表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

Order.01 干しりんごひと袋。魔法の紙に、はじめて綴る。

 風が畑の上を滑っていった。草の穂先がさわさわ揺れて、キラキラとした光が窓越しにまだ眠い目に映る。

 父さんが作ってくれた丸椅子は素朴ながら体に馴染む。


「《湯立て》」


 さっきまでひんやりとしていた木のカップは、じんわりと光を放ち熱くなったミルクで温まる。


「あつっ」


 たまに温度調整を間違える。1日の気温差が大きいこの時期、温かい飲み物は体を目覚めさせてくれる。

 布団を整えたあとのこの時間は、小さな頃からのぼくのお気に入り。隣に住むナーシャが畑を駆け回っていて、一日の始まりを感じるから。ぴょんぴょんと跳ねる髪は動きやすいように短く整えられており、赤い毛の間から可愛らしい猫耳が2つチラチラと顔を出す。


 ナーシャとは木漏れ日の気持ちいい春の午後に出会った。家の裏で虫を追いかけていた5歳のぼくは、ぴょこぴょこ動く耳を見つけ虫を追うのも忘れて立ち尽くしたことを覚えている。初めて見る"獣人"に驚いたからではない。


 ぼくがいるこの場所が―――やはり異世界だったのだと確信させられたからだ。


 不思議な話だが、1歳になる頃から行ったことのない場所や親とは違う言葉を話す人たちの記憶があった。当時は何か分かるはずもなかったが、物心つくころには記憶と共に前世の人格がハッキリと目覚め、自分が転生したのだろうと理解した。


 言葉は前世の記憶にあるどの国のものとも似つかず、インターネットなどもないことから一体どこの国に生まれたのだろうかと気になっていた。前世に暮らしていた"日本"に行くことはできるのだろうかと。


 9割方そう思っていたが、もう一つの可能性も頭をもたげていた。


 そう―――"異世界転生"の可能性だ。


 見たことのない食料に、やけに髪色のバリエーションが豊かな村人、極めつけに魔法のようなものを当たり前に使っていたからだ。


 魔法があるから異世界かとも思ったが、もしかしたら長い年月で科学がとてつもなく発達したとか、何らかの影響で人体が進化を遂げた未来の地球かもしれない。仮に異世界だとしてどうやってそれを確認できようか。


 この星の名前を聞く?――知らない名前だとして、長い歴史の中で変わったとしても不思議ではない。

 "日本"を知ってるか聞く?――この辺境の村でインターネットもないんだから知らなくてもおかしくない。

 しばらくの間、親や村の人に聞いてみたが満足のいく回答は得られなかった。


 そんな折、明らかに前世では存在し得ない耳を持つ、漫画やアニメで見ていたままの猫耳少女が、ここが異世界という現実をぼくに叩きつけてきた。


 ナーシャは猫型の獣人で、髪は黒に近い深い赤色。5歳のあの日に隣に越してきた。ショートカットの毛先が跳ねていて、いつも寝癖なのか癖毛なのか分からない。

 口調は強めで負けず嫌い。たまに耳をふさぎたくなるけど、気づけばそばにいて、根は優しい。

 スカートの下に履いたスパッツから伸びる長くて可愛らしい尻尾でバランスをとるから、走るのも木登りもお手の物。ああやって動き回る姿は猫そのものだ。


 ひとまず、ぼくはここが異世界なんだろうと受け止めることにした。仮に同じ世界だったとしても、この変わり様ではもはや異世界と呼んでいい代物だろう。この村で子どものぼくに調べられることは限界がある。

 "日本"の便利な生活は遠く彼方に消えたが、この村でのスローライフも悪くない。


「朝から元気だなぁ……」


 思わずつぶやく。声に出すと、少し口元が緩む。


 窓に映る自分の姿に目をやる。10歳の人間の姿だが、かく言うぼくも負けず劣らず奇抜な髪色だ。

 明るく艶のある青い髪は耳の下でそろって切りそろえられていて、母さんがいつも「清潔感が大事よ」と梳いてくれる。肌は白く体の線は細いけれど、よく食べよく寝る健康児だ。

 顔立ちはどちらかというと綺麗寄り。少しつった目は目尻に向かって鋭さがある。よく「利口そうな目」と言われるが、自分では眠そうな目に見える。大人になったら母さんに似て整った顔になるのかな。


 ナーシャがぼくに気づいて、口をパクパクさせながら元気よく手を振っている。ぼくも小さな手を振り返した。


「レイ、ごはん冷めちゃうよ」


 母さんの声に誘われて台所に向かう。木の床がキィと少し苦しそうな音を立てた。

 母さんは裾の長いワンピースの上にふんわりしたエプロンをつけて、鍋の火加減に気を配る。親子でそっくりな青い髪を後ろで低くひとつに結んでいる。どこかの貴族の奥さまとお茶をしていそうなのに、村の誰より働き者だ。


 父さんは、母さんとは正反対。くしゃっとした黒髪に無精ひげ。くたびれた作業服は、仕事の勲章と行った具合だ。でも、黙々と良いものを作るところとか、口下手なのに人に優しいところとか、母さんが惚れたっていう理由、ぼくにはちょっと分かる気がする。


「今日は南の方に配達だ。昼までには戻る。レイ、留守番頼めるか?」


「うん、大丈夫」


「ごめんね、朝のうちに干しりんごの仕込みも入るから。何かあったら窯の火はちゃんと落としてね」


「わかってるよ」


 食事をしながらの心地いい他愛もない話。ナーシャの家で新しい織物が仕上がってたとか、最近の干しりんごの味が安定してることとか。家族の声に耳を傾けながら、温かいスープを口に運ぶ。


 ふたりが出たあと、裏の畑の柵に腰を下ろした。手が暇そうなので木片をナイフで削りながら空を見上げていると、足音が近づいてきた。


「やっと来た」


 言いながら見上げると猫耳がぴょこっと跳ねる。赤いショートカットの髪が、汗できらきらしていた。スパッツに泥はねがついてるのも気にしてない。ナーシャだ。


「そんなに待った?」


「ちょっとだけ。退屈だった」


「寂しかったんでしょ、レイは私がいないと遊び相手がいないから」


 くすっと笑いふたりで並んで木陰に腰を下ろす。会話は途切れがち。沈黙も心地良い。


「干しりんご、今日もあるかな? あたしの家、もう食べきっちゃってさ」


「あったと思う。今日仕込むっても言ってた。でも午前は親いないし、午後か明日になるかも」


「そっか、じゃあ明日お願い!母ちゃんに急かされちゃってさ。じゃっ、そろそろ戻ろうかなっ。手伝いの途中で抜け出してきちゃったんだよね。」


 華奢な腰のポーチから取り出した小さな瓶の水がチャポンと小さく音を立てた。

 泥が少し乾いて白くなった両手で瓶を包み魔力を流す。指先がかすかに青く光る。


「《水清め》」


 瓶の中の水が空中に浮かび上がり、ぽたり、と彼女の指先に触れて霧のように広がった。手はすっかりきれいだ。


「それ、便利だよね」


「でしょ? ほら、村じゃ水場まで行くのめんどくさいし。最近、朝だけで三回使ってる」


「魔力量、足りてる?」


「これぐらいなら最近は余裕!」


 魔法があること。それが“特別”ではなく“日常”の一部として根付いている。この世界のぼくには当たり前になっていた。


 今のは誰でも使いやすい生活魔法。使いたい魔法のもとになる素材や対象そのものが必要だ。例えば、水で何かを洗いたいときは洗うための水が少しだけ必要。ミルクを温めるときは対象となるミルクがあれば、それそのものを温められる。

 無の状態から発動するには相当な魔力が必要で、普段使いの魔法としてはこの形が丁度いいと母さんに教えてもらった。


 簡単な生活魔法だが、ぼくは少し苦手でたびたび暴走して失敗する……。


 ナーシャが立ち上がり、それじゃ、とくすっと笑い合ったときだった。


 トン、トン――


 杖を突く音がして、ぼくはぱっと立ち上がった。ナーシャも足音の方を振り返る。


 ひとりの老人が家の柵の横立っていた。背を丸め、杖を頼りに少しずつ進んでくる。肩が上下して、額には汗。日が昇り少し動けば体力を奪われる。


「あ、ハルマじいさん!こんにちは」


 みんなに慕われている村の北側に住む長老だ。優しくてぼくもよく気にかけてもらっている。うちの干しりんごが好物なんだって。


「レイくん、こんにちは。干しりんご分けてもらえんかね」


「すみません、あの、今は親が出かけていて。ぼくじゃ、お金のこととかちゃんとしたお渡しができなくて……」


「そうか。なら、また来るとしようかね」


 その背中が遠ざかっていく。杖の音が、妙に耳に残った。


「あっ、お昼ごろには父が帰ってくるので、一緒に待ちませんか!」


「いいのかい?ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかね。」


 ナーシャがちらっとぼくを見て、またねと手をふった。



 ◇ ◇ ◇



 ぼくの前世は、足が不自由な人生だった。

 生まれつきの障害で、出かけることも、重たい荷物を運ぶことも、誰かに会いに行くことも一苦労だった。


 けれど、あの世界にはネットショップがあった。

 欲しいものを探し、家にいながら注文し、届けてもらえる――それだけのことが、どれほど自由をもたらしてくれたか。


 そのうち、ぼくはWEBエンジニアとして、自宅から仕事をするようになった。

 それが、最期までぼくにできた、社会とのつながりだった。


 気づけばこの世界にいた。朧げだが、車椅子で外出中に道路で何かに躓いて転倒してしまった記憶が最後だ。


 再び立てる足と、新しい名前と、魔法のある暮らし。転生という言葉が本当にあるなら、たぶん、これがそうなんだと思う。


 ハルマじいさんとの間にカップに結露した水滴がしたたる。ぼくがいなかったら一度帰ってまた来ていたのだろうか。それとも家の前で暑い日差しの中帰りを待っていたのだろうか。老人にはどちらも大変だ。


 魔法がある割にこの世界は不便なことも多い。何かできることはないだろうか。



 ◇ ◇ ◇



 干しりんごの入った袋を杖にぶら下げて、ハルマじいさんはゆっくりと頭を下げた。


「広場まで一緒に行きます、ハルマじいさん!」


「おや、ありがとう。レイくん。じゃあそこまで一緒にお散歩しようかねえ」


 干しりんごの袋を杖からひょいと取り、しわの刻まれた優しい手を握る。木々のさざめきの間にジャリジャリとした2人の足音と楽しげな声だけが聞こえる。


「ハルマじいさんは、この村で生まれたんですか?」


「そうじゃよ。」


「ぼくと同じ!干しりんごが好きなところも。ずっとこの村に住んでるんですか?」


 ハルマじいさんの目尻のシワが深くなり、少し遠い目に鮮やかな青空が反射した。


「若い頃、夢を追いかけてフェリオナで頑張っていたものさ」


「フェリオナ?3つくらい山を越えたところにあるっていう、あの大きな町?スゴイ!都会人だったんですね!」


「そんな大層なものではないよ。今はこの村でのんびり暮らしているしね」


「ハルマじいさんは、夢をかなえられましたか?」


「……さあ、広場に着いたよ。ありがとう。その話は長くなるから続きはまた今度話そうねえ」


 いつの間にか人のにぎわう声が聞こえてきていた。袋を渡しその背中を見送った。

 昔のことはあまり話したくないんだろうか、そんなふうには見えなかったけど。


 ふと、視界の端に太い石の柱が目に入る。

 ぼくの背丈よりもあるずっしりとした四角い柱は、黒っぽくてところどころ欠けているが広場の中央で堂々としていた。


「魔導掲示板……」


 情報を表示できる石柱だ。村人が手伝いや市場の知らせ、近くの魔物の出現情報などを書き込んでいる。魔導紙と魔導インクがあれば誰でも書き込める。情報を映すだけの一方通行のものだが、雨風でぬれることも飛ばされることもないから、情報交換の手段としてこの村では重宝されている。

 今まで使ったことはなかったけれど、これを活用したらもしかすると――。


 一体どういう作りになってるんだろうか。

 ツルツルとした画面に指先が触れた瞬間――パアッと光の粒子が宙に文字を紡いだ。


 "固有スキル:コードエディタ"


 ぱっと手を離す。光が消えた。もう一度触れてみる。


 "固有スキル:コードエディタ"


 コードエディタ……?前に父さんが言ってた固有スキルがいつの間にか覚醒していたってことかな?



 ◇ ◇ ◇



 6歳のぼくの誕生日。こんがりとしたチキンからのぼる湯気がほかほかとささやかに場を飾っている。


「ほら、レイ。父さんの手作りだ、もらってくれるか?」


 少し荒削りなところのある素朴な丸椅子をコトンと目の前に差し出す。ゴツゴツした手には少し切り傷ができていた。


「わあ!ありがとう、父さん!大切にするよ」


 毎朝、背伸びして窓の外の景色をみていたことに気づいていたんだ。この日から僕の部屋の窓辺がこの椅子の定位置。


「レイももう6歳か、大きくなったな。レイの固有スキルは一体なんだろうな?」


 少しおどけた調子の父さん。


「固有スキル?」


「ああ、誰でも成長すると、その人に合った能力が1つ開花するんだ。時期は人によるが、レイもきっと素敵なスキルに違いないな!」


「ぼく、楽しみ!」



 ◇ ◇ ◇



 スキルが開花してたなんて全く気が付かなかった。

 どうやって発動するんだろう。魔力を流せばいいのだろうか?手のひらに全身の血を集中させるようなイメージで…


 カァッ――――


 一瞬目の前が真っ白になり少しずつ周囲の状況がハッキリとする。緑色の魔法陣が掲示板とぼくの足元をゆっくり回り、掲示板の表面を下から上に向かって光が幾度も走っていく。


 散った光が宙にウインドウを成していく。

 これは文章――じゃない、この魔導掲示板を動かしているプログラム、か?

 緑の線に囲まれた黒い四角いウインドウの中に緑色の光でコードが書かれているのがわかった。前世でずいぶん見慣れたそれは、書いてある内容をスルスルと理解させてくれた。


「すごい…」


 コードの一部に触れると、その部分の文字が浮かび上がって選択状態になった。すでに機能しているシステムを編集できるのか!……ハッキングまがいのこともできてしまう恐ろしいスキルだ。


 "固有スキル:コードエディタ"は名前と見た目から察するに、この世界の魔法を動かすための言語である魔導コードを可視化し、編集できる能力だ。


 魔導掲示板の仕組み自体はだいぶシンプルなものだった。魔導紙に書かれた文字を読み取り指示通りの文字を表面に表示する仕組みになっている。前世でいうところのマークダウンのような扱いやすい構文で書く必要があるようだ。タイトルや本文、改行、太字などの指示を受け取れる。短い距離なら通信もできるみたいだ。これは使えるぞ!


 掲示板から手を離すとウインドウが消えた。

 広場の中央にあるものだから、みんなが驚いた表情でこちらをみていた。視線が痛い。急に恥ずかしくなって逃げるようにその場を離れた。



 ◇ ◇ ◇



 物置に差し込む夕日を埃が反射する。上がる息を整えながらガタガタとそこらじゅうのモノをひっくり返し青い髪が乱れる。ようやく、壊れた机の引き出しから使いかけの魔導紙と古い魔導インクを見つけた。


「やった。これで試せるぞ」


 ぼくはこの村に"ネットショップ"を作ってみようと思う!

 とはいっても魔導掲示板を使うから"なんちゃって"ネットショップだ。うまくいけば、ハルマじいさんに少し楽をさせてあげられる。


 魔導掲示板に商品を掲示して、その場で注文できるようにすれば似たようなものにならないだろうか。とりあえず商品の掲示はこの魔導紙を使えばできる。


「問題はどうやって注文してもらうかだけど」


 壊れた机に体重を預けつつ、一点を見つめる。


 いわゆるネットショップは商品を"カゴ"や"カート"に見立てたリストに追加し、届け先の住所や支払い方法を選んで注文を完了する流れが一般的だ。


 しかし、そんな複雑なもの文字を表示するだけの今の掲示板で実装できるのか?

 それに、作れたとして村のみんなはこれまで経験がないものを使いこなせないだろう。それでは使われなくなって終わりだ。

 そもそも、この世界の魔法の仕組みをほとんど知らない状態ではうまくいくものも失敗する。


 たっと立ち上がる。


「小さく始めて少しずつ改善していこう!」


 今の村のみんなは、掲示板に文字を表示することはできるのだから、その場で魔力を使って文字を書き込むこともできるだろう。みんなメモ程度なら魔力で書いてしまう。

 それなら、コメント返信で注文数と届け先を返信してもらえば十分"ネットショップ"は成立できそうだ。代金は商品を渡すときに払ってもらえばいい。


 これなら、今日みたいに店に人がいなくても好きな時間に注文できてハルマじいさんのような苦労をしなくて済む。"ネットショップ"の構造を今できる最低限の形に落とし込める。


 コメント返信機能は、ぼくの固有スキル、"コードエディタ"を使って"追加"してみよう!

 さっき見た限りではコードは日常的に使う魔導文字で書かれていて、構文(文法のようなもの)もさほど難しくない。掲示板にどのような処理をさせるのか、それさえ正しく組み立てられればこのくらいは作れそうだ。


 データ容量の考え方とか色々わからないことは多いけど、注文が完了する度に消していけば何とかなるだろうし、善は急げだ。


 隣の部屋からハーブと肉のいい香りが漂ってきていた。鼻歌を歌いながらパタパタと歩き回る母さんに声をかけた。


「ねえ母さん、干しりんごって、1袋いくら?」


「ん?今は12ルクね。ちょっと品薄だから少し高めにしてるの」


「わかった!あっ、それとぼくが注文をもらったら、自分で配達してみてもいい?」


 母さんは少し驚いたあと、エプロンで手を拭いながら優しく頷いた。


「もちろんよ。でも、無理はしないでね? 受けられる分だけでいいのよ」


「うん!ありがと!」


 母さんに見えないように後ろ手に紙とインクを持ち、そそくさと自分の部屋に向かった。


 机に広げた魔導紙はくたびれていて、端々が傷んでいる。瓶のフタを開けるとツンとインクの香りが鼻を突いた。


 "なんちゃってネットショップ"を作る手順はこうだ。

1. 魔導掲示板に商品情報の掲示を試す(初めて使うからね!)

2. "固有スキル:コードエディタ"を使いコメント返信機能を追加する(コメントは魔力を使ってその場で入力可能にする)

3. 動作テストをする

4. 完成!


 「手順2,3」は何度か試す必要がありそうだけど、「手順1」は、さっき見たコードに合わせて書けばいいだけだから簡単だな!早速書いてみよう。


 ペン先に魔導インクをつけ魔力を流す。これで文字に安定した魔力を込められる。


 料理の音が小さくこだまする部屋にぱちりと音が弾ける。

 紙の上を滑るペン先を追うように魔力の粒子が浮かび上がりインクに溶けていく。文字はそっと紙を離れその場でかすかに揺らめく。線香花火が散る間際のあの儚い美しさがあった。


 最後の一文字を書き終えると、レイはそっと筆を置いた。


 今にも風で飛びそうな文字に両手を軽くかざす。

 指先に集めた魔力をそっと紙に注ぐように流し込むと、微かに空気が震えた。


 ふわり、と。

 魔導紙の上に、青白い光の薄膜が浮かび上がる。

 それは波紋のように文字全体を包み込み、すぐに音もなく吸い込まれるように消え、魔導紙がやわらかな光を一度だけ灯す。


 ぱちん。


 小さく弾けるような音とともに、魔導文字は紙に深く刻まれた。


「できた……!」


 ぼくはこの世界での自分の役割を悟った気がした。

 誰かの不便を変える第一歩。胸の奥が少し熱くなった。


 完成した魔導紙には、こう書いた。




《魔導紙記述開始》


# 商品情報

**干しりんご**

価格:12ルク

*ご希望の方は届け先と必要な数を返信欄に、魔導文字で記入してください。

* 朝・昼の2回、返信を確認してその日のうちに配達します。

* 代金は商品と引き換えです。

---

@レイ


《魔導紙記述終了》




 記号の意味は、# 見出し、**強調**、* リスト、---(区切り線)、@署名、といった具合だ。

 早速、どう表示されるか試してみよう。


 魔導掲示板の前。 ぼくは手元の魔導紙を読み取り口に差し込んだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ