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第17話〜《白狼》、砦に吠える③

 砦の門が爆ぜ、炎と煙が吹き荒れる。崩れ落ちた鉄片と石塊が地を揺らし、灰が空を覆った。

 砦内の広場は恐慌に陥ったサディア兵で溢れ、指揮官の怒号も混乱を抑えきれない。


 その混沌の中に、白銀の鎧と真紅の外套が現れる。血塗れの白狼――ルカイヤ・カーナ。

 馬上でツーハンデッドソードを振るい敵を斬り裂くも、狭い砦内では大剣は不向きだ。


「ここからは――歩く」


 冷徹に呟くと、ルカイヤは馬を離れ、地へと飛び降りる。重い鎧を纏いながらも、着地は音も軽やか。大剣を部下に預け、腰のロングソードを引き抜いた。鞘鳴りが響き、鋭い刃が炎の中で光を返す。


「道を拓け」


 それは命令であり、宣告だった。

 第一騎士団の兵が短く応じ、ルカイヤの進路を開く。


 槍兵の群れが押し寄せる。

 ルカイヤは一歩踏み込み、正面の兵の胸を刃で断ち割った。返す刃は隣の兵の首筋を裂き、鮮血が噴き出す。

 後方から突き出された槍を籠手の左手で叩き払い、体勢を崩した兵の顎に蹴りを叩き込み――そのまま喉へ剣を突き立てた。


 騎士道とは無縁の殺し方。蹴り、殴打、籠手を使い、相手を崩してから斬る。

 その一瞬の非道な間合い潰しが、彼の剣技をさらに恐ろしくするのだ。


「ひ、人じゃない……!」


 サディア兵の叫びが広場に広がる。


 だがルカイヤは意に介さない。

 ロングソードを翻し、盾列を紙のように裂き、石畳を鮮血で染め上げた。

 赤い飛沫が外套をさらに濃く染め、兵士たちはその姿に畏怖と狂気を見た。


「押せ! 殿下に続け!」


 第一騎士団の将が怒鳴る。兵たちは恐怖よりも畏怖に動かされ、ルカイヤの背を追う。白狼の後ろなら必ず血路が拓ける――それが唯一の真実だった。


 狭い通路で肩を並べた三人が同時に襲いかかる。

 ルカイヤはまず右の兵の槍を籠手で弾き、左の兵を蹴り飛ばした。中央の兵が驚いて隙を見せた瞬間、ロングソードが閃き、胴を一刀で断ち割る。返す刃で盾を失った兵の首を落とし、倒れ込む体を踏み砕いた。


 怒号とも嘲りともつかぬ声が響く。


「後ろを怯むな! 死にたくなければ、俺に続け!」


 砦の奥から増援が雪崩れ込んでくる。石段を駆け下りる槍兵の群れを、ルカイヤはただ一歩前に出て迎え撃つ。

 槍を払い、喉を掴み、剣で断ち切る。

 斬撃のたびに敵が崩れ、石段は肉と血で泥濘と化した。だが彼は止まらない。


 恐慌した兵が武器を捨てて逃げる。だが、側面から回り込んだカルマの第二騎士団が退路を塞いでいた。退いた者も首を刎ねられ、捕虜は残らない。


 セオドアは中衛を固め、シーダは狂笑で兵を煽る。後衛ではギュンターが退路を守り、全軍が動いていた。砦はすでに崩壊の淵にあった。


 血に濡れたルカイヤは一瞬だけ剣を休め、低く呟いた。


「もっとだ……殺せ、血を流せ。サディアの血で、この砦を沈めろ」


 その声は戦場の喧騒にかき消されることなく、兵の耳に刻まれた。

 冷徹な命令であると同時に、血を求める獣の囁きでもあった。


 白狼軍の咆哮が砦に轟き、血の修羅場をさらに深く染め上げていった。


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