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その展開はご容赦ください  作者:
5章『どの展開なら愛せたでしょうか』
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3話

真柴は、いや自分はそういう人間だったのか。


モニターの前に戻り、周囲に目をやる。


マミヤが静かに訊ねる。


「思い出せたでしょうか?アカシさん」


嫌になるほど鮮明に思い出した。


「ずっと外野から見てたんですね。俺は」


今と一緒だ、と言うと、マミヤが目を伏せる。


「幸せって瞬間的なもので、真柴はずっと終わりのときを考えてた。楽しいと思っていても終わる。過ぎていってしまう」


身を焦がすような感情を感じられなかったのは、すべて一過性のものだから、と気に留めなかったからだろう。


「期待してなかったんですよ、真柴は。周囲にも自分にも。だから求めを拒否して、求めることもためらった」


リテイク作業の中で、なぜこいつらは不用意に感情に従うのか、と感じてきた。


何かを成したと言われたい。


何かを残したい。


認めてもらいたい。褒めてもらいたい。


そんな欲望に従って、自分を崩壊させる人間たち。


そうか、


「真柴が描いてたのは、よくある物語だったんですね」


マミヤさん、と聞く。


「よくある、というわけではありません。時折そのような出来事は起こるというだけです」


下界では、とマミヤ言葉を結ぶ。


「女に溺愛して自分を失ってくタミヤの前世。

有り余る才を閉じ込められて、崇められ、周囲を破壊したユラ。

親と同じ道に立ち、過去の過ちを懺悔していくクラタ」


全部描いていた。

しかし、事実はより滑稽で悲惨だった。


「真柴の人間観察は甘かったんですよ。希望を持ちすぎた」


人間に期待していた。自分にも期待していた。


だから真柴は、


「ルミちゃんは解決していく。多少荒唐無稽な解決方法でも最後はみんな笑ってハッピーと結ぶ」


「そうあって欲しかったのだと思います」


マミヤは遠い目をして続ける。


「真柴さんの期待は創作で具体化していきました。叶わないことはない、と願う赦しの作品は、主様を喜ばせましたよ」


「喜んだ?」


「はい。生きようとした人間の軌跡だ、と」


それは何より尊いのだ、とマミヤは言葉を継ぐ。


「諦めなかったんだ、と我が子を愛しく見つめておられました。

だから主様は、あなたにもう一度生きてほしいと記憶を戻したのです」


忘れていたことを一斉に頭へぶち込まれた。


主様の期待は重い。


「酷なことをしますね、主様は」


「愛とは重たいものですよ、アカシさん」


そう言ってマミヤは優しく微笑んだ。


「アカシくん……」


クスノキが心配そうにこちらを見ていた。


「大丈夫だ。大丈夫だと、思う」


ほんとに?と聞くクスノキの頭を撫でる。


「ほんとの外から眺めたら、真柴も充分人間だった。いろんなことに気づけなかっただけで」


「いろんなことって?」


「シンがカメラの話しただろ?」


「うん」


「真柴はフォーカスを広げすぎた。広く観察してすべてをカバーしようとしすぎた」


「いまのアカシくんと一緒だね」


あ、当たり前か、とクスノキがためらいがちに笑う。


「笑うなよ。フォーカスを絞る、ってのは悪いことじゃないんだろうな。

満遍なくすべてをカバーするなんて、一人の人間じゃ到底無理だ」


な、とシンに声をかける。


「僕のこと、酷いこという奴だ、って顔してたよアカシくん」


ケラケラと破顔するシン。


「笑いすぎだろ」


「いやいや、失礼」


「お前が酷いやつなのは事実だろ」


酷いなアカシくん、とシンがまた笑う。


「フォーカスの外に行った人間は誰かがきっと救う。気づけないだけで、カメラの外にいる人間なんていないのかもな」


広大な下界がモニターに映る。


この世界のどこかでは、小さなカメラで他者を映し合う人間が点在している。


「私も見てもらえてたのかなぁ……」


クスノキがボソッと呟く。


それを見たマミヤは、言いにくそうに口を開いた。


「クスノキさん」


「はい」


「クスノキさんの前世は、少し事情が違うため、これまで伏せていました」


ごめんなさい、とマミヤが頭を下げる。


「いやいや、やめてよマミヤさん!」


「私としては、このままクスノキさんが前世を見ず、天界で暮らしていただいたほうが良いのでは、と考えておりました」


「私の前世には何があったの?」


マミヤを真っ直ぐ見つめるクスノキ。


「天界で暮らすってのができたらそれはいいな、ってちょっと思うよ。

でも、みんな前世を見て戻ろうとしてるから」


私も、とクスノキが手をグッと握った。


そうですか、とマミヤが呟く。


「わかりましたクスノキさん。では、そのように計らいましょう」


マミヤがモニターに近づく。


クスノキが姿を消した。


「行ったんですねクスノキ」


「はい」


マミヤが鋭い眼差しでモニターを見据える。


モニターがノイズまみれになり、新たな映像を再生する。


「クスノキさんの人生は……」


マミヤが苦しげに言う。


「何もできなかった人生でした」


病室の真っ白な天井が、画面に映し出された。

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