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旅立ちは馬車の中から

朝食の席でリヴィアが話を切り出した。

「そういえば今日はちょうど近くの街から行商人が来るわ。あなた達は彼の帰りの護衛として街まで行きなさい。街まで行けば中央学園に向かう方法も見つかるはずよ」


「ついに中央学園に行けるんですね!でも…護衛って…戦うことになるかもしれないってことですよね?」

真央が不安そうに顔を曇らせる。


「なにそれ、めっちゃ楽しそうじゃん!」

レナはすでにやる気満々だ。


 リヴィアは微笑みながら二人に封筒とペンダントを差し出した。

「これは中央学園宛の推薦状と、何かあったときのお守りのペンダント。レナに渡してもどうせすぐなくすから、真央が持って行きなさい」


「ちょっ、そんなことないし!」

レナは不服そうに腕を組むが、真央はペンダントを大事そうに受け取った。

「ありがとうございます、リヴィアさん」


 朝食後、二人は準備を始めた。真央はこれまで通り地味で動きやすい服を着きてローブを纏う、レナは始めに着ていたキラキラしたドレスのような服を着る。


「レナ、それ派手すぎない?」

真央が思わず突っ込む。


「いいじゃん、映えるし!」

レナは満足げにくるりと回ってみせる。


「戦闘になったら動きづらいんじゃ…ついでにすごく目立つし…」

真央は呆れ顔だが、レナは全く気にしていない。


 しばらくすると、行商人が馬車を引いてやってきた。馬車を走らせていたのはレナより少し年下に見える少年だった。少年にリヴィアが事情を説明する。


「こんな二人が護衛で本当に大丈夫なんですか?」

行商人の少年は疑わしそうに二人を見上げる。


「大丈夫、大丈夫。」

リヴィアは笑顔で適当に返事をしする。

「この子はカイン、若いけどしっかりした行商人よ。そしてこっちの眼鏡が真央でこの落ち着きのない方がレナよ。みんな仲良くしてね」


「落ち着きのないことなんてないし!いつも冷静沈着じゃん!」

レナが言い返す。


 真央はその自信はどこから来るのだろう、と思ったが触れないことにした。


 真央とレナはリヴィアに深く頭を下げた。

「リヴィアさん、今までありがとうございました」


「また何かあれば力になるから。気をつけて行ってらっしゃい。」


 空の馬車の荷台に乗り込み、二人は街に向かって出発した。



 馬車が森を抜ける途中、真央が突然口を開く。

「…よく考えたら、私たちお金持ってないけど、どうしよう?」


「まあ、どうにかなるでしょ」

レナは呑気に笑う。


 そんな中、レナがふと周囲を見渡し、鋭い声を上げた。

「…なんかいる」


 すると、馬車の前方に大きな狼型のモンスターが現れた。


「えっ!?モンスター!?」

真央が驚いて荷台から降りようとすると、カインが制止する。

「大丈夫、これくらいなら僕でもどうにかできます!」


 そう言ってカインはボウガンを構え、魔力を込めた矢を放つ。矢はモンスターをかすめ、驚いたモンスターは森の中に逃げていった。


「はぁ、助かった…」

行商人が胸を撫で下ろす。しかし、レナが周囲を警戒しながら叫んだ。

「まだいる!後ろ!」


 茂みから次々とモンスターが飛び出し、馬車を取り囲む。


「こ、こんなに…!」

カインが驚く中、レナが荷台から飛び降り、剣を振りかざして襲い来るモンスターを払いのけた。


 だが、それでも数が多すぎて馬車が完全に囲まれる。焦る真央はフィオナを呼び出した。

「フィオナ、どうにかならない!?」


「まっかせて!」

フィオナは得意げに応えると、周りの木々の葉を操り、モンスターたちを翻弄し始めた。葉が鋭い刃のようにモンスターたちを切り裂き、近づけないようにする。


 その隙にレナが剣を振り回しながら、大声で叫んだ。

「ダークフレイム・デストロイヤー・オブ・エターナル・ジャスティス・インフィニティ!」


「こんな時になんだけど、技の名前意味わかんないし、もっとカッコよくできないの!?」

思わず真央が声を上げる。


 レナは剣を振り下ろし、モンスターを倒しながら振り返る。

「は?これ以上カッコいい名前なんてないでしょ!むしろ私のセンスに感謝してほしいくらい!」


 フィオナが真央の肩に止まり、あきれたように小声で言う。

「…レナって本当にどうしようもないね」


「聞こえてるから!」

レナはムキになりながら、剣を振り上げ、さらにモンスターを蹴散らしていった。


 やがてモンスターの群れは恐れをなして森の奥へと逃げていった。


「やったー!」

レナがガッツポーズを取る。


「レナ…!すごい…!」

真央は感心しながらレナを見ると、フィオナが腕を組んで不満げに言った。

「私の魔法があったから勝てたのに…もっとちゃんと褒めてよ!」


「もちろん、フィオナもすごかったよ!」

真央が笑顔でフィオナを褒めると、フィオナは得意げに胸を張った。


「でも、レナがもっとちゃんとしてれば真央が戦わなくても済んだのに!」

フィオナがレナに対して悪態をつく。


「はあ!?何それ!」

レナはムッとしてフィオナを指差す。

「あんたの魔法より私のダークフレイム・デストロイヤー・オブ・エターナル・ジャスティス・インフィニティの方がすごいんだから!」


「はっ!私の魔法がなかったらどうなってたか分かってんの!?感謝してよ!」

フィオナが頬を膨らませてわめく。


「感謝してるよ。でも、あんたのその態度が気に入らないの!」レナも負けじと声を上げ、二人は取っ組み合いになりそうな勢いだ。


「ちょ、ちょっと二人ともすごかったから喧嘩しないで!」

真央は少し困りながらも二人を止めた。


 カインは深々と頭を下げた。

「ありがとうございます。僕だけだったら今頃どうなっていたか…お二人とも以外にお強いんですね。」


「そんな、私たちはまだまだ…」

真央が謙遜する一方で、レナは胸を張った。

「でしょ?もっと褒めていいよ!以外には余計だけどね!」


 その後無事に街に到着し、荷を降ろし終えた行カインは、ホッとした様子で真央とレナに向き直った。


「本当にありがとうございました。おかげで無事に街までたどり着けました。これ、少しですがお礼です。」


そう言って、カインは袋から数枚の銀貨を取り出し、真央に差し出した。


「えっ、そんな…! 街まで送ってもらえただけで十分です!」

真央は遠慮して、手を引っ込める。


「いやいや、僕一人じゃどうにもならなかったし、助けてもらったのは事実ですので。遠慮しないで受け取ってください」


それでも真央は困ったように視線を泳がせる。

すると横からレナが手を伸ばし、ヒョイッと銀貨を掴んだ。


「うん、ありがと! こういうのは遠慮したら負けなんだよ、真央!」


「えっ!? ちょ、レナ!」


「いいじゃん、せっかくくれるって言ってるんだから。ね、カイン?」


「ええ、もちろんです。助けてもらった分ですから。」


 カインが微笑むのを見て、真央は観念したようにため息をついた。

「…じゃあ、お礼としてありがたく受け取るね」


「また機会があれば護衛、お願いします」

そう言うとカインは馬車を走らせ去っていく。


 カインを見送りながら、真央はレナの手の中の銀貨を見つめた。


「…これでしばらくは大丈夫かもしれないけど、ずっとってわけにはいかないよね」


 レナも銀貨を指ではじきながら

「異世界でお金を稼ぐってどうすればいいんだろ?」

と呟く。


「うーん…あ、ちょっと待って!」


 真央は慌ててカインの背中に向かって声をかけた。


「あの、カイン!」


 カインは馬車を止めて振り返る。

「ん? どうしました?」


「この世界で…というか、この街でお金を稼ぐ方法って何かありますか?」


 カインは少し考え込んだあとに答える。

「そうですね、一番手っ取り早いのは役場に行くことですかね」


「役場?」


「ええ。この街の役場には、いろんな人たちからの仕事の依頼が集まってるんです。護衛や荷運び、時には魔物退治なんかの依頼もありますよ。」


「魔物退治か…」

真央は不安げな顔をするが、レナは興味津々だ。


「へー、つまり単発バイトみたいな感じ?」


「……?」

 

 カインはバイトが何かよくわかっていなさそうだったが話を続ける。

「冒険者ギルドがあるような街ならそっちの方が仕事の量が多いんですけど、この街にはないので代わりに役場がそういう仕事を取りまとめてるんです。」


「なるほどね」

レナは腕を組んで頷く。

「じゃあ、早速役場に行ってみる?」


「…それしかなさそうだね」

真央はレナに同意する。


「では、頑張ってくださいね!」

と手を振り、馬車を再び走らせた。


「異世界に来てまで単発バイトか…」

レナは不満そうに呟く。


「仕方ないでしょ。お金がないんだから」

真央がたしなめると、二人は役場を探して歩きはじめるのだった。

 

宿を探して街を歩いていると、立派な木造の建物の前に『宿屋』と書かれた看板を見つけた。


「ね、真央! 先に宿取らない?」


「え?」


 レナが元気よく振り返る。


「だって、ちょっと休憩したいし」

「それに泊まるところ確保しといたほうが安心じゃん?」


 真央は一瞬考え込む。


「…うん、それにこの世界の宿代の相場も知っておいた方がいいよね。」


「そうそう! じゃ、決まり!」


 レナは真央の手を引いて、さっさと宿屋の中へと入っていった。


 中は思ったよりもこぢんまりとしていて、木の温もりを感じる落ち着いた雰囲気だ。受付には優しそうな女性がいて、二人を出迎えてくれた。


「いらっしゃいませ。ご宿泊ですか?」


「はい! 一部屋お願いしまーす!」


「ちょっと待ってレナ、一応値段聞いてから決めようよ…」


 真央が慌てて制止すると、受付の女性が微笑みながら答えた。


「1部屋ですと、ベッドが2つの部屋1泊で銀貨5枚になります。ベッドが1つでもよければ1泊銀貨3枚になりますね。」


 二人はカインからもらった銀貨を思い出して、軽く計算する。


「…ってことは、カインからもらった分だとベッド2つの部屋では2泊が限界か…」


 真央がやや困った顔をすると、レナがすぐに明るい声で言った。


「じゃあ、ベッド1つの部屋にしていつもみたいにくっついて寝よ! そしたら節約できるし、なんなら3泊できるじゃん!」


「ええっ⁉ ちょ、ちょっとレナ…!人前で…!」


 真央は顔を赤くするが、宿泊費を考えれば確かにそれしかない。


「…うん、そうするしかないか。早くお金を稼がなくちゃ。」


「ふっふっふ…でも私は、お金があっても真央と一緒に寝るけどね!」


「なっ…⁉」


 レナの言葉に真央の顔が一気に真っ赤になる。


「ちょ、ちょっと何言ってるの⁉」


「だって一緒に寝たほうが楽しいしー?」


レナがからかうように笑いながらウインクする。


「も、もう…! レナは本当にそういうところが…!」


 顔を覆いたくなりながらも、結局真央はレナの提案を受け入れ、二人で一部屋を借りることにしたのだった。

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