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怪物狩りの少女、異世界でも怪物を狩る!~何をすればいいのか分からないので一旦は怪物倒しておこうと思います~  作者: 村右衛門
第3章「テレセフの悪魔」

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記念話:1st Anniversary

本作も投稿開始から1年がたち、ついに1周年となりました。これも、これまで読んできてくださった皆様のおかげです。この場で心と魂を込めまして御礼申し上げます! ありがとうございます!!

ちなみに……折角の記念すべき日ですし、感想やらブックマークやら、何となく避けていたという読者の皆様も是非、して頂けると嬉しいです!!!


 ―――


本話は特別編も特別編です。

現代社会学園ものとしてイチから書き直した、本編とは99.99%関わりがない別世界線の話になります。IFよりもIFです。人物の名前はそのままにしてありますが、舞台としては現代日本を想定しております。諸々気にしないよ、という人は是非読んでみてください!


 山中の洞窟が崩落した。害を被ったのはある一人の少女と一羽の烏。

 全てが終わる、誰もがそれを画策し、それを確信し、誰もがそうなるべきと定めた一つの運命だった。しかし、それは机上の空論でしかないものとして覆される。


 ――運命は、廻った。少女の魂は、少女の体へと。


  ◇◆◇◆◇


 少女は、静かに目を覚ます。視界を覆い尽くす色は、無難の白ではなく茶色。偽物くさい木目が刻まれているが、触り心地は全く木材の感じがしない。それどころか、触ったことが無いほどにその触り心地は滑らかだった。

 ここは何処なのか、と周囲を見渡そうとして気づく。自分を半分取り囲むようにして存在する、生命の気配だ。静かに、窺うような視線が向けられている。


「なに、が――」


「まだ寝惚けてるのか、メイフェアス!!」


「ぇ――っいた!」


 誰かの怒鳴り声と額に走った鋭い衝撃。敵襲か、と早合点して花樹は『花刀』を顕現させようと口を開く。しかし、何かを啄むように動いた口は、何の言葉も発さずに閉じた。

 感覚で悟ったのだと、そう言った曖昧な表現は花樹の気に入らないものの一つだ。しかし、今回の状況はそう言わざるを得なかった。『花刀』を顕現させるための『妖術』の詠唱、それが彼女の口から出てこなかったのは、それが全くの無意味であるのだと無意識にわかってしまったからだ。


「『妖術』が、使えない……? だとすれば、私は――」


「あぁ、もう。寝不足は分かるが変な妄想言われちゃ困るぞ。おい誰か、メイフェアスを保健室に連れてってやれ」


「えっ、いや私は――」


「疲れてるんだよ、お前は。授業中に寝るくらいだ、かなりの寝不足なんだろう」


 そう言ってくるのは先程花樹に怒鳴ってきたのと同じ人物で、自分よりは体が一回り、いや二回り以上は大きい。しかし、『妖術』を使える花樹なら決して負けない相手だ。今の花樹では、勝算を持てるか怪しいが。

 何が起こっているのかが分からないまま、花樹は――否、フェナリ・メイフェアスは、保健室へと連行された。


  ◇◆◇◆◇


「失礼しまーす。この子、寝不足で幻覚見てるらしくて」


「いやっ、だから幻覚とかそういうのじゃ……」


「いいからいいから、後でノートとか見せたげるからねー」


 話を聞いてもらうことは出来ず、フェナリはそのまま保健室の中へ入れられ、強制的にベッドへと押し込まれた。そこに、白衣を着た人物が寄ってくる。一言二言、保健室へとフェナリを連れてきた生徒に伝えて下がらせてから、その白衣の彼女はフェナリのベッドの近くの椅子に腰かけ、口を開いた。


「ひとまず――転生を果たしてすぐ、儂との接触が為されたのは僥倖じゃな」


「――『雅羅』か!!」


「左様。儂としてはあの烏の体を気に入っていたが為、この姿には慣れぬがな。お主も、おおよそ困惑しておろう。『妖術』は使えず、儂は見たことも無い相貌ときたのだからな」


 そう言われて、改めてフェナリは『雅羅』の姿を見る。長い黒髪をおおよそ片側に寄せ、片目を隠したその女性は、物憂げな雰囲気を纏っていた。見た目で言えば、いわゆる『雅羅』の烏の姿とは似ても似つかない。これまでは人の声とは認識できない何とも不思議な声を操っていたのに、今では艶やかな調子の女性の声なのだから、そのあたりも花樹とフェナリの感覚の違いを生んでいた。

 しかし、『雅羅』の言うように、困惑が根本にあることは疑いようもない。彼が――いや、彼女が言ったような要素は、花樹の人生そのものを覆しかねないようなものであり、そう簡単に飲み込めるようなものではないのだ。


「しかし、お主には冷静を保っていてもらわねばならぬ」


「それは善処するが……保っていなければ、ならぬのか」


「その通り。これは単なる序章に過ぎぬ。恐らくはこれから、より一層お主の心を揺るがし、驚嘆に溺れさせんとする出来事が起こることになろう。そうなった時、お主に動揺しているだけの暇があるか分からぬ。今冷静になれぬのであれば当然、その時に冷静であれぬ」


「成程な。この状況――何が何だか分からないようなこの状況を、鵜呑みにしてでも冷静を保てと」


「難しいじゃろうがな。可能な限りは、儂も手助けをしよう。幸い、この世界は元の世界と違い『妖術』というお主の安全を守るための術が必要なほど危険蔓延るところではなさそうじゃ」


 そう言って話を締めくくり、『雅羅』は立ち上がって窓際へと寄った。そして窓にかけられた布切れを横に引っ張って窓の外の世界を、フェナリに見せる。

 寂華の国とは、全く景色が違った。青々と茂る山が見当たらず、ぽつねんと存在する茅葺屋根もない。代わりにあるのは整然と並んだ白か灰色の構造物だ。緑に見えるのは視界の奥の奥くらいのもので、それ以外の色は白か黒かそのグラデーションだった。


「――文化レベルを合わせるべきだろうに……いや、安全であることは僥倖か」


「何か言ったか、『雅羅』?」


「いや、何も。――お主は幻覚を見たとのことでここ、保健室に連れてこられたのであろう。おおよそ『妖術』に関することでも口走ったと見える。しかし、幸か不幸か、それが時間を作った。今の内に状況の擦り合わせを行っておくとしよう」


「確かに、それは必要だな。私も、知らぬ単語ばかりで困惑していたところだ。そも、一番の相方と思っておった烏が雰囲気を大きく変えているのだから、困惑するなと言うのが難しい話だが」


 改めて、フェナリは『雅羅』の変わってしまった見た目に笑いを零す。そして、彼女の方へと向き直った。静かに、お互いが姿勢を正す。ここからは、与太話の挟めぬ真剣な話だ。

 

「――ひとまず、この世界における常識を教えておくとしよう。花樹――否、フェナリ・メイフェアス」



  ◇



「体調は? 保健室から帰ってきてから、どこかぼんやりしているようだが、本当に何もなかったのか?」


「――インフェルト、副委員長」


「やはり、少し調子が悪いのでは? 君が私のことを役職名で呼ぶのは初めてだろう」


 言われて、しまったとフェナリは内心で肩を跳ねさせる。保健室で『雅羅』からこの世界のことについて話され、芋づる式に今の体に残っている記憶を探った。そうしてどうにか感覚を元に戻そうとしたのだが……ここで一つ問題が発生したのだ。

 

(インフェルト〝くん〟ですよ。役職名と、ごっちゃになってますね)


(……やはり、慣れないなこの感覚は。脳に声が直接響いてくるかのようだ)


(多分、その認識はあながち間違いじゃないと思いますよ。声が響く、という表現はこの場合相応しくないとは思いますけど)


『雅羅』によれば、こんなことは本来起こらないはずの事態であるらしい。転生は、魂を失った直後の肉体、つまりは死んですぐの人間の体に、別の人間の魂が移動するという仕組みによって成り立っている。であるから、魂が健在である肉体に別の魂が入るというのは異常事態であり、例外的な状況であるのだと。

 その異常事態が発生したことによって、フェナリ・メイフェアスと言う人間の中には二人分の魂が入っているという事になる。


 花樹の魂がフェナリの体に入り込んだ衝撃で眠っていた『フェナリ』オリジナルの魂が、と言うよりは意識が目覚めたのはほんの先程のことだ。この世界についてのおおよその常識を『雅羅』から聞かされ、花樹はフェナリとして生きる覚悟を決めた。その直後、脳内に響いてきたのが儚げで控えめな調子の、この声だったのだ。


「メイフェアスさん? ……ひとまず、体調には気を遣った方がいい。何かあれば言ってくれ。私とて、この学級の副委員長と言う立場にいるんだ。同級生の状況くらいは把握しておきたい」


「あっ、はい。ありがとうございます……」


 オリジナルのフェナリとは大した衝突なく、脳内で同居と言う形を認めてもらうことが出来た。それは不幸中の幸いだろう。しかし、オリジナルの彼女と会話している時間を待つことなく世界は時を進めるというのは問題だ。

 誰かとの会話中にオリジナルとの会話が始まってしまえば、実際に会話している相手を無視することになりかねない。上手く誤魔化せればいいが、そこから疑われ始めては困る。


(上手く付き合っていくしかありませんよ。私が言うものでもありませんけど……)


(いや、こちらが迷惑をかけている側だ。本当なら、こうなるはずではなかった)


(それは良いんです。私はこの体で生きてきて、いつだって未練があったことなんてありませんでしたから。多分、そんなだからこうもなったんでしょう)


(……私もだ。一度たりとも、過去を後悔することは無かったし、未練があったことなんて一度もない。そんな世界に、生きてはいなかった)


(似た者同士ですね、私たち。これも、一つの運命なんじゃないかって思います……)


 脳に響いてくるかのような思考の音。それは単なる思考としての電気信号でしかないというのに、どこか悲し気な雰囲気を纏っているかのように感ぜられた。花樹の意識は既に、フェナリの記憶を覗いた。それは覗き込む、というよりは思い出す、と言う方が近しい行為だったが、それでも彼女の心中を覗き込んだのだ。

 ――結果、花樹は多くを知ることが出来なかった。フェナリの記憶の多くは閉ざされていて、自分で思い出そうとしても何かしらの障害に妨げられる。恐らく、オリジナルの強い意志で隠されているのだろう。もしかすれば、オリジナル自身すらもその記憶を思い出せなくなっているのかもしれない。



 ――花樹は、『雅羅』と語らう中で、あることを決めた。

 それは、花樹がフェナリとして生きる理由だ。『妖術』が必要ないような安全な世界で、何を目的にして彼女は生きるのか。


 それは、フェナリの『望み』を見つけること。

『雅羅』は花樹としてのフェナリについて言及したつもりだったが、オリジナルであるフェナリの意識が浮上したことによって花樹の中でその言葉の意味は変わった。

 オリジナルである『フェナリ』――その心中を知り、『望み』を見つける。それは何かの解決につながるのか、分からない。しかし一つ、フェナリ・メイフェアスとしての二人の人生の分岐点、または中継地点にはなるであろうから。


  ◇◆◇◆◇


 少女の魂は、少女の体へと――廻った。

 

 あるべき形に収まることがない不条理に、彼女らは立ち向かわねばならない。

『望み』を見つける――その曖昧で不確かな目的を果たすために。


感想など、書いていただいても……良いんですからね??

いやもう、本当に、是非とも! お願いいたします!!!


この世界の続きは来年以降、あるのか……次回以降にご期待ください!

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