3話
真柴は、いや自分はそういう人間だったのか。
モニターの前に戻り、周囲に目をやる。
マミヤが静かに訊ねる。
「思い出せたでしょうか?アカシさん」
嫌になるほど鮮明に思い出した。
「ずっと外野から見てたんですね。俺は」
今と一緒だ、と言うと、マミヤが目を伏せる。
「幸せって瞬間的なもので、真柴はずっと終わりのときを考えてた。楽しいと思っていても終わる。過ぎていってしまう」
身を焦がすような感情を感じられなかったのは、すべて一過性のものだから、と気に留めなかったからだろう。
「期待してなかったんですよ、真柴は。周囲にも自分にも。だから求めを拒否して、求めることもためらった」
リテイク作業の中で、なぜこいつらは不用意に感情に従うのか、と感じてきた。
何かを成したと言われたい。
何かを残したい。
認めてもらいたい。褒めてもらいたい。
そんな欲望に従って、自分を崩壊させる人間たち。
そうか、
「真柴が描いてたのは、よくある物語だったんですね」
マミヤさん、と聞く。
「よくある、というわけではありません。時折そのような出来事は起こるというだけです」
下界では、とマミヤ言葉を結ぶ。
「女に溺愛して自分を失ってくタミヤの前世。
有り余る才を閉じ込められて、崇められ、周囲を破壊したユラ。
親と同じ道に立ち、過去の過ちを懺悔していくクラタ」
全部描いていた。
しかし、事実はより滑稽で悲惨だった。
「真柴の人間観察は甘かったんですよ。希望を持ちすぎた」
人間に期待していた。自分にも期待していた。
だから真柴は、
「ルミちゃんは解決していく。多少荒唐無稽な解決方法でも最後はみんな笑ってハッピーと結ぶ」
「そうあって欲しかったのだと思います」
マミヤは遠い目をして続ける。
「真柴さんの期待は創作で具体化していきました。叶わないことはない、と願う赦しの作品は、主様を喜ばせましたよ」
「喜んだ?」
「はい。生きようとした人間の軌跡だ、と」
それは何より尊いのだ、とマミヤは言葉を継ぐ。
「諦めなかったんだ、と我が子を愛しく見つめておられました。
だから主様は、あなたにもう一度生きてほしいと記憶を戻したのです」
忘れていたことを一斉に頭へぶち込まれた。
主様の期待は重い。
「酷なことをしますね、主様は」
「愛とは重たいものですよ、アカシさん」
そう言ってマミヤは優しく微笑んだ。
「アカシくん……」
クスノキが心配そうにこちらを見ていた。
「大丈夫だ。大丈夫だと、思う」
ほんとに?と聞くクスノキの頭を撫でる。
「ほんとの外から眺めたら、真柴も充分人間だった。いろんなことに気づけなかっただけで」
「いろんなことって?」
「シンがカメラの話しただろ?」
「うん」
「真柴はフォーカスを広げすぎた。広く観察してすべてをカバーしようとしすぎた」
「いまのアカシくんと一緒だね」
あ、当たり前か、とクスノキがためらいがちに笑う。
「笑うなよ。フォーカスを絞る、ってのは悪いことじゃないんだろうな。
満遍なくすべてをカバーするなんて、一人の人間じゃ到底無理だ」
な、とシンに声をかける。
「僕のこと、酷いこという奴だ、って顔してたよアカシくん」
ケラケラと破顔するシン。
「笑いすぎだろ」
「いやいや、失礼」
「お前が酷いやつなのは事実だろ」
酷いなアカシくん、とシンがまた笑う。
「フォーカスの外に行った人間は誰かがきっと救う。気づけないだけで、カメラの外にいる人間なんていないのかもな」
広大な下界がモニターに映る。
この世界のどこかでは、小さなカメラで他者を映し合う人間が点在している。
「私も見てもらえてたのかなぁ……」
クスノキがボソッと呟く。
それを見たマミヤは、言いにくそうに口を開いた。
「クスノキさん」
「はい」
「クスノキさんの前世は、少し事情が違うため、これまで伏せていました」
ごめんなさい、とマミヤが頭を下げる。
「いやいや、やめてよマミヤさん!」
「私としては、このままクスノキさんが前世を見ず、天界で暮らしていただいたほうが良いのでは、と考えておりました」
「私の前世には何があったの?」
マミヤを真っ直ぐ見つめるクスノキ。
「天界で暮らすってのができたらそれはいいな、ってちょっと思うよ。
でも、みんな前世を見て戻ろうとしてるから」
私も、とクスノキが手をグッと握った。
そうですか、とマミヤが呟く。
「わかりましたクスノキさん。では、そのように計らいましょう」
マミヤがモニターに近づく。
クスノキが姿を消した。
「行ったんですねクスノキ」
「はい」
マミヤが鋭い眼差しでモニターを見据える。
モニターがノイズまみれになり、新たな映像を再生する。
「クスノキさんの人生は……」
マミヤが苦しげに言う。
「何もできなかった人生でした」
病室の真っ白な天井が、画面に映し出された。




