夜の公園
体調不良が続いてるけど何とか投稿できた…。
独立した話のようでそうではないような、ちょっと不思議なお話しです。
第9話
夢を見ていた。
遠い遠い、昔の記憶。
誰かが泣いているのが見えた・
しかし、幼かった私はどうしたらいいのか分からず。とりあえず手をさしのべて、何とかその子に泣きやんでもらいたいと思っていた。
「どうしたの?」「私がいるから大丈夫だよ」なんて、今考えてみれば相当なことを言っていたと思っている。
なぜ今になってこの記憶が蘇ってきたのか。
夢って、こんな風に過去の出来事を呼び覚ますものなのかも…。
それが夢だと言われれば、それまでだけど、本当に不思議な世界だ。
まだ幼すぎた私。
どうしたらいいのか分からず、ただ、手を差し伸べていた…。
「ん、んん…。」
それから、何となく居心地が悪くて目が覚めた。
どうやら机に突っ伏して眠っていたらしく、その痕跡がいたる所に散らばっていた。
時刻は21時。
パソコンに映る文字たちが、私の視界をぼやけさせる。
体育祭の招待状のデザインを任されるなんて、とても気の引き締まる思いだ。
きっとこれは、私の気持ちを込めた書影のようなものになる。
ちなみに、このレイアウトは、私が一人で考え抜いたものだ。
もちろん、学校行事なのだから、生徒会役員で意見を出し合ったり、先生方や保護者の方々の意見も参考にすべきかもしれない。
でも、体育祭の開催まであと一週間しかない。
そんな状況で担任の先生に相談すると、「それじゃあ申し訳ないけど、樫本さんにお願いしちゃおうかな。校長先生には私が伝えておくから。」と快く引き受けてくれ、丸投げをされた。
それでも、先生は私に託してくれたんだ。
その事実に背中を押された私は、みんなが納得できるような…、受け取った人が幸せな気持ちになれるような招待状を作ろうと、心に決めた。
「ふう。」
私は、こういう作業ってわりと好きだったりする。
それが誰かの役に立てるというのなら、尚更やる気が出てくるというものだ。
ちなみに、招待状を渡す相手のリストアップまでは自分たちでやっていいという、なんとも「信頼されてるんだなあ。」って思えるやりとりがあったのも、よく覚えている。
結果決まったことは、招待状を送ることができる枚数は、一人三枚までというもの。
あの校庭の大きさを考えると、むしろぎりぎりまでがんばった人数になっていると想う。
そして、招待状を送ることができるのは、自分にとって大切な人を招待するという大義名分があり、それをSNSで重点的に発信している。
「それでも…。みんなこんなに招待状が欲しかったんだ。」
今の時代、招待状なんてなくても来てほしい人に連絡を取るのは、簡単な事だけど…。
「リバイバル?」
そんなことを呟きながら、引き続きデザインを考えようとしたけど、さすがに休憩を取らないと集中力が切れてしまう。
「何かあったっけ。」
そう言って、一筋の望みをかけるように冷蔵庫の中を覗いてみたけど、中にはお茶と少量の調味料だけ。
「仕方ないか…。」
私は部屋着のまま外に出た。
肌にまとわりつく夜風にあたりながら、コンビニに向かう道のりは、どこか懐かしい気がして、私の心の奥にある幼い記憶を溶かし出していくようだった。
「あれ?」
ルンルン気分で歩いていた道中、近くの公園に人影が見えた。
無機質にさび付いた、古びた遊具。
お世辞にも管理が行き届いているとは言えない、住宅街の一角にある小さな公園。
幽霊だったりして。
そんなことを考えながら通り過ぎようとしたとき、その人影は身に覚えのある人物だということに気が付いた。
「…あの人だ。」
その人というのは、先日私の自宅近くにいた男性。
ベンチに座って缶コーヒーを飲みながら、上を向いては俯いている。
………。
傍から見れば明らかな不審者。
関わる必要もないと思って歩き出そうとしたとき、ふとその人と目が合ってしまった。
互いの距離は数メートルしか離れていなく、思わず息を詰まらせた私は、とりあえず会釈をした。
「ああ、君か。奇遇だね…。」
覇気のない言葉。
ベンチの下には無数のタバコの吸殻が散らばり、夜の静けさを破るように月明かりに光っていた。
「…ご自宅、このあたりなんですか?」
すぐに立ち去ればいいものの、私はいつもの癖でついそんなことを聞いていた。
「自宅…。ここからはすごい遠い場所かな。」
吐息交じりな男の声が、夜空を揺らす冷たい木漏れ日へと消えて、とても悲しい表情になっていた。
湿った夜風が、肌にまとわりついてくる。
何か理由があることは間違いなく、同時にこの人は危険な人ではないと感じた私は、少しだけ話をしてみようと思い、自販機で飲み物を買って、向かいのベンチに腰掛けた。
「優しいね。」
「いや…。なんか気になっちゃって。」
「都会も暖かいところがあるんだね。」と言って、缶コーヒーに口をつけている。
遠くから流れ着いたようなその言葉は、どこから来て、この先どこへ消えていくのか…。
「…俺が何でここにいるか、聞かないんだね?」
「それを聞くと、あなたが悪い人になっちゃうかもしれないから。」
「…死に場所を探してたんだ。」
「え…。」
深い海底に沈んだような瞳。
正直、私はこの人のことを信用していなかった。
右手をポケットに忍ばせて、さりげない護身の体制をとっていたくらいに。
だから私は、この人が言ったことに目と耳を疑ってしまった。
「東京まで来たら何か変わるかもしれない、なんて淡い期待をしてたんだけどなあ…。」
そう言って言葉に詰まるその人の左腕には、黒い布製のリストバンドが見えた。
「…気になる?」
「あ、いっいえ!」
「大丈夫、君が思っていることで間違いないよ。」と、悲しげな表情で私のことを見ている。
「君は、無実の罪についてどう思う?」
「…どういうことですか?」
「そのままの意味だよ。何も罪を犯してもいないのに、任意同行なんて形で連行されて、不当な取り調べを受けて。」
なんだかドラマの中の世界のようだと、私は思った。
そんなことが本当にあるんだって思ったと同時に、両親の職業柄申し訳ない気持ちになった。
「まあ、あの件は俺も悪かったんだ。ずっと見て見ぬふりをしていていたんだから。」
いまいち掴むことのできない話し方だ。
「理由があってここまで来たのに、いざ来てみたら何にも目的なんてなかった。いや、違うな…。最初からそこに通じる道なんてなかったんだ。」
「…どういうことですか?」
「ごめんね、こんな話をして。君はどこに行こうとしていたの?」
「えっと…。」
少しだけ返答に迷ったけど、素直にコンビニに行くといった。
ここは住宅街で、ほかに理由が思いつかなかったから。
「そっか。ありがとう、話を聞いてくれて。」
「い、いえ…。」
「君はまだ若いから、ピンとこないかもしれないけど、ふとしたことで巻き込まれることもあるから、気を付けてね。良いことも悪いことも。」
「それじゃ。」と、私の返答を待たずその人は帰っていった。
………。
結局あの人は何だったんだろう。
不思議な人だった。
何が不思議なのかと聞かれると、明確に答えることができない。
それくらい曖昧だけど、確証めいた何かもある。
「あの人、どこかで会ったことあるような気がする…。」
コンビニでカップ麺を買ってきた私は、三分の間にいろいろなことを考えていた。
今後は基本的に毎週金曜日の20時から24時の間に投稿します。
たまに臨時投稿をするときがあるかもしれないです。