停滞とひらめき
過眠症ですかね?
今週(12月15日~12月20日現在まで)活動可能時間が5~7時間であとは眠りっぱなしという異常事態。
このお話は18日に投稿しようと思っていたものです。
伏線バリバリというよりは、純粋に楽しんでいただけるお話になったかなと思っています。
第8話
とある日の放課後。
生徒会室の窓の外には、初夏の香りを漂わせる茜色の空が広がっていた。
それはまるで、今の私たちの焦燥感を映し出すかのよう…。
あと一週間で体育祭。
目前に控えた準備は着々と進んでいるはずなのに、生徒会室にいる全員が頭を抱えていた。
その理由は至極単純で尚且つ、とても難しいこと。
どうやって前年度よりも来場者数を増やすか、それが奏をはじめとした生徒会役員に課せられたノルマというわけだ。
ちなみに私と一条さん、桜井さんは、奏に頼まれてこの場に同席している。
「何か意見ある人ーっ!」
生徒会長の奏が、いつものように明るい声で問いかける。
テーブルの上には、各クラスが作り上げた体育祭のポスターや、奏たちが身を粉にして書き上げた企画書が散らばっている。
その一つ一つが、彼女らの熱意の証であるはずなのに、今は重くのしかかるように感じられた。
奏は表情には出さないものの、焦りを帯びた声でメンバーに問いかける。
「SNSを活用するのはどうでしょう?」
副会長の提案に、他のメンバーも頷く。
しかし、私の心には、どこか釈然としないものが残っていた。
SNS、確かに効果はあるかもしれない。
でもどこか画一的で、面白みに欠けるような気がしてならない。
それに我々の高校のアカウントをフォローしている人じゃないと、そもそも投稿したことに気が付いてもらえない問題もある。
「SNSもいいけど、もっとオリジナルな企画がいいですわね。」
静かに会議に参加していた桜井さんが、重々しく口を開いた。
「みこっちの権限でどうにかできないの?」
奏の言葉に、桜井さんは静かに首を横に振った。
「わたくしには何も権限なんてありませんわ。言われたことをするので精一杯ですもの。あとその呼び方はやめてくださいまし。」
いつも冷静沈着な桜井さんが、少しだけ悲しそうな表情を浮かべていた。
「どんな企画にすればいいんだろう…。」
私の言葉に、一同は考え込む。
決してアイデアは尽きていないはずなのに、どれもどこか平凡で、心に響かない。
まるで、大海原を漂う小さな船のように、私たちは目的を見失いかけているのかもしれない。
万事休すか。
そう思ったとき、一条さんが恐る恐る口を開いた。
緊張でこわばっている体を必死に抑えている。
「あの…、根本の考え方を変えてみるのはどうでしょうか。」
「おおー。待っていたよ。聞こうじゃないか!」
奏も、やっぱり内心では焦っていたようだ。
「来場予定者のリストアップって、ある程度できているんですか?」
「えっとー、彩葉ヘルプ!」
「なんで私なのよ…。この間副会長さんと一緒に、来てくれるって確約が取れてる人と取れそうな人の一覧表は作成してるけど。」
「それだったら。」と、一条さんは何かを考える仕草をしていた。
「急な話になっちゃうんですけど…。」
そう言って提案したその内容は、私たちの誰もが思いつかなかった、盲点を突いた作戦だった。
しかしこのアイデアなら、大海原を突き進むだけのポテンシャルを秘めている。
その案が出たところで、今日の会議は終了となった。
「しっかしまあ、一条さんの口から人海戦術なんて言葉が出るとは思わなかったよ。」
校舎を出ると、辺りはもう真っ暗で星たちが賑やかな団らん会をしていた。
「リストアップしておいてよかったね。明日から頑張ろうよ。」
「営業かー。頭で解決できないなら足を使えってことだよね。やる気出たよぅ!」
明日から待っている羨望に酔い浸っている奏の表情とは対照的に、一条さんの表情はどこか浮かない感じがしていた。
「大丈夫だよ一条さん、私も一緒に行くから。」
なんて格好つけている私も、こういうことは初めてだったりする。
未来ってわからないな。
そんなことを身にしみて感じた出来事だった。
「それじゃあね。」
「うん、また明日!!」
私はいつものように一条さんと一緒に下校をし、いつものように最寄り駅で別れて自宅へと帰る。
夜空の星たちが「早く帰らないとダメだよ。」と言っている気がして、微笑みながら歩いている私。
人海戦術というのは、要するに各学校を直接訪問して、話をするというもの。
授業以外でやることは格段に増えるはずなのに、こんなに心が弾んでいるのはなぜだろう。
そんなことを考えたけど、答えは分かり切っている。
まだまだ私も子供っていうこと。
それだけなんだ。
自宅のすぐ前まで来たとき、私は強い異変に気が付いて足を止めた。
「あの人…。」
以前にコンビニで見かけた、店員さんに怒鳴っていた人だ。
何でここにいるんだろう…。
そう思ったけど、怖いから話しかけようとすることはせず通りすぎようとしたとき、その男性が泣いていることに気が付いた。
えっと思って思わず立ち止まってしまった。
座り込んでいるその人は、私の父親と同じくらいの年齢な気がする。
必死になって涙をこらえているその姿は、とてつもなく重たい何かと戦っているように思えた。
「悪いね、こんなところを見せちゃって。怖い人間じゃないから安心して。」
「はあ…。はい。」
そんなことを言われると、否応なしに危険信号を発してしまうのだけど…。
「君は今、幸せか?」
「…人並みには。」
「そうかそれならよかったよ。」
「引き留めちゃってごめんね。」と言って、その男の人は去っていった。
何だったんだろう。
と、少しばかり考えたけど、答えが出てくるはずがなく…。
まあいいかと思いながら過ごすしかなかった。
食事を終えてから、何となく学校のSNSを見てみた。
投稿している内容と言ったら、専ら私の書いている小説と生徒会の広報係が投稿しているお堅い文書だけ…。
つまり現状では、文章しか載せていないことになる。
「…どうしようかな。」
管理者の一人として何となく考えた私は、とりあえずのどが渇いたからコーヒーを淹れることにした。
………。
コポコポという音が似合うような、ゆっくりとしたスピードが今の私の心とリンクして、何だか心地よくなる。
そう思ったら何となく、コーヒーメーカーを写真に撮り、「コポコポ」と短過ぎる文章を添えて、学校のアカウントに投稿してみた。
「怒られませんように。」
そんなことを呟いていると、ものの数秒でいいねの通知が来た。
誰だろうと思って見てみると、奏だった。
さすが、自分の学校のSNSはちゃんと見ているんだなと、感心した。
「見たい人が見る。それが本質ではあるけど…。」
何となく考えたことが、時間に余裕のあった私の頭の中を支配している。
「普段は見ない人でも、見たいときに役に立てるようなコンテンツにできるポテンシャルは…あるなぁ。」
ちなみに今の投稿は、既にいいねが数件ついていてコメントも来ている。
「どうした生徒会?」「ネタ切れ?」「お洒落な家すぎる!誰だ?」とか、言いたい放題になっていた。
「ああ、そうか!」
思わず私は大きな声を出してしまった。
私たちは今日の会議の中で、必死に正解の枠を模索していた。
だけど、してはいけないことを最初にリストアップできれば、あとはそれ以外のやり方を自由に試行錯誤することができる。
「正解が分からないなら不正解をリストアップすればよかったんだ…。」
そういう意味では、一条さんの提案も理にかなっている。
「あ。それなら…。」
私はパソコンを持ってきて、カタカタと文章を打ち込んだ。
「体育祭に誰か一人、外部の人を誘えるとします。貴方なら誰を誘いますか? 樫本彩葉」
そう書いて投稿した。
さすがにすぐにリプライは来ないだろうと思って、出来上がったコーヒーを持ってこようとしたとき、スマホに通知が来た。
見るとそこには奏からのリプライが。
「怒られるかな…。」なんて呟きながら見てみると、そこには
「グッジョブだぞあーちゃん!!」
という盛大にインパクトのあるリプライが…。
「あーちゃんはやめなさい。」
という文言だけ送って、いったん画面から目を離す。
学生一人につき招待状を数枚渡す。
そうすれば、私たちが地道に近隣の学校や施設を訪問するより、高率的に多くの来場者に来てもらえる可能性が高い。
妙案を思いついた私は、しばらくの間上機嫌だった。
しかし…。
「あーちゃんwお疲れ様。」
「招待状が出来たら何枚か欲しい!頼むよあーちゃん!」
「おっとっと?これは来月の新聞部のネタじゃねーか?」
とまあ、言いたい放題言われたい放題。
しかしそれでも嬉しかった。
こういうのも、なんかいいなって思っている私がいた。
次回投稿は暫定ですが、12月22日(日曜日)20時から24時の間に投稿します。
イレギュラー本当に申し訳ございません。