第20話〜《白狼》、屍を焼く
夕暮れ。落ちた砦は、血と煤の臭気を残したまま沈黙していた。
門の外には首級が積まれ、内部はすでに火が放たれている。生き残りはいない――それが“白狼軍”のやり方だった。
「遺体の処理はすべて完了しました。首級は確認済みです」
第四騎士団長セオドアが報告する。灰色の髪が焚き火に照らされ、静かな瞳がルカイヤへと注がれた。
「よし。……あとは全部焼け。害虫の巣など残す価値もない」
ルカイヤの低い声に、誰一人異を唱える者はいない。
その隣、第二騎士団を率いるカルマは小さく眉を寄せた。
「兄上、焼き払いは構いませんが、明朝まで煙が残ります。進軍路の隠密性を損なう恐れが」
「隠す必要があるとでも? 奴らに恐怖を知らせろ。それで足りる」
即答され、カルマは唇を結んだ。――それ以上言えば、煙よりも苛烈な叱責が降るのを知っているから。
「はっ、相変わらず徹底しておられる」
笑ったのは第六騎士団長ギュンターだ。年季の入った鎧を軋ませながら、白髪混じりの頭を振る。
「若い兵は青ざめておったが……すぐ慣れるさ。血に浸かるのが、騎士の務めだ」
「ほんと、慣れる前に潰れる奴も多いけどね」
肩をすくめたのは第五騎士団長シーダ。赤毛を揺らし、口元に挑発的な笑みを浮かべていた。
「でもまあ、今日も派手に暴れられて満足。ルカイヤ様、次はもっと前線に出してくださいよ」
「お前は前に出すぎだ。指揮官だろう」
セオドアが冷ややかに釘を刺す。
「はーい、わかってますって」
団長たちの軽口が飛び交う一方で、本営の空気は張り詰めていた。
ルカイヤは椅子に腰かけ、無言で地図を見つめていた。
だが、その眼差しは線の上にはなく、空気の奥を嗅ぎ分けているようだった。
焚き火に紛れ、血と煙の臭気の裏に――微かに違う匂いがあった。
証拠も理屈も要らない。ただ――“獣”の勘が告げていた。ここに“異物”が紛れ込んでいる、と。
――砦攻城戦は終わった。
外に広がる野営地では、兵たちが酒を回し、焚き火を囲んで笑い声を上げていた。戦の只中にあって、久しぶりの休息。血の臭いは消えないが、それでも人は笑わねば持たない。
剣を磨く者、骨付き肉を炙る者、肩を組んで歌を口ずさむ者。わずかなひとときに、それぞれが生を確認するように過ごしていた。
「おい、あれ新顔か?」
焚き火の脇で、ひとりの兵が目を細める。兵装に身を包んだ青年が、少し居心地悪そうに座っていた。
燻んだ淡金の髪。夜目にも鮮やかな碧い瞳。
「徴募兵だろ。辺境の村から来たって聞いたぜ」
「へえ……妙に整った顔してんな。おい坊主、名前は?」
「……ブラン、です」
青年は一瞬、返答をためらったように見えた。
だがやがて、肩を竦めて素朴に名を告げる。
「辺境の村の生まれです。……ただのブランです」
その声は、焚き火の煙にかき消されるように淡々としていた。




