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その展開はご容赦ください  作者:
4章『愛されなくてもお赦しください』
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3話

【アルティメットライズ!!】


蔵田がアルティメットに立ち上がり拳をあげている。


「マミヤさん、何これ?」


「アカシさん、これは究極の龍神を魂に宿すための儀式です」


ずっと何言ってんの?


「失礼。これは、この時代に流行り始めた『強き力を持ち、魂を高次元へ』というキャッチコピーの龍流会りゅうりゅうかいという……まあ、新興宗教みたいなやつです」


マミヤが説明をはしょった。


「その龍流会?とやらに蔵田は心酔したって?」


「獄中の元夫、家に帰らず夜遊びを続ける娘。年老いた両親の近づく介護問題から逃げるように、蔵田さんは龍流会に献金をするようになりました」


現実が濁流のように襲ってきて辛いわぁ。


【救われますよ麻里奈さん!あなたは充分苦しんだ!大丈夫!天界はあなたを赦してくださいます】


「ほんと許せないんですよね、こういうの」


「マミヤさん?どうしたの?」 


「いえ、ねぇ、クスノキさん。我々天界の霊魂からしますとね、こういう輩が一番厄介なわけですよ」


こういう、と言って白スーツの男を指差すマミヤ。


「神様ごっこは好きにやってもらって構いませんけどね、主様の可愛い子どもたちを捕まえてしふくを肥そうなんて万死に値します」


いつになくお怒りのマミヤ。


一応は可愛い子どもたちの一人であろう白スーツが、蔵田に話しかけている。


【しかし麻里奈さん。最近少し力が弱まっていませんか?もう少しドラゴンエナジーを入れなければ】


「ほら見てください!金の亡者が善人のふりをしてむしり取ろうと!」


マミヤ怒髪天である。


「マミヤさん、落ち着いて」


「あ、あぁ……すみませんクスノキさん。見苦しい姿をお見せして」


「いいのいいの。私そんな風に怒れないから」


クスノキが少し寂しそうにマミヤの背中をさする。


献金を続ける蔵田。


しかし、当然ながらそれで生活が好転するはずもない。


なのに、


「蔵田の身なり、綺麗だよな?」


「そうですアカシさん。よくお気づきで」


「誰でもわかるでしょ」


アパートで浴びるように酒を飲み、やつれていた蔵田麻里奈と違い、龍流会に通う彼女はバッチリメイクをし、清潔感のある服装で街を歩いていた。


「こころなしか、元気そうに見えるね」


「クスノキさん、それには理由があります」


ご覧ください、と画面を切り替えるマミヤ。


【麻里奈さーん】


交差点の向こうから蔵田を呼ぶ男。


蔵田は手を振り呼びかけに応えていた。


伊川いかわさん】


男が蔵田に近づき笑みを浮かべる。


「誰だっけ?」


「覚えてないのも無理はありませんアカシさん。伊川いかわさんは超モブだったので」


主様の可愛い子どもたちをモブ扱いするマミヤ。


「早川さんがたむろしていたコンビニの店長、伊川誠いかわまことさんです」


「あー、ユラちゃんを殺した人」


「クスノキ、言い方。いや、間違ってはないけど」


カメムシに介入していたユラを殺虫剤で葬り、蔵田を食事に誘っていた店員伊川。店長だった。


ちなみに、全く会話に参加してこなくなったジャクソンは、ユラぁ、可哀想なユラぁ……と大した動きのない幽螺たちの画面を眺め、「甲斐性なしの下元気!幽螺を早く救え」と一人叫んでいる。あ、一体か。


まあ、今はジャクソンはいいや。


伊川が蔵田に訊ねる。


【麻里奈さん、今日もお仕事?】


【そう、だね。】


後ろ暗そうに答える蔵田。自覚はちょっとあるようだ。


【いや、元気になってくれて嬉しいよ。……姫奈さんは最近どう?】


【相変わらず……。まあ、変な男とは別れて、学校には通ってくれてるけど……私とは話してくれない】


姫奈はチャラ男と別れ、金を使い込むこともなくなった。


その理由が、偶然出かけた先で見かけた母親が奇妙な集団と共に、アルティメットライズ!と叫ぶ姿を見たからだ、と蔵田は知らない。


姫奈は、


【あんな滑稽な大人になりたくない!】


と勉学に励むようになった。唯一の好転事項だ。


伊川は、


【困ったことがあったら全然言ってくれていいからね!ほら、言いにくいだろうけど、お金のこととか……】


蔵田に近づきニヤつく伊川。


【いつもありがとう伊川さん。うん、またお願いするかも】


任せてよ!と胸を張る伊川。


そんな伊川の思惑を看破するように、マミヤが告げる。


「ぬけぬけと!この変態男が!」


マミヤご乱心パート2。


「変態って?」


「ごめんなさいクスノキさん、あの変態男を見ていたらつい」


いいのいいの、とマミヤをなだめるクスノキ。


さっきも見たなぁ、このやりとり。


「変態男伊川誠は、蔵田麻里奈さんに何の興味もありません」


「でも、蔵田に愛情?みたいなのがなかったら資金援助とかしないでしょ」


「それがどっこいアカシさん」


どっこい?


「伊川誠が好意をよせているのは蔵田麻里奈さんではなく、娘の姫奈さんなのです」


ヤバい話になってきた。


勉学に励む姫奈。


その学費や生活費を支払う奇特そうな男伊川。


しかし、その実は、


「偶然蔵田さんと再会した伊川誠は、その際に姫奈さんとも出会います。そして、姫奈さんに好かれるべく、蔵田さんへの資金援助を申し込んだのです」


「つまり、蔵田麻里奈を助けたいわけじゃなくて、娘のほうを助けたいってことですか?」


「違いますアカシさん」


なんか俺には厳しいマミヤ。


「伊川誠は、ただただ好かれたいだけの空っぽ男なのです。簡単に言いますと、ただの下心で姫奈さんに近づいているのです」


マミヤが画面を操作する。


伊川が職場の高校生女子にメッセージを送る姿が映る。


【今日夢の中でサリナちゃんと会っちゃってね。もうサリナちゃんのことしか考えられなくなっちゃった。もしかして、これは恋なのかな?】


「黙りなさい四十二歳童貞男が!!」


「マミヤさん!ステイ!ス、テ、イ!」


乱心するマミヤをなだめる。


「はっ、私としたことが」


「大丈夫です。しかし、高校生女子にこのメッセージはちょっと」


「ひくでしょ?アカシさん」


有無を言わさぬ眼光でマミヤが同意を求めてくる。


「まあ、度は過ぎてる奴ですね」


まあ、正直ひく。


「伊川誠はアルバイトに来る高校生女子にこのようなメッセージを送りつけては、その子たちからの反乱をくらい、二十四時間シフトに入り続けるような男です」


アホなのかな?


「アホな男ですよ」


やっぱりアホなんだ。


「蔵田さんは伊川からの資金援助で龍流会に通えています。癪ですが、姫奈さんも伊川のおかげで学校に通えてるといった状況です」


しかし、とはマミヤは続ける。


「このままでは、伊川が破滅します」


「どういうことですか?伊川も何かやらかして捕まるとか」


何かをやらかしそうな気配プンプンの伊川は、気味の悪い笑みを浮かべ、蔵田と楽しそうに会話している。


「伊川は消費者金融からお金を借りています」


絶望的な循環が起きていた。


「今後資金が尽きた伊川は闇金にまで手を出し、コンビニ店長の職を失います。その結果、蔵田さんは再びよすがをなくし荒れ果て、姫奈さんは高校にも通えない、そんな世界が……」


伊川め……ともはや怨嗟の唸り声をあげるマミヤ。


絶望感な循環が続く世界。


クラタの前世である姫奈は、どうしようもない大人たちの巻き起こす負の連鎖に巻き込まれている。


「あの」


クスノキが手を挙げる。


「なんです?クスノキさん」


「蔵田さんが普通に働けばいいのでは?」


クスノキさんまとも!とマミヤが拍手する。


いやまあ、俺もそう思ってはいたけど、それが出来てないからこうなってるわけで。


クスノキさん、とマミヤは語りかける。


「蔵田麻里奈はプライドが高いのです」


なんか嫌な話になりそうな予感。


「自分を褒めそやすような職業でしか働きたくないと」


本質的に前の世界と同じじゃねぇか蔵田。


「蔵田さんも歳をとりました。残念ながら、これといったスキルもない彼女をいきなり褒めそやしてくれる職業はそうないでしょう」


プライドを優先し、新興宗教に浸る蔵田麻里奈。


金を払い続ける限り、新興宗教は蔵田を裏切らないだろう。


他者に依存し、娘より自分の満足感を優先する姿は、はからずも幽螺の世界の村人と重なる。


「そんな、勝手な……」


「多くの人間はそうではありませんクスノキさん。しかし、まれにこのような視野狭窄に陥る人間がいるのです」


人間はどうしようもない。


手に負えない現実は、再生をやめない。


全て。

今、目に映るものを救わねば。

掬わねばと、無性の衝動が湧いてくる。


「マミヤさ……」


「アカシくん。ダメだよ、そんなやり方じゃ」


聞き覚えのある声に振り返る。


「シン……なんでこんなとこに」


百八輪転区屈指のリテイク成功率を誇る男。


シンが俺から視線を逸らす。


「お久しぶりです、マミヤさん。野暮用で遅れてしまいました」


すみません、とシンが頭を下げる。


「いえいえ、お互い忙しい立場ですから、構いませんよ」


うやうやしく応えたマミヤは言葉を継ぐ。


「あなたをお待ちしておりました」


「百八輪転区は面白いですね。さすがあなたが目をかけている場所だ」


マミヤは乱心でボサボサになった髪を直しながら、


「このような風体をお見せして失礼」


「いえいえ。……しかしあなたはいつも懸命ですね」


「無様な姿をさらしておりますね……」


「何をおっしゃる。あなたのような方がいるから、霊魂たちは思い出せるのでしょう」


僕にはできないことだ、とシンが降参といった感じに手をあげた。


「全てを救おうとしてらっしゃる」


「滑稽ですか?私は」


「いやいや、あなたは尊敬できるお方だ」


なんの話をしてるんだ、と口にしかけた俺をシンの双眸が捕らえる。


「なんの話だ、って思うよね。アカシくん」


「そりゃ、な……急に」


「全ては急に、唐突に訪れるんだよ。特に、下界ではね」


「何を言って……」


マミヤさん、とシンが告げる。


「僕がこのリテイク請け負います」


然るべき導きを、とマミヤが呟き、


「お手並み拝見ですね」


と笑った。

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