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女王の華咲く日~新しい女王は六人の王配に愛されて華開く~  作者: リラックス夢土


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第89話 海羽からの昼食の誘い

「美雨様。昼食は私とご一緒に食べませんか?」


 水の王配候補者たちとの顔合わせが終わり部屋に帰る途中で美雨は海羽からお誘いを受ける。

 水の族長の誘いを断る理由はないので美雨はその誘いを受けることにした。


「ええ、ぜひご一緒したいです」


 それに美雨には海羽に訊いておきたいことがあったのだ。

 ここに来る道中に聞いた最近頻発しているという海賊の被害についてもっと詳しく知りたい。


 もちろん今の自分がそのことに対して何かできるというわけではないことは分かっている。

 だが将来自分が女王になった時に海賊討伐について対応しなくてはならないかもしれない。


 そのための情報収集は大事なことである。

 水の族長の海羽であれば海賊の被害の詳細を知っているだろう。


「では後で使用人を迎えに寄こしますのでしばらく部屋でお待ちください」


「はい。ありがとうございます」


 そう返事をしたところで美雨の部屋の前に着いたので海羽と別れて美雨は部屋に入る。

 すると光主がソファに座って美雨の帰りを待っていた。


「美雨、お帰り。変な男に引っかからなかったか?」


「…………」


 光主の言葉にどう返事をしていいか分からず美雨は言葉が出て来ない。

 水の王配候補者たちとの顔合わせに行っていたことは光主も知っているはずだ。


 それなのに「変な男に引っかからなかったか」という言葉はどういう意味なのだろうか。

 水の王配候補者たちの中に変な人物がいなかったかどうか聞きたいのだろうか。


「水の王配候補者の方々で変な方はいらっしゃいませんでしたよ。皆さん、礼儀正しそうな方でした」


 若干一名、水連だけは軽薄そうな男性に思えたがあれぐらいの態度で水連の全てを決めてしまってはいけないと思い美雨はあえてそのことを話さず無難な言葉を選んだ。


(だって、光主様に軽薄そうな男性がいたなんて言ったら絶対に光主様は水連様を敵視しそうだし……)


 光主が水の王配選びに口を出さないと言ってはいても光主だって水の王配が誰になるか興味があるはずだ。

 王配たちは協力をしてひとりの女王を支えるのだから。


 自分と同じく女王を支える王配同士は仲間とも友とも言える存在だ。

 それが誰になるかは光主にとっても重要なことだろう。


 美雨がソファに座ると野乃がお茶を淹れてくれる。

 すると光主が隣りに座った美雨を抱き締めてきた。


「きゃっ! こ、光主っ! な、何を…」


「美雨が足りなくて死にそうだったから美雨を補充させてくれ」


 光主はそう囁きながら美雨に甘えてくる。

 こうやって抱き締められることに美雨はなかなか慣れない。


 鼓動が速くなり顔も赤くなってしまうが突き放すこともできないのだ。

 そんなことをすれば光主が傷ついた顔をすることを知っているから。


 だが野乃に見られているし美雨の羞恥心にも我慢の限界がある。

 美雨はそっと光主に告げた。


「もうそろそろ放してください、光主。水の王配候補者と顔合わせに行っていただけじゃないですか」


「俺は四六時中ずっと美雨といたいんだ。美雨は俺と一緒にいたくないのか?」


 拗ねた声を出す光主はまるで飼い主に甘える大型犬のようだ。

 美雨だって光主を想う気持ちに偽りはないが犬には躾が必要だということも美雨は知っている。


(光主様を犬扱いするのは失礼だけどここは私がしっかりしないとダメよ、美雨!)


 自分に活を入れて光主を自分の身体から引き離そうとする。


「一緒にいたいのは私も同じですがこんなにくっついていなくても大丈夫です! 野乃の淹れたくれたお茶も冷めてしまうので離れてください!」


 強い口調で言ったのが功を奏したのか光主が束縛していた美雨を離した。


「そんなに怒らないでくれ、美雨」


 チュッと美雨の額に口づけをして光主は満足そうに微笑んだ。

 ようやく解放された美雨はお茶を口に運ぶ。

 そのお茶を飲みながら美雨の脳裏にあることが浮かんだ。


(もし水の王配に氷室様を選んだとしたら光主様と仲良くできるかしら。氷室様は礼儀正しそうな印象だったし光主様と争うことはきっとないわよね……)


 氷室のことが好きなのかどうかは美雨もまだ分からない。

 ただ気になるのだ。あの氷室という人物が。


「それで水の王配候補者の中に気になる男はいたのか?」


「……っ!」


 たった今、気になる人物として氷室のことを考えていた美雨は動揺してカップを落としそうになった。

 その反応を光主が見逃すわけがない。


「いたようだな……その男は誰だ?」


「あ、あの、でも、まだ好意を持っているというわけでは……」


 思わず美雨はしどろもどろになってしまう。

 自分と両想いの相手に別の気になる男性の話をすることにためらいを覚えずにはいられない。

 すると美雨のその心情を汲み取ったのか光主が優しい笑みを浮かべる。


「俺のことは気にするなと言ってるだろ、美雨。美雨の水の王配になる可能性のある男なら俺もその相手にきちんと()()しておきたいだけだ」


「ほ、本当にそれだけですか?」


「当たり前だろ。俺は美雨を女王にするつもりなんだから同じ美雨を護り愛する同志が誰になるか気になるだけだ」


 光主はそれ以外に他意はないのだという顔をする。

 そんな光主の様子を見て美雨はホッと胸を撫で下ろす。


(そうよね。光主様の言う通り自分と同じ立場になる王配が気になるのは当たり前よね。まだ可能性でしかないけれど氷室様が気になることをあらかじめ伝えておいた方が光主様も心の準備ができて安心できるかもしれないわ)


「最初に言ったとおりまだ好意を持っているという段階ではありませんが……気になる殿方は氷室様という水の族長の次男の方です」


 頬を僅かに朱に染めて美雨が氷室の名を口に出すとピクリと光主の指先が反応するがそのことに美雨は気付かない。


「……氷室ね……やっぱり美雨は男を見る目があるな」


「……え?」


 光主の言い方に美雨は引っかかりを覚える。

 まるで氷室のことを知っているかのようだ。


「もしかして光主は以前から氷室様のことを知っていたのですか?」


「いや、氷室に会ったのは昨夜ちょっと屋敷の中を散歩していた時だ。だから氷室とは既に挨拶を済ませている。俺も水の王配になる素質のある男だと思ったよ……少なくとも()()はな」


 光主が昨夜氷室と出会っていたことは驚いたが光主から見ても氷室は水の王配になる素質があるらしい。

 それなら美雨も氷室のことを自分の水の王配として選ぶ前提で接してもいいかもしれない。

 もちろん最後に氷室を水の王配に選ぶかどうかは自分で判断しなければならないことは分かっているが。


「まだ氷室様のことは可能性のひとつですから光主もこのことは秘密にしておいてくださいね」


 他の王配候補者たちと交流するのに美雨が最初から氷室を第一候補に挙げているとバレると他の王配候補者たちの素顔が見れなくなる可能性がある。

 そのことを危惧して美雨は光主にお願いをした。


「分かっているさ。美雨は氷室以外の王配候補者とも交流したいんだろ?」


「はい、そうです」


「美雨が誰と交流しても怒らないさ。だが辛いことを言われたり嫌な思いをしたら俺に言えよ……そいつに俺から()()()()やるから」


 光主の言葉に不穏な意味が隠されているなど美雨はまったく気づく様子はない。


「ありがとうございます。でもなるべく王配選びに関することは自分で頑張ります」


 頼りになる光主だが王配選びは女王候補者の自分が全ての責任を負うのが当たり前だ。

 光主にばかり頼るわけにはいかない。


 そこへ扉がノックされて使用人が昼食の場所まで案内するとやって来た。


「光主様もご一緒でいいのかしら?」


「はい。族長様はぜひ光の王配の方もご一緒にと仰っています」


「それなら俺も行くか」


 使用人の言葉を聞いて光主はソファから立ち上がる。

 そして美雨と共に部屋を出た。


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