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その展開はご容赦ください  作者:
5章『どの展開なら愛せたでしょうか』
21/28

4話

【お母さんが泣いている。


お父さんも泣いている。


二歳年下の妹は、指をくわえて私を見つめてる。


ごめん、ごめんね愛花あいか


ごめんね、守れなくて。


何度も何度も、謝って、泣いている】


楠木愛花くすのきあいかはベッドから動けない。


クスノキの前世は、この場所で始まり、この場所で終わる。


【わたしは言葉を話すのが遅い子だった。


四歳になっても言葉を発さない、心配ばかりかけてたわたし。


話せなかったわけじゃないの。


恥ずかしくて、ためらって。


心配かけてごめんなさい。


そんな些細なことを、伝えられなくなってごめんなさい】


愛花の追懐は、家族への謝罪で溢れていた。


【事故の日も大きい声を出そうと思ったの。


でも、喉の奥がきゅっとなって、気づいたら身体が動かなくなっちゃって】


主治医が【残念ですが、回復の見込みは……】と愛花の家族に伝えていた。


信号無視の車と接触した愛花は、身体を強く打ち、寝たきりとなってしまった。


【植物状態、って言うんだって、お母さんが言っていた。


お母さんは、愛花ちゃん、聞こえてる?聞こえてたらいいな、って何度も話しかけてくれている。


聞こえてるよ、って言ってあげたかった】


愛花はどこにも届かない呼びかけを続けた。


【お父さんが仕事で行った場所の話をしてくれる。


こんなことがあってな、すごい景色でな、って、楽しそうに。


お母さんはいつも私の耳もとで本を読んでくれた。


面白いお話でしょ?愛花ちゃん、ちょっと悲しいお話だったね、愛花ちゃん。


二人とも、さよならする前に決まって寂しそうな顔をしてた。


そんな顔しないでよ、って思ったけど、そんな顔をさせてるのってわたしじゃん、って思う】


日々は残酷に過ぎていく。


愛花の妹、立花りっかが小学校に入学した。


愛花が動けなくなって、五年が過ぎた。


【立花が真っ赤なランドセルを見せてくれる。


ピカピカのランドセルを背負って立花は、「お姉ちゃんと一緒に学校行きたい」と泣き出して、お父さんお母さんはてんやわんや。


立花。


お姉ちゃんも一緒に行きたかったよ。


でも、そんな風に泣いたりもできないんだ、お姉ちゃん】


申し訳なさで愛花の心は潰されそうだった。


【毎日毎日真っ白な天井を見ていたわたし。


そんなわたしをお母さんが外に連れてってくれた!病院の先生も一緒で、「近くを散歩するだけなんだけどね」とお母さんが申し訳なさそうに言った。


いいの、嬉しいよ。


飛び跳ねて喜べたら良かったのに】


医師付き添いのもと、愛花を車椅子に乗せ散歩する愛花の母。


病院に併設された公園で、木漏れ日にふれる。


公園の木々が風に揺れている。


【「大きい木だね、愛花ちゃん」とお母さんが指差す。


クスノキって名前の木が堂々と公園の真ん中に立ってた。


「立派な木」ってお母さんが目を細める。


遠い空は青く広がって、その空に向かって真っ直ぐ伸びるクスノキ。


何年も何年もかけて、ゆっくり大きくなった木。


わたしはずっと止まったまま。


お母さん、いつまでわたしを見ててくれる?


あのクスノキみたいに大きくなれないわたしを、見捨てないで】


愛花の父と母は献身的だった。


代わる代わる病院を訪れては、愛花に語りかける。


【天国と地獄がでてくるお話をお母さんが読んでくれた。


人のためにいいことをした人が天国に。


人に悪いことをしたり、迷惑かけた人は地獄に行く。


怖いお話だった。


だって、わたしはきっと地獄に行くんだろうな、って思うから】


父と母は目に見えて疲弊していた。


愛花が動けなくなって十年が過ぎていた。


【お母さんが眠ってる。


お仕事が大変らしい。


わたしに話しかけては、時々椅子に座ったまま寝ちゃうことがあった。


お父さんも出張?が多くなって中々会いにきてくれなくなった。


「お母さん頑張るね」


目の下に黒い影を作って、お母さんは何度もそう言った。


もう、頑張らなくていいよ、って言いたかった。


わたしのことで苦しまないで】


十五年の月日が経ち、高校生になった立花が男の子を連れて愛花の病室に訪れた。


【立花の彼氏さんはとても優しそうな人。


話せないわたしなんかに緊張して、「り、りっかさん、と、お付き合いして、ます」と挨拶してくれた。


「ごめんね、お姉ちゃん。でも、りつくんがお姉ちゃんにも挨拶したいって」


こないだうちに律くんを連れてったらお母さんたち喜んでね!


立花は小さな時と変わらず明るくわたしに話しかけてくれる。


でも、わたしは違うことを考えてる。


ああ、わたしはみんなの輪の中に入れないんだ。


立花みたいに可愛い制服を着て学校に行ったり、律くんみたいな優しい男の子と恋することもできないんだ。


って、悪いことばかり考えてるの。


ごめんね、立花。


悪いお姉ちゃんで、ごめんね】


愛花が動けなくなって二十年が過ぎた。


ある日、愛花の容態が急変する。


【胸が苦しい。


身体が痛い。


痛い、と声を出したい。でも何も伝えられない。


お父さんとお母さんが手を握っている。


シワが増えたお父さんとお母さん。


立花は結婚した律くんと一緒に、わたしを見て泣いている。


みんな、泣いている】


よく晴れた昼時だった。


愛花に繋がれていた生命維持装置が外されていく。


命が、終わっていく。


【ずっとずっと、伝えたかったことがあるの。


迷惑ばかりかけたわたしを、ずっと見守ってくれてありがとう、って。


ごめんね、って何回も唱えるうちに、なんか違うなこの気持ちって思ってたの。


お母さん、お父さん、立花。


愛してくれてありがとう。


愛してる、って伝えられなくてごめんなさい。


って、結局謝っちゃった。


生まれ変わりってのができたらさ、また……】


【会えたらいいな】と心の中で呟いて、愛花の意識が消えていく。


あの日見上げていたクスノキの木より高く浮遊する愛花の魂。


叶わなかったすべてを残して、楠木愛花の静かな生涯が幕を閉じた。


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