


「はい。あなたが反省と後悔を全うした先でまたお会いできること、楽しみにしております」


マミヤは深々とお辞儀をする。


【ジャクソンと頑張る!】


みんなまたね、とユラの声が遠くなる。


「そういやマミヤさん」


「はい、アカシさん」


「タミヤは?」


「タミヤさんは藻屑となったのでこちらにはいません」


「もくず……」


クスノキが辛そうに唸る。


【あ、もくずになる前のタミヤっちに会ったっすよ!】


「お前まだいたのかよクラタ」


「引越し係さんがまだ整理できてないよ、って」


引越し係とやら、頑張れよ。


【タミヤっちはもくず、っていうか、迷いなく生まれ変わったんでここにはいないんすよね?】


ね、マミヤさん、と聞くクラタの声にマミヤが応じる。


「タミヤさんは、巻き込まれて罪を重ねただけの霊魂でしたので、わりとすんなり旅立たれました」


【蔵田麻里奈よりいい女と出会ってやる、って意気込んでたっす】


無理そう、と笑うクラタ。


「マミヤ様!魂移送準備完了しました!」


もう、落ち着いたと思ったら、次から次へと来訪者。


「みなさんの魂と肉体を繋ぐ引越し屋さんのお二人です」


いろんな役職があるんだなぁ、と納得するしかない俺とクスノキ。


引越し業者のウカワとサカワが騒ぎだす。


「新人!どこ行った?」

とウカワ。


「ウカワさん、もしかしてあいつクラタさんのほうに」

と後輩っぽいサカワ。


「エスケープしたい世代か……困ったもんだなサカワよ」


「青春、してる感じですねウカワさん」


ただの職務放棄では?


【ぶっ飛ばしていこうぜ!】


やっぱりクラタのほうにいたよ新人。


【最高っす!ウエカワさん!】


クラタが新人ウエカワと良からぬ会話をしてる。


【アカシさん!クスノキさん!

引越しトラック来たんで生まれ変わってきまっす。

最高速で!】


え、トラック?


【しっかり捕まってなお嬢ちゃん】


と新人ウエカワがエンジンをふかす音がする。

ねぇ、トラックとは?


「クラタさん、お元気で」


とマミヤが静かに呟く。

エンジンの音できっと聞こえてない。


「お二方にもトラックご用意してますので」


とウカワが胸を叩く。

トラック。


「なんでもありだな、ここ」


「今に始まったことじゃないよ、アカシくん」


『あなたの魂、安心安全丁寧にお運びします!引越しのウカワ』

と荷台に書かれた引越しトラックが二台、目の前に現れる。


クラタを乗せたトラックのドリフト音が空間に響いていた。

看板に偽りありである。


「きっと速いんでしょうね、マミヤさん」


「牛や馬より迅速にお運びしますよ、アカシさん」


なんかこう、風情とかが足りないんだよなぁ。


「クスノキさんは」


とマミヤがクスノキに訊ねる。


「事故にあわなかった人生、にお送りしてよろしいですか?」


事故にあわず、人生を謳歌できればいいと、心からそう思う。

謳歌できなくとも、生きていろんなものが見られるといい。  


クスノキが力強く頷くと、


「神になることもできるのですよ」


とマミヤが突然の提案をする。

いつも唐突なんだよマミヤさん。


「神様って、なれるものなの?」


「全知全能の神は主様お一人ですが、つかえる神々の中には人間だったものもおります」


「マミヤさんも?」


「私もかつてはそうだった、と聞いています。

主様に選ばれ、私は皆さまを見守り手助けする役目を与えられた者です。神はどこにでもいます。

みなが気づかないだけで」


かつて人だったものが神のつかいとなる。

クスノキにはそんな選択肢があるということか。


「主様はクスノキさんならいいよ、とおっしゃってます」


「軽くない?」


クスノキが控えめに笑う。


ややあって、


「やっぱり、私生まれ変わりのほうがいいな」

と声をあげたクスノキ。


「ちゃんと生きてから、ここに来る。

そしたらまた誘ってよ、マミヤさん」


ええ、ええ、とずびずび泣きながら、

「ずっと見守っておりますから」

とマミヤ。


最後までクスノキに甘いよなぁ。


「で、アカシさんは……」


とマミヤがついでのように聞く。


「適当すぎやしませんか」


「冗談半分です」


だから、あと半分の所在。


「まあ、俺は別にいいや」


「え?いいや、というのは?」


「別にどこも変えなくていいって意味です」


しかし、と躊躇うマミヤ。


「どこを変えても、俺自身が自覚しないといけないわけですから」


自分で気づける人生にしたい。


それに、


「どっかを変えたら、ルミちゃん描かなくなるかもしれませんし」

と言うと、


「それはいけません!アカシさん」

と狼狽するマミヤ。


「主様は待っておられます」


「続き描け、ってことですね」


「それだけではなく」


マミヤが姿勢を正して続ける。


「子どもたちと通じ合う日を心待ちに。

子どもたちが健気に語りかけてくれる日を待っておられるのです」


だから、描いてくださいね、とマミヤが微笑んだ。


神様の庭での奇怪な生活が終わる。


明日さえもわからなかった日々に帰っていく。


では、とマミヤが俺たちに手を差し出す。


俺とクスノキの手を強く握って、マミヤは言う。


「ご多幸を」


引越しトラックがエンジンを鳴らす。


ウカワとサカワはそれぞれのトラックで、俺たちを待っている。


ここからは別々の道へ行く。


「じゃあねアカシくん」


「ああ、元気でなクスノキ」


俺たちはそれぞれトラックに乗り込む。


クスノキの乗るトラックがゆっくりと動き出した。


「アカシくん!」


クスノキが窓から身を乗り出して俺を呼ぶ。


「危ないぞ!」


「あのね!私アカシくんの漫画読むから!」


絶対見つけて読むから、とクスノキがこれまでに聞いたことのない声で叫んでいる。


ここでの記憶は持っていけない。


だから、そんなこと無理だと思い言葉に詰まる。


「アカシくん!」


クスノキが、必死に叫ぶ。


「感情は消えないよ!だから……」

 

絶対見つける!とクスノキは言い切った。


俺を乗せたトラックが動きだす。


クスノキとは別々の道へ走り出す。


どんな展開が待ち受けているかわからない世界へ。


「クスノキ!」


身を乗り出して叫ぶ。


「楽しみにしとけよ!」


笑顔で手を振るクスノキが遠くなり、エンジンが回転数を増していく。


容赦なく進み続けるトラックの中で、これから来るやり直しのきかない世界を思う。


不思議と、胸が高鳴るのを感じていた。


これがきっと、〝期待〟なのかもな、と思った。


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