第61話 雷神降ろしの儀式
光主の馬で光の都の外に出てしばらく走ると森の中に入った。
空は先程より雲が厚くなりまだ日の入りではないはずだが辺りはかなり暗い。
これから未知なる儀式の立ち合いをして雷神と対峙することを考えると自然と美雨も緊張してくる。
美雨だって雷神と対峙することは怖いのだ。
知らず光主の上着を掴む手に力が入ってしまう。
そんな美雨の緊張を敏感に感じ取ったのか光主が美雨の身体を支える腕でギュッと抱き締めてきた。
「美雨。緊張しなくていい。儀式は必ず成功させるから。もうすぐ着くぞ」
「はい」
美雨が短く返事をした時に不意に森の中から広場のような場所に出た。
「着いたぞ」
どうやらここが儀式を行う場所らしい。
光主の手を借りて美雨が馬を降りると光主は近くの木に馬を繋いだ。
そして持って来た袋を片手に広場の中央に向かう。
美雨もその後を追った。
「まずは美雨の保護のための魔法陣を作るからな」
袋から何やら赤い棒のような物を取り出した光主は広場の中央より少し右側の地面にその赤い棒を使って魔法陣を描いていく。
赤い棒で地面に魔法陣の線を描くとその線が赤く光っていた。
この赤い棒は魔法陣を描くための特別な棒のようだ。
やがて緻密な模様の魔法陣が出来上がる。大きさはそれほど大きくなく一人の大人がその中に座れるくらいの大きさだ。
「大事なことだからよく聞いておいてくれ、美雨。この保護の魔法陣の結界は人間を一人護る力しかない。これ以上、大きな魔法陣を作ると儀式用の魔法陣の力の邪魔になってしまうからな。だから少し狭いがこの魔法陣の中に座って何があっても儀式中にこの中から外に出ないでくれ」
「分かりました。魔法陣の外に出ないように気を付けます」
美雨だって心配はあるが儀式を邪魔するつもりはない。
できれば光主の願い通りに雷神の加護を手にすることができればそれが一番好ましいことだ。
そのためには光主の言う注意事項を守るのは当然のこと。
「それじゃあ、美雨。魔法陣の中に入って座ってくれ」
「はい」
美雨が描かれた魔法陣の中に入りそこに座ると光主は呪文を唱える。
すると魔法陣が光を放ち輝き始めた。
「これで保護の結界が発動した。そのまま儀式が終わるまでおとなしくしていてくれよ」
「もちろんです。儀式の邪魔になることはしません」
美雨の返事に満足したのか光主は今度は広場の中央に赤い棒で儀式用の魔法陣を描いていく。
その大きさは美雨の保護の魔法陣の三倍くらいはある。
魔法陣を描き終わると光主はその儀式用の魔法陣の中に入り座った。
儀式の準備をしている間にも天候はどんどん悪くなり遠くで雷鳴の音が聞こえる。
「儀式を始めるぞ、美雨」
「はい」
光主は目を閉じて呪文を唱え始めた。儀式用の魔法陣が光輝く。
すると突然強い風が吹き激しい雨が降り出した。
だが不思議なことに魔法陣の中にいる美雨は雨に濡れることがない。
強い風が吹いていることも辺りの木々を見れば木がしなっているので分かるが美雨の身体には風を感じない。
保護の魔法陣というのは外界と美雨を完全に切り離した状態にできるらしい。
光主の呪文の詠唱は続く。
それに呼応するかのように嵐は酷くなり近くで雷鳴が鳴り響いた。
(お願い。儀式が成功しますように)
美雨がそう強く願った瞬間、轟音と共に広場に雷が落ちた。
眩い雷光に思わず美雨は目を瞑ってしまう。
『我を呼び出したのは貴様か』
低い轟音のような声を聞き美雨は恐る恐る目を開けた。
そこには雷神の塔で見た巨大な白い虎がいる。白い虎の身体は雷が帯電しているのかバチバチと火花のようなもので包まれて輝いていた。
(これが雷神……?)
圧倒的な雷神の霊力は保護の魔法陣の中にいる美雨にも感じられるほどだった。
それと同時にそこにいるはずのない第三者の悲鳴が聞こえる。
「うわああっ! ら、雷神だあーっ!!」
「え?」
声のした方を見た美雨はその人物を見て驚く。
雷神を見て悲鳴を上げたのは月天だった。
(なぜ月天様がここに!?)
「何しに来たんだ! 月天!」
光主も月天の存在に気付き怒鳴り声を上げる。
「そ、それは、貴様が美雨様を連れて太陽神殿から出て行くのを見たからだ! 美雨様の光の王配は私なのに!」
負けじと月天も怒鳴り返す。
すると再び轟音のような雷神の声が響く。
『うるさい奴から始末するか。そやつからはたいした霊力を感じないからな』
雷神の鋭い双眸は月天の姿を捉えたようだ。
「月天! 雷神がお前を狙っている! 逃げろ!」
「ひいいいっ! に、逃げるには、魔法陣の中しかないだろ! どけ!」
「きゃあっ!」
雷神に睨まれた月天は恐怖で正常な思考ができなくなり自分の近くにいた美雨を保護の魔法陣の中から突き飛ばして自分が魔法陣の中に逃げ込んだ。
突き飛ばされた美雨は魔法陣の外へと転がり出てしまう。
『ほお、これは極上の霊力の持ち主。我の力の糧にしてやろう』
「させるかあーっ!」
雷神が美雨に標的を変えたのを知った光主は自ら魔法陣の外に出て美雨を後ろに庇うように雷神と向き合った。
光主の身体から霊力が解放されて雷神の力にも負けないくらいの圧倒的な力がその場を支配する。
今にも美雨に襲いかかりそうだった雷神の動きが止まった。
そして光主を興味深そうな目で見る。
『その霊力……お前はまさか……なるほどそういうことか。ならばもう一度我を従わせてみろ!』
雷神の身体から雷光が放たれ光主に襲いかかった。
「光主ーっ!!」
雷光で辺りが轟音と真っ白な光に包まれた中、美雨の叫び声が上がった。
『ただの日本のヒラ公務員(事務職)だった私は異世界の最弱王国を立て直して最強経済大国にします』作者名 脇田朝洋
『波動~自衛官の俺が異世界の華天国を護るために戦った理由 (わけ)』作者名 脇田朝洋
『少女スパイと七人の王様~異世界転生で手に入れた最強スキル「透明人間」で「スパイ」活動をしたらなぜか七人の王様に愛されました~』作者名 リラックス夢土
『ファミリーキルの初恋~ヴァンパイアの僕は桜の女神に恋をした~』作者名 リラックス夢土
以上の作品も連載中です。作者名は都合により使い分けています。
興味のある方はお読みいただけると幸いです。




