第33話 月天の持つ霊力
礼拝が終わると再び光主が美雨に近付いて来た。
「美雨様。部屋までお送りします」
「は、はい」
爽やかな笑顔を向けられ美雨は心が揺れる。
先程、礼拝の時に見た凛々しい表情も素敵だったが今自分に向けてくれている笑顔も素敵だ。
すると美雨と光主の間に割り込むようにもうひとりの人物が現れる。
淡い長い金髪を揺らした月天だ。
「光主。美雨様は私が部屋にお送りする。美雨様、どうぞ私と一緒に部屋に戻りましょう」
さも当たり前のようにそう告げる月天に爽やかな笑顔を浮かべていた光主の顔が不機嫌極まりない表情に変わった。
「月天。美雨様の礼拝の送り迎えは俺が族長に頼まれてするんだ。お前の役目ではない」
「どうだかな。どうせお前のことだから美雨様の送り迎えを自分にやらせてくれと族長に頼み込んだのではないか?」
「…っ!」
図星を差された光主は一瞬怯むがすぐに月天に切り返す。
「たとえそうだとしても最終的に美雨様の送り迎えを指示されたのは俺だ。お前ではない。族長の決定に逆らうのか?」
「くっ!」
今度は月天が悔しそうな顔になった。
族長の言葉はこの国では女王の言葉の次に従わなければならないものだ。
しかしそれでも大人しく引き下がるような性格の月天ではない。
「王配候補者は皆平等に女王候補者と接触する機会が与えられるはずだろ? 美雨様も他の王配候補者と話をしたいはずだ。特に私は王配にもっとも近い者なのだからな。美雨様もそう思われますよね?」
「えっ!」
いきなり月天に同意を求められて美雨は困惑する。
確かに月天の言う通りに王配候補者たちと平等に接するのは必要なことだ。
美雨の気持ちとしては光主と一緒にいたいがだからと言って光主を自分の光の王配に選ぶのかと問われてもまだ分からない。
それは光主という人物の全てを知っているわけではないからだ。
ふと、光主の方を見ると美雨の返事を待つように強い眼差しを美雨に向けている。
トクンと心臓が高鳴り慌てて美雨は視線を外した。
(ここで光主様と月天様を争わせるわけにはいかないわよね。月天様の言葉も一理あるけど族長が決めたことを私が覆すのも問題かも。それなら……)
「月天様。私も王配候補者の皆様のことを知りたいです。でも今日は光主様が澄光様に私の送り迎えをするように頼まれたようですから今日は光主様に部屋まで送ってもらいますわ」
これで納得してもらえるかと思った美雨だったが月天は諦めずにさらに言葉を続ける。
「美雨様はご自分の王配を探しに来たのですよね?」
「え? あ、はい、そうですが…」
「それならば王配に相応しい者との時間を増やすべきです。私はこの男と違って月神の加護をこの身に受けるほど霊力が強いのですよ。この男を始め他の王配候補者は何の神の加護も受けていません。つまり私が光の王配候補者の中で一番霊力が高いのです。だから美雨様も王配の最有力候補である私と過ごした方が有意義な時間を過ごせますよ」
先程は王配候補者たちと平等に接するべきだと言っていたその口から霊力の高い自分と一緒に過ごすべきだと言う月天に美雨は呆れてしまう。
しかし月天は自分の言葉こそ正しいのだと信じて疑っていない態度を見せる。
(月天様って自分の言ってることが矛盾していることなどおかまいなしなのね。王配になる者は自分の発言に気を付けなければならないのに)
王配に政治的権力はなくとも王配が発言したことは少なからず周囲に影響を与える。
それ故に美雨の父親の王配たちは滅多に自分の意見を公の場で述べることはない。
ましてやその発言に矛盾があるなどいたずらに臣下や民を混乱させるだけだ。
その点からいってもやはり月天は王配に向いているとはおもえない。
だが同時に月天は自分こそが光の王配候補者の中で一番霊力が高いと言っていた。
霊力が高いことは王配の必須条件でもあるので月天を自分の婚約者候補から外すかどうか美雨も躊躇いが生じる。
(とりあえず月神について訊いてみようかしら)
「月神の加護とは何でしょうか?」
「月神は太陽神と対になる神として光族が崇めている神です。月神の加護を受けた者は月神の力を振るうことができるのですよ」
「なるほど。月天様はその月神の力を使えるのですね?」
「ええ、そうです。光主には使えませんけどね」
勝ち誇ったように宣言する月天に光主を剣呑な視線を向けていたがそのことに対して反論はしない。
(光主様が反論しないというなら月天様が月神の加護を得ているのも王配候補者で一番霊力が高いのも本当のことなのね)
性格に難のある月天だが霊力の高さは本物のようだ。
(でもまだ王配を選ぶには時間があるもの。焦って答えを出す必要はないわ)
とりあえず月天のことはまだ王配候補者として考えておく余地は残しておいた方がいい。
実力のない王配を選ぶことは民にとってもこの国にとっても良くないことなのだから。
「そうですか。でも私は王配候補者の皆様と交流したいので今日は光主様と行動を共にしたいと思います。もちろん月天様をよく知るための機会も作らせていただきますわ」
笑みを浮かべながらも凛とした態度で美雨が言うと月天はようやく引き下がる気になったようだ。
「分かりました。美雨様がそう仰るなら従います。美雨様も光主と一度一緒に過ごせば時間の無駄だと言うことが分かるでしょう」
捨て台詞を吐き月天がその場から立ち去る。
「あの野郎…」
光主の唸るような呟きが美雨にも聞こえた。
月天の後ろ姿を睨みつける光主の表情は険しい。
それと同時に美雨はあることに気付いていた。
(光主様って自分の感情が現れる時って「私」から「俺」に変わったりするし言葉も粗野になるわよね。その時の方が光主様の素の姿なのかしら)
もしそうなら自分の前では素顔を見せて欲しいと思う。
なので美雨は恐る恐る光主に声をかけた。
「あの、光主様」
「はい、何でしょうか?」
月天を睨みつけていた表情は綺麗に消えて光主は美雨に優しい笑顔を見せる。
その表情にドギマギしながらも美雨は自分の思っていることを伝えた。
「光主様は時々ご自分のことを「俺」とか言いますがもしそちらの方が本来の光主様の姿でしたら私はありのままの光主様を見せて欲しいです」
「…っ!」
光主は驚いたようにその金の瞳を大きく見開いた。




