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第9話 旅の同行者

 美雨は休憩所から出て中庭から自室に戻る。

 自室には侍女の野乃ののがいた。


「美雨様。良いところへお戻りになられました。今さっき美雨様の旅の護衛をする騎士が決まったと報せがありましてその騎士の二人が挨拶に来たいらしいんです。騎士の方をお呼びしてもいいですか?」


「もちろんよ。私を護衛してくれる騎士とは長い旅を一緒にするんだもの。私もちゃんと挨拶しておきたいわ」


「ではそのように伝えておきます。さあ、まずはお茶を飲んで一息ついてください」


「ええ。そうするわ」


 持っていた教本を書棚に置くと美雨はソファに座る。

 野乃の淹れてくれたお茶を飲むと身体が解れるように感じた。


(私の護衛騎士か。どんな二人かしらね)


 王配選びの旅はたくさんの人数を引き連れて旅をするモノではない。

 旅に同行できるのは女王候補者一人に付き侍女が一名と護衛騎士が二名である。


 そして旅の間は必要以上に己の素性を民に明かしてはならないと定められていた。

 国民は王族というだけで恐縮し特別扱いをする。それを避けるための規則だ。


 なぜならこの旅は王配選びという重要な用件だけでなく今まで基本的に王宮の中の世界しか知らない女王候補者たちが自分の国の真の姿を見る旅でもあるからだ。

 民の普段の暮らしを見るのに民から特別扱いを受けたら意味がない。


 それともう一つは女王候補者の身の安全の為だ。


 護衛がたくさんいればそれだけ安全ではあるがそれでは美雨たちの身分を隠すことができない。

 王配選びと国の視察と女王候補者の安全を考慮した結果、このような少人数での旅の形になったらしい。


 その代わり女王候補者の護衛をする護衛騎士は騎士の中でもかなりの腕前でなければなれないと聞いていた。

 女王候補者の護衛をする護衛騎士は騎士であれば一度は憧れる存在とのことだ。


 美雨に同行する侍女はお茶を淹れてくれた野乃に決定している。

 野乃は水族の出身で美雨と多少色味は違うが銀髪に青い瞳の20代前半の女性だ。


 数年前から美雨の侍女を務める彼女は気配りもでき侍女でありながら美雨が間違ったことをしようとすればきちんと注意してくれる。

 そんな野乃のことを美雨は自分の姉のように感じていた。


 だからこの旅で侍女を一人しか連れて行けないと知った時には野乃に同行をお願いしたのだ。

 でも美雨は野乃に旅を強制するつもりはなかった。


 なにしろ旅は一年がかり。野乃にだって自分の生活がある。長い旅に出るのは無理かもしれない。

 そう思ったからあくまでお願いの形を取った。


 しかし野乃はすぐに承諾してくれた。

 それどころか「美雨様との旅は楽しみです」と旅をすることを喜んでいる様子だ。


 六部族の居住区域には馬車での通行が困難な場所もある為、移動は基本的に馬になる。

 そのために美雨も乗馬を習って馬に乗ることができるようになった。野乃も乗馬はできるらしい。


 同行する侍女は自分で決められるが護衛騎士は王配が決めることになっている。

 政治的な権力はない王配だが次代の女王を決める儀式の王配選びに関することだけは王配の役割がいくつか存在するのだ。


 護衛騎士選びもその王配の役割の一つ。

 自分のお父様たちが自分の為にどんな護衛騎士を選んでくれたのか美雨は想像を膨らませる。


(筋肉モリモリの男性かしら。それとも背の高いスラリとした感じの騎士さんかな)


 これから自分の夫を決める旅に出る前であっても美雨はまだ恋に恋するような少女であることに変わりはない。

 長い旅を一緒に過ごすことになる騎士の男性に興味を持っても仕方のないこと。


 すると美雨の部屋の扉がノックされた。

 どうやら護衛騎士がやって来たようだ。


 扉越しに対応した野乃が美雨に声をかけてくる。


「美雨様。護衛騎士の方々がいらっしゃいました。お通ししてよろしいでしょうか?」


「ええ。いいわよ」


 扉が開き二人の騎士服を着た男性が部屋に入って来た。


 一人は30歳ぐらいの茶髪に緑の瞳。特徴から土族出身だろう。

 もう一人は20代半ばくらいの金髪に金の瞳の光族の男性だ。


 すると土族の男性が先に頭を下げる。


「初めまして。美雨王女殿下。私は当麻とうまと申します。土族出身で騎士歴は10年程になります。今回は美雨王女殿下の護衛に選ばれまして大変光栄に思っております」


 当麻の挨拶が済むと続けて今度は光族の男性が頭を下げた。


「初めまして。美雨王女殿下。同じく護衛騎士に選ばれた高志乃たかしのと申します。私は光族の出身で騎士歴は5年ですが剣の腕には自信があります。美雨王女殿下の護衛をさせていただくことは私にとって最高の誉れと思っております」


「二人とも頭を上げてください」


 美雨の言葉に当麻と高志乃は同時に頭を上げる。

 二人は少し緊張しているのか強張った表情だ。だが二人とも整った顔立ちの美丈夫に見える。


 二人とも笑顔になれば女性にモテるだろうと予想できた。

 そもそも既に結婚している可能性もあるが。


 当麻はスラリと背が高く高志乃は長い金髪を背中で一纏めにして縛っている。

 見た目は筋肉モリモリという訳ではないが二人とも騎士らしく体格は良い。


 護衛の剣術などの腕前に関しては自分のお父様たちが手を抜くとは思えないから美雨が心配することはない。

 だから美雨は自分の気になるところだけを二人に訊くことにした。


「私のことは王女殿下って呼ばなくていいわ。旅の最中にそんな呼び方したら民に身分がバレてしまうもの」


「承知しました。ではこれからは美雨様と呼ばせていただきます」


「私も美雨様とお呼び致します」


 本当なら「様」もいらないぐらいの気持ちの美雨だがさすがにそう頼んでもそれは承諾してくれないだろうと思うので美雨もそこまでは要求しない。

 この二人より長い付き合いで心を許している野乃でさえ「様」を外すことはないのだから。


「それと当麻と高志乃に質問があるのだけどいいかしら?」


「はい。私たちに答えられることでしたら」


 王族に仕える騎士らしく当麻は「答えられることなら答える」と返事をする。

 王族の護衛をする騎士は国に関する重要事項を耳にする機会もあるがそのことを簡単に他言するようでは騎士失格だ。


(さすがお父様たちが選んだ騎士ね。模範的な回答だわ。それだけ信用できるってことね。それならあの条件さえ満たしてくれれば私の護衛騎士としては合格ね)



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