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その展開はご容赦ください  作者:
1章『やり直しはご容赦ください』
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2話

真柴を死に導くルート収束は予想以上に強固だった。


「奥さまは真柴さんが成功していく過程であらぬ欲望を抱いていきました。

『あれ?この男チョロいんじゃね?金稼ぐだけでつまんないし、金も使わないし』という彼女のモノローグが聞こえてきたとき、私はまた泣きました」


ずっと泣いてるねマミヤさん。


「真柴さんは奥さまに金銭を絞り取られ、その果てに結局は、自害してしまいました……」


一度目のリテイクは、真柴自害という正史より酷い結果となった。


リテイク作業とは、対象者の身体と同化し分岐点を変化させていく行為のことをいう。


これを『介入かいにゅう』と俺たちは呼んでいる。


介入できる時間は対象者によって変わり、一週間から一ヶ月介入できることもあれば、数分間しか介入できないこともある。


真柴は極端に介入ポイントが少なく、また、介入できる時間もほかの対象者より短かった。


クラタが真柴に介入して雨の中土下座プロポーズをしたのに、真柴の幸せはやってこなかった。


主様いわく、『決まってしまった運命は変化しづらい』という。


真柴は、どうすれば幸せになれるのか?


「二度目、三度目のリテイクでも真柴さんは女性関係でしくじり、結局身体を壊して亡くなってしまいました……」


三度の失敗を反省して、真柴は孤高の生き方をするべきだ、と俺が提案した四度目のリテイク。


「アカシさんの提案の四度目。真柴さんに生活力をつけさせ、一人で生きていても大丈夫にする。現実的で良かったです」


「真柴、カレーをスパイスから作ったりしてたよね。うち、あれウケた」


クラタのツボがどこにあったのか定かでないが、カレーをスパイスから作り始めたあたりで俺は不安にかられた。


「真柴さん、刺激のない暮らしに飽き飽きした、って呟くようになったよね」


クスノキの言うように、生活力はあれど外的接触や刺激のない暮らしは真柴にとってストレスになっていた。


『人生にスパイスを』とかいうエッセイ漫画を書き出し、死ぬほど売れなかったあたりで俺は四度目の失敗を悟った。


「四度目のリテイク。真柴さんは、それまでのリテイク以上に社会から孤立し、亡くなります。孤独死でした」


心底申し訳ないことをしたと思う。


それまで三度のリテイクで真柴は、少ないながらも友人に囲まれ亡くなっていた。


しかし、四度目のリテイクでは、人間関係を拗らせに拗らせた結果、周囲と隔絶し、八畳の自宅で一人孤独に亡くなった真柴。


彼は、一ヶ月間発見されなかった。


「五度目のリテイクでようやく皆さんの作業の成果がでます」


五回世界線を股にかけた成果。


真柴の元のいた人生より多少はマシになったと思えた五度目のリテイク。


真柴は、漫画家として大成しなかった。


「身体や精神は健康になった真柴さんですが、さしたるヒット作も産めず、苦心します。ある時真柴さんは、ネットで出会い厨に引っ掛かります」


女難の相あり、と占い師に釘を刺されそうな男真柴。


あまり売れていない真柴の作品を熱心に応援する女とメッセージのやり取りを楽しんだ真柴。


その瞬間は幸せそうだった。


しかし、真柴は五度目のリテイクでも再び、


「死にました」


マミヤは淡々と告げる。


「社会的に」


一斉に項垂れる俺たち。


真柴は自作を応援してくれるコスプレ女子(未成年)とメッセージを重ね、ついには手を出してしまったのだ。


そのコスプレ女子が名の知れた有名コスプレイヤーだったこともあり、様々なメディアから袋叩きに合った真柴は廃業に追い込まれた。


刺激を求めた結果、真柴の社会的信用は死に、彼は漫画家としても人間としても死んでいった。


結局、五回人生をやり直しても真柴は同じタイミングで死を迎えた。


「以上が顛末です。主様の再リテイクにより、真柴さんは漫画を描き続ける人生に戻りました。しかし……辛そうな生活です」


幸福とは程遠い暮らし、とマミヤは目を伏せる。


結局何も変えることはできなかった。


俺たちは霊魂は、生きていたときの記憶を持っていない。


リテイク作業で人間の営みを覗き込み、修正する中で得た下界の情報しか俺たちにはわからない。


だから、なにが人間の幸せなのかはわからない。


モニターに目をやる。


モニターには真柴の現在が映し出され、淡々と再生されている。


真柴は社会から爪弾きにされながらも漫画を描き続けている。


周囲には僅かながらではあるが、彼をサポートする人間もいるように見える。


幸福ではない、とはどのような状態を言うのか?


俺たちはこれまで何度も人生修正に失敗した。


失敗だ、と評価された。


それを、対象者本人はどう思うのだろう。


余計なお世話だ、と言われそうだ。


真柴は俺たちに人生を覗かれているとは知らず、一度きりの人生にもがくしかない。


「では、今回の反省点をまとめ、次回の案件までに提出をお願いしますね」


では、と告げて、マミヤは足早に立ち去った。


反省と言われても、何をもって成功なのかが提示されない作業。


リテイク作業は、生まれ変わりのための修行なのだとマミヤが言っていた。


だが、いまだ生まれ変わりたいかもわからない俺にとって、このリテイク作業は億劫でしかない。


真柴は何のために漫画を描いているのか?


虚しくはないか?


幸せなのか?


問いかけるすべはなく、真柴を映していたモニターは唐突に消える。


真っ黒になったモニターには、迷いを抱えた俺の虚しい姿が映っている。

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