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その展開はご容赦ください  作者:
6章『ある地獄での暮らしについて』
23/28

1話

映像はまだ続く。


相変わらず地獄とは思えない緑であふれた広場にビニールハウスが点在している。


夕暮れ時の赤みを帯びた空の下、広々とした静かな農園にシンの声が響く。


【アカシくん、それ終わったら耕うん機動かすから手伝ってね。米がないと君たちも嫌でしょ】


日本人だもんね、とシンがアカシに語りかける。


【芋が抜けないんだよ……ちょっと待ってろ……】


アカシは芋掘りに苦戦している。


【大量っすーー】


クラタが両手いっぱいに芋を抱えて走り回っていた。


ユラは土の周りに住んでいる虫に怯えて畑に近づけない。


【おかしい。農作物の収穫がデータとあわない。タネから収穫までが早すぎる】


タミヤは地獄の時間経過の異常さをデータ化できず苦戦していた。


【食べ物作るって大変なんだねアカシくん】


【クスノキ……待ってくれ、芋が抜けない】


アカシくん意外と不器用?とクスノキが首を傾げる。


【少し休憩しようか】


とシンが提案する。


【待ってくれ。芋も抜けないやつだと思われたくない……】


力を込めて芋を引っ張るアカシを見て、クスノキは笑いを堪えている。


映像は切り替わり、シンとアカシが農園の端で休んでいる様が映る。


【アカシくんはさ、なんでこんなことしてんだー、って思ってるでしょ?】


【そりゃあな。とても地獄とは思えないし】


日のかげり、土の感触、空気。


まるで下界のような風景にアカシは困惑している。


【父上は罪を重ねたものには痛みを、って思想の方だから、僕の方針とは違うんだよ】


良かったね僕のところで、とシン。


【重労働ではあるけどな】


田畑を耕し、育て、見守り、収穫する。


下界とは生育環境も時間の進み方も違う。


安易に収穫できるとはいえ、その作業はやはり大変だ。


【命を育て、それをいただく。そういう人間の暮らしが好きでね。たいした罪ではない君たちにはこれくらいの作業でいいんじゃないか、ってね】


【根底では馬鹿にしてるよな、お前】


【僕を恐れず、ずけずけ言うアカシくんも大概だよ?】


言ってろ、とアカシがシンから目を逸らす。


【みんなの生前の話は聞いた?】


シンがアカシに訊く。


【まあ、聞いたよ。たいした罪じゃない、ってか罪なのかもわからんな】


俺と違って、と腐すアカシに、


【みんなそう思ってるよ】


と農園の中でまだ働くみんなを眺めて言う。


【クラタさんはなんで母親と同じ過ちをって。ユラさんは自分の都合で壊してしまったものについて。クスノキさんは何もできなかった自分に苦しみ、タミヤくんはまぁ】


わかってないかも、と苦笑するシン。


タミヤは農作業に参加せずパソコンをカタカタ操作している。


【それぞれ前世を悔いている。

ここでの君たちの名前、なんでその呼び方なのか知ってる?】


【そういや、知らないな】


【戒めの名前がここでの呼び名になる】


ああ、とアカシが天を見上げる。


【アカシ、ねぇ】


【嫌いだった?その名前】


【嫌いってわけじゃないけどな。不釣り合いだとは思ってた】


証。

証を残せと言われているようで、苦手だったな、とアカシが言う。


【考えすぎだよ】


【そうだな】


【考えすぎるんだ人間は。多くのルールを自分たちで作って、それを守れなくなって苦心する。

守る必要なんてないときだってあるのに、どうしてだろうね】


【それは視野の問題だろ?】


【視野?】


【カメラのフォーカスみたいなもんだよ。カメラをいろんなとこに振り回すから人間は。お前みたいに自分のことばっか考えてないんだよ】


【君は面白いことを言うね】


【そうか?】


【フォーカスは絞ったほうがいい、なるほど、覚えておくよ】


参考になったようで何より、とアカシは呆れながら言葉を継ぐ。


【もうすぐ、ここでの暮らしも終わりか】


【君たち、輪転区からお呼びがかかったからね。

あそこの管理者の方は立派な方だから、失礼のないようにね】


まあ、ここでの記憶はなくなっちゃうんだけど、とあっけらかんと言うシン。


【前世とここでの記憶消す必要あるのか?】


【まあ、そういうルールだから。まっさらな状態で生まれ変わるための修行を、ってね】


結局ルールかよ、とため息をつくアカシをシンが優しく見ている。


【いずれ思い出すこともあるかもね】


【そんな適当な】


【天のお方は、記憶は消しても感情は残す方針らしいから】


覚えていられるといいね、と農園を指差すシン。


【この景色】


作業に飽きたクラタがユラを連れて走り回っている。


タミヤは虫の大群に襲われ、パソコンを抱えて逃げ回る。


クスノキが泥だらけの顔でこちらに手を振っている。


【アカシくーん!でっかい芋!早く、来て!】


と顔の土を拭うクスノキ。


走り出そうとしたクスノキはつるに絡まって滑稽に転んだ。


【変な景色】


とアカシは呟いて、


【いま行く!】


と言って面倒くさそうに立ち上がった。


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