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異世界転移のきっかけは隣の部屋から


大学の期末試験が近づき、真央は深夜にも関わらず机に向かってノートを開いていた。しかし、隣の部屋から爆音で流れるダンスミュージックが集中を妨げる。


「また桜井さん、こんな時間に……うう、静かにしてって言いたいけど、ちょっと苦手なんだよなぁ……」

大学2回生の白井真央はため息をつき、壁越しに聞こえる音楽に眉をひそめた。


気分転換にノートの端に昔ハマったアニメで見た魔法陣を描き始める。真央は笑いながらつぶやいた。

「こんなの、本当に魔法が使えたら試験なんて楽勝なのに……」


一方その隣の部屋。大学1回生の桜井レナはそのダンスミュージックに合わせて体を揺らしていた。


「え、これ懐かしっ!めっちゃ昔のアニメじゃん!」

レナのスマホから古いアニメの主題歌のアレンジが流れ始めた、記憶を頼りに子供の頃に覚えた魔法の呪文を口ずさんでいた。


「たしか……『光よ、我に力を与えたまえ』とか?超中二病なんですけど!」


すると――

部屋全体がまばゆい光に包まれた。


「ちょっ、何これ!?」

「え、なに!? 地震?え、爆発!?」


壁を挟んで同時に叫び声を上げた二人。異様な風が吹き荒れ、光がますます強くなる。


「嘘でしょ!? 何これ何これ何これ!?」

「ちょ、え、ヤバい!ワクワクしてきた!」


何が起こっているのか状況を理解する間もなく、光が2人をを飲み込んだ。




真央が目を覚ますと、そこは広大な森の中だった。風に揺れる木々の音が耳に入る。


「え……ここ……どこ……?」

起き上がった真央は、自分の服装に驚愕した。部屋着の地味なパーカーとスウェットの代わりに、どこか神秘的なローブをまとっている。なぜか眼鏡は地味な黒縁のままだった。


「な、なにこれ……夢?いや……夢じゃない……?ここはどこなの……」


動揺する真央の耳に、背後から聞き慣れた声が響く。

「うわ、めっちゃキラキラしてるじゃん!インスタにあげるしかないっしょ!」


振り返ると、派手なフリルのドレスをまとい、腰に大きな剣を携えた桜井レナが立っていた。


「さ、桜井さん!?」

「おー、白井ちゃんじゃん!てかその服、地味だけど似合ってんじゃん!」

「いや、服の話じゃなくて!なんで桜井さんもこんな場所にいるの!? ていうかその剣何!?」

「え、分かんないけどカッコよくない?てかこれ私、勇者とかじゃない!?」

「勇者!? いや、そんなわけないでしょ!私たち、どう考えてもおかしなことに――」


真央の言葉を遮るように、茂みから謎の生物が飛び出してきた。それは巨大な狼のような姿をしており、目が赤く光っている。


「きゃっ!な、何あれ!?」

「おおっ、敵じゃん!燃える展開!」

「燃える!? いやいやいやいや!逃げなきゃでしょ!」


真央が必死で後ずさる中、レナは腰に下げた剣を軽々と引き抜いた。

「やば!剣とかマジテンション上がるんだけど!」

「待って、使えるの!? 剣なんて触ったことないよね!?」

「ノリでいけるっしょ!」


レナが無造作に剣を振るうと、剣先が突然まばゆい光を放ち、狼を一撃で吹き飛ばした。


「えっ……?」

「ちょ、すごくない!? 私、超強くない!?」

「いやいやいや!何これどうなってるの!? これ現実!?」

「いやー、現実だとしたら超面白くない!? 異世界とかじゃん!」

「落ち着いて!状況を整理しないと……!ああもう、信じられない……」


真央が頭を抱えて混乱する横で、レナは楽しそうに剣を眺めていた。

「やっぱこれ、インスタに載せたいわ~。異世界ライフとかバズるっしょ!」

「インスタって……異世界にスマホなんてないから!」

「マジかー。じゃあアナログで広めるしかないか。てか次の敵どこ?」

「次の敵!? 戦うとかじゃなくて元の世界に戻る方法を……!」


こうして、話もノリも噛み合わない二人の異世界生活が幕を開けた――。




「桜井さん、ちょっと休憩しようよ……」

「いやいや、白井ちゃんもっとサクサク歩けるっしょ!あー早くシャワー浴びたい」


真央とレナは森の中を彷徨っていた。どこを見ても同じような木々が続き、どっちがどっちなのか分からなくなる。


「人里を探すって言っても、どっちに行けばいいか分からないんだから……どうするのよ……」

「ま、なんとかなるっしょ!とりあえず歩けば森の出口くらい見つかるって!」

「そんな適当な……はぁ……」


疲れた真央がため息をつきながら歩いていると、突然、森の奥に煙が立ち上るのを見つけた。


「あれ、煙……?誰かがいるのかも!」

「お、マジじゃん!ナイス白井ちゃん!じゃ、行こ!」

「え、ちょっと待って!急に突っ込むのは危ないかもしれないし、ちゃんと慎重に――」


レナは真央の声を無視して、煙が見える方向へどんどん歩き出した。


「桜井さん、待ってってば!」




しばらくすると、小さな木造の小屋が見えてきた。煙は小屋の煙突から上がっている。


「誰か住んでるみたいだけど……ちょっと怪しい感じ……」

「怪しいとかじゃなくて、これ絶対面白い人住んでるパターンじゃん!ほら、入ろう!」

「えっ、ちょ、勝手に入るの!?」


レナが勢いよく小屋の扉を開けると、中には長い髪をかき上げながらポーションらしきものを調合している女性がいた。


「……おや?」

振り返った女性は、大人の色気漂う美しい人だった。黒いドレスに身を包み、どこか神秘的な雰囲気を醸し出している。


「何か用かしら?」


レナは全く警戒せず、笑顔で手を振った。

「こんにちはー!あたしたち道に迷っちゃって~!」

「道に迷った……?」


真央は慌てて頭を下げる。

「すみません!突然お邪魔してしまって……!」


女性は二人をじっと見つめると、真央のローブに目を留めた。


「そのローブ……まさか……伝説の精霊術師のもの?」

「えっ!? これ、そんなすごいものなんですか!?」

「間違いないわ。この刺繍と紋章……世界中の精霊たちと契約を結んだ者だけが持つことを許されたローブよ。何故あなたが持っているの……?」


さらにレナの腰にある剣を見ると、目を見開いた。

「そしてその剣……勇者の剣……!」


レナは自分の剣を抜いて見せる。

「え、これそんなにヤバいやつなの!? すごくない、あたし!」

「ええ、すごいどころではないわ。この剣を扱える者は選ばれた勇者だけ。あなた達何者なの……?」


真央は困惑しながら答える。

「あ、あの……私たち、実は何も分からないままここに来ちゃって…」

「……あなたたち、一体どこから来たの?」


真央は事情を簡単に話した。部屋の中に現れた光のこと、突然異世界に飛ばされたこと。女性は静かに話を聞いていたが、話が終わると少し険しい表情になる。


「なるほど……。もしあなたたちが伝説の精霊術師と勇者としてこの世界に転移してきたとすれば……これはただの偶然ではないわ。」

真央が尋ねる。

「どういうことですか……?」

「魔王の復活が近いという噂があるの。この世界には、そういう闇の力が蘇りそうな気配が感じられているわ。」


レナが興味津々で聞き返す。

「魔王?超ラスボスっぽいじゃん!」

「軽々しく言わないで!魔王が蘇ると、この世界は破滅してしまうわ。あなたたちが現れたのは、それを止めるためなのかもしれない。」


真央は真っ青になりながら声を震わせる。

「ちょ、ちょっと待ってください!私たち、そんな大それたことできるわけないです!それに魔法なんて使えないし……!」

真央の心配をよそにレナはワクワクが止まらない様子である。

「いやー、でもこれってさ、めっちゃ熱い展開じゃない?異世界で魔王倒してヒーローになれるとか最高じゃん!」


真央がさらに慌てふためく中、女性は微笑みながら言った。

「まぁ、まずは一息ついて。自己紹介がまだだったわね。私はリヴィア。この森に住む魔女よ。」

「魔女……!?」

「ええ、でもそんなに警戒しなくていいわ。見た目通りの普通の美人なお姉さんよ。」


リヴィアは楽しそうに笑いながら、二人を小屋の中へ招いた。


「さぁ、話を続けましょう。あなたたちがこの世界でどう生き抜くか……少し助言をしてあげる。」


こうして二人は、頼りになる(?)魔女リヴィアとの出会いを果たしたのだった。



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